二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 『ハリー・ポッター』二次小説〜騎士王の末裔〜    ( No.87 )
日時: 2013/04/07 16:12
名前: ウルワルス (ID: MDrIaVE2)

 教員テーブルの前方の台座の上には、精巧な細工が施された水盤が置かれていた。水盤は、黄金色の液体で満たされていた。スコープが水盤に掌をかざすと、水面にさざ波が立った。次の瞬間、液体は眩い光を上方に放ち、その光の中にバロンデュールのシンボルであるヒッポグリフの巨大な映像が生成された。
 バロンデュール・テーブルから盛大な拍手が巻き起こった。スコープは安心し、アイサムの隣の席に座った。

 その後は夕食だった。スコープはフランス料理を楽しみながら、バロンデュール生達から浴びせられるホグワーツについての質問に答えていった。
 彼らは、ホグワーツでは未だに梟が主要な連絡手段であることに驚いていた。
「ボーバトンでは、既にスマートフォンが普及してるよ。」
 スコープの隣に座っていた2年生のセザール・デーツが言った。スコープは、ローズの母親が持っていた小さな機器を思い出した。
「もちろん、魔法力で狂ってしまうことがないように特別な仕様が施されたものだけどね。」
 セザールが続けて言い、実物を見せてくれた。
「マグルが開発した物は好まないディオールシアン生達でさえ、スマートフォンを使ってるわ。」
 カトリーヌが言った。
 他にも、ボーバトンについて色々なことが分かった。例えば、カステルソンヌ駅からボーバトン校への馬車を引いていく動物達の大半は、校内の森(ホグワーツの「禁じられた森」とは違い、人狼やアクロマンチュラのような危険生物はいないらしい)に棲息しているものだが、一部は寮ごとに生徒達が飼育している個体であるということだ。世話をするのは基本的に1年生の役割で、そのためボーバトンでは1年次から「魔法生物飼育学」が必修科目になっていた(その代わり「天文学」が3年次以降の選択科目の扱いを受けている)。スコープは、基本的に教科書はホグワーツで使っていたものを使用する予定だったが、飼育学の教科書だけはパリで新品を購入するよう言われていた。
 アイサムは、夕食の間中ほとんどしゃべらなかった。また、カトリーヌ以外は誰も彼に話しかけなかった。スコープには、バロンデュール生達がアイサムを避けているように思えた。彼らはディオールシアン生とは違い、アイサムに対する差別意識は抱いていないはずだが・・・



 夕食が済むと、スコープは寮の談話室で手紙を書いた。宛名は、ローズとアルバスの連名にした。早速新しい友達と宿敵が出来たことや、バロンデュールに配属されたこと、ボーバトンについて分かった諸々のことを書き、合わせてホグワーツの現状を知らせてくれるよう書いておいた。ケンタウルスが禁じられた森を離れてから、また何か異変があったならば、知っておきたかった。
 

 スコープは、他の生徒達より一足早く寝室に向かった。室内には既にアイサムがいて、ベッドに腰掛けてクィディッチの本を読んでいた。
「そういえば、君はクィディッチチームに入ってるのかい?」
 スコープはアイサムに尋ねた。夕食の際、カトリーヌがバロンデュール・クィディッチチームのシーカーであることが分かっていたが、アイサムとはほとんど会話していなかったので訊きそびれていた。
「いや。」
 アイサムは辛そうに否定した。
「自分で言うのもどうかと思うけど、僕は箒で飛ぶのは結構得意なんだ。1年生の時、飛行訓練の時間に先生に褒められたこともあったな。
 だけど、僕の両親には競技用箒を買うだけの余裕が無いんだ・・」
 そこまで言って、アイサムは突然自分の身の上話を始めた。
「僕の祖父母は、タンザニアの出身だった。当時のタンザニアの、特にマグル界は、今以上に酷い状態だったそうだよ。低迷する経済、うち続く旱魃、深刻化する貧困・・・。祖父母は、まだしも経済の状況がよかった近国のマダガスカルに移住した。タンザニアで地獄の苦しみを味わった祖父母にとって、マダガスカルは快適だったんだろう。以後は2人とも他国に移ろうとはしなかった。
 だけど、父は違った。タンザニアに比べれば豊かだろうけど、マダガスカルとて貧しい国であることに変わりはない。父は同じくタンザニアからの移民2世である母と結婚すると、マダガスカルの旧宗主国ということで最も身近な先進国だった−−実際、フランス語はマダガスカルの公用語の1つだからね−−フランスに移住した。
 もっとも、フランスに移住したところで両親の暮らしぶりがよくなることはなかったけどね。先進国において移民がありつけるのは、低賃金労働だけだから。傲慢なフランス人による差別がないだけ、マダガスカルに留まっていた方がましだったんじゃないかな・・」