二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.3 )
- 日時: 2012/08/30 21:24
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
第2話 孤児院
辺境都市シェルクと王都グランダルトを結ぶアウゼン街道を外れ、半時は歩いただろう。道はあるものの、それはまさに獣道と言うべきもので、左右には木々が鬱蒼と茂り、地面のところどころから根が突き出している。
日の光もあまり届かず、まだ昼だと言うのに薄暗い。当然、街灯もないために夜になれば灯りは欠かせない闇となるに違いない。それに、街道を外れると言うことは、いつ野生のポケモンやならず者に襲われてもおかしくないということでもある。そのため、わざわざ街道を外れるのは、魔境のポケモン討伐を頼まれた者か、余程の命知らずくらいしかいないだろう。
しかし、そんな獣道を進んでいるのは、二人の若い男女である。バスケットを持っているため、ピクニックに行くかのように思えるが——周囲から見れば、危険な場所に自ら歩んでいくこと自体が信じられないだろう。
それでも、二人には目的があった。また、道中で敵に襲われたとしても、太刀打ちするだけの力量は備わっていると、彼らは自負している。
「気をつけて」
何かに気付いたのか。ハーヴィを守るかのように澪紗が前に出た。そして、背を向けたまま手に持っているバスケットをハーヴィに手渡す。
「ん?」
「持ってて。私一人で充分よ」
ポケモンの五感は、人間のそれを遥かに凌いでいる。ハーヴィも、澪紗の注意により何者かに狙われていることに、ようやく気付く。しかし、荷物で両手が塞がっているために、腰に帯びている剣を抜こうとしたが出来ない。尤も、その必要はないことを彼自身解っていたが。
「来るわよ。すぐ片付けるけど、いざというときは、荷物を置いてでも剣を抜いて」
「その必要はないだろ。信頼してるぜ」
「ふん、怪我しても知らないわよ」
そんなやり取りをしつつも、二人は集中を解いていない。
細い腕を前に伸ばし、掌を上に向ける。小さい手の上に青白い光が宿り、収束していく。
「そこっ!」
少女の双眸が鋭くなる。叫ぶと同時に、姿を現した敵に向けて、光を放った。
球状を成していた青白い光は、放たれると同時に夜空を引き裂く電光の如く迸った。しかし、電撃とは明らかに質の異なるそれは、少女の胸を貫かんとばかりに放たれた硬質な円錐型の凶器を空中で静止させた。
静止した巨大な針はすぐに地面へと落下した。硬質な地面では無かったが、巨大な針は硝子のような音を立てて粉々に砕け散る。
「なめられたものね」
「大丈夫か?」
「ええ。敵は大した強さじゃないわ。ただ、少し数が多いわね……」
再び、氷のような鋭い視線で針が飛んできた方向を睨みつける。すると、そこには巨大な針を放ったとみられる敵の大群が姿を現していた。
数は、軽く十体を超えているだろう。両手に巨大な馬上槍(ランス)を思わせるかのような針を携えた蜂の姿が、そこにはあった。
スピアーと呼ばれる種族のポケモンだ。両腕の針には毒を宿していると言われており、刺されれば一溜まりもない。しかし、それでも澪紗は戦慄さえも覚えていない。それどころか、氷の如く鋭い視線には闘志が宿っていた。
襲われる覚えは無いのだが、おそらく知らず知らずのうちに彼らの縄張りに足を踏み入れていたのだろう。人間と共に過ごしているポケモンなら別だが、縄張りに足を踏み入れると言うことは、敵対行動のひとつとして捉えられてもおかしくはない。故意に踏み入れたのではないにしろ、スピアーたちにとって二人は自分たちの領域を侵した敵に過ぎないのだ。
侵略者を排除すべく、蜂の大群は針を一斉に射出した。しかし、澪紗はその針に向けて青白い閃光を放ち、次々と撃ち落としていく。
直線的な軌道のため、相手の攻撃を読むのは彼女にとって容易いことだった。しかし、それでも矢のような速度のある弾を撃ち落とすには、集中力と判断力、そして精神力がどれだけ必要であることか——
「一気に片付けるわよ」
澪紗の周囲の空気が冷えていく。しかし、急激な気温が低下したにも関わらず、ハーヴィは特に驚いた様子もない。何故なら、これが彼女の得意としている技のひとつであることを知っているからだ。
突然真冬になったかのような感覚に、スピアーたちは戸惑いを隠せずにいたようだ。そんな彼らに追い討ちをかけるように猛吹雪が発生し、激しい冷気が打ち付けていく。
