二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: ポケモンメモリアル集 ( No.4 )
日時: 2012/08/16 13:47
名前: 霜歌 ◆P2rg3ouW6M (ID: ut5SJXpV)
参照: 帰ってきた……こっちは暑い…。

 クー……とハハコモリが鳴き、ゆっくりと起き上がった。
 その様子を見た少年は、さらに機嫌を悪くしたらしい。

「この役立たず! なんであの時かわさなかったんだ? まったく、能力が糞だな!」

 私もハハコモリも、びくりと肩を震わせるほどの罵声だった。

「お前の帰るボールはもうないんだよ! ほら、とっとと行けよ」

 部外者の私でさえ、なぜだか腹が立つような一方的な言い方。
 あの時こいつは、「かわせ」などの指示は一つも出していなかった。どうせあのワカシャモの強さに圧倒されて、眺めていただけに違いない。そのくせに、この偉そうな言い方。

 そう思った私は、気がつけば少年の前に飛び出していた。額に汗とともにまとわりつく髪に、妙にイライラする。

「か、かわいそうでしょ! 自分が指示をミスったくせに。逃がすなんて、トレーナー失格!」
「なんだよチビ!」

 自分の行動を今まで他人に見られていたことに驚き、少年は顔を引きつらせた。
 すかさず私は怒鳴り込んでやった。

「ポケモンのせいにするなんて、人として最低!」

 少年がしばらくむっつりと黙り込んだので、「勝った」と思った……のもつかの間、少年がわざとらしく口元に笑いを湛えながら、呆れたように首を振った。

「わかってないなぁ」

 やたら大人ぶっているように見える様子が、なんだか癪に障る。

「あんたこそ、ポケモンの気持ちをわかってないじゃない」
「そうじゃない。トレーナーでもない奴に、ポケモンと人間の何がわかるのかって言うこと!」

 ふんっと鼻を鳴らして見下ろされて、不愉快になった。同い年に見えるのに、せせら笑われているようで、無性に腹が立つ。
 私はむっとして少年を睨むと、少しでも少年がひるむように目つきを鋭くした。

「何よ」
「お前、さっき、〝ポケモンを逃がすなんて、トレーナー失格〟って言ったよな?」
「そうよ」
「やれやれ」

 少年は、再び首を振った。

「じゃあお前は、使わないポケモンはボックスに放置して可哀そうだと思わないのか?」
「ボックス?」
「そうだ。パソコンの預かりシステムに、使わないポケモンを預けることが出来る。そこでポケモンはじっと呼ばれるのを待ってるんだぞ? このハハコモリだって俺が逃がさなければその運命をたどることになる。そんな人生が哀れだと思わないのか?」

 思ってもみなかった話に、言葉が出てこなかった。ボックスの中でいらないポケモンとして放置される。だとしたら、野生に戻してやった方がいいのかもしれない。
 しかし、その場しのぎでくだらない理屈を聞かせられている気もした。トレーナーではない私に、反論できないような話を、あえてしているような気がする。

 何か言い返さなきゃ。こんな奴に負けたくない。

 そう思い必死に頭をフル回転させても、何も言葉が浮かんでこない。握り締めた手に汗が滲む。
 私の様子を見て、勝ち誇ったように少年が笑った。

「ほぅらみろ。だから俺はハハコモリのことを考えて逃がしてやってるんだ」
「で、でも!」
「まっ、お前みたいなチビにはまだわかんねーか」

 少年は頭の後ろで両手を組み、歩き出した。その後姿があまりにも余裕だったので、ますます腹が立ち、そのままこいつの背中に蹴りを決め込んでやろうと思ったくらい。

 暑さとともに、ふつふつと、怒りが湧いてくる。
 何か言い返してやりたかったけれど、結局何も言えなかった。
 少年に対しての怒りなのか、自分に対しての怒りなのか、わからなかった。そんな自分が情けなく思えて、その気持ちが湧いてくる事にまたしても腹が立った。

 空を見上げると、悔しさで青空が滲んでいる。足元からは、土の匂いが薫っていた。

 クー……と足元から声がした。ハハコモリが、私を見上げて静かに涙を流していた。汗のようにも涙のようにも見える涙が大地にポツポツと落ちて、地面に染み込んでいっている。
 あんな主人に忠実に従い、捨てられてもなお自分の不甲斐なさに涙を流すこのポケモンを、このハハコモリを、愛しく思った……。

「いっしょに帰ろ。『クーちゃん』……」