二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.6 )
日時: 2012/08/30 21:33
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

第3話 少女剣士

 淡い月光と無数の星々が、漆黒の夜空を彩っている。空気が澄んでいるため、北の空の中央に位置する《綺羅星ジラーチ》の輝きも、一層に強く感じられる。
《創世神アルセウス》ほどの頻度ではないが、その名は《エリュシオン》の聖典にも出てくる。彼の星が中央から動いたときに厄が起きる、また、強く念じることにより願いが叶う——といった内容の話が記されているが、結局は作り話でしかない。其れを真に受けるのは、少し捻くれた占星術師か、寝物語にそれを聞いた幼い子供達くらいだろう。熱心な信者でさえも、法話のひとつとして覚えておくくらいだ。
 勿論、二人にとってもただの作り話でしかない。伝説の名を冠している綺羅星も、方角を確認するためのものでしかないのだ。尤も、方角を知りたいと言う願いは叶っているのかもしれないが。
 星空が美しいのは事実である。親しい者同士で大地に背を預け、満天の星を見るというのもロマンがあって良いだろう。尤も、依頼者のいる場所へと向かっている彼らには、そのようなことをしている暇などない。
 アルテ山の旧街道には、人の姿が見られない。時間が夜というのもあるが、治安の悪い辺境の道を好んで歩く者は少ないだろう。それに、現在は新たな道も作られており、獣道となりつつある旧街道を態々通るというのは、実に馬鹿げた選択だ。
「面倒な依頼を受けたものね」
 澪紗は深い溜息をつき、パートナーたる青年に抗議の視線を向けた。グレイシアの特徴の出た細長い耳も、少し垂れている。ご機嫌斜めのようだ。
 無理もない。アルテ山は、シェルクからやや遠いため、交通の便が良いとはいえない。運び屋のギャロップに頼まなければ、到着するころには数日が経過していただろう。孤児院で長く寛ぎすぎてしまったというのもあるが、それは致し方の無いことだ。
 山岳地帯にはギャロップで入るのは厳しいため、目的地へ向けては徒歩でいくしかなかった。上り坂ではあるが、然程急ではないため、体力的な面では特に問題はなかった。
「悪いな。もうちょっと場所とかも調べとくべきだったか」
 ハーヴィもまた、少し反省しているようだ。しかし、つい依頼を受けてしまうのは、彼の性格故か。よろず屋として生計を立てている二人だが、汚れ仕事以外は基本的に受けている。
「詳しく聞いてなかったけど、依頼はどんなものなの?」
「遺跡の調査の護衛だそうだ。依頼者とは、現地で待ち合わせしてるが……」
 依頼内容の書かれた紙を懐から取り出し、軽く目を通す。筆跡を見ると癖のある乱雑な字で、文の右側が上がったり下がったりしている。言ってみれば、字が下手糞なのだ。何とか読める範囲なのが救いだろう。
「えーっと、エルダイン山岳遺跡ね。特に目ぼしいものは見付からず、今は捨て置かれているみたいだけど……。そんなところを調査するなんて、何のつもりかしら?」
「さあな。でも、そんなところだからこそ、凄いものが眠ってるってこともあるんじゃねえか?」
 メルクリアに限らず、大陸——いや、世界中には、無数の遺跡がある。その多くは領国の調査隊によって掘り起こされており、学者の間でも様々な研究がされている。エルダイン山岳遺跡もそのひとつであるが、大きな発見もなかったために、また、交通の便が悪いというのも理由に、調査が打ち切られている。
「もっと詳しい話は聞かなかったの?」
「ああ。冒険者ギルドの仲介で受けた依頼だしな。その依頼者の面もまだ見ていないさ。この筆跡からすると……性格は捻くれていそうだな。依頼者は、冴えない学者野郎——研究で家族を顧みない遺跡オタクってとこか」
