二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.8 )
- 日時: 2012/08/30 23:23
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
第4話 三流トレジャーハンター
遺跡の中は、異様な臭気に満ちていた。日の光が届いていないためか、黴が繁殖しているのだろう。石畳のところどころにはヒビが入っており、老朽化も進んでいるようだ。調査も打ち切られているだけあってか、修繕されたような跡もない。
未知の文明が栄えていた頃のものであるらしいが、朽ち果ててしまった今では、それを知る術もない。このような場所を調査する意味なんかあるのだろうかと疑問に思いながらも、ハーヴィは依頼を遂行することに集中する。
「トレジャーハンター?」
「はい。まだ始めてから間もないんですけど」
話によると、少し前に王都を発ってから、此処まで来たようだ。トレジャーハンターを名乗るには、まだまだ甘いだろう。王都の情報屋から仕入れた情報を頼りに此処まで来たらしいが、態々大したものが望めないようなところを初めから狙う辺り、素人と言われてもおかしくない。
しかし、戦闘技術は目を見張るものがあった。刃の形状から攻撃が単純になりがちなレイピアを使いこなし、多勢が相手でも怯まずに戦っていた。彼女のパートナーであるロズレイドの少女——名をジャンヌと言うらしいが、彼女との連携もしっかりとしているのだ。多勢の敵に囲まれていた先程のことを考慮しなければ、護衛する必要などなかったに違いない。
「何か、そっちも苦労しているらしいな」
「ああ、解るか? だが、私はエル……こほん、あの方に一生ついて行くと決めたのだ」
先行するフィンに聞こえないような小声で、ジャンヌに話しかける。彼女も少し苦労しているようで、微苦笑を浮かべてそれに応えた。
何かを言いなおしたのが気になったが、ハーヴィは敢えて詮索しないことにする。自分達の目的は彼女達の手助けをすることであり、素性を調べる立場ではない。
「不器用な奴だな」
ぼそりと、素直に思ったことを口に出すハーヴィ。
「貴方みたいな適当な人ばかりじゃないのよ、世の中は」
澪紗の容赦ない突っ込みに、ハーヴィは肩を竦める。
「お二方は仲が良いんだな」
フッ、とジャンヌが笑みを見せる。高飛車そうな雰囲気ではあったが、その微笑みはまだ幼い少女のものだ。
「よく言われるけどな」
ふと、澪紗が足を止めた。
「待って。此処って人目に触れず、ずっと放置されてたわけよね」
「そうみたいですけど、それが何か?」
怪訝そうに尋ねるフィン。やはり、トレジャーハンターとしての適性はあまり高くないのかもしれない。
「そのような場所だからこそ、敵襲に警戒した方がいいんじゃないかしら?」
「そうだな。警戒するにこしたことはないってか」
少し慎重になり過ぎではないかと思ったが、今まで澪紗の慎重さに何度も助けられてきたために、彼女に従うことにする。
ハーヴィと澪紗はフィンとジャンヌを守るかのような布陣で、歩くスピードを抑える。彼女達の腕前なら問題ないだろうが、依頼人に怪我があっては色々と面倒なことになるからだ。
「それにしても、二人とも結構やるんだな」
ハーヴィが訪ねたのは、剣術のことだ。先ほどの戦いを見る限り、フィンとジャンヌは只者ではないことを窺わせる。
「幼い時から、家の習わしで剣を仕込まれていたので。旅を始めたのは、つい最近なんですが……」
「家の習わし、ねぇ……」
何処かの上流階級のお嬢様といったところだろう。堅苦しい家庭に嫌気がさして抜け出してきたか、それとも追い出されたかのどちらかだろう。事実、貴族の令嬢が家出をするという事件は珍しくない。尤も、それについて詮索する気など毛頭ないのだが。
優れた戦力を持っていながら護衛を頼んだのも、それなら理解できる。万が一というのもあるが、単に冒険する仲間が欲しかったというのもあるに違いない。
「うーん、珍しいものが眠ってると聞いて来たんですが、なかなかそのようなものは見当たりませんね」
「…………」
トレジャーハンターがどのような仕事かまだ解っていないらしい。まだ捜索を始めてから時間が経っていないのに、お宝の心配をしている辺り、素人なのだろう。その辺りは経験を積めばなんとかなるのだが、フィンの行動を見ているとあまりにも警戒が足りていない。そこは、彼女のパートナーであるジャンヌがカバーしてくれているのだろうが、過信しすぎるというのも考えものだ。
通路を暫く進むと、広い場所に出た。この先には道は続いていないようだ。
「行き止まりですね」
フィンが残念そうに呟く。
「いいや、このような場所は案外怪しいもんだぜ」
ハーヴィは瓦礫を退かしたり、壁の様子を調べ始めた。
「特に此処とかな。見るからに怪しい」
