二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第1話① ( No.417 )
- 日時: 2012/08/29 13:09
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
そこは開発途中で投げ出され、日の目を見ることの出来なかった水族館だった。
完成間近まで来ていたのか、巨大な水槽やプールも設置され、あとは動物達を待つだけの状態だった。
千歳(ちとせ)ゆまは本来従業員だけが立ち入るであろう場所にいた。
水を通すための太いパイプが迷路を作るかのように張り巡らされ、辺りの暗さも相まって二度と出れない迷宮を思わせた。
普段は佐倉杏子(さくらきょうこ)と共に行動しているゆまだが、今日は単独で行動していた。
杏子が何でも屋稼業で受ける依頼の中には魔女が関わっているものも少なくは無い。
初めのころは一緒に魔女を退治していたのだが、ここ最近は危ないからという理由で連れて行ってもらえなくなっていた。
ゆまはできる限り杏子の助けになりたいと思っている。
だが杏子が足手まといと感じているならば、そうではないと知ってもらう必要がある。
そこで偶然杏子が漏らした魔女退治の話を知ったゆまはその魔女を一人で倒そう———そう決めたのだ。
ゆまは途中でその魔女の使い魔と思われる敵を見つけ、それを追ってここまで来たのだ。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第1話② ( No.418 )
- 日時: 2012/08/29 13:10
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
使い魔は傘の取っ手のように折れ曲がったステッキに、引いた線のような手足を持っている。
不思議の国のアリスに出てくるトランプ兵のようなイメージだ。
この使い魔はどうやらタップシューズを履いているようで、移動する時にカツカツと音がする。
この音を頼りに追跡し、そして今なおこの場所でもその音はしている。
確かにいるはずなのだが、迷路のように複雑なこの場所では音だけで居場所を特定するのは困難だ。
「!!」
そう思った矢先、すぐ目の前の曲がり角のほうから早足でカツカツと音を立てて近づいてくる音がした。
使い魔も子供だと思って油断しているのか。
正面から攻めてこようというわけだ。
ゆまは手に持ったハンマーを構え、曲がり角のほうにジリジリと近づいた。
直接叩いてしまっては使い魔を倒してしまうかもしれない。
魔女の居場所を知るためにも、ここは衝撃波で身動きを封じてから捕らえるのがいいだろう。
ゆまは相手が曲がり道を曲がるタイミングにあわせてハンマーを振り下ろした。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第1話③ ( No.419 )
- 日時: 2012/08/29 13:10
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
綾女千里(あやめちさと)は険しい表情で足早に廃墟と化した水族館を進んでいた。
「ししょーのバカロリコン野郎!」
悪態をつきながらカツカツと大げさに音を立てながら進む。
居候させてもらっている蒼井彰(あおいあきら)とケンカをした。
理由は千里が学校の宿題をサボったというなんてことの無い理由だ。
初めはサボった自分が悪いと反省していたのだが、彰から言われた『一人じゃ何も出来ない』という言葉にカチンときた。
千里は『一人で何でもできる。魔女だって一人で余裕なんだから』と言って飛び出してきた。
そして途中で見かけた使い魔を追ってここまでやってきたのだ。
しかし大きいことを言ったは良いが、実際のところ千里には敵を倒す手段が無い。
千里眼という相手の位置を索敵する能力は完全に補助向きであり、戦闘行為などまったく出来ない。
千里は能力によって胸元に展開した水族館の地図を見た。
(使い魔は何かを追ってるみたいで、ちーには気がついてないみたいだけど……)
折り返すなら今のうちだ。
帰ってゴメンと謝れば済む話なのだ。
だが当然プライドの高い千里に素直に謝ろうなどという気はさらさら無かった。
「あ、あれ?」
地図上で使い魔を示していたマーカーが突然方向を変えて千里に近づいてきた。
「うそっ!?見つかった!?」
正直言って、相手が使い魔でも勝てる気がしなかった。
とりあえず逃げなければ。
千里は使い魔とは反対の方向を向いて早足で歩き出した。
敵は千里の存在に気がついたといえ、居場所まではわかっていないはずだ。
ならば走って逃げるよりも慎重に進んで逃げたほうがいい。
千里は地図を見ながら出口を目指して曲がり角を曲がった。
その瞬間、千里に感じたこと無い衝撃が走ったのだった。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第1話④ ( No.420 )
