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Re: 第十二章 絶望は死を纏いて狂い踊る 第17話 ( No.548 )
日時: 2013/05/16 10:18
名前: icsbreakers (ID: WV0XJvB9)

■絶望は死を纏いて狂い踊る⑮

両手両足の無い、まるで棒のような、しかし女性であることを示すかのように乳房のついた巨大な胴体。

手のように枝分かれした二対の巨大な羽根。

首から上は、すべてを吸い込まんと開かれた口、そして血の様に赤い眼。

頭からは髪の毛と思われる管がなびいており、先端に行くにつれて泡化していた。

その闇のような真っ黒の巨体の背後には四つの魔方陣がゆっくり回転していた。

「な、なんなのよぉ……。あれがリンちゃんだっていうのぉぉ!?」

更紗の顔には余裕も楽しさもなく、まさに予想外のものを見たときのそれとなっていた。

驚きを隠せずに居るのは更紗だけでは無かった。

彰たちもまた、目の前で起きた天音リンの豹変に言葉一つ発することが出来なかった。

巨体の首についた首輪にはソウルジェムが輝いており、それがリンのもので、同時に巨体がリンであることを示していた。

それでも彰たちは信じられなかった。

本当に天音リンなのか?あれではまるで『魔女』ではないか———そう思ってしまっていた。

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九条更紗が許可した者しか入れないはずのその空間の、時計台を模したであろう建物の一番上に少年は立っていた。

少年は闇の色に染まった巨体と、ワルプルギスの夜を遠くから見つめていた。

「『魔女』と契約した魔法少女……。心の闇の大きさこそが最強の名のもとなのだろうな」

彰たちと更紗が驚愕したこの光景を目にしながらも、少年の表情は微動だにしなかった。

「しかしあの大きな闇の源となった復讐心はなぜ人間に向かないのだ?忘れるはずの無い、心に刻まれた記憶のはずだが……」

自身で口にした言葉に、少年は眉を吊り上げて反応した。

「そうか……あの人間か」

少年の頭の中に、目を包帯で覆った一人の魔法少女の顔が浮かんだ。

「叶ゆかり、とか言ったか?私の力をもってしても探し出すことの出来なかった強力な結界を作り出した魔法少女。記憶を操作する魔法だった……」

少年は化け物と化したリンを見つめ、「ふむ」と一人頷いた。

「記憶を蘇らせれば、私にとって都合のいい駒になりそうだな……。お前もそう思うだろう?」

いつの間にか少年の背後に居た、帯刀した少女にそう尋ねた。

しかし少女は一言も発することも、ピクリとも動こうともしなかった。

それは電池の切れた人形、あるいは命令を待つだけのロボットのような感じだった。

少年はそんな少女の様子に構うことなく、再び視線をリンに向けた。

「まだまだ絶望はこれから、ということだな」

少年は未来を見ているかのような遠い目をして、呟いたのだった。