二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.26 )
- 日時: 2012/08/31 22:50
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
第10話 隠し事
王都を出てから半日。ハーヴィと澪紗は依頼を遂行すべく、王都と農業地帯、そして南のマジュード帝国へと続く街道を進んでいた。
街道の左右に広がる新緑の草原のところどころには畑が見られ、様々な作物がそこで育てられている。そこでは、幾人かの農夫達が、自らの作物を極上のものに育て上げるべく、汗水を垂らしながら働いているのが窺える。
依頼の内容は簡単なもので、一人の若き騎士の妹に、手紙と金を届けるというものだ。運び屋のギャロップやカイリューに乗れば、半日足らずで終わらせることのできる依頼なのだが、敢えて二人は徒歩で行くことにした。
元々はその場の雰囲気で始めた旅なのだ。それならば、ゆっくり楽しめばいい。そう考えた結果である。
日は高く昇っており、肌を撫でる緑風は優しく爽やかに感じられる。冒険といってはやや言い過ぎかもしれないが、旅をするには絶好の天候だ。以前、《鉄蛇亭》に訪れた吟遊詩人が歌っていたサーガを思い出し、ハーヴィはメロディだけを口ずさみ始めた。
大陸ではありふれた冒険譚だ。若者が旅を始めて、様々な困難に巻き込まれ、時には罪を背負いながらも、健気に冒険を続けていくという、陳腐で他愛も無い話。大まかな内容しか覚えていないが、そんな感じだった。
「ご機嫌ね」
普段のすました表情を僅かに崩し、澪紗はハーヴィに微笑んだ。
「俺はいつもどおりだけどな」
澪紗に話しかけられたため、ハーヴィはメロディを途中で止める。
「依頼が終わった後はどうするの?」
「そうだな。王都に戻って、オウランに行くか、シェルクを超えてルインスティルに行くか、このまま真っ直ぐ南に行って砂漠の国マジュードに行くか……。いや、わざわざ街道に沿って進むこともねえか。冒険者ってのは、道無き道を行くもんだしな。この歌の主人公もそうだろ」
予め敷かれている道を行っても、それは冒険とは言えない。その『道』というものは、今歩いている街道などを現す道そのものでもあり、人生——生き様においても当てはまる。普通に平穏で無難な日々を過ごすというのも悪くはないが、敢えてそんな道から外れてみるのも面白いかもしれない。
なるべく面倒なことは避けたいが、全てが順風満帆では、それは冒険とは言えないだろう。山があり、谷があるからこそ、冒険というのが成り立つ。
吟遊詩人のサーガ通りにならなくても、それでいい。どんな旅になるかどうか、今のハーヴィには知る由もないが、自分自身のやり方で道を探していくつもりだ。
「結局、何がしたいのか解らないわ」
半ば呆れたように肩を竦める澪紗。
呆れられるのも仕方ないだろう。冒険者という職業がないわけではないが、二十歳を超えてから憧れるようなものではない。
妙に大人びているところもあれば、このように子供らしい一面もある。そこがハーヴィの良いところでもあり悪いところでもある。それを澪紗はよく解っているのだが。
でも、こうして自分が旅に出たのには、目的があった。しかし、それはまだ打ち明けるべきではない。
「何考えてんだ?」
ハーヴィが澪紗に声をかける。
「いえ、何でもないわ」
心の中で思っていたことなので、その内容を打ち明けずに零紗は言った。
「さてと、そろそろ昼飯にしようぜ。少しのんびりしたとしても、予定通り三日でミルフェルトに着くだろ」
街道の傍らにある小さな建物を見て、ハーヴィは提案した。
簡素なつくりの休憩所だ。食事は勿論、宿泊をすることも出来る。このような休憩所が街道に設置されていることは珍しくない。旅人は此処で休息を取り、旅を続けるための体力を蓄えるのだ。
お世辞にも豪華と言えるような食事や寝床にありつくことはできないものの、軽い休息を取るには充分であり、料金も非常に格安なために、利用する者は多い。
建物の中に入ると、そこは多くの客で賑わっていた。見られる顔は街の酒場とは異なり、旅人や傭兵、遊歴中の《エリュシオン》の神殿騎士といった者の顔立ちが多い。中には仕事の休息を取っている農夫と見られる者もいるが、やはり全体で見ると少数に過ぎない。
隅の方にあるテーブル席が空いていたため、二人はそこに腰を降ろすことにした。
「何食う?」
「グリーンサラダ」
「んじゃ、俺はパンケーキでメイプルシロップとクリーム多めにするか」
「甘いものばかり食べていると、太るわよ」
「動いてるから平気だっての」
「そういう問題じゃないでしょう」
「悪かったな、今度から気を付ける」
いつものようなやり取りで、二人の注文は決まる。