- 日時: 2012/08/29 13:11
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ぎゃっ!!」
衝撃波に吹き飛ばされた千里は普段出ないような声を出して尻餅をついた。
「ひ、人!?」
衝撃波を放った本人———ゆまは慌てて千里に駆け寄った。
「ごめんね!使い魔だと思って……」
「ごめんじゃないわよ!下手したら死んでた———」
千里はゆまに迫るマーカーを見て、使い魔に追われている事を思い出した。
「アンタ!右上!!」
「え!?」
ゆまは千里に言われ、何のことだかわかりはしなかったが反射的に反対側に飛んだ。
するとゆまが先ほどいた場所にステッキの先端を突き立てて使い魔が落下してきた。
使い魔は攻撃が命中しなかったわかると、またどこかに身を隠した。
「アンタっ、戦えるならさっさと倒しちゃってよ!」
「ダメっ。捕まえて魔女の場所を聞き出さないと!」
「なーにバカなこと言ってんのよ!使い魔なんかと話せるわけないでしょ!捕まえたって場所なんかわかりっこないって!」
「そ、そーかな?」
「当たり前でしょ!って今度は後ろから来てるよ!!」
「わっ、わっ!」
ゆまは再び使い魔の攻撃をかわし、使い魔も再び身を隠した。
「どうしてわかるのっ!?」
「それがちーの魔法だから!あ、また後ろからくる!」
ゆまは今度は避けずに振り向き、使い魔の降下に合わせてハンマーを振り上げた。
ゆまの攻撃は使い魔に的中し、使い魔はそのまま消滅した。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第1話⑤ ( No.421 )
- 日時: 2012/08/29 13:12
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ふー。良かったぁ」
ゆまは胸をなでおろし安堵のため息をついた。
千里も壁に背をつけて胸をなでおろした。
「まー、助けて貰ったし、さっきの一発は無かったことにしてあげる。ところでアンタはこんな所で何してんの?」
千里がゆまにそう尋ねると、ゆまは質問に答えることはせずにジッと千里を見つめた。
「な、なによ?」
「ゆまは『アンタ』って名前じゃないよ。千歳ゆまって名前があるんだよ」
「そんな小さいことどーでもいいじゃん。これだからガキんちょは〜」
千里が呆れながらそう言うと、またもやゆまはジッと見つめてきた。
「こ、今度はなによ!」
「ゆまは自己紹介したよ。アナタも教えてよ」
「うざったいわねっ!綾女千里っ!それがちーの名前!」
千里が名乗るとゆまは笑顔を浮かべた。
「だから『ちー』なんだね。よろしくね、ちーちゃん」
「いきなり馴れ馴れしいヤツね……。アンタいくつよ?」
「ゆまは11歳だよ」
千里はゆまの年齢を聞くなり、ゲッと渋い顔を作った。
「ちーと同い年なの?」
「そうなんだ!じゃあゆまがガキならちーちゃんもガキだね」
「ち、違うわよ!アンタがガキっぽいってことよ!」
あげ足をとられた千里は頬を赤くしながらそっぽを向いた。
「で……なんでこんな所いるのよ」
千里は話題を変えたい一心で先ほど自分の言ったことを繰り返した。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第1話⑥ ( No.422 )
- 日時: 2012/08/29 13:12
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「一緒に行動してる魔法少女に足手まといだって思われてるみたいなの。だからそうじゃないんだって知ってもらいたくて———」
「それで一人で魔女狩りか……」
千里は自分と似たような目的だなと思った。
そこで千里はあることを思いついた。
「ねぇ、ちーと組まない?」
「え?」
「いやね、ちーもある人をギャフンと言わせたくて、魔女を倒したいの。でもちーの魔法って戦闘ではまったく使えないから……。そこで戦えるアンタが一緒ならいけるんじゃないかなって思ったのよ」
「ゆまはいいよ。ゆま一人じゃさっきも危なかったし、ちーちゃんの魔法があると心強いよっ」
「決まりね!さっきの使い魔から、魔女の魔力も捉えられたし、いつでも魔女を追えるよ!」
「そうなんだ!じゃあ明日から一緒に探そう!」
「そうね、今日はもう遅いし。アンタ、どうせ迷子なんでしょ?出口まで一緒に行ってあげる」
「うんっ!」
千里が魔法で展開した地図を見ながら進み、水族館を出た。
外に出ると、すっかり夕日は沈んでおり、月明かりが地面を照らしていた。
「ちーちゃんは明日大丈夫?」
「うん、明日は土曜だしね」
「じゃあ、明日は午後1時に公園で待ち合わせねっ」
「わかった。遅れないでよ」
「うん、じゃあね!」
二人はそれぞれ家の方向へ歩を進めた。
千里は途中振り返って、走っていくゆまの背中を見つめた。
「約束……か」
同年代の子と待ち合わせの約束など、何時振りだろうか。
「ま、たまにはね」
