二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 【イナイレ】短編集【リク受付中】豪炎寺短編更新 ( No.26 )
- 日時: 2012/07/16 21:05
- 名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: SGJxjeZv)
- 参照: 作業用BGM:春奈るな「空は高く風は歌う」
『お目覚めのキスはお早めに』
朝。私は目覚まし時計が鳴る10分前に置き、着替えを済ませる。本来だったら執事が起こしに来るのだけど、ダメだ。別の執事だったらいいのだけれど、あいつだけはダメ。っつーか無理。
着慣れた制服は都内でも有名なお嬢様学校のもの。部屋に並んでいる装飾品やアクセサリーも、全て上質なものだ。それも、無駄に女の子らしく凝ってある。まったく。本当はこういうの嫌いだって知っているはずなのに、あいつの一存で全て取りそろえた。絶対嫌がらせだろ。
そして、毎朝行われる嫌がらせという名のスキンシップを回避すべく、私は一足先に部屋を出た。
甘かった。
「今日は早いんだな。いつもは部屋に入っても気づくどころかアホな寝顔さらけだしているくせに」
「ちっ」
廊下を出て一番にかけられた声に、私は舌打ちを隠さなかった。というか、舌打ちを隠すなんていう優しさを向けても通じない相手だ。
イライラの根源であるその男は、男の割には長い髪を手で払った。ほんと、その動作が妙に似合っていてむかつくわ。
「別に。私がどんな時間に起きようが勝手じゃない」
「とんだ自己中思考だな。さすがは美空財閥ご令嬢というべきか」
「黙れ。そして土にでも埋まってこい」
「口の悪いお嬢様ですねぇ。一体どんな教育をお受けになったら、このようなひねくれた考え方を身につけるのでしょう」
「その言葉そっくりそのまま返すわよ」
やれやれとでも言いたそうな顔で肩をすくめる執事を視界から外す。そして、奥歯をガリッとかんだ。
この男は私の執事をしている風丸一郎太。主である私に対して、大きな態度で話しかけてくる、なんともむかつく男だ。
「おはようございます、お嬢様。いつもより艶がありますねぇ」
「本当。シャンプー変えたんですか?」
「おはよ。えぇ、ちょっとだけね」
「とても良い香りもしますわ」
「素敵ぃ」
メイドさん達が廊下に出てきた。きっと屋敷内の掃除とかに勤しんでいるのだろう。私は邪魔にならないようにして端を歩く。
「……へぇ、お嬢様、シャンプー変えたんですか」
「だから何よ」
「いいえ。……ふうん」
何が言いたいんだこいつは。
一歩後ろを歩く風丸に、なんだかイヤな予感がする。
こいつの場合、例え主だろうと自分の前を歩くのを嫌がる男だ。どこまで俺様なんだと言いたくなるほどに。それが今、私の後ろを歩いている。
……何よ、気持ち悪い。
と、出入りの多い食堂に着いたとたん。
「お嬢様、ゴミが」
「へ? ——なっ!?」
ふいに風丸に呼び止められた。そして、
——髪を一房つかみ、あろう事か私の目の前でキスを落とした。
「……っ!!」
「ほんとだ。良い香りがする」
「ちょ、や、めなさいよ……っ」
「甘い香りだ」
それだけじゃ飽きたらず、私の手を引いて顔を近づけたかと思うと、首筋に顔を埋めてきた。
な、ななな、何なのよこの体制は!!
周りから黄色い視線が上がる。メイドさんたちの声だ。良いから助けなさいよ!!
「は、放しなさいよこの無礼者!!」
「お嬢様が悪いんですよ?
——食べて下さいって言わんばかりの、甘い香りを漂わせているんですから」
「っ———!!」
身体中が熱い。燃えてしまいそうな熱。けれど、どことなく迫り上がってくる甘い誘惑に、私は何とか体を動かす。
そして、
「こ、の……。いい加減にしなさい、この変態が!!」
「!! ——っつ」
かかとで思いっきり風丸のつま先を踏んづけてやると、くるりと方向転換をした。
「……まったく」
後ろで恨みがましい目を向けて居るであろう風丸。ちょっと良い気分。
けど、あの場所から一刻も早く逃げたかった。
——だって、真っ赤な顔をしているところなんて、絶対に見られたくないんだから。
私は先ほどキスを落とされた髪を一房掴むと、ふふっと微笑んだ。