二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.20 )
- 日時: 2012/08/31 12:31
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
第8話 襲撃
ハーヴィは買い物を済ませ、宿へ帰る途中だった。
屋台に好物の菓子が売っていたために立ち食いをした結果、少し遅くなってしまっていた。そのことを後悔しながら、足を少し早める。
空を見上げると黒く染まっており、無数の星の瞬きも強くなっている。南西の空に赤き光を放つ《地神グラードン》が、いつもより妖しい輝きを放っていることが気になっていたが、それよりも彼は、澪紗に対する言い訳のネタを考えることに集中していた。このように寄り道をして彼女を怒らせたことは、初めてではないからだ。
——変なとこでうるさいからなぁ。そう思い、ハーヴィは苦笑した。
しかし、そのようにお互いに遠慮なく小言の一つや二つを言えるというのは、それだけ深い絆で結ばれているということだ。それを肴にして、安価な蒸留酒をちびちびと呑むのも悪くない。
路地裏を進み、宿への道に入ろうとした時、ハーヴィは何者かを見つけた。
「なんかキナ臭えな」
黒い外套を纏った者が二人、宿とは別の路地へと入っていった。一見、旅人のようにも見えるが——ただ者ではないことをハーヴィは悟った。特に根拠があるというわけではないが、以前、森で襲ってきた謎の男達と雰囲気が似ている——そう思ったのだ。
それだけではない。少し前の記憶を辿ると、山岳遺跡で盗賊達と何やら話し合っていた者達とも似ているのだ。
ハーヴィは気付かれぬように、二人の後をつけることにした。
壁に身を預け、木箱や樽などの物陰に隠れながら、慎重に、付かず離れず二人を追う。彼らはこちらには気付いていないようだが、ハーヴィは緊張を解かずに動きを監視する。
(やっぱ、ただ者じゃねえな)
酒場の樽の陰に身を隠し、分かれ道で立ち止まった二人の様子を窺う。
ハーヴィ自身、相手がどのような者であるかを読むことに、特別優れているわけではない。しかし、そんな彼でも今までの経験で、その者の雰囲気のようなものを察知することは出来た。第六感と言えば聞こえがいいかもしれないが、何の根拠もない、ただの勘に過ぎない。彼が二人を追っているのは、勘でしかない。
それでも、勘というものは、時には事前に計算するよりも恐ろしいほどの精度で結果を齎すこともある。事実、戦闘においても、相手の全てを正確に計算しているだけではまず勝つことはできない。勿論、戦闘にはある程度の計算は必要ではある。だがしかし、最終的に重要になのは、自分自身の力量だ。
(動いたか)
二人が動いたのを確認し、樽の影から出る。しかし、この動作が誤算であったことを、ハーヴィは次の瞬間に悟った。
「っ——、あっぶねぇ!」
咄嗟に頭を下げ、体勢を低く取った。すると、彼の頭上を鈍い光沢を放つ何かが通り過ぎていき、近くにあった鉢植えの植物の葉を切り裂き、壁に突き刺さった。
片刃で小振り、柄がかなり短いことから、投擲用の短剣、ダークであることが解る。ナイフの一種だが、戦闘においてはこのように投げることを主としている短剣である。
「ちっ、気付かれていたか」
もし、この場から動けば、再び刃が飛んでくるに違いない。だからといって動かずに留まるというわけにはいかないだろう。相手が立ち去るとも思えないし、もう一人が間合いを詰めてくる可能性は、大いに有り得るからだ。
その予想は、見事に的中した。もう一人がハーヴィの目の前に現れ、ギラリと光る刀身を振りおろしてきた。咄嗟にハーヴィは荷物を投げ捨て、腰から肉厚の刀身を持つグラディウスで受け止める。
「にゃろうっ!」
強い——
膂力が優れているだけではなく、刀身は確実にハーヴィの急所を捉えてきている。
このまま身を低くした体勢で鍔迫り合いを続ければ、何れ力負けをする。そう考えたハーヴィは体術を駆使し、相手の足元に蹴りを入れた。
手応えが無かった。相手もハーヴィの蹴撃を紙一重のタイミングで回避し、距離を開けたのだ。すぐにハーヴィは立ち上がり、再び自分を目掛けて放たれたダークを刀身で弾いて叩き落とした。