 再び、下手糞な字を目で追う。
「よく解るわね」
「職業はともかく、字には性格が出るからな」
「ふぅん、性格ね。貴方は素晴らしい性格なんでしょうね」
「…………」
 どこか信じられないような視線で睨まれたような気がしたが、何事もなかったかのようにスルーをする。澪紗には敵わない——それを充分に理解しているのだ。
 何だかんだ言って、二人の相性は抜群に良いのだ。このようにお互いを気にせずに言えるということは、それだけ強い絆で結ばれているということがよく解る。
「依頼者の名は、フィン・ヴェールか。果たして、俺の推測は当たってるのか。せめて、外見上の特徴とかも書いておいて欲しいがな」
「こんなところにいる人なんて限られるわけだし、すぐ見つかるんじゃない?」
「ま、それもそうか」
 早くこの面倒な仕事を終わらせよう。そのような思いを胸に、二人は目的地へと向けて足を早める。途中、岩肌に化けていたイシツブテやゴローンといったポケモンたちが二人を阻んだが、それらを難なく撃破していった。
 十分ほど歩くと、異様な気配を二人は察知した。道中で何度かポケモンとの戦闘はあったものの、それとはまた異なる——人の気配だ。
「何だ?」
 ハーヴィは片手剣の柄に手をかけ、澪紗は右手に冷気を帯びた光球を収束させた。いつでも戦闘に移れるだろう。
 今までは比較的フラットな道だったものの、岩の柱が増え、入り組んだ地形になってきている。そのためか、周囲の状況が把握しづらい。岩陰からの奇襲があることを警戒しながら、二人は足を進めた。

Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.7 )
日時: 2012/08/30 21:33
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

「おいおい、マジかよ」
「酷いものね」
 一人の男が倒れていた。服装を見ると、盗賊か何かの類だろう。身体中から血を流している。血の色を見る限り、まだ傷は新しいものの——呼吸は停止し、瞳孔も開いていた。既に事切れているだろう。
 死因は失血死と見て間違いなさそうだ。傷口の開き方を見ると、普通の剣で斬られたような跡ではなく、棘のようなものでズタズタに引き裂かれているのが窺える。このような芸当は、人間には不可能だ。
「チンピラ同士の争いか? お国のお偉いさんは何やってんだか。面倒に巻き込まれないよう、とっとと行こうぜ?」
「そうもいかないみたい」
 周囲に小さな氷塊を浮遊させつつ、澪紗はため息をついた。
「何だってんだ」
 澪紗の呼びかけに応じ、彼女のもとに行くハーヴィ。
 そこにあった光景は——
 ガラの悪い男達に囲まれた、二人の少女の姿だった。
 二人の少女は互いに背を預け、自分たちを包囲している盗賊達と対峙していた。
 一人は、縦にロールした金髪の少女だ。澄ましているというわけではないものの整った顔立ちで、鋭い碧眼からは気の強さのようなものが窺える。まるで、何処かの貴族の娘のような気高さもある。
 右手には細身の剣——レイピアが握られており、舞うような動作で敵を次々と倒していく。片手剣の中でも扱いが難しいと言われているレイピアを軽々と使いこなす辺り、相当な場数を踏んできているというのは、素人が見ても解るだろう。
 もう一人は、銀髪をツインテールに結んだ娘だ。その髪型のため容姿には幼さがあるものの、赤と青のオッドアイには、彼女のパートナーであろう金髪の娘に勝るとも劣らない闘志が宿っている。
 こちらは亜人種のポケモンだろう。波打った刀身が特徴的なフラムベルクを掲げながらも、手から光の球を放ったり、茨を地中から召喚したりと、人間には不可能な戦い方で、敵を倒していく。
