二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: ポケモンメモリアル集 ( No.51 )
- 日時: 2012/08/29 17:01
- 名前: 霜歌 ◆P2rg3ouW6M (ID: V26UOF89)
- 参照: 本編とは関係ないとはいえ、文章力劣化しすぎる。
おばあさんが、その時の状況を丁寧に話しだした。私が旅行に行っている間に、クーちゃんがここを訪れた時のことを。おばあさんの声とともに、あの夏の風が吹きぬけるようだった。
『俺、ずっと強くなろうとしているうちに、なんで強くなろうとしたのか、わからなくなったんです』
『……わたしらにとっては、今でもクーちゃんは強いトレーナーだけどねぇ……』
『もやもやした気持ちのまま勝っていくうちに、負けることが恐くなった。一回負けただけで、自分がちっぽけになるような……今まで勝ってきた分の強さがなくなるような気がして、負けると何も考えずに再戦を挑んでたんです』
『……』
『そんな時だったな。あいつと会ったのは』
『あいつ?』
『俺が前に負けた相手に再戦を頼んで負けた後、あいつが急に現れたんです。自分がきちんとポケモンを育てていなかったのに、ポケモンのせいにするな、人として最低だ、と……』
クーちゃんの口から私の話が出ていることを知ると、急にこの場にいるのが恥ずかしくなってきた。
夏の終わりのふんわりとした空気が、私たちを包み込んでいる。
空はまだ淡い青と黄色をしているけれど、太陽はいつの間にかなくなっていた。
おばあさんの話をする口調が、急に沈んだ気がしたのは、日が沈んだのに気づいたからなのかな。
『……そんなことを言われたのかい』
『……俺もその時は〝そんなくだらないきれいごとなんて〟って思ってた。でも、その後すぐにテレビでポケモントレーナーを見たんです。相性が不利な相手に、無我夢中で戦って勝ったトレーナー……四天王を。その時に、あいつの言葉を思い出しました。それで気づいたんです』
私のあの時の言葉。
のちに、私自身にも言い聞かせられた、私の過去の言葉。
『強くなろうと思うあまり、俺は自分を見失っていたなって。バトルに勝つことだけが強さじゃない。ポケモンとトレーナーが思い合って、何があっても真っ直ぐに進むことが強さなんだって、思いました。それなのに俺は、勝てただけで思いあがって、負けると自分の手持ちに八つ当たりして……。そんな自分がどうしようもなく嫌になって、何もかも捨てたくなった。だから……』
『だから……二年前、旅に出たんだね』
前にも聞いたことがある。挑戦者の炎ポケモンを、虫ポケモンで倒していた四天王を見て、自分が最低だったと気づいたって。
あの時のクーちゃんの瞳は、遠くを見つめているようだった。私の知らない、過去の自分を見ているようだったんだ。だからこそ、あんなに優しい表情をしていたのかもしれない。
『……あの後俺は、今までの自分を変えるため、旅に出ました。俺の中の過去の自分は、道中何度も足を引っ張ってくれた。そのたびに苦労したけど、そのたびにあいつの言葉と、俺のあの時のパートナーを思い出して、ポケモンたちと一緒に……乗り越えたと思う』
『苦労したんだね、クーちゃん』
『いや……俺にそのことを気づかせてくれたあいつは、もっと苦労していたんだと思う。そのことを、最初から知っていたんだから』
私は、最初から知ってなんかいなかった。
あの時は、本当に咄嗟だっただけなのに。
私自身、後からクーちゃん自身に気づかされたのに。
本当に、クーちゃんは……。
『……あいつっていうのは、どこの子なんだい?』
『背は小さかったけど、俺と同い年ぐらいだったと思う。初対面だったはずなのに、俺のハハコモリのことを、心からいたわってくれたんです。風の噂で聞いたけれど、今はハハコモリを——多分、俺のハハコモリと一緒に生活してくれているはずです』
『その子は……! ……二日前くらいに女の子が来たんだよ。随分すねた顔をして、ハハコモリを預けにねぇ。このハハコモリは元々はトレーナーのポケモンだった、と言っていたから、もしかすると……そうじゃないのかい……?』
『……預けに?』
「旅行に行くんだと言っていたよ。でも、事情があってポケモンは連れて行けないみたいでね、あの子は随分不満そうだったよ』
いよいよ、辺りがかすかに薄暗くなり始めた。ざわざわと風が吹いているのに、部屋の中は夕暮れの空気が陽だまりのように溢れていて、柔らかい。
『今もお庭にあの子のハハコモリはいるけれど……会うかい?』
『いや……今の俺は、まだ……ハハコモリには会えない。あいつが戻ってきた時、いや、もしくは——』
『もしくは……?』
『……よかったら……俺の今の手持ちのハハコモリを……預かってくれませんか』
『それなら、お安いごようだけれど……。いいのかい、本当に会わなくて』
『今の俺は、まだあいつには会えない。本当に次に会える時は……まあ、運命ってやつが、勝手に引き合わせてくれるんじゃないか……ってね』
まだ自分は本当に強くなっていないと思ったから。
まだ自分を許してくれていないように思ったから。
まだハハコモリのクーちゃんと、会わせる顔がないと思ったから。
あの人は、クーちゃんは、会わなかった。
クーちゃんは、本当に……優しい。
窓から空を見上げれば、かすかにまだ茜色の光が下のほうに残っているけれど、ほぼ紫色に染まり始めていた。規則正しく揺れていた青い稲穂が、ざわざわと乱れ始める……。
胸の中に、静かで柔らかな思いが溢れてきた。
「クーちゃんは……強いと思います。本当に」
そっけない後姿も。時々見せる優しい表情も。
私のことを諭してくれたあの時も。そして今も。
常に色と形を変えながら、それでもクーちゃんであることは変わらない。
〜つづく〜
☆もう番外編なので、なにがなんだか^^; ぐだぐだです。