二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: ヨルノ物語 ( No.1 )
- 日時: 2012/07/25 21:42
- 名前: 音愛羽(元奈流羽) (ID: d3Qv8qHc)
…1…
ある村の早朝である。空にはふわりと雲が浮かび小鳥のさえずりが聞こえる。
ふわぁ…とあくびをしたその少女は軽く伸びをし、ベットのわきの小窓からぼんやりと外を眺めた。
長いアクアマリン色の髪を後ろへ払いまだ半分閉じたままの目をこする。
小さな家の小さな洗面所へ行くと、顔を洗った。しっかりと目が覚めたようで、もう完全に目を開けている。
その眼は髪と同じアクアマリン色をしていた。鏡を見ながら長い髪を一つにまとめると、今度はキッチンへ。
簡単な朝ごはんを作り、お皿に盛りつけると、ハーブティーを入れる。
それらをすべてテーブルに並べ終えると窓を開け放し、窓辺の花に水をやった。
と、ちょうどハーブティーがさめる。
優雅に朝食を食べ、やってきた小鳥にエサをやり、部屋の掃除。
それが終わると庭へ行き、実った果物や野菜を収穫した。みずみずしい野菜たちを水道水でゆすぎ、涼しいところへ置く。
畑のほかの野菜に水をやり、空いたところに新しい種をまく。彼女の毎日はこうして過ぎて行く。
野原に花を摘みに行ったり、近所の人に育てた野菜をあげたり。お礼にと卵や肉をもらったりもした。
のどかなその村にそうして住んでいた。
今日は村の人たちと物々交換の日。さっきのとれたて野菜を入れたバスケットを片手に村の広場へと向かった。
少女が住む村は小さく、しかも住んでいるのは13歳から15歳くらいの子供。
大人は5年前に戦争へ出ていき誰一人として帰ってこなかった。
子供たちは自給自足で毎日をを暮してきた。大人がいたころからだったため、いなくなったいまでもそう苦労はしていない。
村の子供たちはもう、この暮らしになれてしまっていたのだし。
自然いっぱいのこの村は資源も豊富で食べ物にも困ることはなかった。
仲もよく、こうして物々交換をし、足りないものを補う。少女たちは充実した日々を送っていた。
子供だけの村というのはこの村だけではない。他にもある。
全ては5年前の戦争で始まったこと。それでも生きているのだ、一生懸命に。
さて、広場へと集まった村の子供たちはお互いに交換し始めた。
少女もあれこれとバスケットに入れては、自分の野菜たちを置いて行った。
「リノアの野菜、とってもおいしいのよね。いっつも心を込めて作っているのね」
リノア。それがアクアマリンの髪をしたこの少女の名である。リノアは顔を赤らめて、
「そんなことないわ。でもありがとう。ナツミの卵もとってもおいしいわ。愛情込めて鶏さん、そだてているのね」
と、ほほえんだ。ナツミ、というのがリノアに声をかけた少女の名のようだ。
リノアと同じように長い髪はくるっとカールしていて、茶色に光っている。
とても美人でしっかり者。声も少し大人っぽい感じで背も高い。リノアは背が低いが。
きりっとした赤い目はとてもキレイだ。ナツミは鶏を飼っている。
リノアの家からは少し遠いが、こうして物々交換をしにたまに会うのだ。
「ありがとう。あ、アキがあなたの野菜がほしいって言ってたわ」
「わかった。行ってくるわ。じゃあね、ナツミ」
軽い足取りで黒髪の少女のところへと走っていった。トン、と肩をたたくとその少女が振り返る。
ショートの髪の先ははねている。その子は、ぱぁ、と笑顔になりクリアな声で
「リノちゃん!来てくれたのね」
といった。この少女がアキで、牛飼い。リノアのように野菜も少し作っている。
「うん、ナツミが言ってたの。アキが呼んでるって」
「行ってくれたのね、ナツミ。後でお礼言わなきゃ」
「そうしてあげて」
「そうそう、またリノちゃんの野菜がほしいの。私が育ててる分じゃ足りなくて」
「もちろんいいわよ。私もちょうど秋の作る肥料と牛乳がほしいの。いいかしら?」
「えぇ。いつものでいいわよね?」
「えぇ。これ、野菜よ」
「ありがとう。肥料と牛乳よ。一応牛乳はよく冷やしておいてね、腐るといけないから」
「ありがと! じゃあね」
手を振るといったん家へ帰る。もらったものをなおし、追加で野菜をバスケットに入れる。そうしてまた出かけるのだ。
この村にはリノアを入れる3人しか女の子がいない。他の村もそうだが女の子の数が圧倒的に少ない。
だからどうということはないのだが。
2度目の広場へ着くと、リノアがアキにしたように今度は誰かが彼女の肩をたたいた。
振り返ると少年がいた。
「リノア、野菜もらっていい?」
「ヒロト。びっくりしたじゃない……。まぁいいけど」
彼の名はヒロト。羊飼いだ。気立てもよく性格は温和。
赤い髪はところどころはねている。グリーンの目はとてもきれいで優しい。
「その代わり、いつものくれる?」
「もちろん。リノアの野菜くれればね」
と、手渡してきたのは羊の毛。ふわふわで質が良く真っ白。
これを紡いで糸にし、服を作るのだ。
「ありがと。ちょうど新しい服作ろうと思ってたの」
といいながら野菜を渡す。じゃあね、と手を振ってヒロトは去って行った。
リノアの作る野菜はおいしいと評判だ。実際村一番の野菜といっても過言ではないだろう。みずみずしく形もいい。
色も鮮やかで、つややか。とてもイキイキしている。
物々交換が終わったのは陽がもうすぐ沈む時間だった。
この村の人数はたったの11人。もっといたのだが、他の村へ行ってしまったり、親を失ったショックで病気になり、亡くなってしまったりした。
でも今この村の子供たちはとても仲がいい。喧嘩もない穏やかな日々。のどかな暮らし。
それだけで十分だった。幸せだった。
少ない人数だが精一杯に力を合わせて生きていた。
その村の名前は
ヨルノ村
といった