そう呟く千里の顔には笑みが浮かんでいた。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第2話① ( No.423 )
- 日時: 2012/08/30 13:44
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
千里はいつも一人だった。
可愛らしい顔立ちをしており、第一印象は清楚なお嬢様を思わせる。
そのため周りの人は千里に興味を示し、近づいてきてくれる。
だが素直になれない性格が災いして、突き放すような言い方をしてしまうのだ。
結果、近づいてきた人は皆離れて行ってしまい、千里は孤立してしまう。
『綾女って偉そうでムカつくよなぁ』
『何様のつもりって感じよね』
そんな悪意ある言葉がいつも千里の周りで飛び交っていた。
いじめられることもあった。
小学校に入学した頃はそんな性格ではなかった。
そうなってしまった原因は、両親の離婚だった。
それまで千里は、母親も父親も大好きだった。
だが離婚の意味をまだ理解できなかった千里には、大好きだった母親が自分を置いてどこかに行ってしまった。
母親は自分のことなど好きではなく、いらないから捨てたのだと。
裏切られたと思った千里は、信じるという行為に疎くなり、その代わりに疑うことを知ってしまった。
近づいてくる者たちはきっと自分をまた裏切るのだろう。
そう思うと素直になれなかった。
だが逆に自分の引き取り、懸命に男手一つで育ててくれる父親のことが一層好きになった。
世界でただ一人、自分を見捨てずにいてくれる———そう思えたからだ。
学校でどんなに孤立しても、いじめられても、友達がいなくても、父親だけ居てくれればいい。
その思いだけで、千里は毎日を過ごしていた。
だがあるとき、その日常は崩れ去った。
ビルの崩壊事故により、千里の父親は行方不明になってしまったのだ。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第2話② ( No.424 )
- 日時: 2012/08/30 13:44
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
その日から千里は本当に一人になった。
親戚も皆、千里を引き取ることを嫌がりもめていた。
千里自身も、そんな親戚に引き取られるくらいなら、一人のほうがマシだと思っていた。
家事全般は父子家庭であったため一人でこなす事は出来た。
しかしクラスメイトも近所の人も、『可愛そう』と口だけの言葉を並べるだけで、千里の穴は塞がりはしなかった。
いずれ電気も水道も止まり、静寂しか存在しない部屋で一人千里は泣いた。
「パパに会いたい……」
一人でそう呟いた。
「なら願ってみてはどうだい?」
「え?」
独り言にどういうわけか返事が返ってきた。
目の前には見たことも無い生物がちょこんと座っていた。
「僕はキュゥべぇ。僕と契約して魔法少女になってくれないかな?」
「ま、魔法少女?」
漫画やテレビで見た変身して戦う少女の姿が思い浮かんだ。
そう、現実ではありえない存在なのだ。
これは夢か幻か。
どちらにせよこんな物を見てしまうほど精神を病んでしまったのか。
千里は幻をはらおうとした。
しかし次の言葉を聞き、千里はそれを思いとどまった。
「もし契約してくれればどんな願いも叶えてあげるよ」
「どんな願いも……?た、例えばパパを探すための魔法とか?」
「お安い御用さ。君が望むのならね」
これが夢や幻なら、それに身を委ねてみてもバチなど当たらないだろう。
どちらにせよ、この現実の世界に頼るものなどないのだから。
「じゃあお願い……。パパを見つけるための力が欲しい」
「わかった。君の願いはきっと遂げられるだろう」
こうして千里は魔法少女になった。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第2話③ ( No.425 )
- 日時: 2012/08/30 13:45
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
千里は魔法少女になり、『千里眼』という魔法を得た。
一度見た相手の魔力を記憶し、追跡することが出来る能力だ。
この魔法は過去に出会った者も対象で、もちろん父親を追跡することも可能だった。
しかし千里はすぐには父親を探すことをしなかった。
しないというよりは、出来ないといったほうが正しい。
頭の中ではすでに理解も出来ているし、覚悟も出来ている。
それでもその事実を認めてしまえば、今生きるための希望を失ってしまう。
生きるための目標さえあれば今はまだ立っていられる。
なのに現実は千里を追い詰めていった。
千里は土砂降りの雨の中を息を切らしながら走っていた。
千里の魔法では魔女と戦うことなどまったく出来ない。
だから幾度と無くこのように逃げてきた。
魔女の気配が無くなると、千里は立ち止まって息を整えた。
