二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 「 僕が、守らなきゃ 」 - カガリビト ( No.5 )
- 日時: 2012/10/13 13:35
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: yWjGmkI2)
- 参照: 近所づきあい。
「ねえ、どこ行くの」
「トゥールの好きな場所だよ」
前を見たまま、ぶっきらぼうにイレンは言った。僕はその背中を見つめて、溜息を吐いた。
イレンは、感情を出すのが苦手らしい。そのため、彼女の表情はいつも、口を開けて、間抜けみたいだ。無表情ともいう。
僕らと話す時は、基本その無表情で、女の人と話す時はよく笑ってるんだけどな。
そんなどうでもいいことを考えていたら、イレンが足を止めていた。僕はドアの上にかけられた薄汚れた看板を見て、自然に笑みが零れた。
cielo Miel——空の、蜜。空色で書かれた文字は、そう書かれていた。
「ねえ、イレンおごってよ」
「何言ってるんだよ、私もお金ないんだぞ」
この場所は蜂蜜をうりにしている喫茶店で、コーヒー、ミルク、紅茶、果物ジュース、更には料理にまで自家製の蜂蜜を使う喫茶店。その味といえば、そりゃあもうスリミーの料理に匹敵するぐらいの美味しさで、デザートだけなら、スリミーが作ったものより美味しい。
空の蜜とはよく言ったものだと思う。本当に彼女——そう、この世界を創り出した神様から授けてもらったといっても過言ではないぐらい、ここの蜂蜜は甘い。他のところの蜂蜜とは、比べ物にならないぐらい美味しい。
僕はここのチョコレートとクッキーが大好物なのだ。来る度に買っていたら、いつの間にかお金が消えていた。誘惑というものは恐ろしい。
「安いからいいじゃん」
「ダメだ。お、これ美味しそうだなあ」
厳しい顔をして僕に言った直後、イレンは新商品と紹介されている、かごに入ったコーヒークッキーを見て嬉しそうな表情を浮かべた。そして手に取る。……お金ないんじゃないのかよ。
「お金あるじゃん」
「私は新商品が美味しそうだったら買うんだよ」
「試食で我慢したらいいんだよ」
「妬むなよ、トゥール」
ふふ、とイヤミっぽくイレンは微笑んだ。これが勝者の余裕か……!
カウンターの前に二人で座ると、イレンは手に持っていたクッキーとお金を差し出した。気付いた店長のおばさんは、朗らかな笑みを浮かべて「ちょっと待っててね」とカウンターの奥へ向かった。
何をするわけでもなく、僕とイレンの二人は黙り込んでいた。心地良い沈黙、とでも言うのだろうか。一緒に居る時間が多いからか、イレンとは話さない時間の方が楽に感じる。
ふと周りに目を向けると、見覚えのある薄い銀色の髪をした人影を見つけた。
「あ、トゥールじゃん」