二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: ポケモンメモリアル集 ( No.2 )
日時: 2012/08/12 12:03
名前: 霜歌 ◆P2rg3ouW6M (ID: 3TVgjhWp)


Ⅱ 青空の出会い


 私がハハコモリのクーちゃんと出会ったのは、二年前の夏だった。むせ返るような夏の匂いと、虫ポケモンの声が、ゆらめく景色に混ざり合っていた、あの日。あの夏の日、私はお母さんにお使いを頼まれ、隣町への長い道のりを歩いていた。
 隣町へは一本道で、あたり一面畑で覆いつくされている。道が続く先、畑のそのまた向こうの方に、隣町の民家がゆらめいて見えた。ときどき生ぬるい風が吹くと、畑の砂がこっちに吹きつける。

 雲ひとつない、真っ青な空を見上げると、そのまま自分が吸い込まれ、溶けてなくなってしまいそうだった。

 あまりの暑さに不満をこぼしながら麦藁帽子を振り回していた、その時。畑の方から、威勢のいいトレーナーの声が聞こえたのだ。

「ワカシャモ、〝かえんほうしゃ〟!」
「ハハコモリッ!」

 ポケモンバトルだ! と思ったとたん、胸が高鳴ってきた。私はポケモンバトルを見るのが好きだ。本気で戦いあうポケモンとトレーナーを見ると、応援せずにはいられなくなる。
 声は、畑の中から聞こえてきたように思ったけれど、すぐそばの小さな農家から聞こえてきていた。私の歩いている道から、一本、砂利道がそこの農家へと続いている。

 砂利道を通り、農家の庭へ駆け寄ってみると、少し距離を置いて、短パン小僧と少年が向かい合っていた。二人とも額から汗を流している。私と同い年に見える少年のそばには、ハハコモリが戦闘不能になって倒れていて、その前でワカシャモが胸を張って立っていた。ワカシャモの目には、余裕の光がはっきりと浮かんでいる。
 私は庭の中にある茂みの後ろにソロソロと隠れ、二人の様子を見ることにした。

 短パン小僧がワカシャモをモンスターボールに戻し、倒れたハハコモリを見下ろしている少年に冷ややかな笑みを浴びせる。

「お前には絶対に俺のワカシャモは倒せない。前に負けた腹いせだかなんだか知らないけど、こんなあっちい日にバトルを挑んでくること自体、バカとしかいいようがねーわ」

 聞いているこちらまで、胸が苦しくなるような、冷ややかな言い方だった。
 少年の様子が心配になって見てみれば、額から伝わってきた汗を顎から垂らしながら、じっと短パン小僧を睨んでいる。
 短パン小僧はモンスターボールを手の中で転がしながら、思いだしたように付け加えた。

「ま、せいぜいそのしょぼい虫で頑張りな」

 ふんっと鼻を鳴らすと、短パン小僧は立ち去った。暑く、重々しい空気だけが、こもったように流れている。
 どうしていいのか、わからない。ここにいることがばれるのも困る。
 私はじっとしているしかなかった。
 流れ落ちる汗を乱暴に拭い、少年はじっと立ち尽くしている。

「くそ……」

 モンスターボールを取り出そうとしているけれど、指が震えているせいなのか、うまく握れないようだ。静かに、モンスターボールがハハコモリのそばの地面に転がった。その瞬間、少年が怒りで顔をゆがめたのが、手に取るようにわかった……。

「こんな、もの……!」

 ギシリッと硝子の破片を踏み潰したような音が少年の足元から響いた。はっとしてハハコモリのそばのモンスターボールを見てみれば、ぺしゃんこに潰れている。


〜つづく〜