ウェイトレスに食べたい物を告げると、二人は運ばれてきた水をちびちびと飲み始めた。
「ん?」
突然、テーブルがかたかたと揺れ出す。澪紗が揺らしているのかと思ったが、彼女はそのような行儀の悪い真似はしないし、彼女自身もその揺れに気づき、戸惑いを覚えた。
周りの者も揺れに気付いたのか、騒がしかった店の中が少しばかり静まりかえる。しかし、特に深刻な顔をしている者は殆どおらず、僅かな戸惑いの後は、テーブルの上の食事に手をつけたり、グラスに注がれた液体を流し込んだりと、普段の酒場で見られるような様子に戻る。
「そういや、なんか小さな地震が起こってるとか言ってたな」
「誰もそれほど気にした様子ではないわね」
この辺りで地震が起き始めた頃は、誰もが驚きを隠せずにいたが、今は慣れてしまっている者が多い。しかし、その内大きな揺れが来るかもしれないと不安がる者も少なからずいるため、現在は調査が続けられている。
元々、土地の関係上、この辺りは地震が多い。大地の力が強く宿っているのが原因らしいが、真相は定かではない。しかし、それを考慮しても、この地域での地震が多発しているのだ。今のところ被害はないものの、一部の遺跡の壁が崩れるなどの報告も上がっているのが現状だ。
「俺は気になるけどな」
「行ってみる?」
「お前も気になるんだろ?」
「ええ。根拠は無いんだけど、どうも妙な感じがするのよ」
澪紗は口元に手を当てて俯き考え込む。
根拠は無いのだが、彼女がよく言う「妙な感じ」というのは、よく当たるのだ。未来予知の力や超能力を持っているわけではなく、勘のようなものだ。
「お前がそう言ってんのなら、何かあるんだろうな。依頼終わったら行ってみるか」
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.27 )
- 日時: 2012/08/31 22:52
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
暫くすると、注文した品が運ばれてきた。
新鮮な野菜に惜しみなくドレッシングがかけられたグリーンサラダに、形は不揃いだが焼き立ての香ばしい湯気が立ち上るパンケーキ。こちらには、生クリームとメイプルシロップも大量にかかっている。どちらも豪華なものではないが、軽い食事としては充分だろう。
二人は「いただきます」と言うと、それぞれの皿の料理に手を付け始めた。
「美味いな」
「ええ」
口をもきゅもきゅと動かしながら、澪紗は微笑んだ。
「泊まるくらいの金は充分あるが、どうするか。色々とやるべきこともあるしな」
ハーヴィは口に含んでいる物を水で流しこみ、言った。
「焦っても仕方ないと思うけど」
「それもそうか。とりあえず、今は食うことに集中しようぜ」
ハーヴィ自身も焦っているという自覚はあった。しかし、誰だってやりたいことは早くやってみたいという気持ちになる。ハーヴィほどの年齢の者なら、尚更そうであろう。澪紗もそれを指摘はしているものの、決して悪いことだとは思っていない。
だが、結局は焦ったところで仕方無いのだ。出来ることから、少しずつやっていけばいい。誰もが焦りはするが、最終的にはそれに気付く。今、二人に出来ることは、空きっ腹を食べ物で満たすことだ。何気ない会話を交えながら、二人は食事を続けることにする。
しかし、食事以外にも二人には今、やるべきことがあった。
会話をしながらも、周りの者達の談笑に耳を傾ける。
そう。情報収集だ。
依頼を終えた後、二人は《地神グラードン》の祀られている遺跡へと足を運ぶつもりでいる。《エリュシオン》の聖地でもあり、また危険な場所であるため、何の情報も無しに足を踏み込むのは自殺行為に等しい。
直接誰かに聞くという手もあるが、遺跡を荒らす邪教徒や盗賊に間違われたり、情報の対価に金などを求められてはたまったものではない。そのため、盗み聞きと言えば聞こえが悪いが、二人はこの手段を選んだのだ。
「なかなか良い情報が聞こえてこねえな。ったく、好みの女とか誇張した冒険譚とか、知りたくもねえっての」
旅人が多いために有力な情報が掴めると思ったのだが、聞こえてくるのは世間話ばかりだった。ある程度のことは覚悟して、直接聞いた方がいいのかもしれない。
「仕方ない、ちょっと聞き回ってくるか——」
「そこのお二方。もしかして、《地神グラードン》が祀られているテラ神殿に興味があるのですか?」
ハーヴィが立ち上がろうとした時だった。
二人が座っていた席の近くに、一人の青年が立っていた。
顔立ちは少し気が弱そうな感じで、中性的だ。紺色のコートにフェルトハットという大人びた格好はしているものの、全体的に線が細いために、やや頼りなくも見える。一応武装はしているようで、腰のベルトには肉厚な片刃剣、ファルシオンが佩刀されている。