冷気を司るポケモン、グレイシアであるからこそ出来る芸当である。彼女にとっては苦ではなく、それこそ肌にとまった鬱陶しい羽虫を叩き潰すが如く容易いことである。
極度の低温は、あらゆる物質や生物の動きを停止させる力を持っている。それは生命活動だとしても例外ではない。スピアーたちは次々とその生命活動を停止し、ボトボトと地面に落ちていった。落ちたスピアーはその衝撃と共に、四肢を粉々にして砕け散っていった。
「終わったわよ」
すべてのスピアーが絶命したのを確認すると、澪紗はフッと微笑を浮かべて振り返った。
「相変わらず、容赦ないな」
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.4 )
- 日時: 2012/08/30 21:25
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
獣道を進んでいくと、やがて広場のような場所に出た。そこでは、十人余りの子供たちが、走り回ったり木登りをしたりと、元気に遊んでいるのが窺える。
広場の奥の方には、朽ちかけた建造物があった。動かなくなった時計に、錆びた女神の像。《エリュシオン》の教会であるが、大戦後から放置されたのか、あるいは長年の風雨で劣化したのかは解らないが——
「いつも通りだな」
「ええ……」
今は孤児院として機能しているのだろう。今でこそ、メルクリア王国では大きな戦乱は無いが、それでも不幸な子供たちは多い。親に捨てられたり、病気などで親を失ってしまう子供たちは、いつの時代でもいるのだ。それでも、子供たちの表情は明るいものだった。明るく振舞っているだけかもしれないが、同じような境遇にいる仲間たちと共に過ごすことで、傷を少しずつ癒しているのかもしれない。
二人に気付いたのか、子供たちが一斉に走ってきた。ハーヴィも手を振り、走ってきた子供たちを笑顔で迎える。相当慕われているのだろう、二人のもとに集まった子供たちはとても嬉しそうである。
「よぉ、よくきたなっ!」
「タク、駄目じゃないのっ! もっとしっかりした挨拶しないと……」
「うるせーよ、マオ。ハーヴィにいちゃんはそんなの気にしないもんな!」
「ふえええん、ジェイがぶつー!」
「そんなことしてないもん!」
「おなかすいたのー……」
などなど、挨拶しに来たのは解るが、それぞれが己の感情を素直に表している。
「ようこそいらっしゃいました」
子供たちの後方から、修道服を纏った一人の女性が現れた。
外見上の年齢は、二十代中盤といったところだろう。若々しさの中にも何処か落ち着きがあり、優しく包み込むような温かさが感じられる。顔立ちも美しいが、何よりも慈愛に満ちた母親のような雰囲気があるのが解る。
服の上からでも解るが、かなり華奢な身体つきだ。しかしながら、弱々しさはまったくといっていいほど無い。
「こんにちは、エレインさん」
「いつもありがとう」
清楚な修道女は、やわらかな笑みを見せてハーヴィと澪紗から食べ物の入ったバスケットと袋を受け取った。
二人はよくバウアーから受け取った食べ物を送り届けていた。国からの援助もあるとはいえ、それだけで十人余りの子供たちを養っていくのは厳しいのだ。戦乱が収まり、大局的に見れば食料に悩むことがまず無くなったメルクリアではあるが、貧富の差は深刻なものとなっているのだ。
「お仕事は捗っていますか?」
「ん、ぼちぼちってとこかな。おっさんにも面倒見てもらってるし」
「そう……」
ふと、エレインは何処か悲しげな表情を見せた。
いつも自分に見せるこの悲しげな表情の原因を、ハーヴィはよく解っていた。
「……やっぱり、不安か?」
「勿論です。今は大きな戦乱は無いとはいえ、魔境に行けば強力なポケモンに襲われることもあります」
そう、彼女はハーヴィの身を案じているのだ。
特に、ハーヴィは孤児院に世話になったというわけではない。しかし、バウアーの依頼で食料を届けているうちに親しくなったのだ。今ではすっかり、子供たちにも好かれている。身を案ずるのも当然のことと言えるだろう。
「ま、寝床もらってるわけだし、自分の食い扶持くらいは自分で稼がないとな」
「そうですか……」
ハーヴィには、親がいなかった。傭兵だった父親は彼が産まれる前に東国の戦場にて散り、母親も彼を産んですぐに、世を去ったのだ。そこを、彼の父と親しかったバウアーが引きとったのだという。
彼の性格は、誰からも好かれるものだった。そのためか、周りともすぐに打ち解けていき、実の親はいなかったものの決してつらい生活ではなかった。歳の割に、意外にしっかりとしていたところがあったのだろう。今でも、人気者というわけではないものの、誰とでも良い関係を築いている。
