二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 【イナイレ】ずっと、隣にいますから【第二話後書き更新】 ( No.46 )
日時: 2012/06/10 16:49
名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: SGJxjeZv)
参照: リボーンに再ハマり中

第3話『すべて、話しますから』

01

 午後になり、雨が降ってきた。いつもならこの時間帯、辺りを赤く染める頃合いだというのに、今日ばかりはその姿を潜めていた。
 姿を潜めているのは太陽だけではなく、部活動にいそしんでいる生徒達もそうだった。
 現在、サッカー部は部室にて会議を行っている。雨足が強まると共に、校庭に出来る水たまりの面積が大きくなっていく中で、それを教室から見下ろす一つの影があった。
 窓際で、あの日と同じく校庭を見下ろす影は少女のもので、その少女の後ろには一人の少年が椅子に座っていた。少年は少女のことを見ることなく、教室の前方に目を向けている。

「……修が転校した後、私はすぐに転校した。理由は……ま、まぁ両親のしょうもない理由でね。その転校先が帝国だった」

 少女——愛香がぽつりと、窓の外から視線を外さずに語る。その後ろ姿を、少年はちらりと一瞥した。

「帝国に入ると、影山からマネージャーになれとスカウトを受けたわ。何度か交流のある勇人——鬼道勇人がキャプテンと言うこともあって、私は迷ったけど引き受けた。なにより、あれほどサッカーに執着している影山のことが気になったからね。
 そして、雷門中との試合をすることになって、私はびっくりした。だって、居るはずのないあなたが、サッカーの試合に出たのだもの」

 ——どうして?

 そんな疑問が頭を駆け巡った。それも、二度とやらないと言っていたサッカーをして。
 嬉しい反面、とても苦しかった。別のチームでサッカーをして、そこで新たな仲間と笑い合っているあなたの姿を見ると、とても苦しかった。

「だから私は、あの場所から、あなたから逃げることにした。見たくなかったのよ。こんな汚いサッカーの中にいる私とは逆で、あんなにキラキラしているサッカーの中にいるあなたを。
 けど、昨日転校してきて、実際にあなたがサッカーをやっている姿を見て、とても嬉しかった。もう、立ち直れたんだって」

 そこで、初めて修也の顔を見る。真っ直ぐ、けれど、どこか不安げに。

「ねぇ、もう一度聞かせて。サッカーと妹さん——夕香ちゃん。どちらが大切?」

 修也も愛香の目を真っ直ぐに見つめる。そして席から立ち上がると、愛香の目の前まで歩み寄り、しっかりとした声色で告げた。

「全部だ」
「……全部?」
「あぁ。今の俺にとって、夕香も、サッカーも。そして——お前も、全部大切だ」
「————っ」

 告げられた言葉……とくに最後の言葉に、愛香の目は大きく見開かれ、そしてその端から一筋の涙を流した。
 その涙を、丸めた人差し指ですくい取ると、修也は優しく抱き寄せた。

「……今度、決勝見に来てくれないか」
「……行って、良いの? 私、元帝国のマネージャーよ? 信用されるわけないわ。ただでさえ土門君のスパイ騒ぎで、雷門中は警戒しているわ」
「かまわない。お前に、一番近くで見てもらいたいんだ」

 顔を上げ、修也の瞳を見つめる。その瞳は、いつも自分が見つめていた瞳と同じで、サッカーに対してひたむきな彼の——大好きな瞳だった。
 そのことに安堵し、愛香は微笑んだ。

「分かった。ちゃんと、あなたの近くで見る」
「ありがとう」

 そう言うと、二人の距離は縮まり、そして重なった。
 土砂降りの雨はいつしか止み、遠くの空には晴れ間が見えていた。