二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 【イナイレ】短編集【リク受付中】豪炎寺短編×2更新 ( No.19 )
日時: 2012/06/09 11:36
名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: SGJxjeZv)
参照: 執筆BGM:水蓮寺ルカ(CV山崎はるか)「僕ら、駆け行く空へ」

もし、彼女と同じ位置に立てたら、なんて思ったことがある。けれど、どれだけ手を伸ばしても。どれだけ背伸びをしても届くところのない位置だ。
 だから、無闇矢鱈に話しかけることは出来ないし、ましてや彼女と会うことさえも許されていない。それは、彼女があの位置に立ってから自分に与えた、ある意味での枷。
 
『ミソラ奏全国ツアー最終日!! いっくよ——!!』
『—————!!!』

 テレビ画面の向こうで、やたと露出の多いステージ衣装を着た幼なじみの少女が、その大観衆を前にして生き生きとした表情で歌っている。小さい体を大きく、精一杯動かして。
 それと同時に、小鳥のさえずりとも呼べるような澄んだ歌声が、会場内に木霊した。
 彼女——ミソラ奏。本名美空奏。歌手として、女優として、モデルとして多岐にわたって活動をしている、現在大ブレイク中の俺の幼なじみだ。

「……すごいな」

 彼女がこの世界に入ったのは去年。最初はモデルとして活動してたのが、腕利きのプロデューサーに拾われてからブレイクするまで、そう時間はかからなかった。
 最初こそはメールや電話。休みの日には一緒に出かけたり家でのんびりしたり。今まで通りの関係で居られた。
 けれど、

『彼女のイメージを崩さないためにも、彼女と会うのは控えてくれ』

 先日言われた言葉だ。プロデューサーは彼女をどうしても育て上げたいらしい。そのためにも、俺の存在が邪魔だとか。

「そんなはずあるか」

 彼女は俺のことは只の幼なじみとしか思っていない。そんな存在ごときに彼女の心が左右することは、決してないんだ。

 あるとすれば、俺の方か。

 画面の中で、彼女は笑顔を振りまいている。その対象が俺だったらいいのにって思うほど、彼女のことが頭から離れられない。
 彼女を取り巻く状況が大きく変化する中で、俺の周りも大きく変わっている。先日まで陸上部に所属していた俺が、何の因果かサッカー部の入り、そしたら決勝まで行けて。
 こんなに短い間なのに、俺たちの周りは大きく動いている。
 そんな動きに取り残されないように、必死になって食らいついているのは俺で、周りにスムーズに溶け込んでいるのは奏。
 どうやっても相容れることはない。

 ふと、画面が暗くなり、歓声がやんだ。どうやら第一部が終わったらしい。今は第二部に移るまでの衣装交換やらなんやらが行われているのだろうか。
 俺はそれを見る気がしないために、テレビを消そうとリモコンに手を伸ばす。
 と、携帯がけたたましくなった。慌てて画面を映すと、見たことのない番号。
 気になって通話ボタンを押した。

 ……信じられなかった。
 だって、聞こえてきた声は。

『やっほ〜、いっくん。元気かい?』
「……か、なで?」

 彼女だったから。

『なんだよもぉ、人がせっかく電話してやったのにさぁ』
「電話って……。今ライブ中だろ!?」
『あ、見ててくれてるの? 今は第二部に移るまでの休憩中でね。少し時間があるから良いかなぁって』
「い、良いわけあるか! なんでそんな忙しいときに電話かけてくるんだよ!!」
『ん〜っとね……。


 いっくんの声が聞きたかった』


「……はぁ?」

 思わず自分の耳を疑った。
 その気持ちは、俺も一緒で。

『なんかさ、結構色々変わっちゃって。そんな中で、唯一変わっていないであろう君の声が聞きたかったんだよ』
「それ、人を遠回しにおちょくってないか」
『違う違う。いっくんだってサッカー部に入って大会の決勝に行くんでしょ? 変わってんじゃん。そうじゃなくて、私が言いたいのは——。

 私たちは、変わんないってこと』

 声の背後からスタッフと思わしき声が重なった。それと同時に、奏がはぁいと返事をする。

『んじゃ、そういうことだから。あ、そだ。これが終わったらしばらく休みになるから、久々に買い物付き合って。ついでに学校のノート映させてね!!』

 じゃ! と勢いよく切られた携帯を耳から遠ざけ、慌てて画面を見る。
 そこには、先ほどとは打って変わって淡いベージュのドレスを着た奏が移っていた。グロスの塗られた形の良い唇が動く。

『次の曲は、今度出る新曲です。私が作詞しました。
 私を取り巻く環境は、大きく変化して。私の周りにいる人たちも変わってしまいました。けど、そんな中で、変わりたくない。変わって欲しくないって思う人が居るんです。
 聞いて下さい』



【廻らないメリーゴーランド】




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風丸くん相手にちょっと切甘で。

アイドルになってしまった幼なじみって、どういう感じかなぁとちょっと感慨深げで書きました。

一つのテーマとして、「変わる」にしたのですが……。
風丸君を取り巻く環境と、幼なじみを取り巻く環境というのを織り交ぜながらということで。

BGMは、ハヤテのごとく内のアイドルの曲です。