そして服が汚れることも構わず、その場に座り込んだ。
「何やってんのかな、ちーは……」
魔女からも逃げ、現実からも逃げている。
元々行くところもないはずなのに、なぜ逃げて、何から逃げているのだろう。
「もう良いかな……」
もう認めて、諦めて、楽になっても良いのではないか。
そう、父親はもうこの世には———。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第2話④ ( No.426 )
- 日時: 2012/08/30 13:46
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「こんな所座っていると風邪ひくよ?」
千里が見上げると、藍色の大きな傘を千里の上にかざした男の人が居た。
「そんなに悲しそうな顔してどうしたの?」
普通の人なら腫れ物を触るような目で見るであろうこの状況で、優しい顔を向けてその人は言った。
「もう良いかなって……。もうパパを探すのは———」
「なら一緒に探そうか?」
「へ……?」
千里は男の人の言葉に呆気に取られてしまった。
まるで心を読んだかのようなその言葉の意味が理解できなかったからだ。
「君のお父さん、探すの手伝うよ」
「で、でも……パパはもう……」
「そんなのわからないだろ?わからないからこそ、君が信じてあげないと」
「だってわかっちゃうんだよ?魔法なんかがあるから……」
千里がそう言うと、男の人はフフと笑った。
「どんなに結果が見えていたって諦めなきゃ、信じてれば終わりなんかしないんだよ。そう、それこそ『無かったこと』にしちゃえばいい」
「信じれば?」
「そうだよ。君一人で辛いなら、俺が手伝ってあげるよ」
「ううぅぅっ」
涙が止め処なく流れた。
まだ諦めなくて良いという安心感。
ずっと一人で寂しかった千里にかけてくれた優しい言葉。
千里は我慢できずにその人の胸で泣いた。
男の人は嫌がることもせず、ただ黙って抱きしめてくれた。
それは久しく忘れていた父親のぬくもりに近かった。
これが千里と、蒼井彰の出会いだった。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第3話① ( No.427 )
- 日時: 2012/08/30 13:46
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
千里が待ち合わせ場所に着くと、そこには既にゆまの姿があった。
「もしかして待った?」
「うんん。ついさっき来たばっかだよ」
「なら良かった。んで、どーするの?」
とりあえず一緒にとは言ったが、実際のところ何も考えていなかった。
「ちーちゃんの魔法で魔女を探そうよ。ちーちゃんの魔法ならすぐに見つかるよっ」
「そ、そう?ならそうしようか」
千里は頼りにされることが歯がゆくも嬉しかった。
千里はいつもより少し気合を入れて魔法地図を展開した。
『千里眼』の能力の一つ、魔力の記憶は魔法少女に変身してでないと使用できないが、すでに記憶した魔力の追跡ならば変身せずとも出来る。
「あらら?」
「どーしたの?」
ゆまは千里の魔法地図を覗き込んだ。
魔法地図には地図以外何も表示されていなかった。
つまり表示された地図の範囲には、千里が記憶した魔力を持つ者が居ないのだ。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第3話② ( No.428 )
- 日時: 2012/08/30 13:47
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「昨日の使い魔の親玉、てっきりこの近辺を縄張りにしてると思ったんだけど……」
「結界に隠れてるのかな?」
「もしかしたらそうかもねぇ。さすがに結界内の魔女は追えないわ」
「そっか……」
表情に影を落とすゆまを見て、千里は期待を裏切ってしまったと少しだが気に病んだ。
「ま、まぁ……動き出す時間があるのかもしれないし、また後で見てみよう!」
「うん、そうだね」
笑顔を取り戻したゆまを見て内心ホッとした。
(何、安心しちゃってんの?ちーは……)
安心感を覚えてしまったことに千里は違和感を感じた。
一日前に会っただけの、何も知らない子だというのに。
「ねぇ、ねぇ。この後どうしようか?」
「え?」
もっともな質問だった。
魔女が出てくるまで時間があるのなら、それまでの時間をどうにか潰さなくてはならない。
だが普段、彰以外の人と行動を共にしない千里はどうするかと聞かれ、どうするべきかわからず固まってしまった。
「えーあー」
「ねぇねぇ、もし良かったら行って置きたいところがあるんだけど……」
「ん、えっと、べ、別にいいよ。ちーはどこでも!」
「えへへ、じゃあ行こうっ」
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第3話③ ( No.429 )
- 日時: 2012/08/30 13:48
