二次創作小説(映像)※倉庫ログ

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.1 )
日時: 2012/09/06 22:04
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 真っ暗な闇の中で、聞こえてくるのは二つだけ。
 堅い靴の底がコンクリート製の床を穿つ音と、自分の荒い息遣い。
 どうしてこうなったんだろう。
 言わなくても察して欲しいところだが、やっぱり言わなくちゃ駄目なんだろうな。
 そもそもの事の始まりは、昔の、子供の頃の遊びだった。
 それが、二十代になった今でも続いている。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.2 )
日時: 2012/09/07 22:42
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 自分の所に、送り主の名もなく送られてきた一通の『手紙』。
 それは、自分達が昔考えた、『隠れん坊』と『鬼ごっこ』の開始を告げる、ホイッスルだった。
 『手紙』は誰かが巫山戯て送っているのだろうと皆思っていたから、誰も何も言わなかった。
 そんなことを聞くなんて野暮じゃないか。
 俺の名前は籠宮零。この間大学を卒業し、今はライターをやっている。
 あだ名は『カゴ』。小さい頃からの友達が名付け親だ。
 街中に大きく聳える、無機質で銀色の建物。
 そこの自動ドアをくぐると、俺は至ってシンプルな自分の名刺を受付嬢に差し出した。
 その裏に、ウミへ、と書いて、懐かしの友に渡すように言った。
 これであいつはすぐに俺の前に姿を現すことだろう。
 そいつは、昔から甘い物が好きだった。
 好きすぎて、それが高じて某有名製菓会社の商品開発部に就職した。
 少しすると見慣れた顔がエレベータから降りてきて、俺の顔を認めると嬉しそうに笑った。
「久しぶりだな、カゴ!」
「おう、やっと会えたか、ウミ」
 短く切った髪の間で、子供っぽい光が輝いている。
 四条海里。あだ名はウミ。俺と同い年の、親友の一人だ。
「—おい、ウミ。あの手紙、みたか?」
「ああ。まさかこの歳になってまで送られてくるとはな」
 暫く二人は空を眺めていた。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.3 )
日時: 2012/09/08 21:46
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

「行くか。次はガクだ。キヨはまだ仕事、抜けられないだろうしな。つーか俺が呼び出しといて何だが、お前、もう仕事はいいのか?」
「ああ。丁度新製品の案がまとまったところでね。当分は大丈夫だ」
「じゃあ行くか」
 ピカピカに磨き上げられたガラス製の自動ドアをくぐると、暑い真夏の太陽が照らす街へ出た。
「あちぃー…。」
 真昼のオフィス街を、二人、言葉もなく歩いて行く。
 やがて目的の建物が見えてきた。
 壁にでかでかと「MUSIC STUGIO」と書かれている。
 受付で、相手の居る場所を聞く。
 ただ、受付に座っていた中年の女性は、あまり快くは教えてくれなかった。
 コアなファンと思われただろうか。
 無数に並ぶ扉の隙間から微かにメロディーが流れてくる。
 勝手知ったると言うように無造作に扉を開くと、中では二人の男が大量の機材の前に座り、その視線の先に彼らの目指す相手が居た。
 しかし、そこはガラスの壁で遮られている。
 大人しくその作業が終わるまで待つ。
 音楽が鳴りやむと、ヘッドホンを外して、ガラス張りの部屋から髪の長い男が出てきた。
 二人に気がつくと、この男にしては珍しい作り物ではない笑みを浮かべた。
「やあ、ふたりとも。いつの間にきたんだい?」
 こいつは神代樂師。人気のシンガーソングライターだ。あだ名は『ガク』。
 神代家には代々不思議な能力があって、こいつもその例に漏れない。
 それが関係あるのかどうかは知らないが、長く伸びた髪を高く結い上げ、適当に纏めて簪でそれを留め、言葉遣いも、俺達に対してさえ柔らかい言葉で話す。
 まったく女らしいっちゃ仕方がないが、顔は立派に男なので(しかも女の子に人気のある顔だ。ここが一番酌に障る)、色々と反応に困るところが多い。
「さて、残るはキヨだけだが、あいつは仕事上がるのが遅いからな…」
 苛立たしげに呟くと、ガクは笑って自分の家に来るように言った。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.4 )
日時: 2012/09/09 19:12
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 これで夜までは暇が出来た。
 三人で街を歩いたが、ガクだけは帽子を目深に被った。
 長らく忘れていたが、彼は人気の歌手なのだ。
 マスコミや追っかけなど、色々とかわすのに忙しい。
 しかしながら、久しぶりに友に会うのは楽しい。
 俺達三人は夜になるまで昔の思い出話に耽った。
「そう言えば、この前理奈ちゃんに会ったよ」
 ガクが言った。
 理奈とは、俺の双子の姉だ。
 事務所に所属し、アイドルのようなことをしている。
 似たような職業なのだから会うのは必然だが、俺にとっては苦手な身内でしかないのだ。
「彼女、可愛くなったね」
「そーいうのは俺じゃなくて本人に言ってくれよ…」
 半ば溜め息を吐きながら、吐き捨てるように言った俺だった。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.5 )
日時: 2012/09/10 19:26
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

