二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 【ドラクエⅨ】スライムが仲間になった! ( No.1 )
- 日時: 2012/05/24 18:30
- 名前: 怡執 ◆i0yxwOSY66 (ID: Styhyys8)
第1章
ウォルロ村——緑豊か、気候は温暖、そういう土地である。
人間たちは皆その恩恵を授かり暮らしている。
が、それは人間だけではない。
その周辺地域に暮らす、魔物、と呼ばれる異形の者も暮らしている。
『お前なんかスライムじゃない!』
そう言われて、仲間から攻撃を受けるスライムが一匹。
彼の名前はスラリン——姿形はただのスライムだが、
能力がそんじょそこらのスライムとは違う。
彼は魔法を扱う事ができたのだ。
魔法だけでなく、ほかの魔物の技、“火炎の息”や“姿消し_ステルス_”も使える。
体力や防御力も並みではない。
そんなものだから、仲間の嫉妬をかい、いつも一人でいるのである。
しかも、冒頭のように仲間に攻撃されたりもしてしまう。
スラリンはその行為が人間の言葉で言う“いじめ”であることを知っていた。
だが、彼は攻撃を受けてもすぐに回復することができる。
『ホイミ』
回復呪文特有の暖かな緑の光がスラリンを包み、傷を癒す。
並みのスライムの攻撃力なんて多寡が知れている。
回復から攻撃まで様々な種類の魔法を扱うスラリンにとって、
これしきの事は余裕だった。
それを分かっているのかいないのか、仲間は舌打ちをし、茂みの向こうに消えて行った。
『……はぁ』
知らずと溜息が出る。
こういう風にいじめられるのは日常茶飯事の事。
それでも、やはりいじめられるのは気分が良くない。
こんな時、スラリンはもしも自分が人間だったら、という妄想に浸ってみる。
もしもぼくが人間だったら、魔法使いとか僧侶とか賢者とかになって誰かの役に立つんだ。
誰かと一緒に冒険の旅にでて、楽しく過ごすんだ。
信頼できる仲間と共に、宝探しをするんだ。
スラリンの頭の中に描かれる冒険譚。
そこでは、いつも必ずスラリンの傍に仲間がいた。
スライムじゃない、人間の。
その人は優しくて、強くて、でも少し頼りない。
だから、僕は手を貸すんだ。 僕だけじゃない、周りの仲間も一緒に。
スラリンが妄想に浸っていると、こつん、と頭に何かが当たった。
小石だ。
どこから飛んできたのだろうと振り返ると、そこにはいつもいじめるスライム達の他に、
緑色の細長い体の槍使い、ズッキーニャ。
茶頭巾をかぶった弓使い、リリパット。
薄茶色の袋に魂が宿った、ドロザラー。
スラリンは眩暈がした。
これはもしかすると、いや、もしかしなくても、絶対にヤバイ。
彼の予想は見事すぎるくらいに当たった。
謂れリンチ、というやつである。
それから、たくさん殴られて、蹴られて。
痛さに耐える為、自分の口を噛んだ。
口のなかに鉄の味が広がる。
だけど、耐え切れなくなり、叫んだ。
そうすると、もっと殴られた。
痛い、痛い、痛い。
苦しい、苦しい、だれか、助けて。
背後で、何かが降り立つような気がした。
「だめだよ、一対多数は卑怯だ」
振り向いて、その声の主を確かめる。
神々しく光る、頭上の輪っか。
純白の清らかな背の翼。
地上の人間には見ない、変わったデザインの服。
その姿は紛れもない、
『天使……』
僕がかすれた声でそう言う。
でもきっと、その天使には僕が「ぴき……」としか聞こえていないだろう。
スライムに人間の言葉は話せない。
『人間の味方の天使か……お前の所為で、ウォルロ村は襲えない!
ここで、日ごろの恨みを晴らしてやる!!』
ズッキーニャがそう叫ぶと、スラリンをいじめていた魔物たちは天使を襲った。
危ない、と彼は思った。
いくら人間より優れた身体と精神を持つ天使とはいえ、多数の魔物に一人で立ち向かおうというのである。
しかし、それは杞憂に終わった。
「喚かれても、魔物の言葉は僕に理解できないよ」
天使は鞘から剣を抜き、魔物たちを薙ぎ払った。
きゅう、と呻くズッキーニャの腹に剣先を当てる。
「……聞こえなかったの? 一対多数は卑怯だ、って。
僕は殺生をしたくないんだ。
これからこのスライムをいじめないって、約束するよね?」
一応、ズッキーニャ達の確認を聞く形ではある。
が、天使のまとう雰囲気は有無を言わせない様なものだった。
ぶんぶん、と凄い勢いで首を縦に振るズッキーニャを見て、天使は剣を鞘に収めた。
「じゃあ、さっさと去ってくれる?」
天使の言葉を聞くまでもなく、ズッキーニャ達は去っていった。
ふぅ、と天使は息をつき、スラリンを見た。
びく、とスラリンは怯える。
助けてくれたとはいえ、彼は人間を助ける天使である。
人間に仇なす魔物に天使は容赦ないと、噂で聞いたことがあったからだ。
しかしその予想は外れ、
「大丈夫?」
と、人間に接するのと同じようにスラリンに手を差し伸べた(尤もスラリンは天使が人間に接する所を見た事がなかった)。
大丈夫、という意思表示のつもりでぴょこぴょこ飛び跳ねる。
だが実際は大丈夫ではなかった。身体のあちらこちらが痛む。痣だけではすみそうもない。
かといって、スラリンの使える回復呪文は下等回復呪文——ホイミ——だけで、
この傷の量や深さに対応できない。
何度もホイミをかければいいのだろうが、
それだけの魔力をスラリンは持ち合わせていなかった。
でも、スラリンはこの天使に心配をかけたくないと思った。
飛び跳ねる度に身体が酷く痛んだが、笑顔で塗りつぶした。
「……大丈夫じゃないでしょ」
嘘を見破られてしまった。
「これ、あげる」
と渡されたのは薬草。
もしゃもしゃ食べると、傷の痛みが弱まったような気がする。
あとは、軽くホイミをかけるだけでいいかな。
『ホイミ』
と唱えて傷を癒すと、天使は驚いた顔をした。
「君、珍しいね」
そして、何か月たったとき、大地震が起こった。
黄色い空飛ぶ汽車がセントシュタインの方角に落ちるのが見えた。
それと一緒に、ウォルロ村の方に、羽を落としながら落ちる、
輪っかの消えかかった天使を見た。