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「す、スーパー?」
ゆまに連れられて来たのは何の変哲も無いスーパーマーケットだった。
「今日は安売りの日なの。安い時に買っておかないとね」
「アンタ、苦労してんのねぇ」
「楽しいから辛いなんてことないよ」
「ふーん」
千里は買い物するゆまの後ろをとりあえず着いて行った。
途中、ゆまはばら売りされたリンゴ売り場で立ち止まった。
そしてリンゴを睨みつけるように見ながら唸りだした。
「何やってんの?」
その行為が妙に気になり、千里はゆまに聞いてみた。
「どれがおいしそうかなって。いつも買っていくんだけど、いまいちおいしくなくて……」
「色が良くついたやつがいいよ」
「そうなの?じゃーこれとかどうかな?」
ゆまが赤色の綺麗なリンゴを手にとって千里に見せた。
「それは良い色だけど、袋をかけて作ったリンゴだから案外甘くないんだよね。それよりは色も形もちょっと落ちるけど、こっちのリンゴのほうがいいよ」
千里はゆまが手に取ったリンゴの隣に展示された別の品種を指差した。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第3話④ ( No.430 )
- 日時: 2012/08/30 13:48
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「あとは良い臭いのするやつとか、大き過ぎず小さ過ぎずのやつとか。重みがあるほうが良いかな」
そう言って売られている物から2、3個選ぶとゆまに渡した。
「ちーちゃん、詳しいんだね。すごいよ!」
「んーまー……家事とかしてるから」
「ゆまはまだまだ下手っぴだから、ちーちゃんが羨ましいな」
「わ、わかったから買い物続けなよ」
「あ、そうだね」
ゆまは今度は野菜売り場に行ってにらめっこを始めた。
千里はそんなゆまを見つめながら、火照った頬を冷やすように手を当てた。
(凄いとか、羨ましいとか、はずかしいって……。でも———)
こうやって親以外に褒めてもらったのは何時振りだろうか。
『ちー』と呼ばれることも久方ぶりだ。
ゆまは素直でとても良い子なのだろう。
ゆまと一緒に居て悪い気持ちにならないのは、その素直さ故なのかもしれない。
(ちーとは大違いだなぁ)
素直になれないせいで次々と人が離れていった。
きっとゆまも離れていってしまうのだろう。
友達のように、母親のように。
(信じたら痛い目みる……。夢や幻を追うのはもう御免だよ)
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第3話⑤ ( No.431 )
- 日時: 2012/08/30 13:49
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
買い物が終わってから、再び千里の魔法地図で魔女の行方を調べてみたが、未だに反応は無かった。
そのためまたもや時間を持て余してしまった二人は、千里の提案でゆまの持つ荷物を一度置きに帰ることになった。
その帰り道、ふとゲームセンターを前にしてゆまの足が止まった。
「いきなり止まってどうしたのよ?」
「あのヌイグルミ……」
ゆまの視線の先には店頭に設置されたUFOキャッチャーがあった。
その景品の中にウサギの耳を生やし、顔はネコ、そして手足が長いという珍妙なヌイグルミがあった。
「アンタ、あんなのが欲しいの?」
「昔、ママがくれたヌイグルミの違うやつなの。懐かしいなぁって」
「……」
『ママ』という単語に、当然ゆまにも母親がいるのだということに今更ながら気がついた。
他人の家庭に口を出すつもりは無いが、ゆまは自分のように母親に裏切られてはいないのだろうか———ふとそんなことを思った。
「ねぇ、アンタはママのこと好きなの?」
「んー。わかんない……。ママは凄く怖い人だったし、ゆまがいけない子だってたくさん痛いことされたし。居なくなった今は、ちょっと寂しいなって思うけど……」
「居なくなったって……」
「ママもパパも死んじゃったから」
「!!」
千里と同じだった。
しかもゆまの口ぶりだと、きっと母親はゆまを虐待していたのだろう。
ゆまも母親に裏切られた。
そして今は一人ぼっちなのだ。
一人であると思い出すことがどれだけ辛いことか、千里はよく知っている。
だから今自分が聞いた事柄がどれだけ軽率なことだったのかも理解できた。
しかしやはり素直に『ごめん』とは言えなかった。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第3話⑥ ( No.432 )
- 日時: 2012/08/30 13:49
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ま、300円ってとこね」
「え?」
千里はUFOキャッチャーの前に立つと、左右から覗いてヌイグルミを見た。