地面を見ると、擦り減ったような跡があった。それも自然によるものではなく、何か固い物同士で擦れたような跡だ。よく見ると、何者かが踏み荒らしたかのような跡もあり、それがまだ新しいことも窺える。
「こういうところを調べてみると……、ほらな」
「隠し扉か?」
フラムベルクの柄に手をかけて、ジャンヌが興味深そうに覗いてくる。
「だな。古典的だが、解りづらい場所に仕掛けてやがる」
壁の奥から聞こえた風の音を聞き、この先に隠し通路があることを推測する。案の定、壁には扉が隠されており、更に奥へと続く道が発見された。
一行はより警戒心を強め、その通路の先を進んでいった。
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.9 )
- 日時: 2012/08/30 23:23
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
「明らかに誰かがいるって感じだな。それも大勢か」
「シュヴェルトベルクの時みたいに、敵陣に突撃とかごめんだわ」
「そこまで浅はかじゃねえよ」
澪紗の忠告を軽く受け流しつつ、ジメジメとした通路を進んでいく。
道中では、明らかに今までとは違う雰囲気が漂っていた。壁はしっかりと補修されており、先程まで充満していた黴の臭いも無い。ところどころに、ゴミが落ちているということからも、何者かがこの先にいるということを示している。
「ビンゴ」
曲がり角の先には、先程の広場の十倍はあるだろう、大きな空洞が広がっていた。そこには、先程の盗賊達の仲間だろう、同じような格好をした男達がうろついているのを窺える。
「おいおい、盗賊団のアジトってのは想定外だぜ?」
「あまり首を突っ込まない方がよさそうね」
相手に気付かれぬよう、壁際に身を隠して、盗賊達の様子を窺う。
(にしても……、ただの盗賊団じゃない? さっきのガラの悪い奴らの他に、見たことものないような奴らがいるな)
何やら、物品類の取引をしているようだ。彼らの間では特に珍しい光景ではないものの、法律では禁じられた物品の取引も行われていることが多い。特に最近では、邪教団との繋がりも深刻な問題となってきている。
男達の中に知った顔があったのか——、彼らの中の親玉と見られる人物を見て、フィンは驚愕の表情を見せた。
「あの人は……。私に……情報を……」
「なんだって?」
「私、あの人から此処の情報を貰ったんです」
なるほど——
一目見れば、フィンが良いところの出だということは解る。それを狙って、人質を取り、金を巻き上げようという考えなのだろう。もしくは、女というのを理由に、いかがわしいことを考えているのかもしれない。
どちらにしろ、二流三流の盗賊団がやりがちな手口である。あまりにも稚拙で、解りやすい手口だ。簡単な誘いに乗ってしまう辺り、フィンが騙されやすすぎる——真っ直ぐすぎるというのもあるだろう。
良くも悪くも、字体による性格と人物像の判断は外れたなと、ハーヴィはため息をついた。
「どうしたものか。あまりにも数が多すぎる。先程の二倍以上はいるぞ?」
ジャンヌはいつでも戦闘に入れるよう、右手をフラムベルクの柄に手をかけ、左手には魔力を帯びた葉の刃を漂わせている。しかし、相手の数の多さに、踏み込むことを躊躇しているようだ。
「流石にあの数は厳しすぎるわ。例え倒せたとしても、無傷では済まない」
「だな。俺もこんなとこに墓標を建てられんのはごめんだ。フィンさんには悪いが」
「退いた方が良さそうね」
一行は乗り込むことを諦め、来た道を引き返すことにした。
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.10 )
- 日時: 2012/08/30 23:24
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
盗賊団のアジトを見つけてしまっただけに、来た道を引き返すのは至難の業だった。襲撃は無いものの、何度も後ろを振り返って追手がいないかを確認しなければならないからだ。また、後ろだけではなく、前方にも気をつけなければならない。他の仲間が帰ってくるということも考えなければならないからだ。単純な構造は、このような時に不便なものである。
「さっきのどうするかね」
ハーヴィは深い溜息をついた。
「私の方から、警備の方に伝えておきます」
「そうかい。何も盗られちゃいないが、事前に言っといた方がいいだろうな。取引していたブツに、麻薬や兵器があるってのも考えられるからな」
盗賊以外にも不審な者達がうろついていたからな、と言いそうになったのをハーヴィは何とか抑え込む。この場は下手に口に出すよりも、国家権力に頼った方が面倒なことにならないためだ。
少し不安ではあったが、しっかりとしているジャンヌがいるために問題ないだろう。
「あ、報酬ですが……」
