二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: Atonement【ポケモン二次創作】 ( No.39 )
日時: 2012/09/12 19:25
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

第14話 大地の思念

 雨が止んだ後、吹き抜けの天井から青空が顔を覗かせた。
 ああ、やっぱり。
 さっきの雨は、姉さんの術だったんだ。
 それならば、自分の術が打ち消されてしまったのも納得できる——
 不思議と、澪紗は冷静な気持ちになっていた。
「ほんと、いつも容赦ないんだから。痛っ……」
 水の弾丸の直撃を食らい、壁に全身を叩きつけられたのだ。ダメージも相当なもので、身体を動かそうとすると激痛が走る。しかし、折れたような感覚はなく、戦闘になったとしても大きな支障は無いだろう。
 しかし、攻撃を食らってからだいぶ経つと言うのに、なかなか痛みが消えない。このことから、相当な威力であったことが、澪紗は身をもって思い知らされた。
「こうしてなんていられないわね」
 暫く休みたかったが、そうはいかない。下に落ちてしまったハーヴィのことも気になるし、このような場所でいつまでも単独行動をしていては危険だ。
 澪紗は自分の身体に鞭打ち、なんとか立ち上がった。

Re: Atonement【ポケモン二次創作】 ( No.40 )
日時: 2012/09/12 19:26
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

 穴に落ちてから、どれくらいの時間が経過しただろうか。
 何としてでも地上に戻りたいが、なかなか出口を見つけることが出来ない。
 無理もない。初めて来る場所であるうえ、突発的な事故に巻き込まれ、このような事態に陥ったのだ。このような状況に陥り、冷静かつ正確な判断で、的確な答えを導き出せる者は、そうはいないだろう。
 そして、何よりも——
「くっそ……澪紗……」
 自分のことより、唯一無二のパートナーのことを思う。彼女のことであるため、戦いで死ぬようなことはないと信じているが、やはり心配である。戦いに巻き込まれていることは、間違いないだろう。澪紗の戦闘力の高さは、ハーヴィもよく解っている。
 そんなことを考えながらも、ハーヴィは薄暗い通路を進んでいく。祭壇の間の地下も、何やら人工的に作られたもののようだ。原形を留めていないものが多いが——古代のポケモンを象った石像や燭台がところどころに配置されており、この場所も神殿の一角であることが窺える。
 このように、神殿や遺跡の地下に、未だ掘り起こされたことのないような場所があるというのは、珍しいことではない。しかし、調査がつづけられているものの、地盤の悪さや場所の辺鄙さなどを理由に、なかなか進展していないのが現状だ。それでも、敵襲がないとは限らない。ハーヴィは剣を抜き、壁に背にしながら、慎重に進んでいった。
 神殿の地下は、薄暗いものの歩くのに苦労するほどの暗さではなかった。というのも、何やら正体不明な青白い光が全体を包んでおり、それを灯りとして進むことが出来たからだ。
「やっぱり、いやがったか」
 警戒していて正解だったと、ハーヴィは思った。曲がり角の奥から、何者かが一人、こちらに向かって歩いてくる。相手は武器を持っているようで、殺気も放っているため、戦闘は避けられないだろう。このような狭い場所での戦闘は、あまりしたくないというのが彼の本音だが、相手がその気ならば仕方がない。
 しかし、何者かがいたということは、ハーヴィにとっては良い情報でもあった。人がいるということは、何かしらの方法で此処に来たということに違いないからだ。話が通じる相手の場合、出口を訪ねればいいし、そうでない場合は力ずくでも聞き出せばいい。
 可能ならば、無駄な戦闘は避けたい。そう判断したハーヴィは一旦剣を納めて、曲がり角からそのまま身を曝すことにする。
「何者だ、貴様っ!」
 予想通りの反応だ。例え、相手が有無を言わさずに剣を構えて突っ込んできたとしても、ハーヴィには充分対応する余裕があったのだが。
 まず、ハーヴィは相手の問いに答えることにした。
「あぁ……《エリュシオン》の教徒なんですけど、巡礼に来ていたらちと上の神殿の床が抜けちゃってですね、ははは……。相棒とも離れ離れになっちゃったんですよね。もう、此処がなんだかサッパリで」
 口調からして自分らしくないな、とハーヴィは思った。《エリュシオン》の教徒は清楚で礼儀正しい者が多いと聞くため、慣れない敬語を使っているのだが、かえってぎこちなくなってしまっていた。
 神殿の床が抜けたというのは真実であるが、《エリュシオン》教徒であることは真っ赤な嘘だ。教徒を騙るのは本来なら罪になるのだが、この状況を打破するのにはこれ以外方法が無いと、彼は判断したのだ。

Re: Atonement【ポケモン二次創作】 ( No.41 )
日時: 2012/09/12 19:27
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

