二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 【イナイレ】ずっと、隣にいますから【第一章更新中】 ( No.11 )
日時: 2012/05/30 19:01
名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: SGJxjeZv)
参照: 第二章執筆BGM:星井美希(CV長谷川明子)「マリオネットの心」

第二話『今、思い出しますから』

01

「一城さんって、帝国なんだぁ」
「それじゃ、家って結構なお金持ち!?」
「そ、そんなこと……」
「え、でも一城ってコトは、一城財閥でしょ? 最近有名よねぇ」
「あ、ありがと。私はお父様達の経営にはあまり関わっていないから、よく分からないわ」
「なんて言うか、すごく上品な感じするし。お嬢様って感じだよね!」

 放課後。奏の周りに出来た人だからを見て、修也は軽く嘆息した。こういうのは本人にしか分からないが、疲れる。かくいう修也も、つい先日までそうだったのだ。だが、今はそれがありがたい。
 ……別れた恋人と跡隣同士だなんて、気まずすぎる。
 今日一日、隣の一城は妙によそよそしかった。転校初日だからそうなのかもしれないが、明らかに隣にいる修也を気にしている。
 修也は周囲の女子からどう評価されているか知っている。そのため、もしかしたら今日が初対面で、一目惚れ云々の話かと思ったが。
 ……怯え、というのか、あれは。
 例えて言うならば子犬だ。長い間離れていた主に久しぶりに会い、怖がっている子犬。
 群がっている女子達の話を聞くと、転校は初めてではないらしい。
 が、そんなことは良い。問題視するのは、帝国の前は木戸川清修にいたということだ。
 ……やはり、あいつ、か。
 ふと、木戸川清修にいたときのことに記憶を飛ばす。
 


『——まだ練習してたの?』
『あぁ。お前こそ、まだ残ってたのか』
『えぇ。備品の整理をしていて』

 そうやって笑って言うが、その言葉は誤魔化しだ。本当は、自分の自主練を影で見守っていてくれていたに過ぎない。
 が、それを言わないのは単に照れくさいのか、それともそう言ったことを表に出すのが苦手なのか。どちらにせよ、彼女はいつも何かしらの理由をつけて遅くなるまで待っていてくれた。

『遅くなってしまったな。家は大丈夫なのか』
『平気。さっき連絡したから。修こそ、大丈夫なの? 夕香ちゃん、一人でしょ?』

 そうやって自分の妹を案じている姿は、本当の姉のようだ。
 けれど、公私共に仲良くしている彼女は実際に妹とも面識があり、時折家に来ては二人で遊んでいる。
 ……夕香もお姉ちゃんと呼んでいるしな。
 そう呼ばれるたびに恥ずかしがっていた。

『あぁ。心配するな』
『そう。ねぇ、また遊びに行っても良い? 夕香ちゃんと約束したの。ビーズのアクセサリー作ろうねって』

 心底楽しみだと言いたそうに微笑む彼女を見て、いつも胸が高鳴る。ずっと目に焼き付けていたいし、その微笑みを自分のものにしたい。

『……修?』
『…………』

 気づけばいつも、彼女の頬に手を伸ばしていた。絹のようになめらかで、さわり心地の良い肌。丸めた人差し指でそっと撫でると、くすぐったそうに身をよじった。
 そんな彼女に近づく時、必ず名前を呼んだ。そして、彼女も自分の名前をつぶやく。




 ————“愛香”



 ————“修”