二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.23 )
- 日時: 2012/08/31 19:47
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
第9話 見えぬ未来
案の定——
「まったく、何処で油売ってたの?」
「悪い、寄り道してパイ食ってた」
部屋に戻ってみると、澪紗はご機嫌斜めだった。可愛らしい耳と尻尾も、如何にも怒ってますと云わんばかりに不機嫌そうに揺れている。
黒衣の二人組を追っていたというのが遅くなってしまった原因なのだが、そもそも初めから屋台でアップルパイなどを食べていなければ、トラブルに巻き込まれなかったに違いない。しかしながら、ハーヴィとしては好物の甘いものに対する欲求は抑えられないもので、心の奥深くから囁く甘い悪魔の声に逆らうことなど至難の業であった。それならいっそのこと、欲望に身を任せてしまおうということで寄り道をしたのだが、その結果がこれだ。
どう見ても彼が悪いのだが、そこで開き直ってしまう辺りが彼らしいと言えば彼らしい。彼自身反省はしているものの、態度を見るとそんな様子は微塵も感じられない。
「どうせ、その後ゴロツキかなんかに喧嘩売られてたんでしょう?」
ゴロツキではないが、襲われたのは事実であるわけで。
「よく解ったな」
「手に土がついているし、かすり傷もあるわよ」
「おっと、いけね。よく洗って手当てしておかないとな」
そういいつつも、ハーヴィはベッドの方に歩きだし、そのまま身を投げ出そうとした。しかし、ベッドに氷の塊——それも先端が鋭利な刃物となっており、美しくも恐ろしい凶器となって降り注いだ。そのまま身を投げ出せばザックリと刺さっていただろう。
突然であったために、ハーヴィは背筋が凍るような感覚に襲われた。
「おい、澪紗。冗談にも程が——」
「本当のことを話しなさい」
どうせ、その辺りの女の子をナンパしていたと思ってたんだろ。嫉妬すんなよ——そう言いかけて、ハーヴィはそのまま言葉を飲んだ。
目がマジだ。本当のことを言わなければ、氷漬けにされかねない。
澪紗にいらぬ心配をかけたくないというのが彼の本音である。しかし、これからの宛もない旅のことを考えると、話しておいた方が良いに決まっている。そう悟ると、ハーヴィは深い溜息をつき、本当のことを話すことにした。
「前にレイナードから帰る時に、変な三人組に襲われただろ? あの時の奴らと雰囲気の似たのがいてな。そいつらをこっそり尾行してたら気付かれて、そのまま戦う羽目になっただけさ」
「戦う羽目になっただけって……」
「こうして無事だったんだからいいだろ」
「莫迦」
相手は人間二人だったが、流石に無茶だったということは、ハーヴィ自身はその身を以て理解した。相手の素性が何なのかは解らないが、あまり単独で行動しない方がいいだろう。
しかし、彼自身の中で旅の目的のようなものが少し見えてきたような気がしていた。
「ああ、それと依頼をひとつ受けてきたぜ」
「どんな内容?」
「故郷にいる妹に手紙と金を届けてくれ、だそうだ。依頼者は、明日の朝一で此処まで来る」
ハーヴィは汚れた手を拭くと、買ってきた食べ物を取り出しながら、澪紗に依頼内容の詳細を話した。
「農業地帯の町ミルフェルトね。此処からだと、三日ってところかしら」
「そうだな。大して遠いところじゃない。それに丁度いいだろ、お前の気になることってのもあるんだからな」
依頼を受けたのは成り行きであり、そこまで考慮したわけではない。それでも、何かしらの手掛かりが掴めるというのなら、そのような過程などはハーヴィにとってはどうでも良い。
厄介事に巻き込まれたくはない。そう思っていたが、好奇心の強い彼のことだ。また、澪紗の力になれる可能性もあると考えれば、この依頼——間接的ではあるが、決して無意味なものではないと、彼は思っている。
「依頼の方は解ったけど、その黒衣の奴らってのが気になるわね。どうするの?」
澪紗はハーヴィに尋ねる。
「下手に考えても無駄だろ。絡まれりゃ、相手してやればいいだけだ。売られた喧嘩は買ってやらないとな」