 しかし、相手は冷たい視線でハーヴィを睨み、言った。
「なるほど、ならば我々の敵ということだな!」
 黒衣に身を包んでいるため顔は解らないが、声から判断すると、若い男だろう。彼はハーヴィを敵と判断するや否や、腰から大きく反った細身の剣——シャムシール——を抜刀し、ハーヴィへと斬りかかってきた。
 充分な間合いがあったため、対応するのは容易かった。ハーヴィはすぐにグラディウスを抜刀し、相手の攻撃を刀身で受け流す。膂力は然程強くはないが、狙いは的確だった。受け流し損なえば、シャムシールの刀身は真っ直ぐとハーヴィの喉に達していただろう。
 元々、シャムシールはその大きく反った形状から想像できるように、刺突よりも撫で斬ることに適している剣だ。このように、突きよりも斬りを主としている剣は、点よりも線で相手を捕らえるため、左右の動きよりも前後の動きが重要になってくる。ハーヴィは前後のステップを交えながら、相手の攻撃を一つずつ確実に受け流していく。
「話す猶予も無しか。ま、こっちの方が俺としても解り易いしやり易いけどな」
 強い——
 今まで相手にしてきた黒衣の者達と、同類だろう。だが、負けるような相手ではないし、ハーヴィには充分勝つ自信があった。王都で襲われた際の経験を生かし、彼は狭い場所での戦い方を身につけていたのだ。
 ハーヴィは後退しつつ、相手の攻撃を受け流していく。傍から見れば、防戦一方のように思えるものの、彼には作戦があった。力押しでも勝てなくはないが、なるべく自分も傷を負わずに、戦いを終わらせたかったのだ。そして、何よりも相手を殺してしまうのが、彼にとっては一番困ることだった。何故なら、男から色々と聞きたいことがあったためだ。
「悪く……思うなよっ!」
「!?」
 丁度、瓦礫の欠片があったために、ハーヴィは思い切りそれを蹴り上げる。相手はすかさずそれを防ごうとするが出来ず、額に食らってしまった。傷は浅いものの、瓦礫の欠片が当たったところからは、血が滲み出ている。
 相手も流石に予想していなかったのか、思わず痛みに呻き、額を押さえる。その隙をハーヴィは逃さずに、まず剣を弾いて叩き落として拾うと、相手の喉元に切っ先を突き付けた。
「俺の勝ちだな」
「チッ、卑怯な奴め。お前は《エリュシオン》教徒ではないな。奴らなら、お前のような奇策を用いた戦いはしない筈だ」
 顔は見えないものの、口調からは無念さと憎しみがひしひしと伝わってくる。
「喧嘩に卑怯もクソも無いだろ。ま、教徒ってのは嘘だけどな」
 切っ先を突き付けたまま、ハーヴィは言葉を続ける。
「お前が此処にいるってことは、別のところから入ってきたんだろ? その場所を教えてもらえるとありがたいんだが」
「……」
 ハーヴィの問いに対して、男は無言だった。反撃の機会を狙っているのではと思い、ハーヴィは切っ先をさらに喉元に近づける。また、武器は取り上げているものの、何処かに暗器を隠し持っているかもしれない。そのため、いつでも反撃に応じられるように、ハーヴィは警戒を解かずに、再び男に問いかけた。
「おい、頼むよ。俺だって手荒なことはしたくないんだ」
 次の瞬間、男が動いた。一瞬の隙を突き、懐から細身の短刀を取り出したのだ。
 反撃を予想していたために対応はすぐに出来たものの、男が次にとった行動はハーヴィにとって想定外のものだった。
「っ、何しやがるてめえ!」
 短刀をそのまま自分に向けて投げるのではと思い、投擲による攻撃を防御すべく、剣を手前に出したのだが——
「情けなどいらん。それに、偽りの神を信じるお前に、話すことなどない——」
 男は短刀の切っ先を、自らの喉元に突き刺した。
「ガッ、ゴボボボ! ガハッ!」
 動脈も切断されているのだろう。男の喉元からは、噴水のように赤く生温かい液体が噴き出す。
「何考えてんだよ!」
 まさか、相手が自刃するとは思ってもいなかった。何とか処置をしようと思うものの、今のハーヴィにはその手段はなく、突然の相手の行動に戸惑いを隠せずにいた。その間にも、傷口からはドクドクと血液が流れ出ている。
「がふっ……。邪神……ぎ…………な……よみ……え…………」
 途切れ途切れの言葉——それも何を言っているのか解らない。血を吐きながら、懸命に言っているものの、それが一体何を意味するのか、ハーヴィには理解できなかった。ただ、それがハーヴィへと向けられているような言葉ではないことは彼にも解った。
 解読不能な言葉を言い終えると、男は最期に血を吐きだし、そのまま事切れた。
 ハーヴィは相手の顔を見るべく、黒い布を外す。すると、そこには喉元を貫いた苦痛とは思えないほどの、安らかな顔がそこにはあった。年齢はまだ若く、自分と大して変わらないだろう。
「莫迦野郎が」
 ハーヴィはそう呟くと、死んだ男の手を胸の前で合わせた。
 今まで、何度も敵を斬ってきた身とはいえ、何処か後味が悪かった。しかし、この後味の悪さを何かに思い切りぶつけたかったが、いつまでもこうしてはいられない。そう切り替えると、ハーヴィはグラディウスを鞘に納め、出口を探すべく再び歩き始めた。

