二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.17 )
- 日時: 2012/08/31 20:37
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
第二章 地神の騒乱
第7話 王都入り
メルクリア王国の中南部には、小さな町や村が数多く点在している。他の国内の都市に比べるとどこか寂しい感じがするものの、メルクリア王国の食糧庫として重要な地域でもある。普段、王国に住む人々が口にしているパンや野菜は、この一帯で採れたものがほとんどである。この辺りが世界でも有数の農業地帯なのは、土地が非常に肥沃なことが理由のひとつだろう。世界でも、オウラン連邦のセイリョウ地方、マジュード帝国のマズラー地方と並ぶ三大農業地帯に含まれる。その三大農業地帯でも最も大きいために、世界的に見ても一目置かれている。
三大農業地帯でもこれ程肥沃な土地になったのは、近くに《地神グラードン》の祀られた遺跡があるのが関係しているかもしれないと云われている。地元の住民や《エリュシオン》の一派では、《地神グラードン》による加護があるからだと信じられているが、それも言い伝えに過ぎない。現在は、学者や国の情報部が地脈の調査をしているらしい。
くだらない。
彼はただ、そう思った。
彼とて、神を信じていないわけではない。如何なる者も追い込まれれば神頼みするように、彼も今まで生きてきた中で死地に瀕した時は、心の何処かで救いを求めていた。具体的な対象は無いにしろ、生ある者は知らず知らずの内に精神的なものへと依存してしまうのは、致し方の無いことである。
今の彼にとって信仰などはどうでも良かった。他人からどう思われようが、知ったことではないのだ。名目上はある集団の幹部ではあるが、結局それは——
「はい、まいどー」
寂れた酒場の片隅のテーブルに、麻袋が叩きつけられた。衝撃でテーブルが揺れてグラスの酒が少し零れたが、彼は気にしなかった。テーブルに袋を叩きつけた相手は既に立ち去っており、彼が興味を持っていたのは、麻袋から顔を覗かせている硬貨だからだ。
安い酒を一口飲むと、男は笑みを浮かべたまま硬貨を数え始めた。
「んー、三万アウルかー。もっと欲しかったけど、マジュードの帝都に赴いてカジノで増やせば……」
「愚か者」
「あ」
硬貨同士がぶつかり擦れる音と共に、手元が軽くなった。見てみると、袋ごと九つのふさふさとした尾を持つ小柄な少女に奪われていた。キュウコンの娘はぶすっとした表情で、金を数えていた男を睨みつけている。
「ああ、華鈴おかえりー。いつ戻ったんだい?」
キュウコンの娘——華鈴の視線にも怖じずに、男は軽い口調で相棒の帰還を確認する。
「お主が金を受け取ってる時から、向かいに座っておったぞ」
華鈴の存在に気付かなかったのは、男が周りをあまり気にしないことと、華鈴の背丈が小柄だったというのが理由だろう。尤も、華鈴の白い衣に緋袴という格好は、この地方では珍しいのだが——
彼女の相棒の男の方は、フードを被っているために、顔立ちは窺えないが、声色から推測すれば若いことは窺える。それも何処か適当な、間延びした感じがある。
「んで、お偉いさん方は何だって?」
重要な話であるのだろうが緊張感が全く無い。しかし、華鈴はそんな彼を指摘しようともせず、ただテーブルの上のつまみをもぐもぐと食べながら聞いている。
「王国の連中や《エリュシオン》の上層部を引き続き探れ、だそうじゃ。他の仕事も並行していいみたいじゃぞ」
「地味な仕事だねー。ま、オッサンはお金さえ稼げればそれでいいんだけどね」
「ふふん、お主にはお似合いだと思うぞ、妾は」
華鈴は衣の袖を口元に当てて、むふふと笑った。
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.18 )
- 日時: 2012/08/31 08:36
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
