二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:50① ( No.406 )
- 日時: 2012/08/27 10:35
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
リンの攻撃で一瞬にしてさやかを邪魔していた黒い蛇たちは居なくなった。
リンなら言葉通り事を運んでくれるだろうと信じていたさやかは迷い無く行動できた。
その迷い無き行動はさやかの突撃に勢いをのせ、レイアーノの本体に到達した時には本体を一撃で沈めるには充分な速度となっていた。
さやかは先ほど首を落としたとき同様に身体を回転させ、ここまでのせてきた勢いにさらに回転の力をのせた。
「今度こそ終わりだぁぁ!!」
首だけとなったレイアーノは身動き一つとれず、避けることもできずにさやかの一撃を脳天に受けた。
おぞましい雄たけびをあげ、レイアーノは蒸発していき、今度こそ消滅した。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:50② ( No.407 )
- 日時: 2012/08/27 10:35
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「やったっ!今度こそ勝ったんだ!」
『やったな、さやか。んじゃ、後始末は任せろ』
リンの声がしたかと思うと、リンの魔法であろう黒い塊が空中でモゾモゾと動きながら大きくなっていった。
そして黒い塊から先ほど黒い蛇たちを殲滅した黒い手が伸び、一般客たちを次々と捕まえて飲み込んでいった。
「え!?ちょ、ちょっと!?な、何やってんのよ!?」
ただ事ではないこの状況にさやかは大慌てした。。
『今起こったこの騒ぎの記憶だけ『喰う』んだよ。でないと、このあとが厄介だろ?』
「そんなこと出来るの?」
『オレを誰だと思ってるんだ?任せとけって。ま、きっちり消すのは難しいから、1日くらい真っ白になるやつもいるかもなー』
冗談か本気かわからない言い方でそう言いながら次々と飲み込み、あっという間にさやかたちしか居なくなった。
『魔女結界が崩壊するぞ。さっさとここからでよーぜ』
「そうだね。早く行こう」
その後、さやかたちは崩壊する魔女結界を無事脱出した。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 16:50① ( No.408 )
- 日時: 2012/08/27 10:37
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
魔女結界を脱出後、記憶を消された者たちは何事も無かったかのようにもうじき終わりを迎える文化祭を楽しんでいた。
彰とリンは少し離れたところからさやかと恭介を見ていた。
「俺はあんま覗き見って趣味じゃないんだけどなぁ」
「一応オレたちが愛のキューピットだろう?ちょっとくらいいいじゃねーか」
「愛ねぇ」
本気で言っているのか、冗談で言っているのかわからないが、リンの表情はどこか満足げだった。
彰はそんなリンを見て、これでも良かったのかもしれないと思った。
「なぁ、彰。お前は奇跡を信じるか?」
突然、リンがそんなことを聞いてきた。
「なんだよ、突然?その答えは自分で言っていたじゃないか」
「ん、まぁ……そうなんだけどさ。オレももしかしたら奇跡が起こることを信じて魔法少女になったのかもって思ってさ」
「思った?」
自分のことのはずなのに、他人事のような言い方だった。
「オレの記憶は断片的にしか残ってねーんだよ。だからどうして魔法少女になったのか、なんで人間を憎いと思うのか、さっぱりわからないんだ」
「お前……」
表情を暗くする彰に対し、重い空気を跳ね飛ばすかのようにリンは笑った。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 16:50② ( No.409 )
- 日時: 2012/08/27 10:37
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ま、友達の記憶はあるし、さやかや、お前とも出会えた。記憶がちょっと無くたって、今があればいい」
「そうか———。それでお前はこれからどうするんだよ?」
リンが人を憎んでいるということは所々で感じ取っていた。
その憎しみがどう向いていくのか。
強大な力を持つリンだからこそそれが重要なのだ。
「さぁな。今は世界征服しようなんて思っちゃいないよ。この世界が嫌いなわけじゃないし、友達が暮らすこの世界を壊そうとも思わない。お前は?」
「え、俺?」
なぜリンが彰の今後を訊ねてきたのか、その真意がわからなかった。
彰にはリンのような力も無いし、大きな目的もない。
「俺は別に……」
「別にってことはないだろ?お前が護ろうとしているお姫様は只者じゃーねぇんだぞ?」
「お姫様って、まどかちゃんのことか?」
「お前、なんで鹿目まどかが狙われるのかわかってんのか?」
まどかが魔法少女としてとてつもない才能を秘めていることは聞いている。
かつて彰も欲したように、皆その力が欲しいのではないだろうか。
「考えてもみろ。魔法少女としては凄い力を持っているけど、それを実際に喜ぶのはインキュベーターくらいだろ。オレら魔法少女がそれを欲したところで何ができる?」
