二次創作小説(映像)※倉庫ログ

空も海も大地もないただのダンジョン攻略 part9 ( No.69 )
日時: 2012/11/07 00:03
名前: のあ (ID: hxRY1n6u)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode


第9話 真打、登場



「さぁさ!皆事情はわかってくれたみたいだし、リレミトで一気に帰るわよ。集まって〜」

 エイトたちに全ての事情を話し納得してもらったゼシカは、パンと手を打つとこの場にいる全員を呼び集めた。

「「「「わかったよ、リーダー(でがす)」」」」
「……なんで私がそう呼ばれなくちゃいけないのかしら?」

 あまりにリーダーらしい振る舞いに、全員が声を揃えて言う。なぜそう呼ばれるのか一人だけ分かっていないゼシカは小首をかしげた。

「ま、いいわ。…皆集まったわね。じゃあ行くわよ。
 道祖神よ、我らを運べ《リレミト》!!」

 ゼシカが呪文を唱えた瞬間、あたりが光に包まれて——

 消えた

「っ!?」
「呪文が……かき消えた!?」

 その場にいたほとんどのものが驚愕する。しかしただ一人、サフィラだけは動揺しながらも冷静に状況を分析していた。この現象に心当たりがあったからだ。

(この魔法が妨害される感じ……これはまさか)

コォォォォ……

「っ!皆、伏せてっ!!」

 獣のような咆哮が聴こえ、サフィラは大声を出す。
 反射的にその場にかがみこんだレーナたちの頭上を炎がかすめて行った。
 
「ほの、お…!?なんでっ」
「やっぱり……これは《イベント結界》!!」

 イベント結界。
 ドラクエの世界において何か特定のイベントが起こり、そこから抜け出してはいけない状況になると発動するもの。例としてルーラやリレミトなどの移動系の呪文が使えなくなることが挙げられる。
 そしてこの場合のイベントとは……

「ボスとの戦闘…か!!ここがダンジョンってことをすっかり忘れていたな………」

 サフィラが顔を上げながら、にぃと口の端をつり上げる。しかし頬には焦っていることを表すかのように、一筋の汗が流れていた。
 無論、その他の仲間は未だに状況が飲み込めず、突如現れた敵にあたふたとしている。エイトがリーダーとして隊列を組ませようとしているが、パニックになっているせいか誰を指示を聞かない。
 どいつもこいつも!とサフィラが心の中で舌打ちしたとき、不意にレーナの方に目が入った。
 
(レーナ…何かをぶつぶつと言っている…?)

 レーナはその巨大な敵を見てもパニックにならず、腕をだらんと下げ、全くの無防備な姿で立っていた。目は巨大なボスだけを見つめていて、絶えず何かをぶつぶつと言っていた。
 やがて、ボスが無防備なそれに気がついた。

「危ないっ!!レーナ、よけて!!」

 サフィラが必死に叫んだが間に合わない。
 化物の爪が彼女の体に向かって振り下ろされ——

「私、あなたのこと……見たことある……?」

 すっと、よけた。

「ぇ……」

 それはあまりにも自然な動きだった。かぎづめが目の前に振り下ろされ身体を引き裂く瞬間、少女はトンと横にステップを踏みかわしたのだ。
 まるで最初から見切っていたかのように。
 その後もボスは何回も攻撃を繰り返した。しかし、レーナはトン、トンとダンスを踊るような身軽さでそれをかわしていく。
 同時に再びぶつぶつと。けれど少しばかり自信がついたような口調でつぶやく。

「あなたは……《ハヌマーン》……創造神の頭に当たる愚かさの結晶……あらゆる生き物の長所をかねそなえた、美しい魔物……。
 弱点は《闇》…体力は2700程度。だったら…」

「ゴギャァァァ!!」

 《ハヌマーン》と呼ばれた魔物が雄叫びを上げながら、再びかぎづめを振り上げる。その攻撃すらも軽く受け流し、レーナはたんっと跳躍し、サフィラに向かって叫んだ。

「サフィラ!!あいつに向かってドルマドンを打って。詠唱はなしでもいいけど、なるべく最大出力で!!」
「は!?急に何言ってんの!?」
「いいから早くっ!!」

 レーナの言っていることを理解できないまま、渋々サフィラが簡易呪文を唱える。

「ドルマドンっ!!」

 サフィラの放った一撃は見事にハヌマーンの額に命中した。「ゴギャァァァ!」という雄叫びがあたりに響きわたる。
 ストンっとレーナがサフィラの隣に着地した。途端に噛みつくサフィラ。

「ちょっと、どういうことか説明しろ!!あいつはなんだ、そもそもなんであんたが弱点とかを知ってるんだっ!!」
「……わかんない。けど、なぜだか覚えてるの…。
 あいつは《ハヌマーン》体力は約2700、攻撃方法は爪と炎の息…。弱点は闇属性の攻撃だよ。」
「いや、覚えてるんならそういえば……」
「だから!さっきうっすらと頭のなかに情報として入ってきたばっかりなんだってば!」

 よくわからない説明にサフィラは頭がこんがらがった。
 そこにレーナ側のエイトが現れた。

「レーナは記憶喪失なんだよ。……でもレーナ。情報として思い出したってことは、君ならあいつを倒す方法がわかるってことかい?」

 エイトのその言葉に、レーナはこくりとうなづいた。
 それを見てエイトも、まだオロオロしている仲間たちに向けて声を張り上げた。

「今から戦いの指揮はレーナがとる!!皆、指示に従え!!」

「レ、レーナ嬢ちゃんが…?」
「大丈夫なの!?」

 次々に仲間たちから上がるどよめき。
 無理もない。このメンバーはエイト以外は皆サフィラ側の世界の者たちだ。初対面に近いレーナのいうことなど誰が信じることだろう。
 ざわざわ、ざわざわとどよめきは広がっていき、そして…

「黙って!!」

 あたりが一気に静まり返った。
 大声を出したのは、サフィラだった。彼女は急に声をだしたせいか、息が少し上がっている。気にせず、そのまま続けた。

「少しでも望みがあるんだったら……かけてみればいいんじゃない。
 このままあの魔物に全滅させられるよりは絶対にいいと思うけれど。」
「……サフィラ。」
「勘違いしないでね。私はここで死ぬ訳にはいかないだけだから。
 ……ほら、今なら静かだから。さっさと命令出しなさいよ」

 少し頬を赤らめてサフィラが言う。
 
「ありがとう……ごめんね。」

 レーナも釣られてはにかんだ。
 そしてすぐに真面目な顔つきに戻り、叫んだ。

「じゃぁ、いくよ…。
 
 私に……《命令させろ》っ!!」