(マズイな。此処じゃあ思うように戦えねえ)
まず、場所が路地裏であることだ。人通りが極端に少ない上に、狭いために思うように動くことが出来ない。また、相手の攻撃を回避するのが難しくなり、特に遠距離からの投擲が厄介となる。
そして、数だ。一人で二人を相手しなければならないうえ、相手も実力者だ。また、澪紗もいないために普段通り戦えるという保証もない。せめて、一人なら倒すことが出来る相手なのだが。
近距離で戦っている相手の方は、一撃のひとつひとつは重いものの、受け流す、あるいは回避するのは容易い。しかし、問題はもう一人だ。次から次へと投擲をしてくるため、そちらにも気を遣わねばならない。このままでは、的になっているようなものだ。
(攻めなければやられる——)
そう判断したハーヴィは、芳しくない戦況を打開すべく、斜め上方向——相手の首筋を狙い鋭い突きを放つ。飛んできた短剣は身体を捻ることにより回避し、とにかく数を減らすことに彼は集中する。
突きは紙一重のところで、相手の刀身によって受け流された。しかし、ハーヴィはすぐに隙をリカバリングし、中段——相手の脇腹に回し蹴りを入れた。
「なっ——」
相手もそれを読んでいたのか、蹴りは軽々と避けられた。
戦闘経験は非常に豊富であるに違いない。ハーヴィ自身、特に戦闘の上手い下手を評価できるほど経験があるとは言えないものの、今まで闘ってきた相手の中では、強さが格段に違う。更に、場所があまりにも戦いに適していないので、始末が悪い。
少し前に、森で遭遇した黒衣の者達と同じようだ。あの時は澪紗がいたために難なく撃破することが出来たものの、今回は彼女がいない。ハーヴィは澪紗が如何に優れた戦力であることを知り、また、自分自身の不甲斐無さに軽い苛立ちを覚え始めた。
(ったく、こんなところで死ぬなんてごめんだぞ!?)
バランスを崩し、膝をついてしまう。
その隙を突き、相手は一気に走り寄って間合いを詰めてきた。間に合うが、もし回避しようものなら、後方のもう一人が投げてくる短剣に当たってしまう。
「くそったれ……!」
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.21 )
- 日時: 2012/08/31 12:31
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
万事休す——
そう思った時だった。
「身を伏せて! そのまま動かないでください!」
何処からか、若い男、少年とも取れる声が響いた。
ハーヴィは突然の声に驚いたため、結果的にその声に従うこととなっていた。
そして——
何かが砕ける音と共に、ハーヴィに向けて走り寄ってきた敵が倒れた。
ふと視線を移すと、自分の目の前に無骨な形状の岩が数個、浮遊していた。ただの岩ではないようで、ところどころに鋭利な針のようなものが突き出ている。すべてが岩で出来ているようだが、充分な凶器となり得るだろう。
相手がぶつかったのは、その浮遊している岩塊だった。死んではいないようだが、最早戦うことはできないようだ。それに怖気づいたのか、投擲で戦っていたもう一人の敵は、その場から立ち去っていった。
よく解らないが、助かったようだ。ハーヴィは大きく息を吐くと、剣を鞘へと納め、置いてあった荷物を拾った。
「大丈夫ですか!?」
自分に身を伏せるように叫んだ者と、同じ声だ。屋根に登っていたのか、近くの建物から軽い身のこなしで飛び降りてきた。それと同時に、浮遊していた鋭利な岩塊はフッと消え去った。
「お怪我はありませんか……って、貴方は確か……」
「怪我はねえよ。助かったぜ、ありがとな」
「い、いえ! 僕は《聖光の翼(リヒテン・フリューゲル)》に属する騎士として当然のことをしたまでです!」
そう言って、少年はビシッと敬礼を決めた。
親しいわけではないが、知った顔だ。
ダークブラウンの髪に、ぱっちりとした瞳。ハーヴィは、仕草のひとつひとつに何処かぎこちなさと初々しさが残っているこの少年を知っていた。
「それにしても、こうやってまたお逢いするとは、何か不思議な感じですね」
「まあ、そんな感じはするな。しかし、辺境都市に牢獄、そして王都の路地裏か。色んなとこに回されるんだな、騎士様ってのは……」
