二次創作小説(映像)※倉庫ログ

秘蜜〜黒の誓い〜 ( No.18 )
日時: 2012/06/19 20:41
名前: 月森和葉 (ID: Lx/gxvCx)

『秘蜜〜黒の誓い〜』ひとしずく×やま△feat鏡音リン・レンです。
『からくり卍ばーすと』のように長編にしたかったのですが、力つきて短編になりましたorz
本日は冒頭だけupしようと思います。





秘蜜〜黒の誓い〜
VOCALOID『秘蜜〜黒の誓い〜』ひとしずく×やま△feat鏡音リン・レン


 それは、全てが偶然だった。
 天使が空中でいきなり飛べなくなったのも、落ちた場所があの街だったのも、そこに、あの少女が居たことも—。
 これから、その物語の扉を開くことにしよう。
 罪に溺れた天使と花嫁。
 二人の未来は、誰かが知っている。
 もしかしたら、貴方が—。
 

秘蜜〜黒の誓い〜 ( No.19 )
日時: 2012/06/20 22:36
名前: 月森和葉 (ID: Lx/gxvCx)

テスト一週間前で、何にも勉強してませんが気にしたら負ける。
この間、つい欲に負けて『煌千紫万紅大雅宴 feat 神威がくぽ from がくっぽいど』を買ってしまいました。
殆どジャケ買いです。




(どうしよう…。このままでは帰れない。場所も分からない。翼も折れてしまった)
 空は夕暮れ、翼で帰る手段もない。
 途方に暮れて、天使は赤く染まった空を見上げた。
 そもそも、翼でしか行けないところに、彼女の産まれた場所がある。
 それに、ここが何処だか分からない。
 迷子の天使は、確実に行き場を失った。
 人目に付かないように狭い路地にしゃがみ込む。
 天使の蒼い瞳からみるみる涙が溢れた。
 そうして日も傾き、人通りも少なくなってゆくうちに、一人の少女が足を止めた。
「あら、迷子の天使様だわ。どうなさったの?」
 ふと声を掛けられて顔を上げると、美しい瞳がそこにはあった。
 眼があったその瞬間に、天使の鼓動が高鳴る。
 なんて奇麗な瞳。
 緑とも青ともつかない、美しい色をしていた。
「行く場所がないのなら、私の家へおいでくださいな」
 黒いドレスの少女は再び微笑んだ。
 優しい鈴を転がすような声に、天使は惑わされた。
 そして、少女は天使の細い腕を優しく引いて歩き出した。
 逆らえない。抗えない。
 ずっとこうしていたい。
 天使の胸が、そんな気持ちで一杯になる。
 そして気付いた。
 これは……、恋?

秘蜜〜黒の誓い〜 ( No.20 )
日時: 2012/06/22 22:13
名前: 月森和葉 (ID: Lx/gxvCx)


 少女の住処は、少女と同じように美しく清楚だった。
 しかし、他の人の姿が見あたらない。
 家族は、と問うと、少女は少し困ったように笑った。
「夫が居ましたけれど、先に逝かれてしまいました。でも寂しくはありません。私、もう一度結婚するんです」
 だから少女は黒衣だったのだ。
 それを聞いて、天使は目の前が真っ暗になった気がした。
 男は少し身分の高い、男爵だという。
 その男のことをさも楽しそうに話す少女を見て、天使は考えた。
 人と天使、許されない恋を叶えるため、自分は何をすれば良いだろうか。

秘蜜〜黒の誓い〜 ( No.21 )
日時: 2012/06/23 22:59
名前: 月森和葉 (ID: Lx/gxvCx)

 次の日、少女は家を出た。
 婚約者だという男爵に会うためだと言った。
 許されないことだとは知りながらも、天使はその後を追った。
 少女が出て行ったのは、本当に男爵に会うためだったようだ。
 親しげに腕を絡め、洋服店に入ってゆく。
 天使はそこで耐えられなくなり、慌てて少女の家に逃げるように戻った。
 男爵だという男の顔に、見覚えがあった。
 あの不可解なほどに青い髪と瞳。一度見たら、忘れることは出来ない。
 それ以上に、あの男の青は天使の胸に刻まれていた。
 夕方になり、少女が出掛けるときにはなかった籠を腕に掛けて帰ってきた。
「男爵様に、林檎を頂きましたの」
 顔も映るように赤く磨かれた林檎が、妖しく見える。
 林檎とは、知恵の実。そして、禁断の果実。
 旧約聖書でアダムとイヴが手にした、存在してはいけない物。
 天使は少女の腕を引くと、その薔薇の蕾のような唇に軽く口づけた。
「……!っ何をなさいます!」
 少女は思わず天使の細い身体を突き飛ばした。
 突き飛ばされた天使は哀しそうに笑うと、そのまま姿が見えなくなった。





