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Re: 第十二章 絶望は死を纏いて狂い踊る 第17話 ( No.547 )
日時: 2013/05/09 10:21
名前: icsbreakers (ID: WV0XJvB9)

■絶望は死を纏いて狂い踊る⑭

上とか下とか、高いとか低いなど、それらがまるで存在しない闇の世界に少年は立っていた。

少年はその闇の一部かのようにこの可笑しな世界で同化していた。

対して少年の前に居る、鳥かごの向こうに居る少女は闇に反発するかのように神々しく輝いていた。

「最近はよく来るね」

少女がそう言うと、少年はフッと笑った。

「どうせ九条更紗はもうじき終わる。結末がわかっている舞台に時間を費やすより、女神と向かい合うほうが幾分か楽しいのではないか、そう思ってね」

「いつからそんな冗談言うようになったの?」

「洒落のわからない奴だな」と首を横に振ると、表情を鋭くして鳥かご越しに少女に迫った。

「単刀直入に聞こう。蒼井彰は何者だ?」

「??」

少年の問いに、少女は首をかしげた。

「本当に、何も知らないのか?」

訝しげな表情を浮かべる少女を見た少年はため息をついた。

「そうか———」

少年はそれ以上問い詰めるようなことはしなかった。

少女が嘘を言えるような性格ではないと知っているし、何より自分の半身である少女のことを誰よりも理解していた。

「何か変なことでもあるの?」

「少しな……。しかし君の差し金ではないとすると、一体誰の?本当に偶然生まれただけの存在なのか?」

「よくわからないけど……何か問題でもあるの?」

少年は目を細めて、少し考えてから口にした。

「蒼井明奈と同じにおいがする」

「!!」

少女の表情が驚きに変わった。

「君にとっては特別な、私にとっては最悪な者の名だ。故にアレと同じにおいを持つ蒼井彰を放って置くわけにはいかない」

「どうする、気なの?」

「もちろん、始末するさ」

「そんなこと!!」

少女が少年の手を荒々しく掴んだ。

「っ!!」

少年から流れ込んできた記憶が、一瞬にして少女の中に流れ込んできた。

そしてその内容に少女は言葉を失った。

「な、なんでこんなひどいことを……」

「見たのか……彼女らの最後を———」

怒りと悲しみに満ちた少女の表情を、少年は悲しそうに見つめた。

「君には知って欲しくは無かったのだがな……。君が悲しむと、私も悲しいからな」

「ならどうしてっ!!」

少女の頭の中にフラッシュバックするのは、美国織莉子、美樹さやか、佐倉杏子の最後の瞬間だった。

「どうして……幸せにさせてくれないの?」

涙する少女から逃げるように少年は数歩離れた。

「そういう因果なのだ。彼女らは、どんな世界に生まれ変わっても死の運命から逃れられない」

「だったらせめて私の手で導いてあげたかった……」

泣き崩れる少女を背にして、少年は『視点』を彰たちの居る世界に向けた。

「———すまない」

少年は虚空に向かってそう呟いて、闇の世界から消えた。