王都グランダルト——
メルクリア王国の首都であり、中央には《天龍(ヒンメル・ドラグーン》の二つ名で有名なグリューネ城が聳え立っている。その存在感は圧倒的で、五国戦争時代や邪神大戦時代の威厳を誇示している。戦争が終わってからは、その壮麗たる城を見るべく、訪れる者も多い。そのため、グランダルトは常に多くの客で賑わっているのだ。
時刻は六時を回った頃だろうか。空は深く暗い青色に染まり、星が輝き始めている。太陽は西の山にほぼ沈みかけており、東の空はより暗い色に染まりつつあった。
王都の宿屋《飛蠍亭》の一室で、ハーヴィと澪紗は寛いでいた。
旅を始めてから一日しか経過していないのだが、二人の顔には何処か疲れ果てたような色が出ていた。というのも、殆んどの宿が満室で、長時間にわたる宿捜しと交渉の結果、ようやく一室を取ることが出来たのだ。
「まさか、宿ひとつ取るのにこんなに苦労するなんてね」
「ああ……」
ベッドに仰向けになっているハーヴィは深い溜め息をつくと、傍らの台に置いてある皿の上から菓子を一粒取って口に放り込み、ワザとらしくボリボリと音を立てた。
一方、澪紗は床に座り込み、ハーヴィと共に集めてきた情報の整理をしていた。「貴方も働きなさい」と言わんばかりの視線を、度々ハーヴィに向けている。しかし、彼はそんな視線に動じず、ボリボリと菓子を食べ続けていた。
「貴方が集めてきた情報だけど」
「……んあ」
「依頼の方は、なかなか目ぼしいものが無いわね。同業者も多いし、此処を拠点にするのは厳しそう」
「ん……」
ハーヴィは話を聞いているのか聞いていないのか解らない返事をした。
そして、枕元に置いてあった雑誌を取り、読み始めた。
やはり、聞いていないらしい。
そんな彼に屈せず、澪紗は集めた情報の確認を続けた。
「やっぱり、王都でも治安が乱れ始めてるのは、事実のようね」
「わーぉ」
「そんなに厭らしい格好の女の人が好き?」
「サンダースのレオナちゃんとか、エネコのみぃちゃんとか可愛いぜ。お前と違って色気があるし」
「…………」
丁度開いているページには、あられもない姿にされてしまっている亜人種のポケモン達の姿が描かれていた。俗に言う、スケベ本というやつだ。
パートナーがいかがわしい雑誌を読んでいることに腹を立てたのか、あるいは話を真面目に聞いていないことに腹を立てたのか、はたまた色気が無いことを指摘されてか——
「いい加減にしないと、凍らせるわよ」
澪紗は手元に、青白い光を放つ球を帯びた。離れたベッドからでも、そこから恐ろしいほどの冷気を感じたため、ハーヴィは雑誌を閉じてベッドから半身を起こした。
「悪かったよ。冗談だって」
疲れているために、あまり深いことは考えたくないというのがハーヴィの本音だった。しかし、だからといってこのまま曖昧な態度を取り続けたら、本気で澪紗に氷像にされかねないと思い、真面目に応じることにした。
彼としては、普段からクールな澪紗をちょっとからかってみたいという気持ちもあったのだが。
「南部の農業地帯で、小規模な地震が群発しているらしいわね。あと、日差しが強い日が続いているみたい」
「ああ、酒場にいた冒険者が言ってたな。原因は解らないらしいが、自然現象の一言で済む話だろ」
「そうだと良いけど」
「気になるか?」
「ええ」
澪紗は何処か引っかかったような思いを抱きつつも、他の情報を確認し始める。
「そういや、見つかったか?」
「莫迦ね。そう簡単に見つかりはしないわよ。それに、まだ旅を始めてから然程経っていないわ」
「強いな、お前は」
果たしてそうだろうか——
澪紗は自分の過去を思い出し、憂いを帯びた表情でハーヴィから視線を逸らした。
「強くなんてないわ……」
「ま、お前のことに深く入り込む気は無いが、あまり深く考えるなよ。話したくなったら、いつでも遠慮なく言いな」
そう言うと、ハーヴィはベッドから勢いよく立ちあがると、立てかけてあった剣の鞘をベルトに固定した。
