二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: Atonement【ポケモン二次創作】 ( No.32 )
- 日時: 2012/09/01 04:57
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
第12話 地神の神殿
ミルフェルトを発って、二時間くらいの距離だろうか。人里離れた小さな丘の上に、それは建っていた。
テラ神殿という名称だが、一つの古代都市というイメージの方が強い。ところどころに倒れた柱や崩れた建物が点在しており、肝心な神殿はその街の跡のような場所を抜けた先に、その形をしっかりと残して建っていた。
足場はあまり良いとは言えない。先に進むには、石畳の道を遮っている倒れた柱を越えねばならないし、一旦道を外れて、崩れかけた建物の中を抜けねばならない場所もある。
薄暗い神殿の中に入れば、この建造物が古代に建てられたものだということは明らかになる。壁のところどころに記された古代文字。アンノーンという種族のポケモンによって、記されているものらしいが、解読できる者は少ないという。
二人はハヤテの家に一泊した後、《地神グラードン》が祀られているというテラ神殿を訪れていた。
ミルフェルトからは然程離れてはいないものの、やはり《エリュシオン》の聖地でもあり、足場も悪いためか、人の姿が無い。時々、教徒が巡礼のために訪れるようだが、この辺りで地震が起きているという情報が広まっているからか、彼らの姿も見られない。
不安定な石畳を踏みしめながら、二人は長い廊下を警戒しながら進む。休憩所でアズライトに聞いた情報によると、黒衣の集団がまだ潜伏している可能性が高いというものを聞いたからだ。
もし遭遇して、相手に敵意があるようならば、戦うつもりでいる。しかし、あまり広い場所ではないため、戦うのには苦労するだろう。戦うことになるようならば、広い場所に出てからであってほしいと、二人は思っている。
しかし、敵に遭遇することは無く、広くなった場所——祭壇の間に到着した。
《エリュシオン》で祀られている神の一柱なだけあって、豪勢な作りの祭壇だ。古代文字の刻まれた石がいくつも敷き詰められた段は幾段にも連なり、一番高くなっている場所には、黄金製の杯や燭台に囲まれて一体の巨大な像が佇んでいる。
何かの怪物を思わせるかのような像だ。二足歩行で手足の先には鋭い爪があり、首と腰、尻尾からは棘のようなものが突き出している。やや前傾である体勢と背中と手足を覆う鎧のような鱗は大型の爬虫類を連想させる。
この巨大な像が象っているものこそが、《地神グラードン》だ。聖典や伝説などで語られているイメージが、そのまま像となっているらしいが、結局それは創作上のものであるため、実際はどのようなものかは解らない。しかし、それを踏まえたうえでも、高い祭壇の上に佇む地神の像は、何処か神聖で威圧的だった。
「圧巻だな。こいつがグラードンか」
《エリュシオン》の教徒でないハーヴィでさえ、そう思うほどのものだった。
「私達が今立っている大地を、創造したと言われているわね。陸をグラードンが創り、海をカイオーガが創った……。天地開闢の章に、詳しく書かれているわ。聖典の序章、それもページを捲ってすぐの場所ね」
澪紗は頭の片隅にあった知識を、軽く曝け出した。
「よく知ってるな。俺は勉強嫌いだし、そういうのは疎くてな。日曜学校でも授業中に寝てたからな」
《エリュシオン》の教徒でなくとも、日曜学校の授業で軽く触れる範囲だ。そのため、聖典の天地開闢の章の触りを知っている者は珍しくないのだが——
「教徒ではないけど、聖典くらいなら軽く目を通したことがあるから。色々と勉強の足りないあなたに、もう少し詳しく話そうかしら?」
まるで相手の反応を楽しむかのように、澪紗はハーヴィに尋ねた。
「いや、やめてくれ。ぶっ倒れちまう」
元々、本をあまり読まず、堅苦しいことが苦手であるハーヴィにとっては、遠慮願いたいことであった。尤も、澪紗もハーヴィがそのような人間であることを知っていたため、無理に教えようなどとは思っていない。
そもそも、二人は聖典の内容を勉強するためにこの地に来たのではない。
「さて。来てみたはいいが、どうしたものか」
辺りを見回すが、特におかしなところはない。倒れた柱や岩が見られるだけで、特に怪しい者がいるというわけではない。
勿論、そう簡単に見つかるわけではない。以前、貴族の令嬢の依頼で訪れた遺跡にはあからさまな仕掛けがあったものの、そういったものは全体からみれば少数派である。
「こうなったら、片っ端から香ばしい場所を調べるしかねえな」
