二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: ポケモンメモリアル集 ( No.23 )
- 日時: 2012/08/20 18:22
- 名前: 霜歌 ◆P2rg3ouW6M (ID: ykAwvZHP)
- 参照: 終盤に入ると、まとめて更新したくなります。
Ⅵ 大空の出会い
クーちゃんを森に還すため、学校が終わったら引取りにきます、と育て屋のおじいさん、おばあさんに約束した。その次の日のことだった。
学校へ行くと、それまで私のことを男子と共に避けていた女子たちが、手の平を返したようにクーちゃんのことで心配して声をかけてきてくれた。どこから情報が漏れたのかと思えば、クラスメイトの女子で親がポケモンを育て屋に預けている子がいたらしい。そこから情報が入り、たちまちクラス中に噂が広まったのだ。
「あの……ハハコモリのこと……ごめんね」
最初は一人の女子が申し訳なさそうに俯きながら私の方へ寄ってきた。その後、伝染したように他の女子たちも後から後から同じような事を言い、謝ってくれたのだ。
……心の中の穴に、わけのわからない黒い水溜りが、じわじわと広がっていくようだった。
今更……今更すぎる。
クーちゃんは、もう死んでしまった。
もう、私のそばにいない。
私ではなく、クーちゃんに謝って欲しいのに……!
だから、私は決してこいつらを許さなかった。クーちゃんが病気になったのは、半分こいつらのせいなのに。あの時こいつらが私のことをあからさまに仲間はずれにしたように、私も片っ端からこいつらを責めてやろうと思った。
「あんたたちのせいでクーちゃんは死んだのよ。いっしょになっていじめてくるから、ストレスだって溜まってたんだよ。どうしてくれるの!」
私がそう声を震わせると、女子たちはどうしていいかわからないと言ったような顔をする。そして、最初は同じような言葉を機械的に並べて謝ってきたけれど、私が到底許してくれそうにないので、再び私から離れていった。
「前からあの子、ポケモンをもっているからって偉そうだなって思ってた」
「やっぱり大将が言っていたような子だった」
そうして、やたら過去のことをぐちぐちと言い始めるようになった。
あのガキ大将でさえもその噂を聞き、さすがに申し訳ないと思ったようだ。
元々は自分が欲しかったポケモンが、死んでしまった。そのことが、相当ショックだったらしい。
「あのさ……わりぃ」
ガキ大将は相変わらず男子たちを後ろに引き連れているが、ガキ大将の沈んだような態度とはうって変わり、男子たちはいつもの軽蔑した目線を私に向けている。その目線にまたしても、ゆっくりと怒りが湧いてきた。
「あの時、石を投げてきたから、クーちゃんが助けに来て! それがぶつかったから病気になったのよ!」
それは事実だ。あの少年に捨てられてから、クーちゃんは大きなケガやバトルをしたことなんてなかった。男子たちとの、あの事件を除けば。
しかし、男子たちは謝りもせず悪口ばかり言った。謝りもしないなんて、女子以下の最低な奴らだ。
「虫なんて弱いポケモンを連れてたのがいけねぇんだろ。無視だ、無視」
男子たちはそう言い、足早に私のそばから離れていく。
去っていく男子たちの、一番最後にいたガキ大将の曇った表情と沈んだ眼差しが、心に突き刺さった。
……今更すぎる。
みんな、もう遅いんだ。
もう……もう、クーちゃんはいない。
今そう言うのなら、最初からそんなことはやってほしくなかったのに。
育て屋のせいにもしてやった。ちゃんと世話をしてなかったからだ、クーちゃんを見捨てたからだ、と。育て屋は、困ったように笑って受け流すだけだ。
お母さんにも、あの時旅行に行こうなんて言ったからだ、と言ってやった。
すると、お母さんはぴしゃりと一言、こう言った。
「人のせいにするのはやめなさい!」
そう言われてからは、頭に衝撃をくらったような気がして、思わず外に飛び出した。
うっすらと、空の青が淡くなり始めている。
私の濁った心と違い、空は雲ひとつない色の水で満ちていた。
あの少年がクーちゃんを捨てる瞬間を見た時、私は……。
——「ポケモンのせいにするなんて、人として最低!」
そして、ガキ大将がクラスの人気者ポジションを私に奪われた、と言っていた時、私は……。
——「人のせいにしないでよ!」
一番誰かのせいにしていたのは、私だった。
一番相手のことを考えていなかったのは、私だった。
クーちゃんが死んだのが信じられなくて。
クーちゃんや私をいじめていたあいつらが許せなくて。
クーちゃんがそばにいないのが寂しくて。
やりきれなくて。
独りぼっちが……つらくて。
原因がわからない病気というのに腹が立った。
だから、誰かのせいにしたかった。
すぐに勝ったと思い込んで。
大人ぶって。
強がって。
人のせいにして。
本当は、悔しかった。
みんなに子ども扱いされることが。
わけのわからない病気が、クーちゃんを死なせたことが。
本当は、ずっと寂しかった。
——ごめんなさい、ごめんなさい。
——もう、一人は嫌なんだよ。ずっと寂しかったんだよ。
涙が堰を切ったように溢れ出し、私は自分を縛り付けていたものを自分で解いて、大声で泣いた。心にぽっかりと空いた穴から、後から後から涙が流れ出てくる。
とん、と後ろから右肩に手が置かれた。大きな手だった。あの少年だと思った。
「育て屋が、呼んでるぞ」
聞き覚えのある声がした。
そっと手が離れた。
「じゃあな」
「待ってよ」
振り返ると、あいつがいた。
「どうして、あんたが……」
「遅いかもしれないけど……ちゃんと、謝りたかった。……悪い。本当に悪かった……」
どこか無理をしているように見えた。
「ありがとう……」
私がそう言うと、ぎこちなくガキ大将は笑った。
〜つづく〜