「ち、ちーちゃん!いいよ!」
しかしゆまの制止を無視し、300円を投入した。
そして予告どおり、300円目でヌイグルミを景品取り出し口に落として見せた。
「はい!野暮なこと聞いちゃった詫びよ!」
千里はそっぽを向きながら、ゆまに押し付けるようにしてヌイグルミを渡した。
「そんな、気にしなくてよかったのに」
「いいから!そういうのは素直に受け取っておくもんよ」
「ありがとう」
ゆまはヌイグルミを受け取ると笑顔を向けた。
「大事にするね」
「いいわよ……別にそんな大そうなもんじゃないし」
「うんん、だって友達から貰った物だもん。絶対に大事にするよ!」
「友達って……」
千里は視線をゆまに戻した。
ゆまの表情は一片の曇りも無く、『友達』という言葉に嘘偽りが無いことを表していた。
「ま、まぁいいわ。さっさと行こう」
「あ、待ってよ」
隣に並んで満面の笑みを浮かべるゆまが千里には変人に見えた。
(一日そこいらで友達って……。どうかしてる。けど……なんで嬉しいのかな)
心にモヤをかけたまま、千里はゆまの家へと向かった。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第3話⑦ ( No.433 )
- 日時: 2012/08/30 13:50
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
もう少しでゆまの家に着く———そこまで来たところで、ゆまは再び足を止めた。
「あ、キョーコ!」
ゆまは前から歩いてくる人に手を振った。
「アンタが一緒にいるって言ってたヤツって……」
千里は唖然とした表情でゆまと、近づいてきた佐倉杏子を交互に見た。
「あ、お前……彰んとこの」
「あれ?二人とも知り合い?」
「コイツ、蒼井彰んとこで居候してるんだよ」
「ちーちゃん、そうだったの?」
ゆまも彰のことは苦い思い出として残っていた。
とは言え、今は敵視などはしていないが。
「そうよ。ちーも意外だったわ。まさかアンタのツレが佐倉杏子だったなんて」
「相変わらず口の悪いガキだな」
「ふん」
千里はそっぽを向いて杏子から視線を離した。
「何でお前ら一緒にいんの?」
「えっと……たまたま会って、友達になったの!」
「たまたま?」
杏子は訝しげな表情でゆまを見つめた。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第3話⑧ ( No.434 )
- 日時: 2012/08/30 13:51
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ほ、本当だよ」
「ふーん。まぁ、いいけど。ゆま、買い物サンキューな」
「うん、色々買ってきたよ」
ゆまは杏子に買い物袋を渡した。
「もう帰ってくるのか?」
「うんん、もう少しちーちゃんと遊んでくるよ」
「そっか。じゃあ荷物は持って帰っておいてやるよ。最近魔女が悪さしてるみたいだから、気をつけろよ」
「うん、わかった」
ゆまは杏子を見送って、大きくため息をついた。
「アンタ嘘が下手ね」
「嘘なんて普段ついたりしないから」
「ま、ばれてないみたいだし、良いんじゃない?」
千里は魔法地図を展開し、魔女の場所を確認した。
すると今まで反応の無かった地図上に魔女を示すマーカーが点滅していた。
「引っかかったわよ!場所は昨日と同じ場所ねっ」
「行ってみよう!」
地図の示す場所、二人が出会った水族館に向かって行った。
そんな二人を遠くから杏子が見ていることも知らずに———。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第4話① ( No.435 )
- 日時: 2012/08/31 11:12
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
二人は水族館に着くと、水族館の壁に生じた魔女結界への入り口となる歪みを見つけた。
中に入ると昨日見た水族館の風景は無く、代わりにあるのは混沌とした世界だった。
空には無数のシャンデリアが消えたり点いたりを繰り返し、周りでは着飾った顔の無い人のようなモノが踊りまわっていた。
「ダンスホール……かな?」
千里は今見ている結界内の風景を見て思いついたことを言った。
「なんかそんな感じだね」
ゆまは昨日の使い魔がタップシューズを履いていたことを思い出した。
タップシューズもタップダンスに使われる靴だ。
ダンスに関連している。
二人はとりあえず道なりに進んだ。
そして途中で使い魔に会うことなく、最深部と思われる大きな扉の前に辿り着いた。
「この先にいるわね……。アンタ、準備はいい?」
「うん……大丈夫」
千里とゆまは二人で大きな扉を開いた。
そして開けた途端、シンバルや太鼓の音がけたたましく鳴り響いた。
「な、なに!?」
千里は思わず耳を塞いだ。
ゆまは耳を押さえながら周りを見渡した。
中央には大きなステージが置かれており、その周りでは使い魔が様々な楽器で演奏していた。
