二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 第四章 41話 ( No.69 )
日時: 2012/05/14 10:29
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「はあ、はあ」

 結構な量吸われた所為か、かなりフラフラだった。

「何がどうなって———」

「すぅ……すぅ」

「!!」

 明奈の表情からは苦しさは抜け、寝息もとても穏やかだった。

「これは驚いたっすね……」

 珍しくゴンべぇが動揺しているようにも見えた。

「どうも明奈ちゃんは魔法少女でもあり、魔女でもある———どっちつかずの状態になってるみたいっすね」

「俺の願いがそうさせたのか……」

「魔女になろうとしている瞬間も、魔法少女であろうとするから、ソウルジェムの輝き……魔力を求めているのかもしれないっすねぇ」

「それで俺のソウルジェムから魔力を?」

「今明奈ちゃんは天秤に魔女と言う重石と、魔法少女という重石を乗せているっす。穢れによって魔女の重石が重くなれば当然魔女化が進む。でも魔力を吸って魔法少女側の重石が重くなればバランスが戻る。そんか感じっすかね」

 彰は自身のソウルジェムを見ながら、ゴクリとつばを飲み込んだ。

「なぁ……つまりソウルジェムがあればバランスの釣り合いがとれて魔女化を防ぐことが出来るのか?」

「その可能性は高いっすね。もし魔女の重石を圧倒するほどの魔力を吸収できれば……完全に魔法少女に戻ることが出来るかも知れないっすね」

 彰の頭は既に一つの答えを導き出していた。

(他の魔法少女からソウルジェムを奪えれば……)

 ソウルジェムを奪うこと———それは相手を殺すことになる。

 彰は自分の手を見た。

(この手を明奈のために汚せるか?いや、明奈のためだから出来る)

 手を握り締め、彰は窓の外をにらみ付けた。

 そこには最早優しき兄の姿はなく、あるのは奪う者に変貌した死神だった。

Re: 第四章 42話 ( No.70 )
日時: 2012/05/16 11:29
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 人気のない橋の上を2つの人影が駆け抜けた。

 1人は杖を持った魔法少女。

 そしてもう1人は身の丈ほどの大剣を担いだ漆黒の騎士———蒼井彰(あおいあきら)だった。

「なんで……私が何かした!?」

 少女は走りながらそう叫んだ。

 彰は無言のままただ追いかける。

「何か言ってよ!」

 少女は杖から炎の玉を飛ばした。

 だがいとも簡単に避けられてしまった。

 少女は橋の下に飛び降り、川原を走った。

 だがすぐに行き止まりに当たってしまった。

「!!」

 彰は少女から少し離れたところに降り立ち、ゆっくり歩を進めた。

 彰が少女から20メートルくらいの位置まで迫った時だった。

「かかったな!」

 少女が杖の先を地面に向かって叩き付けた。

 すると彰の真下に大きな円陣が出現し、爆発した。

「やった!これで木っ端微塵———」

 少女は突如感じた浮遊感に一瞬何が何だかわからなくなった。

 だが直後に襲った激痛に一気に現実に戻された。

「いたああああぃぃい!」

 少女の肩を大剣が貫き、少女は壁に磔(はりつけ)にされた。

 砂煙の中から大剣を握った彰が姿が見えた。

「な、なんで生きてんのよぉ」

「俺は触れたものすべてを無かったことにする。例えそれが爆発だろうと」

「うぅ……」

 少女は諦めたようで、身体の力を抜きまるでぶら下がる人形のようになった。

Re: 第四章 43話 ( No.71 )
日時: 2012/05/16 11:30
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「ここで変身を解き、ソウルジェムを渡せば痛みなく殺してやれる。どうする?」