「っと、もうこんな時間か…。キヨに連絡するか」
 自分のオレンジ色の携帯端末を取り上げると、ウミが言った。
「また美雪ちゃんが来ることないだろうね?」
「あー…。」
 美雪、と言うのは、キヨの妻だ。
 成人したばかりの頃に結婚したのだが、あいつが時々夜に家を出ていくので、不審に思ってガクの家まで付いてきたことがあった。
「ま、今は大丈夫だろ。有輝ちゃんが居るんだから」
 有輝はキヨの一人娘だ。
 キヨの奴は娘にべた惚れで、見ていてこっちがおかしくなるくらい親馬鹿だ。
 電話の着信音が続き、聞き慣れた声が出た。
『はい、郡山です』
「久しぶりだなァ、キヨ。元気だったか?」
 相手はすぐに好色を示した。
『カゴ!久しぶりだね、そっちはどうだい?』
「ああ。俺もウミもガクも元気だ。—で、話なんだが—」
『またあの手紙だね?僕もすぐそっちに行く。今どこだ?』
「ガクの家だ。美雪さんと有輝ちゃんによろしく」
『ははは また遊びに来てくれよ。じゃあ、後で』
 そう言って電話は切れた。
 俺は深い溜め息を吐くと、上を見上げた。
「また、これか……。」
 頭をがしがしと掻き回すと、ガクに向かって言った。
「ガク!お前なんか歌え!」
「えぇ?…じゃあ、サ☆ム☆ラ☆イ!」
「じゃなくてもっと普通の!」
 叫んだら疲れた。
 そこで俺は、ガクの美声をBGMに、暫く会っていないキヨの事を思い出すことにした。
 キヨは、本名郡山清。
 俺とウミより二つ年上だ。
 昔から頭が良くて、今は小学校で教師をしている。
 俺とキヨはまったく別の道を進んでいる。
 なのに、時々感じる、訳の分からない悪寒と、恐ろしく見えるキヨの笑顔—。
 考えるのをやめて、ガクの歌に聴き入ることにした

静かな湖のほとり
幻想的な古い建物
煌びやかな服を纏い
虚ろな瞳で外を見ていた

すべては思うがままに従わせて
毎晩違う娘を抱いては狂わせるだけ

悲しみに満ちた空は
愛する事さえも忘れて欲望のままに
緩やかに流れる時間は
一瞬の快楽も闇に消えて涙を浮かべた

冷たい人形のように
哀しい顔で僕を見ていた
綺麗な仮面を着けて
誰にも心知られぬように

優雅に踊る仕草に目を奪われて
誰にも触れさせないように
さぁ箱庭の中へ

切なさに恋い焦がれて
運命も未来も変えてしまう程の熱情
汚れたこの血が絶えても
真っ赤に染まった
大地の中で眠りたい

聖なる光よ火を灯せ

悲しみに満ちた空は
愛する事さえも忘れて欲望のままに
緩やかに流れる時間に
きつく抱き寄せた
忘れない永遠の約束

 新曲だろうか、聴いたことがなかった。
 でも、不思議と俺は頭の中に幻想を描いていた。
「ガク…それ、新曲だろう?俺達に聴かせちまって良いのか?」
 するとガクは優しく笑って答えた。
「いいんだよ。君たちなら。だって、君たちは私の友達だろう?」
 あんまりガクが真剣に言うから、俺達は顔を見合わせて笑ってしまった。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.6 )
日時: 2012/09/11 19:43
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

