二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: ポケモンメモリアル集 ( No.16 )
- 日時: 2012/08/19 19:13
- 名前: 霜歌 ◆P2rg3ouW6M (ID: aeLeTDX9)
- 参照: 今日はちょっとゆとりがあるので、二つ更新´`*
「クー、ちゃん……っ」
背筋がむずがゆいような、奇妙な恐怖が辺りに漂っている。
クーちゃんを中心に、虫ポケモンの匂いのする生温かい風が吹き荒れた。
気がつけば、ガキ大将たちは皆呆然としりもちをついている。
「む、虫のくせ、に……なによ……」
「そんなこと言って、またしてきたらどうすんだよっ」
「俺、帰るわ」
「あたしもっ」
「お、おおお、俺もぉ!」
「あ、大将待ってよー」
気がつけば誰もいなくなっていた。ふいに、夕焼け空が広くなった気がした。紫がかった空に、クジラのように大きな雲が一つ、茜色に光って浮いている。
奴らがいなくなると、気が抜けたようにクーちゃんがヨロヨロと私に向き直り、微笑みながらぜぇぜぇと息を吐いた。
「クーちゃん……ありがとう」
胸の奥がちくりと痛んだ。
家へ帰ってお母さんに今日の出来事を話した。私が仲間はずれにされているということは話さず、クーちゃんに、男子がふざけて投げた石があたり、ケガをしたので安静にしてほしいということを頼んだのに。それなのに。
「だから言ったのよ。あなたはまだポケモンを飼える年頃じゃないって」
お母さんは、早口に言う。
「トレーナーでも最近色々な事情でポケモンを逃がす人だって出てきているみたいじゃない。それなのに、あなたがポケモンのお世話なんて出来るわけないって、最初から思ってたわ」
お母さんは、私が生き物と付き合うことが苦手な性格だから、保育園の時も人付き合いが苦手で仲間はずれにされたから、言っているのだろうか。
クーちゃんを捨てた少年の、後姿が眼に浮かび、私は唇を噛み締めた。
お母さんは、まだ続けている。
「元々はそのハハコモリ、トレーナーのポケモンだったんでしょう? じゃあ、あなたもそれを見習えばいいじゃない。ポケモンを持つのは大きくなってからよ。ポケモンと人間にはそういったことも必要なの」
どうして大人は、事がうまくいかないとそれをすぐに切り捨てちゃうんだろう。
どうしてすぐに諦めちゃうんだろう。どうしてすぐに決め付けるんだろう。
「うまく関係を築くためにはね」
「お母さん……」
私は俯いて声を絞り出した。
「ポケモンが原因でいじめられてたら元も子もないでしょ」
「おかあ、さん……」
そんなどうでもいい話、聞きたくない。
「お母さんは、もうサヨナラすることをオススメ……」
「お母さん!」
耐え切れなくなった私は、気持ちを吐き出すように大声を上げた。
お母さんはびくともしない。
その様子を見て、ああ、私の気持ちなんてどうでもいいんだ、と悟った。
「なあに?」
お母さんは虫ポケモンが嫌いだ。あの草木の香りが家の中に漂っているのは、特に。私が生き物付き合いが苦手なことと、今回のことを適当に理由にしているだけなんだ。
クーちゃんを逃がすなんて嫌だ。自分勝手な事情に、ポケモンを巻き込みたくない。
色々なことを言いたかったけれど、胸がいっぱいになって声が出なかった。だから、これだけ言ってやった。
「子ども扱い、しないで……!」
お母さんの返事を聞くことが恐ろしかったから、そのまま逃げるように自分の部屋へ駆け込んだ。
自分のことは、もう自分で考えられる。それなのにどうしてお母さんはいちいち指図をしてくるんだろう。どうして私がクーちゃんを手放さなくてはならないんだろう。
私のベッドには今、クーちゃんが横たわっている。私の顔を見ると、クーちゃんは心配そうに起き上がった。
クー……? という澄んだ鳴き声を聴いた瞬間、何かかはじけた。
涙が目からみるみる溢れ出した。声をあげて泣きたいのに、何かにせき止められて泣くことが出来ない。ここで泣いたら、お母さんに負けたことになるような気がした。親に怒られて泣くなんて。それなのに、肩が震えている。
ベッドに突っ伏して嗚咽していると、クーちゃんの手が私の頭に触れた。
フウッと体が柔らかく浮いている感覚がした。見ると、私の体がオレンジ色に淡く光っていた。クーちゃんも同じ光に包まれ、光と光がつながっている。その柔らかな光を見ていると、温かさが胸に静かに流れ込んでくるようだった。
クーちゃんは、私のこれを状態異常だと考えたのかもしれない。だから、技を使って……。
その優しさが泣きたいくらい嬉しくて、声にならない声になって、心の中に何かが染み渡った。お母さんのお腹の中にいるような、幸せな……何かが。