面倒臭い。そう呟くも、ハーヴィは特に不快に思っている様子は無い。むしろ、何か面白そうなものを見つけられるかもしれないという期待が、彼の顔に滲み出ている。
「そうね。でも、さっきから妙だと思わない?」
辺りをきょろきょろと見渡しながら、澪紗がハーヴィに問いかける。何かに警戒しているのか、兎のような長い耳もぴくぴくと動いている。
「ああ。明らかに、誰かの気配がある。誰かに監視されているな。妙に威圧的な感じだが、襲ってくる様子はねえのか?」
姿は見えないものの、凄まじい程の視線を二人は察知していた。
「警戒するに越したことは無いわ」
いつ襲われてもおかしくないような感覚に押しつぶされそうな状況だが、不思議と殺気は感じられない。ただ、こちらを虎視眈々と狙っているような視線だ。しかし、油断をした隙に襲われる可能性もゼロではないため、二人は集中を解かずに辺りを調べ始めた。
壁を見ると、アンノーンによる古代文字が目に入ってきた。元々、不可解な姿をしたポケモンではあるが、それが文字列となって並んでいるために、幾何学的な模様に見えてくる。
「わけわかんねー」
ハーヴィは壁の古代文字を読もうと思ったが、壁に目をやってすぐにやめる。見ているだけで頭痛がしてくるからだ。
「神々の均衡が崩れた時、世界は破滅へと……」
「っ!?」
後ろからの声に、ハーヴィは思わず飛び上がりそうになったが、その声が澪紗のものであることを悟ると、その場に座り込んでしまった。
「まったく、脅かすなっての」
ハーヴィは胸を撫で下ろし、深く息を吐いた。
「ごめんなさい、なんか貴方が知りたそうにしていたから」
少し意地の悪そうな笑みを見せる澪紗。
- Re: Atonement【ポケモン二次創作】 ( No.33 )
- 日時: 2012/09/01 04:59
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
「真面目に解読しようなんて思ってねえよ。それより、何で読めるんだ?」
「情報屋に聞いただけよ。もっと詳しく訳すなら、まだまだ勉強しないと駄目だけど」
情報屋というのは、昨日休憩所で出会ったドンカラスの青年だろう。情報屋というだけあって、その辺りの解読方法などは、ほぼ知っているのかもしれない。恐らく、澪紗は彼からその情報も仕入れたのだろうが、大まかな訳とはいえ、短期間で古代文字を覚えてしまう辺り、かなり冴えている者であることが窺える。
「情報屋ねえ」
如何に澪紗の頭が切れるとはいえ、すぐに覚えられるようなものなのだろうか。
いや、本当は解読法に付いて既に知っていたのではないか。今までの何かを隠しているような様子を見ると、ハーヴィはそのような気がしてならなかった。
(色々と聞きたいことはあるが)
誰にでも触れられたくないことはある。そう悟ると、ハーヴィは敢えて詮索しないことにした。
「ほんと、お前には驚かされるよ」
言って、ハーヴィは適当に取り繕った。
今までの依頼で、ハーヴィは澪紗に度々驚かされている。戦闘は勿論だが、このような知識を必要とする場面で彼女が活躍することが多いのだ。この手のものに疎いハーヴィとしては助かっているのだが、それと同時に畏怖にも似た感情を抱いていた。
「お互いさまよ」
ふふっ、と澪紗は僅かに目を細めて微笑んだ。
「それもそうだな」
ハーヴィは立ち上がり、再び祭壇の間の調査を始めた。
「さて、調査再開と行こうか」
「そうね」
切り替えようとしたところで、澪紗は何者かの視線に気付く。
(え? この感覚って……)
澪紗は鋭い眼つきで、周囲を見渡し始めた。先程よりも、耳が小刻みに動いている。
「どした?」
「気配が増えた? それに、この感覚……」
澪紗は、確かに気配を感じ取っていた。だが、今までの緊迫した空気に麻痺したのか、その正体を掴めずにいた。
そして——、もうひとつの気配を捉えていたのだ。
「…………」
口元に手を当てて、無言で周囲を見渡す澪紗。
「おい、どうしたんだよ?」
「いえ、別になんでもないわ」
どうやら、暫くの間我を失っていたらしい。ハーヴィの言葉で、澪紗は平静を取り戻した。
「これだけ怪しい場所なんだ。何か変なのがいるのは間違いねえよ。警戒するのは結構だが、あまりピリピリしすぎていても、いざという時にすぐに動けねえぞ?」
「…………」
恐らく、ハーヴィは気付いていないだろう。初めに感じ取った視線はともかく、今感じ取った気配はほんの僅かなものだ。それこそ、全神経を研ぎ澄まさなければ、感じ取れない程だ。
「そうね。ごめんなさい」
確かに、ハーヴィの言うとおりだ。下手に緊張を解かずにいては、非常時にすぐに動くことは難しい。頭では解っていても、緊張を強めすぎると、身体への伝達が遅れて、結果として行動を起こすのにラグが生じてしまうのだ。