「わ、私は……」

 少女が顔を上げた。

 少女の目に宿る意思はまだ死んでいなかった。

「死なない!!」

 少女が放った炎の玉は彰の身体にもろ命中した。

「ぐあ!?この!」

 彰はもう片方の手に短剣を作り出し、それで少女の心臓を突き刺した。

 そして今度こそ少女の身体は動かなくなり、変身も解けた。

「はぁ、はぁ」

 彰の魔法は『無かったことにする』という強力なものだが、そうそう連発できるものでもない。

 一度の使用でかなりの魔力を消費するし、『無かったことにする』対象によってはその消費量も変わる。

 むやみやたらに使えばすぐにソウルジェムは真っ黒のなってしまうのだ。

 そこで彰が考えたのが、2つの方法だ。

 1つはソウルジェムが埋め込まれた左手で直接『無かったことにする』方法。

 直接触れなければいけないリスクはあるが、『無かったことにする』ということに魔力を集中できるため効率がいい。

 もうひとつの方法が『無かったことにする』魔法を自分中心に範囲展開すること。

 主に初めて戦う敵や、攻撃手段が遠距離の相手に使用する。

 範囲展開するための魔力コントロールと、常時魔法を発動しなくてはならないため、かなりの魔力を消費する。

 2つの技も使い分けが中々むずかしく、今のように攻撃を食らってしまうこともある。

 完全無欠の能力というわけではないのだ。

 とは言え、この能力の利便性は計り知れない。

 例えば魔法少女本人に触れることが出来れば、肉体とソウルジェムの関係性を『無かったこと』にして無理やり魔法少女化を解いたり、相手に魔法を使えなくさせたりできる。

 魔法を使えなくすれば感覚操作も行えないため、相手の行動に相当制限を与えられる。

Re: 第四章 44話 ( No.72 )
日時: 2012/05/16 11:31
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「ははは。こりゃ予想してた以上だなぁ」

 声が聞こえたときには既に彰は相手に向かって大剣を突き出していた。

「ぐっ!?」

 しかし大剣は相手に届くよりも前に無数の黒い手によって止められていた。

「へへ。血の気が多いねぇ。まぁやる気なのはいいことだけどよ」

 そこには魔法少女らしき少女が1人立っていた。

 黒い手はこの少女の背後から伸びていた。

「やる気があるのはいいけどさ。今のはちと甘かったな」

「何?」

「そこの女を殺るときさ。どうせ殺すんなら、ズバッと首を跳ね飛ばしちまえばいい」

 少女は立てた親指で首を切るような動作をした。

「なんなんだ、お前?」

「オレ?オレは天音(あまね)リン。見ての通り、魔法少女さ」

「そうか」

 彰は大剣消し、黒い手の拘束を解いた。

 そして再び大剣を出現させ、リンに向かって駆け出した。

「やれやれ」

 リンはお手上げのポーズをとった。

 リンの背後から先ほどより多い数の黒い手が彰に向かって伸びた。

 彰は向かってくる手を左手で『無かったこと』にしながら突き進んだ。

 もう間もなく攻撃の間合いに入るというところで彰は突如体制を崩した。

「!!」

 足元に大きな丸い影のようなものが広がっており、その影には3つの切れ長な目がついていた。

 その影は底なし沼のように彰の足を飲み込んでいた。

「くそ!」

 彰はなんとかジャンプして影から抜けた。

「いいのかよ?無防備すぎるぜ」

「なっ……」

 上空から見たその光景は彰を戦慄させた。

Re: 第四章 45話 ( No.73 )
日時: 2012/05/16 11:33
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

(千、いや一万……もっとか!?いくつあるんだ……あの黒い手は!)

 リンを中心に広がった巨大な影から伸びた手は優に10万本は超えていた。

(あの数を無かったことにするのは無理だ!)

 一斉に向かってくる手を大剣で破壊するが、すぐに彰は捕らえられてしまった。

「くそ……」

「まぁ……とりあえず話くらい———」

 黒い手が次々と合わさり、1つの大きな手をなった。

「聞こうや」

 巨大な拳に彰は殴られ、そして地面に叩きつけられた。

「がはっ」

 鎧は砕け散り、身体中の骨が折れるのを感じた。

「さすがに動けないだろ?一応死なないように加減はしたんだ、感謝してくれよ」

 リンは彰の横にしゃがみこみニコニコと笑った。

(桁が違いすぎる……なんだこいつ)

 リンは彰の目の前にソウルジェムを差し出した。

「さっきアンタが殺したやつのだ。これが欲しいんだろ?」

 ソウルジェムを彰の手に平に置いた。

「アンタはこいつを使って妹を元に戻したい。そうだよな?」

「なぜそれを……」

 リンの背後から一匹の白い動物が飛び出してきた。

「なるほど、お前が話したのか……ゴンべぇ」

 彰は動かない身体でゴンべぇを睨んだ。

「まぁそう怒るなって。そのおかげでオレはアンタの手伝いが出来るんだからさ」

「手伝い?」

「そうさ。アンタ……もしバランスうんぬんじゃなくて、天秤をぶっ壊すくらいの超越したエネルギーを持つソウルジェムがあるとしたらどうする?」

「あ、あるのか?」

 リンは彰の食いつきのよさにニヤリと笑った。

Re: 第四章 46話 ( No.74 )
日時: 2012/05/16 11:34
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「今はない。今はな……」