そして演奏は突然ファンファーレへと変わり、中央のステージに顔のと片足の無い巨大な魔女が出現した。
その様はまるでドレスを着た案山子のようだった。
演奏が止まり、中央にスポットライトが当てられると、魔女がクルクルと回り始めた。
それが合図と言わんばかりに、使い魔たちは一斉に二人に襲い掛かってきた。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第4話② ( No.436 )
- 日時: 2012/08/31 11:15
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「左右から二体ずつ、右からのほうが3秒くらい早く来るよ!」
ゆまは千里の指示通り、右から来た二体をハンマーで殴り飛ばした。
そしてその勢いのまま左の二体も殴り倒した。
「後ろに一体!さらに右から一体!そこにいたらやられるから、左へ行って!」
ゆまは左に避け、相手を失い隙の出来た使い魔ニ体を殴り倒した。
「前後左右から全部で五体くるよ!」
「なら!」
ゆまは上にジャンプした。
そして襲い掛かってきた五体が密集しているのを確認する、ハンマーを振り上げた状態で落下した。
「えいっ!!」
地面に叩きつけられたハンマーは激しく地面を揺らし、使い魔たちはバランスを崩した。
その隙にゆまは身体を回転させて使い魔を薙ぎ払うようにして倒した。
「やるじゃん!あとはあのデカイのだけ———」
千里は地図上に増えていくマーカーの数を見て思わず絶句した。
そしてゆまも目の前で使い魔が次々と増えていく様子を見て同じく絶句していた。
「な、何よ……。さっきより多いじゃない!」
「こ、こんなに相手に出来ないよ……」
この魔女は司令官型の魔女なのだ。
大量の使い魔を使役し、それらに指令を出して相手を陥れる。
物量こそ物を言う———そういう魔女なのだ。
ゆまと千里は無駄な足掻きとわかりつつも使い魔たちを出来る限り倒していった。
しかしすぐに限界は訪れ、二人は囲まれてしまった。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第4話③ ( No.437 )
- 日時: 2012/08/31 11:18
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ど、どーすんのよ?」
「……」
慌てる千里に対し、どういうわけかゆまは冷静な表情だった。
「ねぇってば!」
「ちーちゃん……」
ゆまはこんな状況だというのに笑顔で千里のほうを振り向いた。
「ちーちゃん、逃げてっ」
「え?」
ゆまはそれだけ言って使い魔の大群に一人で走っていった。
「あ、アンタ!!何やってんのよ!」
無視しているのか、聞こえていないのか、ゆまは振り向くことなく使い魔たちにのまれていった。
使い魔たちは向かってきたゆまに夢中で、もはや千里のことなど見ていなかった。
「逃げてって……。アンタはどうするのよ……」
ゆまは千里を逃がすために囮になったのだ。
そんなことは見ればわかる。
千里が理解できないのは、囮になろうとなぜ思えたのかだった。
「1日一緒にいただけじゃない……。何やってんのよ」
使い魔たちが突然バラバラに散っていき、中央にはボロボロになったゆまが倒れていた。
クルクルと回っていた魔女は動きを止め、魔女の身体から伸びてきた髪の毛のようなものを伸ばしてゆまの身体に巻きつかせた。
そのまま宙へと吊り上げられ、ちょうど魔女の胸の辺りで止まった。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第4話④ ( No.438 )
- 日時: 2012/08/31 11:19
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「!!」
千里は魔女の手に握られた巨大なハサミを見て表情を強張らせた。
それはすぐに想像できた。
魔女はあのハサミでゆまを切断する気なのだ———と。
使い魔たちはヤレヤレと言わんばかりに激しい演奏を始めた。
もはや音楽とも言えないようなものを。
このままではゆまは魔女に殺されてしまう。
だがそれがどうしたというのだ。
誰が死のうと千里には関係ない。
どうせこの先一緒に居ても裏切るのだから、今居なくなったって変わりない。
いつもの千里ならこう思い、一目散に逃げていただろう。
でも動けなかった———否、逃げなかっただけで身体はしっかり動いていた。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第4話⑤ ( No.439 )
- 日時: 2012/08/31 11:20
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
ゆまは霞む視界の中で落下していく感覚を肌に感じていた。
(ゆま、死んじゃったのかな?)