前回の歌詞は
Le rouge est amour SCLproject(natsuP) feat Gackpo(神威がくぽ)
です。
PVも滅茶苦茶格好良いので宜しければご視聴下さい。



 その時、唐突にインターホンが鳴った。
 ガクが出るわけにも行かず(なにせ有名人なので)俺が出た。
 そこにいたのは案の定キヨで、いつの間にか降り出した雨の中、丸眼鏡の向こうで優しげな瞳が笑っている。
「やあ」
「キヨ!元気だったか?」
「ああ、元気元気」
「ウミとガクも上で待ってるよ」
 傘を閉じ、靴を脱いで上がる。
 まただ。
 キヨと並んだときに感じる、訳の分からない悪寒。
 扉を開けると、二人がさっきと同じように床に敷かれたカーペットの上に座っていた。
「キヨさん!」
「二人とも、久しぶりだなあ。ガク、お前の活躍はいつも見てるぞ」
 その言葉でガクがくすぐったそうに笑った。
 明日に話は置いておくとして、俺達は思い出話に花を咲かせ(男だけでなんだが)、その日はガクの家に泊まっていくことにした。

Re: 【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.7 )
日時: 2012/09/11 20:06
名前: はるく ◆2bvow6Zq4g (ID: WzE/lQPv)

和葉が新しく小説始めたと聞いたので来ました^^/

バナナイスですか…!
いいですね…・ω・
凄く面白かったですよ/

では早速PV見てきまs(((

Re: 【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.8 )
日時: 2012/09/12 15:45
名前: 美璃夜 (ID: IAQru7qe)

やっとこれたぜいえいえいえいえいえー!((((((((((((殴
やっほーラルージュきた!ウェっヘイw
にしてもナスがさらっといいこと言った!ナスの癖に!ナスのくs((((((((((((殴

てか美雪さん。あなた相当先生のこと愛してますね。

ごめん今テンションがおかしい・・・。
でもやっぱ月森の小説は読んでて引き込まれるし面白いし。
これからも頑張れよ!

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.9 )
日時: 2012/09/12 19:04
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

やったぁお客様二人!
で、誰か「サ☆ム☆ラ☆イ!」に突っ込んで下さい。。。



「そう言えば、お前達、彼女とか居ないのかい?」
 唐突にキヨが切り出した。
「な、なにを……」
 俺は飲み物を吹き出しそうになり、ウミとガクは急に顔が赤くなった。
「お、その顔は、彼女居るんだな?どんな子だ?」
 流石教師。聞き出すのが上手い。
「いや、別に……」
「そーいえば、ガクは明野琉美と付き合ってるんだっけ?」
 ウミが平然と言った。
「ばっ……!」
 ガクの顔色が一瞬で変わる。
「え、明野琉美って、あの女優のか!?」
「らしいねぇ」
 天然なのか、どんなに大事なことを言ったのか分かっていないらしい。
 憤然とガクが言い返す。
「私もこの間理奈ちゃんに聞いたぞ!ウミ、君はファッションモデルの柴田芽依と付き合ってるそうじゃないか!」
 それを聞いてウミの顔色も変わる。
「なっ、なんでそれを……」
「柴田さんは理奈ちゃんと同じ事務所の所属だったそうでね。理奈ちゃんはそれは楽しそうに話していたよ?」
 理奈の話題が出たところで、三人の視線が一斉にこちらを向く。
「な、なんだよ……」
「カゴ」
 にっこりと笑ってくる視線が痛い。
「彼女とか……いねえよ……」
 ぼそりと呟くと、今度は一斉に深い溜め息を吐く。
「なんだよ!俺別に悪くねーだろぉ!」
 ああもう、リア充なんか爆発しちまえばいいんだ!