「どういうことなんだ?」

「まだそいつは魔法少女じゃない。契約してないってこと。でも恐ろしい素質を持ってる」

「誰なんだ……」

「———オレも知らない。まぁゴンべぇと一緒に居れば、もし出会った時に教えてくれんだろ。な、ゴンべぇ」

 リンが視線を向けるとゴンべぇは頷いた。

「それが本当なら……明奈を救える」

 彰に先ほどまでの張り詰めた空気は無く、安堵と希望にあふれたいつもの表情が浮かんでいた。

「とりあえずまた明日、ゴンべぇをアンタのとこに行かせる。あとはゴンべぇとうまくやってくれ」

「お前は何を企んでる?」

「別に特にねぇーさ。ただ少しでもおこぼれがもらえれば良い」

 そう言うとリンは彰の身体の傷を動ける程度まで回復してやった。

「ま、そういうことで。じゃーな」

 リンはジャンプすると橋の上に飛んでいった。

 それ追うようにゴンべぇも消えた。

 残された彰はさっき手に入れたソウルジェムを握り締め、希望と言う二文字をかみ締めた。

Re: 第四章 47話 ( No.75 )
日時: 2012/05/16 11:35
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 魔法少女姿を解き、普段のだらしない着物姿になったリンは1人で橋の上を歩いていた。

「リンちゃん」

「おー、ゴンべぇか。なんか用か?」

「なんでさっき鹿目(かなめ)まどかの名前を教えなかったんすか?」

「アイツと鹿目まどかが顔見知りだからさ」

 ゴンべぇは首をかしげた。

「ならなおさら教えたほうがいいんじゃないっすか?」

「今のアイツにそれを教えたら覚悟が揺らぐだろ?まだアイツは殺すことに躊躇いを持っている。そんな気持ちじゃ、知り合いを前にしたときに失敗しかねない」

「なるほど……」

「だからあと4〜5人殺るまでは鹿目まどかの名も、出会うこともないようにうまく操作しろよ」

「わかったっす」

 ゴンべぇは音も無く居なくなった。

 残されたリンは不気味な笑みを浮かべながら、夜の街へと消えていった。

Re: 第四章 48話 ( No.76 )
日時: 2012/05/17 14:54
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「……」

 鹿目(かなめ)まどかは1人で公園のベンチに座っていた。

 昨晩のことを考えているうちにいつの間にかここに来ていた。


『明奈(あきな)のために魔法少女になってくれないか?』


 蒼井彰(あおいあきら)に言われた言葉がいつまでも頭の中を駆け巡っていた。

「私が契約したら明奈ちゃんは助かるのかな?」

 契約すれば、今まで支えてきてくれた暁美(あけみ)ほむらを裏切ることになってしまうだろう。

 しかし彰たちのことを見捨てることなど、まどかに出来るはずがなかった。

「ここに居るんじゃないかって思ったんだ」

「あ、彰さん……」

 まどかの前には彰が立っていた。

 昨晩はまどかたちに正体を明かした後、すぐにあの場から消えてしまった。

 あの時何も言葉をかけてあげられなかったことを気にかけていたまどかは、いつか2人だけで話す機会があればと思っていた。

「安心してよ。別に今どうこうしようだなんて思ってないからさ」

 彰はまどかの隣に腰掛けた。

「それで考えてくれた?魔法少女になるかどうか……」

「それは……」

 答えられなかった。

 どうすれば良いかなど、すぐに答えが出せるはずも無かった。

「そう簡単に、『はい』とは言えないよな。わかってるよ……それくらいは」

 まどかは隣に座る彰の顔を見た。

 いつもと変わらない、優しい顔つきだった。

 それを見ると昨晩の出来事が嘘かと思ってしまう。

「まどかちゃんは好きな子とかいる?」

「へっ!?」

 予想だにしない問いにまどかは一瞬何を言われたのかわからなくなった。

「い、いないですよぉ」

 少し顔を赤らめながらまどかはそう答えた。

 その様子を見て彰が笑った。

「まぁ、これからだよね。もし出来たら、その人がまどかちゃんの一番大切な人になるんだろうな」

 誰に言うでもなく、彰は遠くを見ながらつぶやいた。

「もし俺が、まどかちゃんのこと好きだって言ったら……まどかちゃんは俺の一番になってくれるかい?」

「えええぇぇ!そ、そんな私じゃ釣り合わないって言うかっ!どんくさいし、可愛くないし!あのっ、そのっ———」

 まどかはパニックを起こしてとにかく滅茶苦茶なことを口走った。

Re: 第四章 49話 ( No.77 )
日時: 2012/05/17 14:54
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「あはは———ごめん、ごめん。とりあえず落ち着いてよ」