色々と気になることがあったが、澪紗はハーヴィの言葉に従うことにした。
「ま、気にすんなよ。いつでも戦えるようにだけして、適当に行こうぜ」
ハーヴィと澪紗は周囲の適度に警戒をしながら、気になる場所を少しずつ探っていった。いつでも戦闘に移れるように、ハーヴィはグラディウスを抜刀し、澪紗は自分の周囲に小さな氷塊を浮遊させている。
壁や石畳の隅を片っ端から剣で突いたり、手で押したりしながら調べたりした。一応古代の遺跡で重要な場所であるため、その度に澪紗に注意された。
「怪しいところは……まさかな」
- Re: Atonement【ポケモン二次創作】 ( No.34 )
- 日時: 2012/09/01 05:01
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
唯一調べていない場所——
《地神グラードン》を象った像の配置されている祭壇だ。
常識的に考えてみると、有り得ない。そのような解り易い場所に、仕掛けを置くようなことがあろうか。だが、何かがあると確信したかのような表情で、ハーヴィは祭壇に向けて歩き始めた。
「そんな解りやすい場所に、何かが隠されているなんて——」
澪紗が否定する間もなく、ハーヴィは祭壇の近くを調べ始めていた。もし、《エリュシオン》の教徒に見られていたら、シャレにならない。メルクリア王国は《エリュシオン》とのつながりが深いため、許可なしにこのようなことをすれば、それこそ厳罰ものだ。下手すれば、邪教徒や盗賊として処罰されてもおかしくない。
「ちょっと、ハーヴィ!」
流石にこれはまずいと思ったのか、澪紗はハーヴィを止めるべく祭壇へと走っていった。
「別に変なことするわけじゃないんだし、これくらいやってもバチは当たらないさ」
ハーヴィは像の裏側を調べているようで、向こう側から声が聞こえてくる。
《地神グラードン》の像の向こう側から、何かが崩れ落ちるような音が響いた。同時に、
「うわ、嘘だろぉぉぉ!?」
悲鳴とも取れるようなハーヴィの声。
「ハーヴィ?」
嫌な予感がした。
澪紗は急いでグラードンの像の裏側へと向かった。だが、そこにハーヴィの姿はなく、地面に大きな穴が開いているだけだった。
「何てこと……」
恐らく、足場がかなり老朽化していたのだろう。古代の神殿のため、土台が弱まってしまっているのは無理もない。
澪紗は身を乗り出して、大穴を覗いた。下の様子を窺うことは出来たが、かなりの深さがあることが窺える。下では、ハーヴィが腰を擦りながら蹲っていた。高度はあったものの無事だったようで、澪紗は深い溜息をついた。
「ちょっと、ハーヴィ! 大丈夫?」
「心配すんな。ちょっと腰を打ったが、大したことねえよ」
天井の穴から、見下ろしてきた澪紗に、ハーヴィは声を張り上げて答えた。安心しているような仕草を見せているとはいえ、言動から相当な心配をしていることが窺えた。
事実、目立った外傷はなく、何の支障もない。しかし、問題はどうやって戻るかということだ。このまま神殿の地下で朽ち果てるようなことになるのは、流石のハーヴィもごめんだと思っている。
「莫迦! 少しくらいは警戒して調べてよ……」
「悪い悪い。それにしても、いきなり足場が抜けるとは思ってもなかったぜ。いてて……」
落ちた時に腰を強打したようだが、幸い折れてはいないようだ。ハーヴィは打ったところを擦りながら、何とか立ち上がる。
「それにしても、どうなってんだ此処は?」
老朽化が進んでいたのかもしれないが、祭壇の間の下にこのようなフロアがあることを、ハーヴィは予想していなかった。
気になることはあるが、澪紗と分断されてしまったことが気掛かりだ。この状況で戦闘になるのが、一番まずい。
「おい、澪紗。そっちになんかロープを引っ掛けられそうなものはあるか?」
冒険者としての最低限の道具は持ち歩いているため、このような状況を打破するのは難しいことではない。何としてでも、この場から元の場所に戻るのが先決だ。
天井に向けて、大声を出す。出来ることなら、このまま落ちた穴から戻りたかった。
「悪いけど、そんなことしている余裕なんてないわ」
その言葉を残し、ふと澪紗の姿が消えた。
「澪紗……?」
そう、考えられることは一つだけだった。
神殿に足を踏み入れた時から感じられた視線とは別に、澪紗が感じ取っていたという殺気。
「ちぃっ!」
澪紗の言うとおり、もっと警戒すべきだったのか——
ハーヴィは己の浅はかさを呪い、近くの瓦礫を思いきり蹴飛ばした。
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区切り方が中途半端で申し訳ないです。
字数制限がなかなか厳しいもので。