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.10 )
日時: 2012/09/13 22:18
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 朝。
 俺達は朝食を囲みながら『手紙』やこれからについて話をした。
「まさか、二十代になってからも手紙が送られてくるとはなぁ…」
「まったくだ。一体誰が手紙を送ってるんだ?」
「ウミ、それは禁句の筈だぞ。まあいいじゃないか。昔の遊びに耽るのも」
 キヨがフォークでソーセージをつつきながら言った。
「そうだな…。」
 俺を含む三人が頷くと、キヨが楽しそうに笑った。
「じゃあそうしよう。今度はどこでやるんだい?急いでいたので手紙を家に忘れてしまってね、見せて貰えるか」
 キヨは昔から忘れっぽいところがある。
 その所為か、完璧なはずの彼が可愛く見えてしまうことがあり、それに惹かれて彼の傍にいる人も少なくない。
 上着のジャケットのポケットに突っ込んだままにしていたそれを引っぱり出し、ついてしまった皺を広げる。
「—貴公達の為に、また、Gameをすることにした。大人になって、貴公達も退屈していると思うから。それに、私は暇なのだ。面白いと思えることがないのだよ。だから、貴公達を招くことにした。場所は、いつもの廃工場跡でいいだろう。貴公達の参加を、心待ちにしている—。いっつも思うが、気持ち悪いなあ、この文章」
 ウミはきょとんとした眼で俺を見つめ、ガクとキヨは苦笑していた。
「いいからカゴ、朝ご飯食べなよ。折角ウミが作ってくれたんだ、残しちゃもったいない」
「ああ…」
 呟いてスプーンを口の中に押し込むと、嫌な予感を振り払うように噛み締めた。

Re: 【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.11 )
日時: 2012/09/13 21:49
名前: 月露 (ID: IAQru7qe)

え、だってもうどっから突っ込めばいいかわからないほどツッコミどころ満載だから突っ込まないw

やーだんだんシリアスになってきたな
次ぐらいからかな?楽しみにしてるぜ

それにしても相変わらず話の流れの持ってき方うまいよな
がんば!

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.12 )
日時: 2012/09/14 19:43
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

熱中症になりました。
親に「自分が脈拍90もあったら幻覚見てる」とか言われたのですが、具合悪いのが通常運転なのでよく分からず。
皆さんも病気には気を付けて!
いやぁ、月露とマノレクにはご心配をお掛けしました。
ちなみにまだシリアスにはなりません。





 ウミの料理自体は美味かった。
 さすが製菓会社の製品開発部と言うべきか。
「で、今回はどこでやるんだい?」
「書いてあったじゃないか。いつもの所だ」
 いつもの所とは、かなり昔に打ち捨てられた古い廃工場のことである。
 そこは彼らが子供だったときから廃工場だった。
 それを良いことに、かなりの人数の子供達が入り込んでいて、勿論彼らもそれに漏れなかった。
「ああ。懐かしいよ。昔はお前達と僕で色んな所に入り込んだりしてな」
「そうそう!それでウミが泣き出したりな!」
「それはもう良いじゃないか!」
「あれで何回怒られたことか……」
 ガクが深く溜め息を吐いた。
 キヨとガクは俺達よりも年上なので、二人が大人達に怒られる立場なのだ。

 朝食を終えると、皆が各々の家に帰った。
 俺はやりかけの仕事が残っていたし、キヨは妻や幼い子供が家で待っている。
 次の締め切りは一ヶ月ほど先だが、何があるか分からないと言う衝動に駆られ、数時間でその記事を仕上げて、まだ明るいというのに布団の中に潜り込んだ。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.13 )
日時: 2012/09/15 19:51
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 その数日後、俺達は再びガクの家に集まった。
 勿論、ゲームを始めるために。
「今回は、服はどうするんだ?」
「そのままで良いんじゃないかい?それか、スーツみたいなのも良いね」
「動きやすいからね」
 毎回衣装みたいなのを決めて、そこからゲームに挑んでいた。
 何故衣装を付けたのはか、誰も覚えていない。
 何せ、二十年近くも前のことだからな。
 前は大仰な警官服で鬼ごっこをやったこともあるし、派手な着物で一人を追いかけ回したこともあった。
 あと、俺だけ何故かスカートって事が多かったな。
「だって、カゴが一番似合うからじゃないか」
「俺達がやったって可愛くも何ともないし」
「ただでかいだけだよな」
 そう言って三人は笑う。
 確かに俺はチビだ。
 でも、この四人の中では小さいだけで、世間的には標準だ。こいつらが馬鹿みたいにでかいだけだ。
「でも、カゴ、身長160くらいだろう?」
 反論できない。
 もしかしたら160も無いかも知れないからだ。
 キヨとウミは170位だろう。でも、ガクに至っては180を軽く越えていると思う。
 それで女形をやるには少々(かなり)でかすぎる。
「だからってさぁー……」
 俺がむくれると、三人はいつも苦笑して俺を宥めに掛かる。
「ああ、いや、別にカゴを傷つけようと思って言った訳じゃ……」
「でも、俺にスカートを穿かせるのはやめないんだろ?」
 すると三人は一斉に頷いた。
 そこは嘘でも否定しろよ!
 ああ、もう。何で俺だけ…。
 いつもいつも思うが、いつもいつも腹筋割れてる女形は嫌だなと思って、渋々俺が引き受けることになる。
 まったく……。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.14 )
日時: 2012/09/16 19:39
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