「確かに……」
まどかが魔法少女になったとして、そのあとどうしようというのか。
味方につけて世界征服でもするつもりなのか。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 16:50③ ( No.410 )
- 日時: 2012/08/27 10:38
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「まぁ、オレにもわからんが———もっと別な何かが動いているのかもな」
「お前だって狙っていたんだろ?何か知っているんじゃないか?」
彰がそういうと、リンは彰を一瞬睨むようにして見て、すぐに視線を逸らした。
「しらねーな」
「……」
何か心当たりがあるのは間違いない。
だがそれを言葉にすることが出来ないのだろうか。
リンは踵を返して彰に背を向けた。
「さやかがどうなったかあとで教えてくれや。どうせお姫様から聞くだろ?」
「何かあったら言えよ」
「……そうする。ありがとよ」
リンは今まで見せたことの無い、悲しそうな、嬉しそうな、曖昧な表情を浮かべた。
そしてそのあと何も言わずにどこかに行ってしまった。
「何か……か」
何が『何か』なのかわからないが、何となく胸騒ぎがした。
その胸騒ぎが的中するのはそう遠くない未来のことだ。
- Re: 第十章 人魚の歌声 後日 13:00① ( No.411 )
- 日時: 2012/08/28 10:20
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
文化祭が終了し、次の日曜日。
さやかは学校の校門前に一人で立っていた。
「おっそいわね……」
約束の時間を10分ほど過ぎている。
待ち合わせ場所として分かりやすいだろうと思ってこの場所を選んだというのに、まるで意味がない。
「お、悪い悪い。待たせちゃったな」
「アンタが時間にルーズのなのは今に始まったことじゃないでしょ」
さやかは呆れた様子でため息をつきつつも、笑顔で待っていた相手———杏子を見た。
「でも急になんだよ?今度の日曜暇か〜なんてさ」
「別に理由なんてないわよ。たまにはアンタと出かけてもいいかなって思っただけ」
「なんか気味悪いんだけど……。変なもんでも食った?」
「アンタじゃあるまいし……。とにかくこんなところで突っ立てても面白くないし、どっか行こうよ」
杏子は辺りを見回して何かを探す素振りを見せた。
「どうしたのよ?」
「どっかでどっきりカメラでもまわってんじゃないよな?」
「アンタ……一発殴ろうか?」
- Re: 第十章 人魚の歌声 後日 13:00② ( No.412 )
- 日時: 2012/08/28 10:21
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
二人はさやかの提案で洋服を見に来ていた。
「もうすぐ冬だし、いつもの格好じゃ寒いでしょ?」
「別に寒さなんて魔法でどうにでも出来るし……」
「見てる方が寒いのよ」
「でもなぁ……金の問題が……」
「アンタいつもそればっかよね」
渋い顔でモジモジする杏子に、さやかは苦笑いを浮かべた。
「お金の心配はしなくていいから。それにアンタは良くてもゆまちゃんだってオシャレくらいしたいでしょ?」
「そりゃそうかもしれないけど……なんか悪いし」
いくら知れた仲でも金銭面に関してまで世話になるのは気にかかる。
杏子は杏子なりに遠慮しているのだ。
「それも安心しなさいよ。このお金はアンタが文化祭で働いたお金だから」
「え!?そうなのか?」
「いくらなんでもタダ働きなんてさせないわよ」
「だったら現金を貰ったほうが……」
目を輝かせて手を差し出す杏子にさやかはジト目で見返した。
「アンタに渡すと食べ物ばっかり買うでしょ。ゆまちゃんが杏子は余計なお菓子ばっかり買ってるって愚痴ってたわよ」
「……ゆまのヤツめ」
「ゆまのヤツめ、じゃないわよ。小学生に心配されてどうすんのよ」
杏子はしばらくの間ふて腐れていたが、その後は何だかんだでノリノリで洋服選びをしていた。
普通の年相応の少女であれば当たり前の光景が、魔法少女となってしまったことで遠のいていた。
遠のいていた『普通』が、友達と一緒の今が杏子には楽しかった。
- Re: 第十章 人魚の歌声 後日 13:00③ ( No.413 )
- 日時: 2012/08/28 10:23
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
洋服を購入したあと、二人は遅めの昼食を公園でした。
食事も一通り終わり、杏子はこの後どうしようかと思い、ふとさやかを見た。
さやかはボーっと遠くを、空を見ていた。
「私、杏子と会えて良かったよ」
突然、そんなことを呟いたさやかに、杏子は一瞬言葉を失った。
「な、なんだよ急に?」
動揺する杏子に対し、依然さやかは遠くを見たままだった。
「最初はさ、ムカつくヤツだなって思ったけど……いつも戦う時は杏子が一緒に居て、助けられて、支えられてた。何ていうのかな……。まどかは護ってあげたいお姫様って感じで、杏子は背中を預けられる戦友みたいな感じかな」
杏子も初めは自分と同じような願いで魔法少女になったさやかのことが他人事とは思えずに突っかかっていた。
反発しながらも一緒に戦い、ワルプルギスの夜を打ち倒し、気付けばさやかを友達と呼んでいた。