Re: Atonement【ポケモン二次創作】 ( No.42 )
日時: 2012/09/12 19:28
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

「結局、聞き逃しちまったな。気絶させて武器を奪うべきだったか?」
 出口の場所を聞き逃したことも心残りだが、今のハーヴィにとっては、男が死に際に残した言葉が引っかかって仕方がなかった。そもそも、自ら命を絶つようなことをする必要があったのか——それも気になった。
(さて、どうやって此処から出るか?)
 そう思った時だった。
 地面がガタガタと揺れ、その震動が全身に伝わってきた。いや、地面だけではなく、壁や天井も揺れており、上からパラパラと砂埃が落ちてくる。
(地震か。こんなとこに生き埋めとか、冗談でも笑えねえよ)
 揺れは大きくはないものの、かなり昔に作られた建物だ。万が一ということも有り得る。また、今は地下にいるため、もし建物が崩れようものなら、このまま生き埋めになってしまうだろう。そう考えただけで、冷や汗が出るほどだ。
 頼むから揺れに耐えてくれ。そう思いながら、ハーヴィは通路を進んでいった。
 あてもなく進んでいくと、やがて何やら広くなっている場所に辿り着いた。そこは、上にあった祭壇の間のような造りになっており、天井も高くなっている。しかし、青白い光で視界は悪くないものの、やはり地下である以上、地上とは少し異なる印象を受ける。
 地上にあったような巨大な像は無く、ただ祭壇だけが安置されている。しかし、それでも地上と同じように、神聖な雰囲気に包まれている。
「チッ……。なんか、ヤバいとこに足を踏み入れちまったみたいだな」
 このまま引き返したほうがいいのだろうが、足が動かなかった。疲労や怪我で動かないのではなく、得体の知れぬ——見えざる重圧のようなものが、自分の身体をその場に縛り付けていることが、ハーヴィには感じられた。
 迂闊に聖地を調べたバチが当たったかと、ハーヴィは思った。本来、彼はそのようなことをあまり考えない性質ではあるが、今回ばかりはそう言っていられないようだ。
 今、自分の感情の殆どを支配しているのは、恐怖だ。それは、身体が動かせない要因の一つであるのかもしれない。そう思うと、情けなくなってくる。
「マジでヤバいな」
 敵に襲われているわけではないが、このまま動けずにいるという状況も好ましくない。
 どうしたものか——
 状況を如何に打破するか考えようとしたとき、ハーヴィに何者かが語りかけてきた。
「やれやれ、男のくせにこの程度のプレッシャーに負けるなんて、情けないね」
 頭の中に響く、少しハスキーな声。声の質からすると、若い女だろう。しかし、辺りを見渡してもそれらしい者はおろか、人っ子一人見当たらない。
「ああ、アタシはアンタの脳味噌ン中に語りかけてんだ。探したっていやしないよ」
「ついに幻聴が聞こえてきたか。マジで、シャレになんねえな」
「ったく、少しは現実を見たらどうだい?」
「っ!? 何だこれはッ——!?」
 突然、頭に激痛が走る。
 この痛みは幻ではない。現実のものだ。
「ふん、痛いだろ? 今、アタシの力の一部をダメージに変換して、アンタに送ったんだ」
「っ……ワケ……わかんねえっての……」
「やめてほしきゃ、大人しくアタシの話を聞きな」
 静かながらも迫力のある声で、正体不明の女はハーヴィに言った。このまま痛みが続いていてもたまらないので、状況が掴めないまま、ハーヴィは女の声に従うことにする。
「まずは、自己紹介だ。アタシは、グラードン。この世界じゃ聖書に出てくる神様って崇められてるみたいだけど、そんな大層なもんじゃないさ。大地と太陽の力を持ってるってのは、本当だけどね」
 一体、こいつは何を言ってるんだ——
 姿は見えないもののいきなり意識に入り込み、「私は神です」といった内容のことを堂々と言っているのだ。頭のネジが二、三本どころか軽く十本以上外れているんじゃないかとハーヴィは思った。
「今、失礼なこと考えてただろ? 頭のネジが十本以上飛んでるだって?」
 どうやら、頭の中に響く声は、本物のようだ。
「悪かったな」
「ま、いきなり話しかけたアタシにも非があったね。そこは謝っとくよ。でだ。早速本題に入るよ」
 どうやら、自分には選択肢は無いらしい。
 不本意であったものの、ハーヴィは頭の中に響く自称グラードンの女の声に従うことにした。