二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: ポケモンメモリアル集 ( No.43 )
日時: 2012/08/25 11:10
名前: 霜歌 ◆P2rg3ouW6M (ID: s.HbjPwj)

 農家の庭から出ると、育て屋への道を小走りで進んだ。鞄に手を当ててタマゴが揺れないように支えながら、二人のクーちゃんのことをぼんやりと思う。
 俯いて走り続けていると、一つだけ前にのびている自分の影が目に映った。よくわからないけれど不意に虚しさが込み上げてきて、空を見上げた。じっとしていると心地よく感じた空気も、走り出すとうっとうしい。額から顎へ、汗が流れ落ちる。

『お前だって子どもだろ!』

 でも、同じ子どもなら、もっと知りたいよ。
 背中がトクン、とする。
 
 クーちゃんに質問攻めすると、きっと耳も頬も真っ赤にしてはぐらかすと思う。そう考えると、なんだかこれからのことが急におもしろく思えてきた。足取りが軽くなり、心が上へ突きあがるようにドキドキしてくる。

 育て屋付近は、私の住んでいる周辺と違って畑ではなく、田んぼがずっと続いている。この時期になると青い穂が絨毯のように広がっているだけだ。風に揺られて、オレンジ色の光が穂の上を飛ぶように流れている。
 でも中には手入れのされていない、雑草がポツポツと生えただけの田んぼもある。黄金色に水面を揺らしているだけの、寂しい場所。夜はイルミーゼやバルビートたちが集まってくるし、秋真っ盛りになればヤンヤンマたちも飛んでくる。

 私がまだ小さかった頃、この周辺を一人で用事があって歩いていた時、その場所に足をつけていた子どもたちがいて、羨ましく思ったんだ……。

 背中に背負った鞄をよいしょ、と持ち上げると、遅くなってしまった足を速めて、私は育て屋へ飛び込んだ。

「育て屋さん……!」

 滴り落ちる汗を拭いながら荒い息を吐いていると、庭からおばあさんがやって来た。

「おやおや、今日はそんなに慌ててどうしたんだい」
「なんでもないんです。ただ、早く来たくて……」

 私がおばあさんの用意してくれた椅子に座ると、おばあさんはタオルと水を持ってきてくれた。タオルで汗を拭いて水を飲むと、生き返った心地がする。

「今日もクルミルが一緒なんだね」

 おばあさんの言葉に、私はこくりと頷く。
 そうして鞄を下ろすと、いつものようにおばあさんたちが用意してくれたカゴの中に、鞄を入れた。

「こうやって連れて歩いてやるのが一番いいって聞いてから……」
「その方が、タマゴも早く孵ってくれるからね。そのうち、小さく動くようになるよ」

 クーちゃんが帰ってきたら、真っ先に生まれたクルミルを見せたい。
 だからこそ、私がきちんとタマゴを孵したい……。
 私は手を握り締めた。

「おじいさんは?」
「お庭にいるよ。最近はポケモンたちと遊んでばかりなんだよ」
「そう……」

 どうしてだかわからないけれど、今日は返事につまる。
 私はカゴの中の鞄を見やると、自分の手を見つめた。

「あの、クーちゃんのことを、教えてほしいんです」
「クーちゃんのことを?」

 おばあさんの驚いた声に、胸が痛む気がする。
 私は、穏やかな表情のおばあさんを見つめた。

「だって、あの人、私のことを子ども扱いばっかりして! 自分だっておんなじ子どもなのに」

 思わずすねたように言うと、おばあさんが小さく声をあげて笑った。そうして、皺の浮かんだ顔でやんわりと微笑む。

「クーちゃんが初めてここに来たのはね、今から三年前の夏だったんだよ」
「三年前……じゃあ、私もクーちゃんも、九歳……」

 私が二人のクーちゃんと出会ったのが、今から二年前の十歳の時だ。その時から一年前……。
 窓から風が吹き込むと同時に、おばあさんは遠くへ目を向ける。

「元々、ここの近くの田んぼによく遊びに来ていたんだけどね、ほら、穂を植えていないところがあるだろう? ポケモンたちがよく集まる……」
「えっ、クーちゃん、そこでよく遊んでいたんですか?」
「地面に足跡をつけてね、よーくポケモンたちと遊んでいたよ」

 その子どもたちなら、私もよく見かけた。もしかしたら、その中にクーちゃんもいたのかもしれない。そう思うと、胸の中に温かな気持ちが湧いてきた。二人のクーちゃんと会う前から、私たちは何かしら繋がっていたのかもしれない。
 
「私、小さい頃、よくその子たちを見かけてたんです。楽しそうだなって……」
「そうかい、そうかい。縁とは不思議なものだねえ」

 おばあさんもゆっくり言うと、話を元に戻す。

「それでね、あの子のお母さんもポケモントレーナーだったから、よくここに来ていたんだよ。クーちゃんが九歳の時、初めてお母さんと一緒にここに来てね。あの子は庭でいろんなポケモンを見て回って、お母さんに『クー! 早くしなさい!』って怒られるほど夢中になってたんだよ」

 その時の様子が、浮かんでくるようだった。

「もちろん、『クー』というのもクーちゃんのあだ名みたいなものでね。私たちはそれで『クーちゃん』と呼ぶようになったんだよ。……あんたのハハコモリのあだ名も同じだったなんてねぇ。きっとあの子、知ったときは照れたに違いないよ」

 耳まで赤くしている後姿が浮かび、私もおばあさんも思わず笑ってしまった。おばあさんは、続ける。

「十歳になった時、トレーナーになったと聞いているよ。あんたのハハコモリがまだクルミルだった時、あの子は私たちに『新しい虫ポケモンを捕まえた』って見せてくれたからね」

 まだクルミルだった頃、一緒にいた二人のクーちゃん。ともに日々を過ごして、色々なことを経ても、二人とも最期にはお互いを思いあっていた。澄んだ瞳に映った姿と、涙で光った目が、それを表していた。
 そんな二人の間に私がいるなんて、とても不思議な気持ちになる。

「強いトレーナーだったんだけどね、ずっと勝ち続けてきたせいか、負けると焦るようになりおってね……。そんな時に、お前さんと出会ったと言っていたよ」
「クーちゃんから、話を聞いたんですか……!?」
「お嬢ちゃんが、旅行でハハコモリを預けてた間にね。クーちゃんも、新しいハハコモリを二日間だけ預けにきたんだよ。その時にねえ」

 クーちゃんが他人に私の話をするなんて、思ってもみなかった。
 嬉しいような、恥ずかしいような気がして、思わず笑ってしまう。
 時々すごくそっけなくなるのに。本当に、クーちゃんは……。



〜つづく〜
☆ダメだ……。色々と。誤字・脱字は後で;
明日は一日出かけ、今日のこの後も忙しいので、コメント返しと更新が出来ません;

8月23日投稿 8月24日修正しました。