「さて、それじゃあ飯買ってくるぜ。何か食いたいもんあるか?」
「任せるわ。でも、お菓子ばかり買ってこないでよ?」
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.19 )
- 日時: 2012/08/31 20:36
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
夕闇に舞う二つの影。その影が上空から大地へと向けて疾風の如き速さで急降下していく。
一閃——
その影は、地上を駆け抜けていた別の影を引き裂き、再び上空へと舞い戻る。突然の上空からの襲撃に、地上にいた者達は、狼狽を隠せずにいるようだ。血液をドロドロと垂れ流している仲間を見て、武器を持つ手はガタガタと震えている。
彼らのポケモンも同様だ。一瞬にして数を減らされたことに対し、怯んでいる。
何かが砕ける音と共に、ポケモン達が崩れ落ちる。彼らの頭には巨岩が落とされており、頭を潰される形で絶命している。
「ジュノン隊長、敵集団は撤退し始めたようです!」
「ご苦労、シデン」
空を飛ぶ影の一つ——一対の翼に長い尾、そしてあらゆる獲物を噛み砕く牙。岩のような灰色の身体を持った翼竜、プテラに乗った少年は再び急降下による攻撃を行った後、上空に戻った。そして、すぐ傍を巨竜カイリューに乗った女性の前でビシッと敬礼を決める。
鎖帷子に蒼き外套。そして、背中に担がれたハルバード。その装備は、この中性的で優しそうな雰囲気の少年には、あまりにも不釣り合いだ。
「追撃は……する必要は無いな。よし、戻るぞ」
「はいっ!」
女性の顔立ちは、深く被った外套のフードで窺うことは出来ない。しかし、女性としては低めで威厳のある声は、彼女の気の鋭さを感じさせる。フードの下には、美しくも冷厳な、女騎士としての顔があるに違いない。
メルクリア王国騎士団《聖光の翼(リヒテン・フリューゲル)》隊長、セリカ・ジュノン。それが彼女の名だ。
今、セリカと共にいるシデン・グラナートにとって、彼女は憧れの対象だった。彼女にチラチラと視線を向けているが、それがとても輝かしい。嫌らしい意味ではなく、正義のヒーローに憧れる純粋な子供のような、濁りひとつない視線だ。
「どうした、シデン。何か気になるのか?」
「あ……、すみませんっ!」
シデンは慌てて、へこへこと頭を下げた。その反動でプテラからずり落ちそうになったが、何とかバランスを保つ。
何も悪いことをしていないのに謝ってしまうのは、彼の性格のためだろう。セリカは特に気にしていなかったのだが、シデンはあまりにチラチラと彼女を見ていたために、彼女が気を悪くしたと勘違いしたのだ。
「いや、何も責めていないぞ」
「は、はぁ」
「前から思ってたが、お前は真面目すぎるのが欠点だな。出世を望んでいるのか、それとも素なのか……まぁお前の場合は素だろうな。たまには肩の力を抜け」
「はい、解りました。以後、精進致します!」
それが駄目なんだ、とセリカは苦笑した。
「それにしても、此処のところ先程のような妙な集団を見かけますが、一体何者なんでしょうか?」
「他国の斥候のようにも思えるが、西のルインスティルや南のマジュードでも奴らの姿が目撃されているらしい。特に、マジュードでは貴族が取り入ってるらしいが……。此処最近活動を見せ始めている邪教団《タルタロス》との関係もあるかもしれないが、どうなのかは解らん」
「物騒ですね」
シデンは何処か深刻そうな顔立ちで俯いた。
事実、最近では、大陸が不安定になりつつあった。二人も、メルクリア南部にて妙な集団を見かけるようになったという情報を得て、見回りにきたのだ。すると、そこで情報通りに妙な集団と遭遇、さらに相手からの襲撃もあったために戦闘を展開する羽目になったのだ。
相手の戦闘力は高かったが、名高き《聖光の翼》である二人にとっては苦戦するほどの相手ではなかった。戦闘開始から五分も経たずに、撃退することが出来た。
「今考えても仕方ないだろう。王都に戻ってから、上に報告しよう」
「はい」