二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: ポケモンメモリアル集 ( No.38 )
- 日時: 2012/08/23 13:59
- 名前: 霜歌 ◆P2rg3ouW6M (ID: pJ0RzEWL)
- 参照: 番外編なので、読まなくても自由^^; 本編よりひどいです。
S 本当の名
もうそろそろ、夏休みが明けようとしている。柔らかい風が吹くと、萌黄色の草木たちがさわさわとなびく。風が秋を運んできて、すべてのものが秋色に染まっていくみたい。
夏休みの宿題を学校へやりに行った帰り、私はいつものようにこの場所へ来ていた。私と二人のクーちゃんが、初めて出会った場所へ。
背中に背負った鞄には、タマゴが入っている。こうして毎日、新しく生まれてくるクルミルとこの場所で空を眺める時が、一番安らぐ気がする。
陽はすでに傾きかけていて、空は淡い青色をしている。
庭の隅には彼岸花がポツポツと咲いていて、この場所全体が夕日の薄い毛布に包まれているように、ぬくぬくとしていた。
目を閉じて立っていると、温かい水の中にいるような気がしてくるくらいだ。
生ぬるい風が吹いて前髪がなびき、私は目を開けた。
くたびれて薄いオレンジ色に染まった入道雲を見ると、あの人の——クーちゃんの白い背中を思い出す。
新しい虫ポケモンを捕まえるといって、またどこかへ行ってしまった。クーちゃんが帰ってきたらまたあの森へお墓参りに行き、生まれてきたクルミルと、クーちゃんの虫ポケモンとバトルをしてみたい。
私は熱のこもった地面に座り込んで鞄を胸の前に持ってくると、空を見上げた。土の埃っぽい匂いがする。
「その時は……クルミル……あんたのお父さんにも会いたいな」
タマゴの中のクルミルはもちろん返事をしない。それでも、温かい光が、胸の中で輝いているようで、静かな思いが溢れてくる。二人のクーちゃんが、私の手の平に置いてくれた光。私はその光を、手の平でくるんで精一杯輝かせて、感謝の気持ちを届けたいと思う。
「きっと、あんたのお父さんも素敵なハハコモリなんだろうな……。お母さんも素敵なハハコモリだったから」
あの人は、クーちゃんは、ハハコモリをどのように育てたんだろう。
いつか旅の話、聞かせてくれるかな。
空から鞄に目を移してから、ぽうっと光が灯ったように、急に思った。
私は、あの人のあだ名がクーちゃんだと知っているけれど、本当の名前はまだ知らないんだ。
あの人のあだ名がクーちゃんだと気づく前、ハハコモリのクーちゃんを森へ還してやっている最中に、私はあの人に聞いたことがあった。
『さてと、後はそばに木でも植えてやるか……』
『うん。クーちゃんも喜ぶと思う。……あ、そういえば』
『なんだよ』
『ねえ、あんたの名前、まだ聞いてなかったよ。なんていうの?』
『ひっ、人の名前を聞く時は自分から名乗るのが礼儀だろっ。そんなことも知らないのかよ、お前は』
なんだかまたバカにされているような気がして、私もムキになって言った。
『それぐらい知ってるよ! 私だってもう十二歳だもの!』
『俺と同い年か。それにしちゃあ、なんかなあ……』
『なぁんだ。そんなこといったって私と同い年なんて、あんただってまだ子どもじゃない』
『お前だって子どもだろ!』
その後にまた名前を聞いても、なんだかんだ余計なことを言われ、結局はぐらかされてしまった。
あれは自分の名前を言うと、あだ名が「クーちゃん」だということが私にバレちゃうからだったのかもしれない。そんなこと、気にしなくてもいいのに。
あの時はそのまま諦めてしまったけれど、なんでだろう。
この場所に毎日来て、クルミルに二人のクーちゃんの話をしているうち、どうしても知りたくなってきた。
別に名前を聞くのは悪いことじゃないと思うし、もう私はあの人のあだ名が「クーちゃん」だということを知っているんだから……。
どのみち、毎日ここへ来た後は、あの場所へも行っている。
クルミルのことも聞くついでに、クーちゃんのことも聞いてみよう。
私は鞄を背負いなおしてから立ち上がり、スカートの汚れをはらった。そうして、彼岸花を見てクーちゃんの赤く染まった耳を思い出し、クスリと笑う。
「クルミル、クーちゃんの極秘情報を聞き出しに行こう……!」
手を後ろへ回し鞄を下からトンと叩くと、私は駆け出した。
〜つづく〜
☆ドーはドーナツのドー。SはスペシャルのSー。 誤字脱字は後ほど!