二次創作小説(映像)※倉庫ログ

茨まみれのシンデレラ  第1章 ( No.4 )
日時: 2012/06/15 20:44
名前: 緋賀アリス (ID: 35AN48Qe)
参照: http://www.madoka-magica.com/tv/special/dic/card2.html

「こないだね、祐司と遊園地行ったらさ……」
「いいですねぇ、彼氏とデート、羨ましぃねぇ」
「そういう菜々だって昨日男子と帰ってたじゃない、あれは誰?」
「ちょ、なんで知ってるの?」


 教室にいると嫌でも耳に入る女子達の熱心な恋の話……私には縁がない話。だってこんな醜い顔の女子を好きになってくれる人なんているはずがない……私にはフリルとレース
が沢山付いたワンピースも、見るからに愛らしいピンクのスカートも、星のように輝くアクセサリーも、似合わないもの。ドレスが無ければ、似合わなければ、舞踏会には行けな
い……絶対に……舞踏会?
頬杖を付いて、低血圧のせいでまだ完全に起ききっていない体で浅く船をこぎながら、しどろもどろになりつつそんな事を考えていると、始業のチャイムがなる。 



——「今日も疲れたなぁ」
授業が終わり、帰路に着こうとしたが、今日は少し寄り道することにした。寄り道といっても学校内だけれど。 私は園芸委員会なのだ。園芸委員会は毎朝自分の担当の花壇に水をあげたり、雑草を抜いたりなど世話をしなければいけない。つまりは朝早く学校に行かなくてはいけないので、普通皆は入りたがらない(毎年クラスで必ず一人は選出しなければいけない)のでクラスで地味な私に白羽の矢がたった訳だ。
「あの時の皆の団結っぷりったらねぇ」
今でも思い出すと笑ってしまう。新学期にクラスで委員会を決める時に『俺!灰原さんがいいと思います!』とか男子の誰かが言い始めて、それに皆が『俺も!』『私も!』って
賛同し始めるんだもの。普段は私に見向きもしない癖に。
……何で可笑しいのかって?だって私、元から立候補しようと思ってたんだもの。去年から2年連続で、因みにその働きぶりを見込まれて2年生にして委員会長までやっている、まぁ3年生は高校受験が近いから2年生が普通はやるのだけれど。
 花は大好きだ。人と違って煩くないし、ちゃんとお世話さえすれば必ず綺麗な花が咲く。四季折々の花を植えれば一年中花が楽しめる。今は6月だから、ツル薔薇が花壇に咲いている。白に、赤に、黄色それからピンク。どれも本当に綺麗に咲いている。蔦がしっかり絡み付くようにケージを頑張って設置した甲斐があったな。水をあげながら見ているだけで本当にウットリする。
「あ……」
今何か花の中に変なものが見えた。よく見てみると、赤い薔薇の中に一つだけ傷んで枯れているものがある。奥の方に咲いているから中々気付かなかったのだろうか。
「ちょっとごめんね……」
一つだけ傷んでいると目立つから、花を摘もうと手を伸ばす。
「痛っ!……」
手に鋭い痛みを感じ咄嗟に手を戻すと、手の甲に赤い点が一つできていた。茨の棘が刺さったんだろうか。
「消毒しないと……」


——傷口の消毒をして、絆創膏を貼ってから学校を出る。燃えるような赤い夕陽が自分の前に長い影を作る。薔薇の赤と違って、夕陽の赤もまた綺麗だ。 自分の身長よりも遥かに長い影の先を見つめていると誰かの人影に重なった。
「あ……」
今朝彼氏とどうのこうの言っていたクラスの女子が男子と歩いている、男子の方は恐らく彼女の彼氏だろう。そんなに近づきながら歩いていたら肩がぶつかってしまうだろうに。
二人仲良く喋っているのはわかるが、距離があるせいで内容までは聞こえない。男子の方が彼女に何かを渡している、手に握っているのは……缶だ。彼女の方が笑いながらそれを受けとり中身を飲む、他人が飲んだもの飲むなんて汚い……
「……!」
只でさえ間接キスなんて汚いと思っていたのに、今度はその場で立ち止まり、彼女の方が彼氏の頬にキスをした。
……思わず私も立ち止まってしまっている。二人がまた歩き出すと、私も歩き出した。
その後二人はすぐに私の帰路とは違う方向に曲がっていった。
……さっきは、二人の事を恥ずかしいと思っていたけれど、本当は羨ましかったんだと思う。私だって昔からこんな風だった訳じゃない。昔は人一倍恋に恋してたと思う……幼稚園位の頃だけど。でも物心が付いていくうちに、自分の容姿が他の人より……目立ってよくないと理解した時、そんな気持ちは薄れ始めた。あぁでも思い出すなぁ、確か3年生位
の頃かな?何か変な妄想をノートに書いてたな……本当は私はアイドルもビックリする程可愛かったんだけど、悪い魔女に呪いを掛けられて、今の醜い容姿をしていて、それで、悲しむ私の所に王子様がやって来てキスをするの……そしたら呪いが解けて、私は元の可愛い姿に戻って、王子様と結婚するの……馬鹿馬鹿しい位のシンデレラストーリーでしょ
う?……でもいいな……それが本当だったら。

——王子様が私の手を引いて、お城に続く階段に引かれた、赤い絨毯の上を歩くの……私が王子様に笑いかけると、王子様も私に笑いかけるの。それからそれから…………
突然吹いた6月にしては冷たい風が、有り得ない夢にちょっとだけ酔っていた私の目を冷ます。……もう良いところだったのに。 さっきの風で乱れた前髪をかき揚げる。
「痛……」
髪をかき揚げた拍子に、爪が額の大きなニキビに当たった。
「恋ねぇ……」
もう一度風が吹く。
今度は少しだけ心地よく感じた。


————でもね、そんな私にも幸せの白鳩がね、舞踏会の……王子様に会える招待状を届けてくれたんだ。