 攻撃方法や、両手のガントレットを彩る赤と青の薔薇を見れば、彼女の種族がロズレイドであることが解る。先程の無惨な死体も、彼女の攻撃によるものであることは明らかだろう。
「凄いな。相当なやり手ってとこか。だが……」
 限界だろう——
 旗色は決して悪くない。少女でありながら、戦い方を見る限り戦闘の経験は豊富だろう。しかし、多勢に無勢。如何に優れた一騎当千の猛者といえど、多数の相手と対等に戦うのは難しい。事実、彼女達の表情には、疲れの色が見え始めていた。
「どうするの? 助けに行くの?」
 どうすべきか、澪紗はハーヴィに尋ねた。
 もっとも、返ってくる答えは解っていたのだが。
「どっちを助けに?」
 答えは決まっていたが、ハーヴィは敢えて澪紗に尋ねる。
「本気で言ってる?」
 容赦ない突っ込みに苦笑しつつも、ハーヴィは小振りの片手剣——グラディウスを構え、敵へと突貫した。
 乱戦であったため、二人の存在は感づかれていなかったようだ。そのため、ハーヴィによる奇襲は功を成し、敵の間に動揺が広まった。
「なっ、何ですか、貴方達は!?」
 金髪の少女が声を上げる。
 それにより少し集中が乱れたのか、振り下ろされてきた刃に僅かに反応が遅れる。しかし、すぐに体勢を整えてバランスを保つと、敵の攻撃をすぐに受けて弾き返した。
「いいから今は敵に集中しろっての。とっとと片付けるぞ」
 ハーヴィは斬りかかってきた盗賊の攻撃を身を捩じらせて回避し、隙が出来たところを背中から斬り伏せる。赤黒い液体を撒き散らしながら、盗賊は下品な悲鳴を上げて絶命した。
 横からの殺気。しかし、大した速度ではないために問題なかった。グラディウスの刀身で相手の刃を受け止め、急所に向けて蹴りを入れる。盗賊のバランスが崩れたところに、研ぎ澄まされた氷刃が降り注ぎ、喉元に深々と突き刺さった。
「旅のお方か? ともかく、助太刀感謝する!」
 ロズレイドの少女は戦い慣れしているようで、敵を見据えたまま加勢に入った二人に礼を言った。
「お喋りは後よ。今は、敵を倒すことに集中しましょう」
 戦いの最中に於いても、澪紗は冷静さを失っていなかった。次々と氷刃を放ち、接近された敵に対しては、短剣で応戦する。
「……そうだな」
 容姿とは何処かかけ離れた——やや男勝りとも思えるような口調で頷く。
 葉の刃を切り抜けて接近してきた敵の腹にフラムベルクを突き刺し、呻いたところに光の球を直撃させる。炎とは異なる強力な熱を持ったそれは敵の肌を爛れさせ、波打った形状の刃により抉られた傷口からは、夥しい量の血液が噴出した。
「させないわよ」
 攻撃後の隙を狙いって斬りかかってきた敵に、至近距離で冷気の光線を放った。光線の直撃を受けた盗賊は悲鳴すら上げずに全身が凍結し、一体の氷像となる。そこに、無数の葉の刃が降り注ぎ、氷像を粉砕した。痛みを感じる暇すら無かっただろう。
「よし、こんなところか」
 最後の一人を倒し、刀身についた血を拭き取って辺りを見渡す。四人の周りには、二十人ほどの盗賊の死体が転がっており、一部の者は戦闘力に圧倒され、逃げ出したようだ。
 温まった身体に、夜の涼風が心地よくさえ感じられた。
「何処の何方かは存じませんが、助かりました」
「ありがとう。我々だけでは、少々骨が折れた」
 金髪の少女はスカートを掴んでお辞儀をし、ロズレイドの少女は騎士を連想させるかのような敬礼で、二人に感謝をした。
 ハーヴィは何処かの貴族だろうか——と思ったが、突っ込まないことにした。
「とりあえず怪我も無いみたいだし、良かったんじゃねえか」
 服や肌のところどころに返り血がかかっているくらいで、特に傷と見られるものは無い。闘っていた相手が弱かったというのもあるが、いらぬ心配であったようだ。
「それじゃ、俺達は依頼があるから行くぜ?」
「あ、あの!」
「ん?」
「依頼ってもしかして……」
 まさか——
「よろず屋のハーヴィ・ウォーデンさんですか?」
 依頼者は、この少女だった。