しかしその割には痛みは鮮明に伝わってきているし、身体にかかった熱いものの感触はとても死者が感じられるものとは思えなかった。
「え!?」
だがゆまはすぐに自分にかかった熱いものが血であることを認識し、現実に戻った。
「あうっ!」
ゆまは地面に叩きつけられた。
そしてすぐ近くに千里も落下した。
「あ、ああ……」
ゆまの先で倒れている千里には右足が無かった。
綺麗に切断された足からは鮮血が流れ出し、その血がゆまにかかったのだと容易に想像できた。
「ち、ちーちゃんっ」
すぐに千里のものに行き、触れることが出来れば一瞬で怪我を治すことができる。
しかし今のゆまに出来たのは手を伸ばすことだけで、近づくだけの力は残されていなかった。
「ちーちゃん……なんで?」
「な、情けない顔……してんじゃないわよ」
千里は力なく笑ってゆまに言った。
「でもいくら魔法少女でもこのままじゃ死んじゃうんじゃないの……これ。なんて、ね」
ゆまは千里だけでも助かって欲しいと思った。
だからそのために自分が犠牲になっても構わないとさえ思った。
だが千里はゆまを助けるために飛び出してきた。
死ぬかもしれないとわかっていながらも。
「ちーちゃん、何で逃げてくれなかったの?」
ゆまがそう聞くと、千里は血の気の引いた顔を精一杯繕って怒っているような表情を作った。
「何言ってんのよ……だって、だって———」
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 第4話⑥ ( No.440 )
- 日時: 2012/08/31 11:21
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「だってアンタは……」
ゆまを助けるために飛び出したとき、なぜ自分はこんなことをしているのだろうと疑問に思った。
自分がいった所で何になるというのか。
ただ死人を増やすだけではないか。
そう頭でわかっていながらも千里は飛び出していた。
目の前で殺されそうになっているゆまを見ていると、居ても立ってもいられなかった。
なんで、どうして。
いやわかっている。
わからない、わからないと思っていた時から、心の奥底ではわかっていた。
片足を失おうとも、今目の前でゆまが無事でいるのを見ていると良かったと素直に思える。
そう、これが———。
「アンタは、ゆまはちーの友達だから!友達を見捨てるなんて出来ないよ!」
友達。
ずっとずっと望んでいた。
自分を友達と言ってくれる、本当の友達を。
ゆまは少し驚いたような顔をした。
だがすぐに、
「やっと名前で呼んでくれた……。何だか嬉しいな」
そう笑顔で言った。
「こんなときに何言ってんのよ……あはは」
こうやって笑顔を向けてくれるゆまが千里は好きだったのだ。
もしここで死んでしまっても、悔いは……ない。
(あぁ……でも———)
出来ればゆまの伸ばしているその手に触れたかった。
やっと素直になれたのに、友達に触れられなくなるのだけは心残りだった。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 最終話① ( No.441 )
- 日時: 2012/08/31 11:22
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
千里が目を覚ますと、目の前には見慣れた部屋の天井があった。
「あれ……?」
千里はボーっとする頭でゆっくりと自体を把握しようとした。
「魔女と戦ってて、やられて———ってゆまは!?」
千里は起き上がってベッドから降りた。
そこでふと違和感を感じて下を見た。
「足がある……」
切り落とされたはずの足が何事も無かったかのようそこにあった。
「お、気がついた?」
「ししょー?」
部屋の入り口には安堵と苦笑いの混じった表情を浮かべる彰が立っていた。
「ちー、どうなったの?」
「危なかったんだぞ。あと少し俺と杏子ちゃんが遅れたら本当に死んでいただろうな」
その言葉で千里は彰と杏子に間一髪のところで救われたのだと理解した。
だがしかし———。
「ねぇ、ゆまは?」
「もちろん無事だよ。千里の足を治したのもゆまちゃんさ。ちゃんとお礼を言っておけよ」
彰はリビングのほうに行くように促した。
千里は促されるままリビングに向かった。
リビングにソファーには眠っているゆまがいた。
「千里と比べてまだ怪我は軽かったけど、それでも足一本治癒させるのには相当な体力を使ったと思うよ」
「……」
千里はゆまを起こさないようにゆまの隣に腰掛けた。
「ありがとう……。助けてくれて、友達って言ってくれて」
千里はそっとゆまの手に触れた。
ぬくもりが伝わってきて、確かに生きているのだと改めて思わせてくれた。
これで後悔は無い———千里はこうして再び友達にめぐり合わせてくれた神様に感謝した。
- Re: 第十一章 ほのぼのアフター⑥ 最終話② ( No.442 )
- 日時: 2012/08/31 11:22
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ふー、さっぱりしたー」
「よくもまぁ……人んちの食べ物食べ漁って、風呂まで入れるなぁ」
彰は濡れた髪の毛をバスタオルで拭いている杏子に呆れた様子でそう言った。
「ゆまが口の悪いガキと一緒が良いって言うからさー」
「ならゆまちゃん一人で良いと思うけど……」
「男の家に女一人は危ないだろ?なら保護者も一緒にだな……」
「もしかして俺のことバカにしてる?ってか杏子ちゃんだって女の子だろ?」
彰がそう言うと、杏子はささーっと風呂場まで戻って顔半分だけ覗かせた。
「ま、まさかアタシを襲おうってんじゃ……」
「な、何でそーなるんだよ!」
「ははは、冗談だって。で、ゆまたちは?」
彰はため息をつきながらリビングのソファーを指差した。
「こりゃあんま五月蝿くしたら悪いな」
「だね。俺たちはあっちの部屋行こう」
「何か食べ物ある?」
「まだ食べるの!?」
「風呂入ると腹へらない?」
二人はそんなやり取りをしながら部屋の奥へと消えた。
リビングのソファーには身体を寄せ合って眠る、ゆまと千里の二人だけが残されていた。