「貴方の場合は、考え無さ過ぎるとおもうけど」
あまりにも適当といえるハーヴィの意見に、澪紗は肩を竦めた。
「まぁ、気にすんな。それより、飯にしようか。安物だが、酒もあるぜ」
「そうね。貴方がなかなか帰ってこなかったから、お腹が減って仕方無いわ」
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.24 )
- 日時: 2012/08/31 19:52
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
緋色の絨毯が敷かれた長い廊下。一定の距離ごとに古代のポケモンを象った彫像が置かれているものの、やはり何処か物寂しい。このようなつまらない場所にはいつまでもいたくないために、とっとと走って他の場所へと出たいのだが、今の彼女達にはそのような余裕など無かった。
彫像の影に身を隠し、二手に分かれた廊下の先を窺う。
視線の先には、プレート・メイルに身を包んだ衛兵が一人、徘徊している。赤いサーコートに、腰に帯びたブロード・ソード。王立騎士団《天龍の盾(ドラグーン・シルド)》である。城内の警護及び治安維持が、彼らの仕事だ。
しかしながら、辺境を担当する《聖光の翼(リヒテン・フリューゲル)》や諜報部の《暗黒の瞳(ドゥンケル・アウゲ)》より高い地位に位置するため、実質この二つの隊も《天龍の盾》の麾下にあるといっても過言ではない。そのためか、この二つの隊に介入することも珍しくないのだ。
実際、辺境で自分達を連れ戻したのは、彼らだから——
「うう、困りましたね。どうしましょう、ジャンヌ」
縦にロールした金髪の娘が壁に背中を貼りつけながら、隣にいる両腕のガントレットに赤と青の薔薇を携えた銀髪の娘に尋ねる。ジャンヌと呼ばれたロズレイドの娘も、現状を芳しく思っていないようで、何とか息を整えている。
先程からずっと同じような状況だが、コソコソと隠れながらも、二人は現状を打開すべく策を考えていた。
「エルフィーナ様、やはり抜け出すのは無謀かと」
「解っています。解っているんですが、私はこんな自由もない生活にはウンザリなんです」
このまま諦めて戻るというのが最善の選択なのだが、エルフィーナにはそのような選択肢は初めから無かった。
少し我が儘なお嬢様にジャンヌは半分呆れていたが、長年付き合ってきた身としてはほぼ慣れきっていた。
エルフィーナが城を抜け出したくなるのは無理もないだろう。貴族の娘であり、王位継承権もある。そのため、あまり自由に暮らすことが出来ないのが現実だ。生活自体は裕福ではあるが、日々の剣の修行や勉学、礼儀作法などに、エルフィーナはいい加減飽き飽きしていた。
少し前までは、簡単に城を抜け出すことが出来たのだが、遺跡を探検している時に自分を探しに来た《天龍の盾》に遭遇してしまい、連れ戻されてしまった。そして、それ以来、自分の身の回りの警備が強化されたのである。
「ジャンヌ、貴方の睡魔を誘う技で何とかなりませんか?」
「私も考えましたが、少し厳しいですね。この距離だと届きません」
「うぅ……どうしましょう?」
強行突破という手段もあるが、現実的ではない。剣にはそれなりの自信はあるものの、相手の方が強い。また、もし深手を負わせようものなら、自分の身も危うくなる。
「む、あれは」
ふと、ジャンヌが何かの気配に気づく。
後方からとぼとぼと歩いてくる一人の男。板金鎧にブロード・ソード、そして赤いサーコートから、《天龍の盾》の者であることが解る。しかし、理解できなかった。殆どの者は、既に仕事を終えて兵舎へと戻っているはずだ。
「えぇっ、後ろからも見張りが……んぐぐぐ」
思わず大きな声を出してしまいそうになったところを、ジャンヌによって止められる。
隠れて、若き騎士の動向を探る。
よく見ると、ポケモンを同行させている。この辺りでは珍しい、白い衣に赤い袴というオウラン風の装束だ。九つの尾を持っていることから、そのポケモンがキュウコンであることが解る。
(あのキュウコン……。いや、まさかな)
何か思うところがあったが、ジャンヌは詮索せずに息を潜めて遠くから歩いてくる二人に視線を移した。