「本来なら、辺境の警備が僕達《聖光の翼》の仕事なんですが、僕はまだ若輩者でして。勿論そういった仕事もやらせてもらえるのですが、雑用を回されることなんて珍しくないんです。今日も、本当はもう仕事は終わってるんですが、王都内の見回りを頼まれているので……」
何処か自嘲気味に、少年——シデンは苦笑した。その間にも、倒した相手を捕縛しているところから、任務に対する集中力は長けているようだ。
ハーヴィの推測は、ある意味当たっていたようだ。実力はあるのだろうが、面倒な仕事を押し付けられてしまうのは、若さとシデンの性格が大きく関係しているのだろう。尤も、彼自身は嫌々やっているわけではなさそうなので、問題はないのだろうが——
やはり、軍人としてやっていくには、この少年の性格はあまりにも優しすぎて、あまりにも甘すぎる。
「ところで、王都にいらっしゃったということは、何か新たな依頼を見つけたのですか?」
「仕事の詮索をするのも、騎士様の仕事か?」
詮索されるのが嫌なわけではないが、少しからかってやりたい気分でハーヴィは言った。
シデンのことを嫌っているわけではない。むしろ、ハーヴィは彼に対してそれなりに良い印象を持っている。しかし、このような性格だからこそ、いじってやりたくなるのだ。
「あ……。い、いえ、違うんです。少し気になったので……。すみません、出過ぎたことを……。気を悪くされたようでしたら、申し訳……」
「そういうつもりで言ったんじゃねえよ。」
予想通りの反応だった。
なるほど、これは絶対に苦労するタイプだなと、ハーヴィは改めて思い知らされる。
「俺が此処にいるのは、何て言ったらいいんだろうな。宛もなく旅をしてるってとこか。依頼も旅を続ける中で、受けていくつもりだけどな。どうだ? 今のところフリーだし、何か簡単な仕事があるなら受けるぜ?」
「すみません。では、お言葉に甘えさせていただきます。僕の妹が南の町ミルフェルトにいるんです。彼女に、手紙とお金を届けていただけますか? 最近物騒ですし、民間の配達屋に頼むのも不安なので。ですが、貴方ならお強いでしょうから」
ミルフェルトは、王国南部の農業地帯にある町の一つだ。
メルクリア王国には徴兵制がないため、田舎から出稼ぎに来て軍人となったのだろうか。そう考えると、農業で生きていくというのは大変なのかもしれない。今回の依頼も、肉親を気遣っての仕送りといったところだろう。
「大して面識のない俺を信用していいのか? そのまま金をかっぱらって逃げるかもしれないぜ?」
「その時は、その時。僕の見る目が無かったということです。それに、貴方がそのようなことをする方とは思えません。なので、お願いします!」
「そりゃどうも。オーケー、その依頼、承ったぜ。手紙と金は、《飛蠍亭》って宿まで頼んだぜ」
「はい!」
そう言うと、シデンは明るい笑顔を見せて、深々とお辞儀をした。
「おい、いつまで油売ってるんだ! あたしは腹が減ってるんだ! 早く仕事を終わらせろっ」
突然、上空から響いた甲高い声——おそらく少女のものだろう。それを聞いて、シデンは少し気まずそうに頭を抱えた。
声が響いてから、一秒足らず——まさに電光石火とも言える速度で、それは姿を現した。
「ごめん、琥珀(こはく)」
岩肌のような灰色をした一対の翼に、深い紫色の翼膜。同じく灰色の長い尻尾。銀髪のセミロングの可憐な少女で、口元から見えている八重歯が可愛らしい。
古のポケモン、プテラだ。亜人種であることから、シデンのパートナーなのだろう。先程の鋭利な岩塊も、彼女の技によるものであることは間違いない。しかしながら、優れた敏捷性と破壊力を有していることから恐ろしいポケモンであるのは事実だが、こうして亜人種の姿を見ると、何処か拍子抜けしてしまう。
「大体お前はいつもいつも……これだから……むううう……」
顔を真っ赤にして、プテラの少女はぽかぽかとシデンの腹を叩いている。ぶつぶつと文句を言っているところも可愛らしいのだが——
「ったく、胃を痛めんなよ」
「いえ、いつものことなので大丈夫……痛い、ちょっと痛いってば、やめてよ琥珀!」
パートナーのポケモンにまで振り回されているシデンが、何処か哀れで仕方がなかった。