二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.11 )
日時: 2012/08/31 07:59
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

第5話 小さな決意

 城塞都市レイナード。首都グランダルトや国境の都市シェルクから徒歩で五日から六日ほど——機動力に長けたポケモンを使えば半日ほどだが——の距離にある都市で、先には未開の地が広がっている。
 地理的にも決して恵まれていない都市のためか、ほぼ完全な軍事基地となっている。宿屋や酒場などもあることはあるが、グランダルトやシェルクのような大きなものはない。訓練を終えた兵士達が、同僚と愚痴る程度の粗末な店が数軒ある程度だ。
 薄暗い部屋——
 黴臭い布団に、頑丈な鉄格子。壁には無骨な鉄板が打ち付けられており、床には地味な配色の石畳が敷き詰められている。灰色一色のその空間は、その場にいる者の雰囲気を陰鬱にさせるものだった。
鉄格子の先には、同じような狭い部屋がいくつもあり、通路にはハルバードを背中に担ぎ、サーベルを腰に帯びた兵士達が徘徊している。
「おい、直接じゃないとは言え盗賊退治に協力してやったってのに、何で俺達まで捕まんだよ」
「依頼者は、武家のお嬢様で行方不明。その状態で盗賊団のアジトに一緒にいたのを見られたんじゃ、盗賊の仲間と疑われても無理ないわよ」
 鉄格子にしがみついて抗議するが聞き入れられず、ハーヴィの声は牢屋の中に空しく反響しただけだった。そこに容赦ない澪紗の突っ込みが入るため、彼はますます空しい気分になった。喚いたところで無駄だと気付くと、ハーヴィは軽く舌打ちをして、粗末な寝台に身を投げ出した。
 彼らがいるのは、王国の都市レイナードの監獄だ。此処に連れてこられたのは、単なる誤解であった。フィンの言葉も聞き入れられず、盗賊の仲間だったという疑いも晴らせなかったのだ。
 一般人が行方不明になったとしても、国にとっては大したことではないだろう。しかし、貴族の令嬢が行方不明にでもなれば、それは国にとっては大騒ぎになる。貴族社会が根強く残っているメルクリアでは、これが現実なのだ。
 また、国だけではなく、その家の名誉にも関わってくる。
 貴族社会というものは、外部からの圧力にも強く、権力を振りかざすだけでやっていけるような、至極単純な物のように思えるが、それは間違いである。人によるスキルや実力の違いはあるとはいえ、誰か一人が欠けるだけで機能しなくなるのだ。
 また、貴族同士の確執というものもある。表向きは親しくとも、裏ではお互いに権力を握るために様々な計略を張り巡らせていることも珍しくない。尤も、現在はそれも落ち着いてきているのだが、それでもネームが重要となってくる貴族にとっては、一大事となりうるのだ。
「畜生、これで誘拐疑惑までかけられたら……」
「良くて鞭打ち、最悪の場合処刑ね」
 相変わらず、淡々とした口調で答える澪紗。
「よく冷静でいられんな、お前」
「私は事実を言ったまでよ」
 確かに、そうかもしれない。しかし、二人はこんなところで死ぬのはごめんだと思っている。まだやり残したことがどれだけあるか。
 それならば——
「逃げるしかねえな」
 心の内を見透かしたかのように、ハーヴィが言う。しかし、武器は取り上げられており、監獄の結界の力によって澪紗の魔力も完全に抑えられている。そうなると、脱獄は難しいだろう。それに、辺りを調べたが抜け穴のようなものはない。壁を壊して進むという強行突破も、賢いと言える手段ではない。
 小窓はあるものの、位置が高すぎる上に、とてもではないが人の通れるようなスペースではない。
 その時、鉄格子の扉が鈍い音を立てて開いた。
 そこには、一人の若い男——いや、少年が立っていた。
 ダークブラウンの髪を後ろで束ねており、顔立ちは中性的。服装や装備は他の兵士達と同じであるが、この少年には不釣り合いに思える。それも、彼には武器を持って戦っているようなイメージが浮かばないのだ。
「失礼します!」
 ビシッと敬礼を決めるが、顔立ちの幼さと比較的小柄な背丈もあってか、やはり似合わない。それでも少年は健気に振舞っている辺りが微笑ましい。
「あ、お前は確か」
 そう。この少年を二人は知っていた。バウアーの店に慌てて入ってきた少年だ。しかし、当時の彼はそれどころではなかったため、二人には気付いていないようだ。
 名は確か、シデンといったか。
「エルフィーナ・ヴェルセリエス様の証言により、貴方達の無実が証明されましたよ」
 事務的に振舞おうと思っているのだろうが、少年の態度は軍人としてはやや拙い。無理矢理自分を押さえこもうとしているのが見え見えだ。
「そいつはありがたいな。で、俺達の無実を証明してくれたヴェルセリエス様ってのは?」
「一人しかいないと思うけど」
「解ってるけどよ。やっぱ、挨拶くらいしないと駄目だろ。取り次げないのか?」
「申し訳ありません。エルフィーナ様は、お家の都合で……」
 少年は申し訳なさそうに俯いた。
「ま、そりゃそうだろうな」

Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.12 )
日時: 2012/08/31 08:00
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

 比較的標高の高い都市のためか、風が冷たく感じられる。夜は完全に更けて、街の者の殆どは寝静まっている。地味な配色の路地を闊歩しているのは、武装した兵士達くらいしか見当たらない。そのためか、比較的ラフな格好であるハーヴィと澪紗は、何処か浮いているように思えた。
 夜の街は慣れていたものの、此処まで堅苦しい街は初めてだった。他の街ならば、その辺りに酔っ払って寝ている中年男や仕事を終えて帰路につく娼婦、博打の結果に一喜一憂しているギャンブラーなどの姿が見られる筈なのだが、そのような者は一人もいない。
 治安は最高に良いのだろう。しかし、娯楽が無いというのも考えものだ。治安の良さと娯楽を兼ねそろえたシェルクの居心地の良さを、ハーヴィは改めて認識せざるを得なかった。
 衛兵に通行許可証を見せ、街のゲートを潜って街道に出る。手続きはすぐに済んだものの実に淡々としており、人としての温かさのようなものはまったく感じられなかった。
「なんか、しけた奴ばかりだったな」
「彼らも疲れてるんじゃないかしら」
「それもそうか。貴族のお嬢様が抜け出して、その捜索を何日も続けてりゃあな」
 つい先程まで共に行動していた少女を思い出す。今思い直してみると、庶民とは異なる豪奢な衣裳だったうえ、得物のレイピアも派手な装飾が施されている業物だった。
 まさか——とは思ったが、武家の名門のひとつであるヴェルセリエス家の令嬢だとは思いもしなかったのだ。依頼に使ったフィンという名も、身分を隠すためだったのだろう。
「俺達には関係ないけどな」
 貴族の事情など、知ったことではない。そう思いながら、街道を進むと、やがて木々が鬱蒼と茂る森林地帯が見えてきた。
 緑豊かなメルクリア王国は、街道が森林地帯を横切っていることが多い。自然が残っているとも言えるが、時としてそれは旅人の行く手を阻む要害となる。特に、夜になればそれは非常に危険な道となる。最近では警備も強化されつつあるようだが、町から離れた場所ではそれを信頼していいわけがない。
「シェルクに帰るには、此処を突っ切るしかないが、夜明けを待つべきだな。やっぱ、街で宿を探しておいた方が良かったな。だからといって、今からまたあの街に戻るのも気まずいんだよな」
「そうね。一度、此処で休みましょう」
 澪紗も賛成のようだ。
 森の入口で立ち止まり、乾燥した枝を集め始める。幸い、月と星の明かりがあるため、火種を探すのに時間はかからなかった。
 集めた枝に火を付けると、二人は向かい合って地べたに腰を下ろした。
「ほらよ」
「ありがと」
 カチカチに干からびたパンを澪紗に投げて渡す。決して美味しいと言えるものではないが、小腹を満たすには充分だ。
 街を離れると、どうしてもこのような粗末な食べ物になってしまうが、それは仕方がないことだ。よろず屋稼業を始めたての頃は慣れなかったものの、今では大して気になるものではなかった。
「こんな不味い飯より、アップルパイやシュークリームをいただきたいとこだが、贅沢も言ってられねえか」
 パンに歯を立てて、思いきり食いちぎる。もう少し質のいいものを買っておけば良かったなと、溜息をついた。過去に依頼によって街の外に出ては、このように野宿することはあった。そのため、このような不味い食事には慣れているものの、やはり贅沢はしたい。
 それは、自分が満たされていないからだろうか。いや、今の生活には充分満足している。このようによろず屋をやっていなくても、バウアーにはしっかりと面倒を見てもらっている。家事の手伝いをするくらいで、何一つ不自由ない生活を送れている。
 では、何故こんなことをしているのか——
 食い扶持は自分で稼ぎたいというのもあるが、他に何か理由があるのは間違いなかった。あてもなくこのようなことをする筈がない。態々、危険な街の外に出るのも馬鹿馬鹿しいだろう。
「考えても答えは出ねえな」
「どうしたの?」
「独り言さ。気にすんな」
 くだらない——
 そう思うと、目的とかそのようなものはどうでも良くなってくる。
「悪い、ちょっと寝る。見張り頼む」
 疲れていたためか、睡魔がハーヴィを支配するのに時間はかからなかった。
 唯一無二のパートナーに自分の身の安全を託すと、眠りへと落ちていった。

Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.13 )
日時: 2012/08/31 08:01
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

 ハーヴィが寝静まってから、どれくらいの時が経ったのだろう——
 星の位置を見る限り、大して時間は経過していない。半時も経っていないだろう。このようにただ単純作業を繰り返すだけの時間は、誰にとっても長く感じられるものだ。普段は交代で見張りをするのだが、今日のハーヴィを見る限りそれは無理そうだ。本人は表に出していないつもりなのだろうが、かなり疲労していることが窺えた。
 夜に街の外を出歩くには、警戒を怠るべきではない。特に、森林地帯や山岳地帯には、国の治安が行き届かない場合が多く、ならず者や強力な野生ポケモン達の巣窟になっていることが多い。
「…………」
 街の外は、安心できない——
 そう呟いて、澪紗は茂みの方を睨みつける。敵意は無いというのは解る。しかし、それでも警戒をしておいて正解だったと、彼女は悟った。
「隠れてないで、出てきたら?」
 淡々とした言葉に従い、茂みからひとつの影が現れる。小柄な少女、いや、幼女という言葉の方が相応しいかもしれない。町ではしゃぎ回るような子供と同じような背丈なのだ。
 彼女の格好は、この地方では少し珍しい服装だった。白い衣に緋色の袴、そして草履。その姿は、メルクリアでも東端のカムイラ地方や、東国のオウラン連邦で見られるものだ。そこでは、巫女装束と呼ばれているらしいが——
 自らの体躯よりも大きな九つの尾と頭からちょこんと突き出した狐のような耳を見れば、この幼女がキュウコンの亜人種だということが解る。普通なら東国風の衣装には合わないブロンドの髪も、この幼女の場合は違和感がまったく無いと言っていいほどマッチしていた。
「なんじゃ、相変わらず冷たい小娘じゃのう」
 外見の年齢とは明らかにかけ離れた古風な口調で、キュウコンの幼女が言う。装束の袖を口元に当ててにまにまと笑う仕草は、何処か可愛らしくも見える。
 敵意は微塵も感じられず、恨んでいるわけではない。しかし、信用できる相手でもないのだ。敵でも味方でもなく、また、ある程度知った顔というのは、ある意味一番厄介な存在でもあるのだ。曖昧な立場の者ほど、その厄介さというものは顕著になる。如何に強い相手でも、それが事前に敵だと解れば対策のしようがある。逆に、その強い相手が中立などの立場にいると、どのように動けばいいか深く悩まされるのと同じだ。
「何の用かしら、華鈴(かりん)」
 澪紗は華鈴を警戒したまま、彼女に対して尋ねた。
「其奴が今のお主の相棒か。むふふ、なかなか良い男ではないか」
「莫迦言ってないで、早く伝えたいことを言いなさい」
 少し苛立ちを覚えながらも、冷静に対応する。
「彼奴は生きとるぞ」
「嘘……」
「情報屋のアズライトが言っておった。間違いない」
 信じられない。しかし、それでも心の隅でその情報が正しいものであることを望んでいる自分がいた。
 もし、それが事実なら——
「お主にとっては嬉しい情報じゃからな。妾はそれを伝えに来ただけじゃ」
「そう……」
 正直、事実なら嬉しい。だが、それでも澪紗は自らの感情を抑え、淡々と対応した。
「貴方は大丈夫なの?」
「なに、心配することないぞ」
「貴方は楽しくても、パートナーは大丈夫なの?」
「うむ。彼奴はすぐ倒されるほど、柔な奴じゃないぞ」
 自分のパートナーのことは、自分自身が一番よくしっている。やや自信過剰にも思えるが、華鈴自身がそう言うのだから、気にすることはないだろう。また、知り合いとはいえ今は味方と言える立場ではないため、彼女達がどうなろうと知ったことではなかった。
 情報を貰っておきながら、冷たい対応をしている自分が少し嫌になる。だが、それでもそのような感情を抱いてしまうのは、彼女との共通の過去にあるからかもしれない——
 尤も、素っ気ない態度を取られても華鈴はまったく気にしている様子はなかった。
「さて、妾はそろそろ帰るとするかの。情報を得たら、知らせに来るぞ」
 そう言うと、華鈴は青白い炎に包まれ、その場から姿を消した。
 彼女がいなくなると、再びその場に静寂が満ちる。
「……が……生きてる……か……」