今では戦う時にさやかが居ないと違和感さえ覚える。
「白井さんに、今の私を乗り越えるための戦いだって言われて絶望の魔女に立ち向かったけど、結局一人じゃどうしようもなくて……。そのときは私ってやっぱり一人じゃ何も出来ないんだなって思ったんだよね。でも杏子やマミさんや、他のたくさんの人が一緒に戦ってくれて、楽しいことも辛いことも一人で乗り越える必要なんて無いんだなって思ったんだ。知らず知らずのうちに皆に支えられていて、とっくのうちに壁を乗り越える準備は出来ていたんだ。私がただその一歩を踏めずにいただけでさ」
「さやか……」
さやかの心にあった壁は、上条恭介のことだ。
それは杏子も良く知っている。
それを乗り越える———乗り越えたのなら、さやかは既に恭介とのことをで何かしらの決着をつけたということなのだ。
- Re: 第十章 人魚の歌声 後日 13:00④ ( No.414 )
- 日時: 2012/08/28 10:24
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「恭介にさ、お礼言われたんだ。私の願いで救われたって。だから私、『恭介が幸せでいてくれるなら良かった』って言ったの」
「それ、だけ?」
恭介はさやかが魔法少女であることを知り、さやかの願いで自分の怪我が治ったことを知った上で礼を告げた。
ならさやかも我慢する必要など無いはずだ。
好きな人に好きだと言ってもいいはずなのだ。
「何かね、恭介にお礼を言われた瞬間吹っ切れちゃったんだよね。もうこれで充分かなって。仁美も恭介のこと好きだし、恭介も仁美を気にかけてるみたいだったし。私の中の人魚姫は、王子様に助けたのが自分だったってことがわかってもらえばそれでハッピーエンドなんだよ」
そんなの悲しすぎるじゃないか———杏子はそう言葉にしかけた。
だが涙を流しながら、しかし清清しい笑顔を空に向けるさやかを見て言葉が出なくなった。
「ならアタシが王子様になってやるよっ」
杏子は出なかった言葉の代わりと言わんばかりにそう言った。
「お前を泡になるだけの人魚姫なんかにしない。辛いことや悲しいことも受け止めてやるよ!」
ほとんど何も考えず、自然と口から出た。
さやかは瞳を潤ませながら、杏子に笑顔を向けた。
「なに馬鹿なこと言ってんのよ。まるで告白じゃない」
「え!?そ、そんなわけじゃ……」
杏子は顔を赤くしてさやかから顔を逸らした。
さやかはそんな杏子を見てクスクス笑って、
「ありがとう、杏子———」
そう杏子に聞こえないくらい小さな声で呟いた。
- Re: 第十章 人魚の歌声 最終話① ( No.415 )
- 日時: 2012/08/28 10:24
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
白井雪良は何も無くなった自分の部屋を見て、一息ついた。
そして階段を降り、玄関を出た。
玄関の前では両親が忙しく引越しの準備をしていた。
さっきさやかがやってきて少し話をした。
自分の中でとりあえず決着がつけられたと言って、礼を言われた。
さやかが希望を再び持って前に進めたことを思うと嬉しかった。
おかげで長く住んだこの街とも気持ちよく別れられる。
そろそろ出発の準備が出来た頃だろう。
雪良は両親のもとに向かった。
「パパ?ママ?」
いつの間にか二人は居なくなっていた。
荷物を乗せた車は先ほどと変わらない場所にあるというのに。
「満足した?希望の魔法少女さん……」
突然背後からした声に反応し、雪良は魔法少女に変身しつつ振り向いた。
そこにはフリフリの日傘を差し、フリフリのドレスで身を包んだ女性が立っていた。
「見事、レイアーノを倒して、皆の希望を護った。ほんとお手柄ねぇ〜」
「あ、あなたは?」
女性は傘から覗かせた口元を吊り上げて笑みを浮かべた。
- Re: 第十章 人魚の歌声 最終話② ( No.416 )
- 日時: 2012/08/28 10:25
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「アナタが希望の魔法少女なら、私は絶望の魔法少女かしらねぇ」
女性が傘を少しあげ、隠れていた顔の上半分を見せた。
その瞬間、雪良はぞっとした。
まるで悪意が渦巻いているかのような漆黒の瞳。
無機質に笑う口元。
こいつは絶望を背負っている。
(この人は危ない!!)
一瞬でそう感じ取った雪良は歌を歌い、女性の動きを封じた。
だがしかし、女性は自分の意思で一歩、また一歩と前に進んできた。
(そ、そんな!?なんで!?)
「アナタの歌は希望を持つ人に希望の歌を聞かせて魅了することなのでしょ?なら私には効かないわぁ」
女性は空いた手を雪良に向けた。
雪良はここから逃げなければという感覚に襲われたが、どういうわけか足が動かなかった。
「私は生まれてこの方……希望なんて持ったことないわぁ。だって絶望を愛しているものぉぉぉ」
女性の手が雪良の視界を塗りつぶし、暗闇を作った。
その暗闇を目にしたときには、既に雪良はこの世のものでは無くなっていた。
女性は手を下ろし、誰も居なくなった家の前で震えた。
楽しくて楽しくてたまらずに震えた。
「くひひひひぃぃぃいい!!」
誰に見られることも構わず、不気味に笑った。
引っ越したと思われ、雪良が居なくなったと気付くものは居なかった。
結果、白井雪良とその両親が失踪したことがさやかたちの耳に届いたのはずっと先のことだ。