二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: ポケモンメモリアル集 ( No.54 )
- 日時: 2012/08/31 21:10
- 名前: 霜歌 ◆P2rg3ouW6M (ID: DSznZxUf)
- 参照: 昨日までPCおかしくて更新できませんでした。ぐっだぐだなラスト。
私は、どこかにいるクーちゃんの後姿を見るように、なんとなく窓の外に目を移した。
不意に空気が静まって、テッカニンの鳴き声が、稲穂が揺れる音と一緒に響き始める。
夏が終われば、テッカニンの鳴き声もあまり聴こえなくなるんだ……。
私は窓から目を離して、俯いた。
本当に聞きたいなら、今が一番キリがいい。けれど、なんとなく聞くと怪訝そうに思われそうで、恥ずかしかった。
喉元まで、思いは込み上げてきているのに。
「……太陽……沈んじゃいましたね」
思わず、仕切りなおそうとして出た言葉は、思いがけなかった。
おばあさんがゆっくりと窓に目をやる。
「そうだねぇ。まだ太陽の光は残っているけれど、もうじき暗くなるよ」
太陽が沈んでも、余韻のように茜色の柔らかな光が残った空は好きだ。紫色の雲の中に、温かい水たまりがあるようで……。
ぎゅっと手を握り締めると、私はもごもごと切り出した。
「それで、クーちゃんはなんて……な、名前なんですか……」
驚いたように目を見張ったおばあさんを見て、うっと胸が詰まった。
けれど、おばあさんは急にころころと笑い出した。
私はきょとんとして、おばあさんを見る。
「なんだい、聞いてなかったんだねえ。あの子ったら、本当に照れ屋なんだから……」
なぜ私の方が恥ずかしくなってしまっているのかわからない。わからないけれど、笑っているおばあさんを見ると、自分の心が縮こまっていくような気がする。
おろおろとしていると、おばあさんがようやく話し出した。
おばあさんを見ると、空の底を見るように窓の外を見つめている。
「そうだねぇ……お前さんには、こう言っておこう。クーちゃんの名前は、空の名なんだよ。……」
おばあさんからクーちゃんの名前を聞いて、急に糸がほころんだようにおかしくなってきた。
思わずふふっと笑って空を見る。
暗くなりかけた中に、赤い色が小さく芽吹いていた。
いつか、クーちゃんが他のトレーナーと戦う姿を、見てみたい。
一番最初に見たのは負けてしまった姿だったけれど、本気で戦うクーちゃんを、見てみたい。
このクルミルが孵ってくれれば、きっとそれも出来ると思う。
「強いね、クーちゃん」
私は、クーちゃんの背中に静かに呼びかける。春の夕暮れの淡い光に、溶け込みそうな背中だった。
バトルを終えてクーちゃんに負けた私は、ミーちゃんの擦り傷をハンカチで拭いてあげている。その間、クーちゃんは私に背を向けてフシデに何か話しかけていた。勝っても、負けても、いつも。
「何言ってるんだよ。この間は〝いとをはく〟の連続でそっちが勝ったんだろ、まったく」
すねたような言い方に、なんだかおかしくて笑ってしまう。
どんな空の色が映っていても、やっぱりクーちゃんは、クーちゃんなんだ。
「今度ねー」
私が言いかけると、クーちゃんはフシデをモンスターボールに戻し、こちらへ歩み寄ってきた。
私はにっと笑うと、もう一度言う。
「今度ね、クーちゃんの旅の時の手持ちを紹介してよ」
「……俺の?」
少し考えるように遠くを見てから、クーちゃんは私の前にモンスターボールを突き出した。
「きっと驚くぞ、お前」
にやっといたづらっぽく笑った顔を見て、私もミーちゃんをモンスターボールに戻し、クーちゃんのボールの前に突き出す。
「驚かないよ! クウタのポケモンなんて!」
驚かないよ。きっと強いって、最初からわかっているもの。
柔らかい草の香りがそよぎ、澄んだ音が聴こえた気がした。
END
☆漢字は自由に想像してください^^
「私」の名前やクーちゃんの旅については次の番外編で!
誤字・脱字は後ほど。