二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 第十二章 絶望は死を纏いて狂い踊る 第11話 ( No.504 )
日時: 2012/11/19 14:17
名前: icsbreakers (ID: WV0XJvB9)

■心の闇①

360度。

上下左右。

ありとあらゆる場所に映し出された映像は、背けたくても背けられない過去だった。

「もう……やめてくれ———」

佐倉杏子は地面に突っ伏して嗄れた声でそう搾り出した。

皆のためにと語り続ける杏子の父。

それが杏子の願いによって叶えられた偽りだとも知らずに、父は語り続ける。

『魔女めっ!!』

「っ!!」

父の罵倒する声に、杏子は身を震わせた。

自分に集まっていた人々の信仰心が、杏子の願い、魔法によるものだと知った父はそう罵った。

今でも耳に残っている。

思い出したくなくても時々、思い出す。

時々だから耐えられた。

今のように繰り返し、繰り返し聞かされるのはとても辛かった。

映像は父が行った一家心中の場面へと変わった。

このとき、杏子は家に居なかった。

帰ってきたときには既に事は終わっており、その瞬間に杏子はすべてを失った。

流れている映像は、本来杏子の知らないはずの空白の時間を流していた。

父が家族を次々と手にかけて行く。

そして父の狂気は妹を追い詰めた。

妹は泣きながら「やめて、やめて」と叫んでいた。

父はその言葉を聞き入れることはせず、まるで呪文のような意味不明なことを言いながら妹の首をつかんだ。

「やめて……。頼むから……」

杏子は映像に向かって届くはずの無い言葉を向けた。

投げかけた言葉も虚しく、妹は父の手で首を絞められて殺された。

そして次の場面で、惨状を目の当たりにし、呆然としている杏子自身の映像が流れた。