二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 【イナイレ】短編集【リク受付中】風丸短編×2更新 ( No.24 )
- 日時: 2012/06/24 17:37
- 名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: SGJxjeZv)
「退屈雨宿り」 お題提供: 明星陽炎様
雨の日が好きという人は少数派だろう。だいたいの人が雨の日には気持ちが沈み、休み時間には教室中でその鬱憤を晴らすかのように騒ぎ立てる。そんなことも含めて飴が嫌いなのだろう。
けれど、私は雨が好きだ。こんな汚れきった世界で這い回る私たちを、すべて洗い流してくれるようで。
だからだろうか。私は急に、雨に打たれたくなった。
そして現在。私は学校の近くのバス停で、何故かバスタオルで頭をごしごしと拭かれている。それも、クラスメイトに。
「美空。お前もしかしてバカなのか? 台風が近づいてきているというこの土砂降りの中、傘もささない奴があるか」
「……ごめん、豪炎寺君」
わしゃわしゃーっと豪快に、けれどどこか髪を労るような手つきに感心する。たしか妹さんが居るというのを聞いたことがある。この程度のこと、やりなれていることなのだろう。されるがままになり、自然とうつむき加減に。はたからみれば、叱られたような形になっている。いや、じっさい責められているだけれど。
「……よし、ある程度乾いたな。髪が長いって訳ではないから、これぐらいなら大丈夫だろう」
「あ、ありがとう」
「それで? どうして雨に打たれてたんだ」
「……綺麗になりたかったから」
「はぁ?」
バスタオルを畳みながら、意味不明というような顔をされた。ま、まぁそれが当然の反応だろう。
私はなるべく伝わるように、言葉を選んで言った。
「ほら、さ。なんか雨に打たれたら、自分の汚いところを全部綺麗にしてくれるかなって」
「……この土砂降りに綺麗にしてもらうほど、お前は汚れてるのか」
「う゛……」
そ、そうくるか。
ぐっと押し黙ってしまった私に、豪炎寺君は苦笑した。
「まぁ、人間なんてものは、誰しもが汚いところがある」
「……豪炎寺君?」
いっそう強くなる雨の音。それなのに、やけに豪炎寺君の声がクリアに聞こえる。それでも、私は豪炎寺君の声をもっと聞きたくて、さりげなく近寄った。
すると、豪炎寺君は生乾きの私の髪をさわさわと撫でた。
「だが、無理に綺麗にしようとしなくても、手っ取り早い方法がある」
「……それは?」
「心を許せる相手に、半分背負ってもらうことだ」
「背負ってもらえる……?」
「あぁ。その相手からすれば、自分を必要としてくれている相手から自分の一部を分け与えてもらうって言うのは、全然苦にならないものだ」
「……豪炎寺君は、」
“——誰かに背負ってもらいたいって思ったりすることがあったの?”
ふと頭に浮かんだ疑問を、ぐっと腹の中にためる。
なんというか、これを聞いてしまったら彼の中に踏み込んでしまいそうで怖かった。いや、怖いのは踏み込むことじゃない。踏み込んだら、彼の中での私の位置が決まってしまいそうなのが怖いんだ。
……あれ、どうしてそんなのが怖いんだ? 別に、彼の中の自分の存在なんて関係ないのに。
「なんだ?」
「な、なんでもないよ」
慌てて頭を振って否定する。と、その後頭部やんわりと抑えられ、そして——、
「っ——」
「美空の髪は、柔らかいな」
つむじに、キスを落とされた。
雨によって冷えたからだが、そこを中心にかっと熱くなる。慌てて顔を上げると、
「ふっ。顔が赤いな」
「あ、当たり前じゃない!! な、なな、なにを——」
「なにって……」
“——ちゅ”
小さな可愛らしい音と共に、掬われた一房の髪の毛先に唇を寄せる。それも、私の目の前でやられるものだから、もう穴があったら入りたい。
「どうだ。これで暖まったか」
「えぇ。もう充分なほどに」
雨の音がやけに遠くに聞こえる。それは、耳の中でずっと渦巻いているリップ音のせいか、それとも雨が少しやんできたのか。
それとも、この甘い空間が外の世界と切り離されただけなのか。
『退屈雨宿り』
(退屈だった雨宿りも、これで充実しただろ)
(今後雨の日があったら、確実にこのことを思い出しそうで恥ずかしいんだけど……)
(だったら、それは好都合だ。雨の日はその頭の中を、俺で占めてやろう)
((なんて、恥ずかしい台詞を言うから、退屈を通り越して油断ができない雨の日))