「良い物があったよ」
 そう言ってガクが引っぱり出してきたのは、長いローブとオーバーズボンに布が何枚も重ねられた、派手な衣装だった。
「これ、かなり前に使ったやつなんだけど、使えるかい?」
「おお!」
「凄いな、お前」
「今までのイベントやPVで使ったやつなんだ」
「で……」
 他の三人が示したのは、一つだけ違う形の衣装だった。
「……やっぱり俺が着るのか?」
 一斉に頷く三人。
 それは一つだけオーバーズボンでなくショートパンツで、その下からガーターのように布が伸びている。
「……っなんで、いつも、俺なんだ、よぉ!」
「だって、カゴが一番可愛いからじゃないか」
「俺の意志は無視か!?」
 三人は顔を見合わせた。
 なんだか疎外感を感じるぜ……。
「その前に、カゴのサイズが合うのがこれしかないんだ」
 それで物凄く不満顔になった俺に、ガクが苦笑した。
「ごめんね、カゴ。前の警察の時は一回り小さいのがあったんだけど……。」
 更に不満顔になる俺。
「でもねえ……」
「どうしようもないしねぇ……」
「なんで俺だけ腹出てるんだよ!」
「デザインがこれだけ違うんだよ」
 これは仕方がないことなのか、あいつらの策略なのか。
 いつか、絶対に仕返ししてやろうと心に誓った俺だった。

Re: 【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.15 )
日時: 2012/09/16 19:54
名前: はるく ◆2bvow6Zq4g (ID: mGXNpy6x)

うん、カゴはスカート似合うよ..ww
可愛いからスカートよしb

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.16 )
日時: 2012/09/17 19:37
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

>>はるくさん
レンきゅんのスカート姿可愛すぎますよね^p^




「これね、飾りがあるんだ」
 ガクが別の箱から薔薇の造花と紐の飾りが一緒になった物だった。
「あと、これね」
「なんだ、これ?」
「シール?」
 薔薇の模様のタトゥーシールのようだった。
「これを頬に貼ってやるんだ」
「ふぅん…」
 蛍光灯に透かしてみると、確かにシールのようだ。
 しかし、こんな派手な格好で追いかけ回すのか?
「じゃあ、今回のルールを確認しよう」
 キヨが人差し指を立てて言った。
「ひとつ、今回はサバイバル方式だ。全員が敵。途中で武器を手に入れて戦う。また、衣装を脱いでもいけない」
 皆が神妙に頷いた。
「これだけ分かれば充分だろう」
 ゲームのルールとしてはかなり少ない。
 でも、これがいつもの俺達のゲームのやり方で、その他の細かいルール等は現場で理解する。
 それだけだ。
 俺達は立ち上がると、衣装の入った紙袋を手に、懐かしい廃工場跡へと向かった。

Re: 【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.17 )
日時: 2012/09/18 19:26
名前: マノレク (ID: UHIG/SsP)

レン君…
かわいいから大丈夫。

サ☆ム☆ラ☆イ

wwwwwwwwwwwwwwwwww
わら草しかかけんwww

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.18 )
日時: 2012/09/18 22:24
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

