二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第2話 初めまして、魔法。それから… part3 ( No.89 )
- 日時: 2012/11/26 22:56
- 名前: のあ (ID: kEC/cLVA)
「……あさ?」
むくりと。眠い目をこすりながらエイトは起きた。
朝とは言っているが外はまだ暗い。しかし近衛兵として鍛えていた彼にとってこの時間に起きることは造作もなく、大抵夜明け前には起きて宿屋を手伝ったりレーナやヤンガスを起こしに行ったりしていた。
しかし今日ばかりは早く起きすぎたようで、下に降りて行っても宿屋の女将はまだ寝ていた。
(さて…どうしようかな……。いつもしていることはないし、二度寝するって言っても中途半端だし……
こうなったら久しぶりにレベル上げも兼ねて、外で剣の練習でもしよっかな。)
それはまだトロデーン城が平和だったころ、エイトがただの兵士だった時の日課。城が呪いに包まれてからそれほどたってはいないと言うのに、懐かしさにエイトは目を細めた。
そしてすぐに真顔となり、唇をきゅっと結び言った。
「待ってて…皆。僕がすぐに、呪いを解くから……。姫…ミーティアも陛下も、僕が絶対守り抜いてみせるから。だから、強くならなくちゃ。もうだれも悲しい顔をしないように…」
それは、まるで約束。自分自身にしっかりと聞かせるように……涙が、溢れてくるのを堪えるように。静かにつぶやいた。
ふっと顔を上げると、村の入り口に自分と同じように佇み星を見ている少女と目があった。彼女の青みを帯びた茶色の瞳がエイトの姿を一瞬捉え、すぐににっこりと微笑んだ。
「ああ…なんだエイトか。びっくりした。魔物かと思ったよ。だってこんな夜明け前に村の外に人がいるなんて考えつかなかったんだもん。…どうしたの?」
「…ちょっと早く起きすぎちゃって。君もどうしてここにいるんだい?」
「まあ、私もそんなところかな?…ふふ。でもその言い方じゃあまるで、私がここにいたらいけないみたいじゃない。ちょっと傷ついちゃうな。」
「なかなか鋭いね。…それじゃあ、ひとつ質問してもいいかな?」
「なに?私あんまり難しいことは答えられないよ?」
・・・・・・・・・
「……君は一体誰なんだい?」
「…私は『レーナ』だよ?」
少女は笑みを浮かべたまま答える。
それに対しエイトは「いや」と首を振りながら再び訪ねる。
「僕が言いたいのはそういうことじゃない。ただ君は…僕達がいつも一緒にいる『レーナ』じゃないって言いたいんだ。
君は…滝の洞窟で一度出てきた…【もうひとりのレーナ】のようなものだろう。」
少女の顔から笑みが消えた。何の表情もない虚ろな顔。それは、滝の洞窟での『レーナ』の姿だった。そのまま少女は続ける。
「…もうバレちゃったのね。あの子のこと、うまくマネできたと思ったのに。…まぁいいわ。なんで気づいたの?」
「…レーナは絶対にこんな時間に起きてこないからね。それにいつものレーナなら、僕と出会ったらまず斬りかかってくるはずだ。そう教えたからね。…質問に応えてくれないかな。」
「よくもまぁ出会ったばっかりの人間のこと、そんなに信用できるわね。…まるであいつみたい。バカで素直でまっすぐで……。」
ふっと一瞬だけ少女の口元に笑みが浮かぶ。話していることはただの罵倒でしかないのに、その様子は幸せそうで……。
その変化にエイトは驚く。しかしまた彼女は無表情に戻り、淡々と続けた。
「私はさっきも言ったように『レーナ』よ。まぁ、あなたたちの知っている人じゃないけど。でも…私はもうひとりのあの子とはちょっと意味が違うわ。
簡単に言えば…そうね。私は記憶をなくす前の『レーナ』あなたたちと出会う前の『レーナ』よ。」
「つまり君は……もともとのレーナの人格ってこと?」
「そう、のみこみが早くて助かるわ。…そろそろ私が出て来れる時間も限界みたい。宿屋に帰りたいんだけど、もういいかしら?」
「じゃあもうちょっとだけ、質問してもいいかな?」
「早くしてもらえる?時間がないのよ。」
「レーナは一体どこからきたんだ?なんであんな道端で倒れていたの?」
「それは…教えられないわ。そのことは表の私に聞いてちょうだい。…きっと、すぐに思い出すことになるだろうから。
そろそろ行かなくちゃ。私の意識が今消えたら、結構あなたも大変でしょう?」
その言葉と同時に村へと歩みを進める。
エイトは彼女の後ろ姿を見て慌てたように問いを放つ。
「待って。これでほんとに最後だから!!君のこと、なんて呼べばいいのかな?」
ピタリと、少女が村へ進めていた足を止め、振り返りながら言った。
「じゃあ、【レイナ】って呼んで。レーナと区別し辛いかもしれないけれど。
それじゃ、さよなら。…レーナのこと、ちゃんと見てあげてね。」
それを言い残し、宿屋のレーナが泊まっている部屋へと少女ーレイナは走っていった。
どれだけそうしていたのだろう。ひとりぽつんと残されたエイトは、一気に体の力が抜けたように崩れこんだ。相当レイナと話をすることに気を使っていたようだ。そんな自分に思わず苦笑してしまう。
何やってるんだ、僕。こんなところでへばってるなんて情けない。
大きなため息をつく。それに反するように背後から朝日が昇ってきた。眩しい光は旅立ちの日に見たものと何も変わらない。エイトは思わず目を細めた。
村の方を見ると、その光で起きてきた人達が店や畑仕事の準備をしている。そろそろ店の女将さんも起きた頃だろう。手伝いをして、しばらく経ったらレーナとヤンガスも起こそう。別にいそぐ要件もないし、たまにはゆっくり寝かせてあげてもいい。
「……いつか、全部記憶を取り戻せるのかな。」
エイトの呟きは誰にも聞かれず、風に乗ってながされていく。
それは誰に向かってつぶやかれたものだったのだろう。レーナか、それとも自分自身か。
そして最後に、さっき出会った少女の姿がおもい浮かぶ。レーナとはどこか違うあの少女。
「レイナ……君は何を知っているんだ?」
その問いに答えるものはいない。ただただ風が吹き草が揺れるだけだ。
もう一度だけエイトはまだ白んでいる空を気持ちを切り換えるように見上げた。そしてひとつ大きな深呼吸をして、村の中へと入っていった。