「あー、ったくもう。何でこんな面倒なこともやんないといけないんだ。仕事やめようかな」
何やら、愚痴っているらしい。しかし、《天龍の盾》という名誉ある仕事を嫌がる者は、そうそういない。
出で立ちも、何処かおかしい。髪の毛はあまり手入れされていないようで、黒髪がぼさぼさになっており、適当に後ろを結んでいる。鎧とサーコートの着こなしも整っておらず、歩き方もがに股と、とても騎士とは思えないような態度だ。
突然、男は二人が隠れている彫像の近くで止まり、片膝をついた。
「っ——!」
見つかった——
明らかに、視線がこちらに向いている。
だからといって、自分の身を傷つけられるわけではない。抜け出したことがばれたために、再びこのように隠密に行動するのが難しくなってしまうのが気がかりなのだ。
騎士の男は、遠くから見ると若く見えたが、近くから見ると中年の男のような印象がある。しかし、顔立ちは整っており、顎に生えている無精髭も、不思議と不潔さを感じさせない。声質も若々しいが、何処か憂えたような印象があり、言われなければ年齢が解らないだろう。
「書斎の右奥の本棚、下から五段目。引く」
「え?」
「抜けた先は、街の外、東の下水道。んじゃ、そーいうことで頑張れー」
そう言うと騎士は立ち上がり、さっきよりも軽い足取りで先へと進んでいった。
「なるほど、隠し通路か」
何かを思い出したかのように、ジャンヌが言う。
「どういうことです?」
「大戦時のことを考慮してか、この城には避難用の隠し通路がいくつかあると聞いたことがあります。もし、今の男の言っていたことが本当ならば、抜け出せるかもしれません」
「行ってみましょう。書斎に行くならば、怪しまれない筈です!」
嬉しそうに走り出そうとするエルフィーナ。しかし、ジャンヌはそんな彼女を手で制する。
「お待ちください。本当のことを言っていたとは限りません。信じるのですか?」
相手は、自分達を連れ戻した者だ。彼が直接連れ戻したわけではないのではあるが、やはり鵜呑みにしていいものではない。勿論、本当のことを言っている可能性もゼロではないのだが、この場合、逆に疑ってかかった方が良い。
それ以前に、ジャンヌとしては、エルフィーナを城の外に出したくないというのが本音だ。身分上の問題もあるが、まだ外の世界を知るには早いし、戦闘経験も彼女から言わせればまだまだ浅い。
しかし、それでも——
エルフィーナの望みが叶うのならば、力になってやりたかった。
「ええ。行ってみるしかないと思います!」
「ふ、解りました。何処までもお供いたします」
そして、二人は来た道を引き返し、書斎へと向かうことにした。
彼女達は、自分達がこの先大きな事件に巻き込まれていくということを、この時ばかりは予想していなかった。
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.25 )
- 日時: 2012/08/31 19:53
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
「ま、上手くやるんだよ」
二人が去ったのを、胡散臭い騎士は振り返って確認した。
「まったく、お主も物好きじゃの」
傍らから、キュウコンが半ば呆れた口調で言う。
「仕事には含まれてないんだけどねー。やっぱり、未来を背負う若者のためには、一肌脱いでやらないと。それに、運命を免れたとしても騎士団を率いる身になる子だし、もっと今の世界情勢を知る必要があるでしょー」
「やれやれ。お家騒動にでもなったら、どうするつもりじゃ」
「その時はその時。あの子自身のことだし、あの子自身で決着つけないと。それに、あのロズレイド——ジャンヌちゃんって言ったっけ。あの子と運命を共にするのなら、こんなところに籠っているわけにはいかないさ」
よく、周りの人間からは何をしたいのかが解らないと言われる。
実際、自分でもその辺りのことがよく解らない。
「とりあえず、めんどっちぃ仕事終わらせちまおうぜー」
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全角3000文字以内なのに投稿できない時があるんですが、自分だけでしょうか。