友人の美璃夜が「添い遂げたアンドロイド」というボカロ小説をupしております。
あんまり更新はしておりませんが、「宣伝しろ」と言われたので宣伝しないわけにもいかず……。
あの人怒らせると怖いんだよなぁ……。
とか言いつつもう6,7年のつき合いですし、良いオタク友達なので(ルカ廃)ここはひとつ借りを作っとこうかなみたいな。
宣伝終わりです。まる。

秘蜜〜黒の誓い〜 ( No.22 )
日時: 2012/06/24 11:53
名前: 月森和葉 (ID: Lx/gxvCx)


 次の日、少女が幾ら家の中を捜しても、天使は見つからない。
 帰ってしまったのか少女は残念に思ったようだったが、天使は帰ったのではない。
 そもそも翼が折れているのだから、帰れるはずもない。
 では、天使は何処へ行ったのか?

 数日後。
 少女と男爵の、結婚式の一日前。
 眩しいくらいに青い空を見上げて少女が眼を細めると、どこか遠くで小さな破裂音が二つした。

秘蜜〜黒の誓い〜 ( No.23 )
日時: 2012/06/24 21:35
名前: 月森和葉 (ID: Lx/gxvCx)


 遂にやってきた、少女と男爵の結婚式。
 少女は暗い気持ちで朝を迎えた。
 今は亡き前の夫を尊重し、ウエディングドレスは真っ黒に染まっている。
 黒いヴェールを掛けた頭が俯いた。
 その先には花々が美しく咲き誇ったガーデンが広がっている。
 そこに、一人の少年が立っていた。
 ここは教会の敷地内なので関係者以外は入れないはずだが、少女はそんなことは気にしていなかった。
 どこかで見たことのあるような蒼い瞳で、儚く笑う。
 眼が合ったその瞬間に、少女の小鳥のような心臓の鼓動が早まる。
 深いマリンブルー。その手で触れたらあっという間に霧散してしまいそうな儚さ。
 その少年に、少女は一目で夢中になった。
「こんにちは」
 少年の口が開いた。
「奇麗なところですね」
 少女の口は、虚しく宙を空回るだけだ。
「貴女の瞳もとても奇麗だ」
 少女は、自分の胸が信じられない想いで一杯になるのを感じていた。
 この少年が欲しい。
 この少年の心が、欲しい。
「失礼ですが、今日は貴女の結婚式なのかな?」
 ようやく少女の口が動き、意思表示をする。
「そうですか。しかし、貴女はその結婚を望んでいないように見える。違いますか?」
 少女が大きく喘いだ。
「どうですか。貴女さえよければ、僕と一緒に来ませんか?」
 少女は首を振った。
 男爵を悲しませるようなことは出来ない。
「どうして?僕は、貴女が僕に何を求めているか知っている。それでは駄目なのですか?」
 駄目だ。
 この少年に、嘘はつけない。
 恐る恐る少女が手を伸ばすと、その手を少年が優しく受け止めた。
「さあ、行きましょうか」
 前方から吹いてきた優しい風によって、少女の被っていたヴェールが飛ばされた。
 少女はそれすらも気に留めず、少年に従って歩いていった。
 男爵が少女の様子を見に来たとき、既にそこには少女の姿はなく、風に飛ばされたヴェールが虚しくはためいているだけだった。

秘蜜〜黒の誓い〜 ( No.24 )
日時: 2012/06/25 22:30
名前: 月森和葉 (ID: Lx/gxvCx)


「ここが僕の家です。さあ、どうぞ」
 高鳴る胸を抑えつつ、一歩一歩階段を踏みしめながら登る。
 扉を開けると、そこに並んでいたのは簡素なベッドと小さな机だけ。
 少年が一人で住むにしても、ここは寂しすぎる。
 家族は、と問うと、少年は困ったように笑った。
「困ったな。僕に家族は居ません。でも、こうして堂々と貴方を連れ込むことが出来る。その代償としては、ちょうど良いくらいだと思いますが」
 少女は俯いた。
 その少年の言葉で我に返ったが、それを少年は直ぐに忘れさせた。
 少女の大理石のような頬に口づけると、少女の細い身体を抱き締めた。
「僕と、男爵。どちらがいいですか?」
 少女も何も言わずに抱き締め返した。
「温めて欲しいのですか?」
 少年の妖艶な笑みも、優しい口づけも、少女を惑わせるには充分だった。
 清らかな結婚の誓いなど、ここには無用。
 あるのは、ただ単に求める熱と、純粋なる愛情だけ。
 少女の頭から、今さっき結婚するはずであった男爵のことはすっかり消え去っていた。
 後悔はしていない。
 後悔など、している暇もない。
 少女は、少年の愛と身体に溺れていった。






……はい、すいません。
いきなりぶちかましました。
正直言うとここが書きたかったんですよね!
ええ私は変態です何か問題でも
mothy_悪ノPの大罪シリーズでは「悪徳のジャッジメント」と「ヴェノマニア公の狂気」って言うとかなりの人に退かれます。
だって鈴ノ助様のがくぽ格好いいじゃないかって思うのは私だけですか。
変態的な趣味の人達は私だけですかーっ!?
……すいません……。