「ああ、いいよ。前金だけでも十分貰ってる」
事実、前金だけでも一週間の生活費を超えるだけの金額だった。これで残りの金まで貰ったら、相当な金額になるだろう。
普通なら此処で貰うのだろうが、事実それほど働いたような感じはしない。それに、報酬にがっつくほどハーヴィは欲深い人間ではなかった。
「恐れてた通り、誰か来たようだぜ」
通路に響く足音。それも、ただならぬ人数ではない。恐らく、数十人はいるだろう。
「このまま戻っても、進んでも大軍にぶち当たるわけか」
「ごめんなさい、私が依頼をしたばかりに……」
「こればかりは仕方無いだろ。澪紗、悪いな。また突っ込むことになりそうだ」
グラディウスを抜刀し、通路を走りだすハーヴィ。彼の後を、ジャンヌ、フィン、澪紗の順でついて行く。
予想通り、はち逢わせたのは盗賊達だった。先ほどよりは人数が少ないため、突破するのは容易いだろう。
ハーヴィはあまり物音を立てぬよう、そして一撃で相手を絶命させることが出来るように、盗賊達の急所を狙ってグラディウスを振り翳した。彼らは反撃も出来ずに、喉元に刃を突き刺され、血を噴き出しながら絶命する。
彼の突撃を潜り抜けてきた者には、後続の者達の援護攻撃が待っていた。ある者はレイピアを眉間に突き立てられ、またある者は葉の刃により細切れに、そしてある者はそのまま二度と動かぬ氷像と化していく。
「なんか妙だな……」
「ああ。あまり戦意が感じられない」
ハーヴィとジャンヌは前線で敵を突破していったが、違和感を覚えていた。盗賊達の様子を見ると、先程とは明らかに違う。普通、彼らならば敵を見かければすぐに襲いかかってくるだろうが、そういった動きが殆ど見られないのだ。
顔を見ると、恐怖や焦りに染まっていた。まるで、何者からか逃げるかのような——
「何か来るわ」
後方から氷弾によるサポートをしていた澪紗が、ピクリと耳を動かした。
「ああ、この足音は盗賊の連中のものじゃねえな」
人間の足音だということは解る。しかし、それには激しい金属音を含んでおり、皮製の靴で鳴るような音ではない。
「かと言って、このままアジトに引き返すってわけにもいかないからな。このまま突っ切るぞ」
「そうね。そろそろ、奥にいた連中が騒ぎを聞きつけて来るかもしれない」
「走れるか?」
フィンは無言のまま頷く。
敵中を突破するには、相手にするのは最低限の敵だけでいい。無駄に戦えば、それだけ無事に帰還できる確率が低下してしまう。
四人は武器を掲げたまま、足を速めた。徐々に、金属音が近くなっていく。もしそれが敵だとするなら、戦闘は避けられない——
丁度、曲がり角を曲がろうとしたときだった。
待ち受けていたのは、プレートメイルに身を包んだ集団だった。腰にはブロードソードを装備しており、鎧の胸にはメルクリア王国の紋章である交差した槍と翼が刻まれている。
「なんで王国の軍隊がこんなところに……」
ハーヴィは軍隊の装備を見て、軽く舌打ちをした。
《天龍の盾(ドラグーン・シルド)》という、大きな権力を持った騎士団だ。《聖光の翼》とは異なり、より貴族に近しい存在のため、ハーヴィにとってはあまり相手にしたくない存在だった。過去に酒場で喧嘩した時に、彼らに捕捉されたこともあるため、良い印象を持っていないというのもあった。
規模から察すると、小隊だろう。パートナーであるポケモン達も、守備に重きを置いた屈強そうな者が多い。亜人種と原型はまちまちであるが、どれも優れた能力を持っているに違いない。
「お嬢様、ジャンヌ殿。こちらでしたか」
部隊のリーダーと思しき者が前に出る。若い男だ。緋色の鋭い瞳に、背中まで伸ばされた美しい赤髪。一見優男のようにも見えるが、彼が纏っているのは武人らしい堂々たる覇気。
従えている亜人種のポケモンは、見たことのない種だった。全体的に露出が多い女性だ。スタイルもかなり良く、最低限の部分を鈍色の鋼鉄で守っているだけのため、正直目のやり場に困る。美麗な銀髪の美女だが、緋色の虚ろな瞳からは生気が感じられない。
淡々とした声だ。あからさまな敵意は無いものの、決して受け入れやすいとはいえない。
「探しましたよ。いつも申し上げておりますが、勝手に城を抜けるようなことは控えていただきたい」
男はそういうと、部下達をフィンとジャンヌの傍らにつけた。そして、二人は部隊の中へと連れ添われていった。途中で二人は振り向き、ハーヴィ達に申し訳なさそうな表情を見せるが、部下に咎められたのかすぐに背を向けてしまった。
「なんか物々しいが、俺にも解るように説明してほしいものだな」
この者達の素性はだいたいは解っていたが、どうも態度が気に入らなかった。ハーヴィは苛立ちを覚えながらも、赤髪の男に尋ねる。
「話はあとで聞こうか」
男の声は冷たかった。
そして——
ハーヴィと澪紗を取り囲むかのように、男の部下がつく。フィンとジャンヌを相手にした時よりも、乱暴な扱いだ。
「連れていけ」