二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 【イナイレ】ずっと、隣にいますから【第一章開始】 ( No.8 )
- 日時: 2012/05/29 19:59
- 名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: SGJxjeZv)
04
広い応接室に、二人の少女がテーブルを挟んで座っている。一人は手にした書類をテーブルの上に置き、もう一人の少女は柔らかいソファに身を沈めている。
書類を持った少女——雷門夏未は、今やってきたばかりの友人をねぎらった。
「まったく……。だから言ったのよ。車で送ってもらいなさいって」
「ごめんなさい。けれど、こうしてつけたのだから良いじゃない」
終わりよければ全てよしよ、と笑う友人——一城愛香を見て、夏未はそっと溜息をついた。
もっとも、これは呆れているわけではない。少し時間がかかっても、無事にこうやって到着できたことに安堵したことの溜息だ。
この友人は自分では自覚していないようだが、軽度の方向音痴だ。
……あとで教えておいた方が良いかしら。
「何にせよ、良かったわ。愛香」
「ありがと、夏未」
愛香と呼ばれた少女は、夏未が腰掛けているいかにも高価そうなソファの向かい側に腰掛けた。ゆったりと体が沈むソファに身を任せ、ふうと息を吐く。
……すこし、ぐったりしてる?
もしや無理をさせたか。
「愛香? 具合でも悪いの?」
「違う違う。ちょっと疲れちゃって」
「そう……。紅茶飲む?」
「うん、もらう」
ちょうど暖まったティーカップにダージリンを注ぐと、愛香の前のテーブルにそっと置いた。
ありがと、と弱々しくつぶやくと、ティーカップに手を伸ばす。ぐったりとは行かないまでも、いささか元気がないように思えるのは気のせいではないらしい。
一城財閥のトップを親に持つ愛香と夏未は、何かとパーティーなどで会うために仲良くしている。年が同じとは言え、同年代と比べるといささか大人びているところが合っているらしい。
そのほかにも、定期的に連絡を取り合っている。
そんな彼女は、小さい頃から体が弱いらしく、こうして短い距離を移動しただけでもすぐに疲れてしまう。
……やっぱり、無理にでも車で来させれば良かったわね。
少し後悔するも、目の前で紅茶を飲む親友を見て、心が和んだ。
……良かった。
思い出すのは去年のことだ。
一時期、彼女は別人かと思うほどに憔悴していた時期があった。理由は教えてくれない物の、そのときに比べればはるかに元気になったと思う。
「夏未、私の顔に何かついてる?」
「え? あ、ううん。何でもないわ」
「そう? そうだ。夏未、私の転校手続き、もう終わった?」
「えぇ。明日から登校できるわ」
「ホント? 嬉しい。ありがと」
「ま、それが仕事だもの」
「……夏未の今の言葉、仕事しか生き甲斐がないOLさんみたいだったわよ?」
顔をそらしたけれど、これって正解の対応よね? 当たり前よね?
そう思うことで愛香に対するちょっとした憤りなどを押さえ込んだ。
それはそうと、と無理矢理話題を展開する。
「それより、急に転校だなんて……。一体どうしたの? またおば様とおじ様の海外旅行?」
「さすがにそれはないわよ。……実はね——」