「うー……すー、はー」

 まどかはとりあえず落ち着こうと深呼吸した。

「まどかちゃんはいい所たくさんあるし、可愛らしい子だと思うよ。もっと自信を持ちなよ。それに仮にまどかちゃんが俺を受け入れてくれたとしても、俺のほうがまどかちゃんには釣り合わないさ」

「そんなこと……」

 彰は首を振った。

「俺は汚れきっているから。この手で何人もの人を……人殺しさ」

「でもそれは……」

「明奈のため。わかってるさ。もう後戻りなんかできない。だから———」

 彰は立ち上がるとまどかの正面に立った。

「俺は先に進むよ。どんなに蔑まれようと。まどかちゃん、君を魔法少女にさせるまで」

「彰さん……」

「ほんとに良い子だね。最後まで俺の心配をしてくれているんだろう?明奈のことも———。でも俺は心配される価値もないんだ。だからもう俺のことは忘れてくれ」

「そんなの寂しいですよ。ずっとずっと1人で苦しんで行くなんて———」

 ずっと1人で抱え込み、進むことを決めたほむら。今の彰の姿がそれと何となく重なって見えた。

「決めたことなんだ。次会うとき、俺は君の敵だ。俺はまどかちゃんを魔法少女にするためなら、君の大切なものだって奪うよ」

 まどかの瞳には涙が溜まっていた。

 忘れろと言われたことでも、奪うと言われたことでもない。

 彰があまりにも辛そうな目でそう語る姿が、とても見ていられなかった。

 かつて感情を吐露(とろ)したほむらのように、本当は彰も押さえ込んでいることを吐き出したいのではないか?

「なんで?そんなに辛いなら———」

「言わないでくれ!!」

「っ!!」

 彰はまどかに背を向けた。

「ごめん……それとありがとう。まどかちゃんと話せてよかったよ」

 彰は振り向かずにそのまま歩き出した。

「彰さん……!」

 ふとまどかの声に彰の足が止まった。

「なぁ……明奈が言ってたんだ」

「え?」

「自分は二番目で良いって。俺がどう頑張っても明奈を二番目にすることなんて出来ないことを知っているのに。わからないんだ……明奈の言葉に意味が」

 それだけ言い残し、彰は人ごみに消えた。

 彰の辛そうな表情と、言い残した言葉がまどかの頭に焼きついて離れなかった。

Re: 第四章 50話 ( No.78 )
日時: 2012/05/17 14:56
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

蒼井彰(あおいあきら)は見滝原(みたきはら)中学校の屋上に1人で座っていた。

「懐かしいな。よくここで飯食ったっけ」

彰もこの見滝原中の卒業生だ。

その頃は両親も健在で、明奈(あきな)も比較的調子が良かった。

一番充実した時間を過ごしたのはこの頃だったかもしれない。

雲が晴れ、月が屋上を照らした。

月の光が1人の少女の影を映し出した。

「来てくれたんだね」

彰の目の前には少女———魔法少女へと変身した暁美(あけみ)ほむらが立っていた。

「ゴンべぇとかいうインキュベーターに呼ばれて。それに私もあなたと話がしたかった」

ほむらは淡々とした口調でそう告げた。

「説得かい?」

「そんな野暮なことをするつもりは無いわ。ただ……あなたがまどかのことをどう思っているのか……それだけが確認したいの」

ほむらの表情が少し寂しげなものに変わった。

「……そんな大した関係じゃないさ。俺からすれば強大な力を持った獲物、その程度さ」

彰は嘲笑(あざわら)った。

「それに君も同じさ。獲物を得るための生贄———それが君」

嘲笑(ちょうしょう)する彰にほむらは視線を鋭くした。

「そう……なら良かったわ。これで心置きなくあなたを殺せる」

ほむらは盾から拳銃を二丁取り出した。

「ふふ。俺もそのほうが助かるよ。そのほうがやりやすい」

彰は変身すると、大剣を出現させた。

「君が女の子だろうと、1人であろうと、手加減はしないよ」

「それはこちらも同じよ。必ず仕留める」

彰とほむらは同時に駆け出した。

彰とほむらの最終決戦。その第一ラウンドの幕があけた。