秘蜜〜黒の誓い〜 ( No.25 )
日時: 2012/06/27 22:16
名前: 月森和葉 (ID: Lx/gxvCx)


「僕に、お金はあまり在りません。でもいつか、貴方に相応しい、指輪を買ってこようと思います。だから、今は—」
 少年は足下の花を摘むと、器用に輪を作って少女の左手の薬指に填めた。
 少女が顔を綻ばせると、少年も楽しそうに笑う。
 ただ、そんな幸せな日々も、長くは続かなかった。

秘蜜〜黒の誓い〜 ( No.26 )
日時: 2012/06/27 22:53
名前: 月森和葉 (ID: Lx/gxvCx)

 少年はその時、用があるとかで家を空けていた。
 家の中には少女しか居なかった。
 少女は、少年から貰った花の指輪を愛おしそうに眺め、少年の帰りを心待ちにしていた。
 その為、部屋の中に誰かが入ってきたのにも気付かなかった。
 入ってきた男は物凄い形相で少女の背中を睨み付け、次の瞬間にはその手にした拳銃で少女を撃ち抜いた。
 無粋な鉛の玉は、少女の繊細な身体を突き抜ける。
 何も知らない哀れな少女は血だまりの中に倒れ込んだ。
 男が満足して帰ろうとすると、後ろに人の気配があった。
 少年が帰ってきたのだ。
 抱えていた荷物と上着をその場に取り落とし、慌ててし少女に駆け寄るも既に息はない。
「—何故だ。」
 少年が男—蒼髪の男爵—に向かって言った。
「何故彼女を殺した。」
 すると男爵はあろう事か楽しそうに表情を変えた。
「ほう?お前だったか、人の嫁さらいは」
「答えろ。何故、殺した。」
「何故?—そうだな、しいて言えば—」
 男爵はそこで言葉を切り、少年を見た。
「この俺を、裏切ったからだ。お前の時も殺してやれば良かったんだがな。お前は殺して死ぬような奴ではないし、それに、お前は俺の女達の中で一番可愛かったからな」
 最低だ。
 こいつは、本物の外道だ。
 自分は何も知らないふりをして、いつも沢山の女を囲っていたのだ。
 自分も、そのうちの一人だったのだ。
 少女に眼を付けたのは、自分の傍に居るに相応しいと感じたから声を掛けたのだ。
 結局、自分も彼女も、この男に良いように使われていただけなのだ。
「—やはり、逃げて正解だったな。貴様のような外道に私や彼女は似合わない。彼女は自分から私の元へ来たのだ。貴様なぞより、私の方が彼女にとってよかったのだ。」
 少年は床に横たわる少女の亡骸を抱き上げた。
「貴様は、やはり人として、いや、天使としても最低の男だ」
「なっ—!」
 怒りにまかせて、男爵が引き金に指を掛けた。
「落ち着け。そう焦らずとも私はもう間もなく死ぬ。その前に、ここから出て行け」
 途端に、男爵は少年の蒼い瞳に射竦められた。
「出て行け。二度と顔を見せるな」
 少年の剣幕に、男爵は先程までの気迫は何処へやら、部屋から転がるようにして出て行った。
 二人きりになった部屋の中で、少年が何かを呟いた。
 すると、みるみるうちに少女の身体に体温が戻り、魂の鼓動が聞こえてくる。
 少女が緑色の瞳を持ち上げると、そこには、いつもは結んであった髪の解けた少年—少女が救った天使の顔があった。
 天使の蒼い瞳から、一筋の涙が零れる。
「—さようなら。貴女のことが、大好きだったよ—」
 それを最後に、少女が幾度となく抱き締めた天使の身体は、融けるように霧散していってしまった。
 後から、一枚の真っ黒な羽根が舞い落ちてくる。
「—い、」
 少女の瞳が大きく見開かれる。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 少女の甲高い悲鳴がこだました。
 天使は、自分のために、天使であることを捨て、翼を捨てたのだ。
 だから、少年の背中には二筋の傷があったのだ。
 少女は天使の遺した黒い羽根に顔を埋めて泣いた。
 その涙は枯れることはなく、いつまでも流れていった。

 その後の少女の生き様は分からない。
 一生を未亡人で過ごしたとも、天使の子を腹に宿したとも言われているが、真相は定かではない。
 ただ、一日一日をゆっくりと過ごし、いつも黒い服を身に纏っていた。
 それは、じっと、自分が愛し、愛された天使に逢うのを、ずっと待っているかのようにも見えた。
 罪の果実が朽ち果てるまでには、まだ時間がある。
 だが、いつかその時は訪れて、少女と天使を再び相見えようとするだろう。

                    〈〈 終 〉〉