後ろに流された紺色の髪は、何処か女性的だ。また、色白の顔に円らな黒い瞳は、とても男のものとは思えない。
コートの裾からは、緋色の尾羽が顔を覗かせている。首元には、白くふさふさとした羽毛が生えており、これらの特徴から、彼が亜人種のドンカラスであることが窺える。
「どうやら盗み聞きされていたのは、私達のようね」
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.28 )
- 日時: 2012/08/31 22:53
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
気弱そうではあるが、只者ではないということを二人は悟っていた。
「別に私はそんなつもりじゃなかったんですが。ただ、貴方がたの会話がたまたま聞こえただけです。……失礼、私はアズライトと申します」
アズライトと名乗ったドンカラスの青年は、帽子をとってぺこりと頭を下げた。
「情報屋ねぇ」
情報屋アズライト——
ハーヴィは今までの仕事で幾度もその名前を聞いていた。
冒険者の間では、その名を知らぬ者はいないといってもいい。特に宛もなく大陸を周りながら、必要とする者に情報を与えることにより生計を立てているという、情報屋だ。
このご時世珍しい職業ではないものの、割安で正確な情報を提供してくれるため、冒険者の間では頼りにされている存在だ。尤も、誰もがこの気弱そうで女性的な青年を見て、彼がアズライトであることを知ると、驚きの声をあげるのだが。
「下手に盗み聞きして変な情報掴むよりは、安い金で正確な情報を得た方がいいか」
「そうね。依頼料も貰っているし、懐には充分余裕があるわ」
言って、澪紗は懐から銀貨を取り出そうとする。
「いえ、今回は代金は結構です。先日、とある貴族の方から、情報料の十倍以上ほどのお金をいただいたので、お金には困っていません。それに、私も仕事というよりも趣味で情報屋をやっているようなものなので」
物好きな貴族もいるもんだ、とハーヴィは口に出しそうになった。
「お前にどんな事情があるかは知ったこっちゃねえが、タダで情報をくれるってのならありがたいな」
そう言うと、ハーヴィはパンケーキの最後の一切れをひょいとつまみ、口に放り込んだ。そして、水を一気に流し込むと、席から立ち上がり、店の外へと歩いていった。
「あ、情報は?」
「私が聞いておくわ。座ったら?」
ハーヴィが店の外に出たのを確認すると、澪紗はアズライトに座るように勧めた。彼は「では失礼します」と一言ことわり、静かに椅子に腰を下ろした。
「悪いわね」
少し哀しげな笑みを見せて、俯く澪紗。
「もう、気付いているのでは? 彼が席を外したのも、私達を気遣ってのことでしょうし。彼とは初対面ですが、なかなか洞察力に優れていますよ」
ただの偶然かも知れないが、ハーヴィが周りの人物の心情を読み取ることに長けているのは事実だった。それを悟ってか、アズライトはずっと様子を見られていたことに苦笑する。
「そうかもしれない。でも、詳しいことまで話したら、絶対に無茶をするから。それに、私自身の問題だから」
改めて、澪紗は真剣な表情でアズライトに向き直る。哀しげな表情は消えており、いつものような氷の如く凛とした表情に戻っていた。すぐに切り替えることができることから、アズライトは澪紗が如何に心の強い少女であるかを実感した。
「そうですか、解りました」
アズライトも彼女の心情を悟ったのか、彼女とハーヴィの関係などについては詮索しないことにする。
「華鈴からも聞いたし、それがあなたの情報だということも聞いたわ。同じ眷族としてあまり疑いたくはないけど、本当なのね?」
「ええ」
アズライトの表情も、真剣そのものだった。
「ただ、あまり良い状況とは言えません。邪教団と絡んでいるところを目撃していますし、詳しい動きもこちらからは読めません。せめて、彼女に貴女のことを伝えたいのですが、どうも周りに厄介なのがいまして、なかなか近付けないのが現状です。力に慣れないのが、申し訳なく思います」
「いえ、あなたも無理しないで」
「ありがとうございます。ですが、全力でお力になるつもりです。私も少なからず、関係していましたからね」
そう言って、アズライトは苦笑する。
そう。二人は以前から面識があった。元々親しい間柄ではないものの、互いに信用できるという関係だ。以前森で出会った華鈴との関係に近くはあるが、こちらは誰とも争うような人柄ではないことを澪紗はよく知っていた。
「失礼、話を戻しましょうか。彼女のことですが、テラ神殿で目撃されたという情報があります。申し訳ないですが、これはやや古い情報なので、信用度は低いですが」
「いえ、それでもありがたいわ。行けば、何か解るかもしれないから」