「ハーヴィにいちゃん、一緒に遊ぼうぜー」
「あー、解った。解ったから引っ張るなって! というわけで、ちょっと付き合ってくる」
子供たちに服を引っ張られ、ハーヴィは小走りで彼らについて行った。
「ごめんなさいね、貴女のパートナーなのに」
「いえ、気にしなくていいわよ。なんだかんだいって、彼も楽しいみたいだし……」
子供たちの中に一人の青年がいるために浮いているようにも思えるが、不思議と違和感がない。子供にも好かれやすいのかもしれない。早速振り回されているハーヴィを見て、澪紗は微苦笑を浮かべた。
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なんてこった、想像以上に字数制限が厳しい。
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.5 )
- 日時: 2012/08/30 21:29
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
香茶の上品な香りが、部屋の中に充満している。決して上質な茶葉ではないものの、午後の一時を満喫するには十分すぎるだろう。貴族達には嘲笑されるかもしれないが、庶民にとっては茶菓子も合わせれば、少し贅沢な気分になれる。
寂れた孤児院とはいえ、部屋の中は清潔感が漂っていた。外側から見れば少しみすぼらしいものの、部屋全体を見渡すとしっかりと清掃されており、物が散らかっている様子も感じられない。子供達の世話と共にこのようなことも一人でやっているというのだから、彼女——エレインはなかなか凄い者なのかもしれない。慣れていない者がこれだけの仕事量を毎日こなせば、過労で倒れてしまうに違いない。
「悪いわね、忙しいのに上がらせてもらって」
「いいのですよ」
まさに慈愛に満ちた聖母といった感じの微笑み。見ているものの心の闇を振り払い、明るく照らし出す光のように思える。
相変わらずね、と澪紗は独りごちる。
王国が冷戦状態にあった十数年前に比べれば、だいぶ平和になっただろう。それでも、世界全土という範疇で見れば、その平和も各国間の均衡の上でギリギリ成り立っていると言うものにしか過ぎない。共和国とは国交が回復しているとはいえ、冷戦時代を過ごしていた者にとっては、やはり信頼できる相手ではないと言うのが事実だ。
仮初の平和とでもいうのだろう。治安状態が安定しているメルクリア王国であるからいいものの、他国で生きていくにはエレインの性格はあまりにも優しすぎる。
いや、国に限ったことではない。いつの時代も、心優しき者というのは悪意ある者に貶められていくのだ。汚れひとつない白を見れば、誰もが黒で汚したくなるように。しかし、彼女のような者がいるからこそ、こうして不幸のどん底にいた子供達の明るい笑顔が見られるのかもしれない。
そう考えると、自分はどれだけ汚れているのだろうか。
「どうしました?」
「いえ、何でもないわ」
私らしくない——
自分の過去を思い出してしまったのか、少し情けなくなってくる。しかし、誰にも触れられたくないために、何とか込み上げてくる感情を抑え込む。
そう。これは自分自身の問題なのだから。
「隠さなくてもいいんですよ」
この人に隠し事は通用しないか——
澪紗は深い溜息をつくと、香茶をゆっくりと啜った。
「貴女には敵わないわね」
「誰にでも、心の闇というものはありますよ。それに、過去に犯した罪というものは決して消すことはできない……。生きていく上では、必ず背負わなければなりません。《創世神アルセウス》様も、この世界を創造するために多くの犠牲を払った。そのように聖典に記されています」
「そうね……。礼拝堂あいてるかしら?」
「はい。いつでもどうぞ」
ほんの気休めにもならないというのは解っていた。しかし、いつもエレインは悩める時に、神に祈ることを勧めてくる。敬虔な《エリュシオン》の信者なのだろう。澪紗には信仰するものは無かったが、断るのも悪いためか、礼拝堂で祈ることは日課となっていた。
現実的な者から見れば、神という存在に縋るのは馬鹿馬鹿しく思えるだろう。それでも、誰もが悩める時には、知らず知らずのうちに頼ってしまうのは事実である。目に見えない何かに——神という精神上の存在に縋ってしまうのは、生けるものの性なのかもしれない。
(《創世神アルセウス》か……。神様なんていても、無慈悲なものね)