>>マノレク
やっと来たね。
もう……誰も突っ込んでくれなくて……。




 廃工場跡は相変わらず暗く、黴臭かった。
 前と変わったところと言えば、子供の姿が一つもないところだ。
「子供がいねえな…」
 するとキヨが口を開いた。
「今の子供達はあまり外で遊ばないからね。うちの学校の生徒達もそうだ」
「最近はゲームとかが充実してるからね」
 ウミも言った。
 彼の仕事は主に女性や子供をターゲットとしているから、そういうことには以外と詳しい。
「今回の制限時間は……」
「二日くらいだろう」
 今回は皆一様に休みを取ってきたから、それくらいが妥当だろう。
「じゃあ……」
「行くか!」
 俺達は頷きあい、それぞれに指定された場所へと向かった。


次回からシリアスに入ります。
展開早ぇ……。

Re: 【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.19 )
日時: 2012/09/18 23:57
名前: 月露 (ID: IAQru7qe)

カゴの女装姿描いてくれないかな。
第一声がこれっていうw

にしても腹筋割れてる女ww
ここ一番吹いたかもね。

やーやっとシリアスキタ━(゜∀゜)━!
いや次からだけど。
待ってるからな!

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.20 )
日時: 2012/09/19 21:08
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

なんでこんなにカゴ君の女装人気が高いんですかwww





 俺に与えられた部屋は、13723号室。
 13というのはこの工場の号棟のことで、7というのは階の番号で、七階の23号室という意味だ。
 これを十階建ての工場に一人一部屋ずつ分け与えられる。
 三階にウミ、五階にガク、七階に俺、そして九階にキヨだ。
(これか……)
 床に無造作に置かれたアタッシュケース。
 その中に、丁寧に研がれた小刀がぎっしりと並べられていた。
(こんなの、どうやって手に入れたんだ……?)
 疑問を感じつつ、衣装の間に小刀を挟み込んでいく。
 こうしておくと、いつでもどこからでも武器が取り出せる。
 それでも数本余ったので、その数本は手に持っていく。
 慎重に外を伺いながら、扉の外に出る。
 何の気配もない。
 生き物の気配すらない。
 聞こえるのは自分の息を吐くその動作と、鈍い心音。
(…行くか)
 意を決し、息を潜めながら歩いていく。
 言っておくが、この“Game"には全員が本気で参加している。
 何故なら、負けたら何があるか分からないからだ。
 小学生の時、ウミが木の上から落ちて脚を折った。
 中学の時は、俺が川に落ちて頭を数針縫った。
 高校の時は、ガクとキヨの引き分けで、二人は腹部に切り傷を負った。
 それらは全て偶然で、Gameとは何も関係ないかも知れない。
 でも、これは確実に、Gameの仕業だと、俺達は確信していた。
 それ以外に、原因が考えられないからだ。
 今は全員に配偶者が居る。
 絶対に負けるわけには行かないのだ。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.21 )
日時: 2012/09/20 19:59
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 息を殺し、そっと非常階段へ向かう。
 こんな時に踵がある靴は非常に不利だが、これは全員が同じ条件の筈だ。
 六階に降りると、向こうから誰かがやってくるのが見えた。
 多分、ウミだろう。
 ウミの部屋はここの一つ下の階だ。
 暗がりの中で少しだけ見えた顔は、やはりウミだった。
 奴が手にしているのは、細長い筒と、針のようだった。
(毒か……!)
 恐らくは一時的に動きを封じるか、内側から徐々に蝕む程度の麻酔か何かだろうが、当たるの、ましてや直撃は避けたい。
 あまり動きが早いわけでもないウミにとって、これほど有効な武器は無い。
 何せ遠距離からも狙うことが可能だ。
 咄嗟に、ウミが筒を吹いた。
 それと同時に、こっちも手に持った小刀を投じる。
 互いの武器は両者の肩を裂く。
 幸い、こっちは衣装が裂けただけのようだ。
 毒はまわっていない。
 再び武器を投じる。
 手応えがあった。
 脚を掠めたようだ。
 やがて、ウミの気配が遠ざかっていく。
「……ふぅ……」
 俺は小さく溜め息を吐くと、壁に寄り掛かって休息をとる。
 座り込んでしまうと、誰かが現れたときに応戦できないからだ。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.22 )
日時: 2012/09/21 19:40
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 身体を休めつつ、頭の中で作戦を練る。
 既にかなりの時間が経ってしまっている。
 もう誰がどこに居るかなどのことは分からない。
(問題は、今回どうやったらゲームが終わるかだ……)
 いつもGameはどう終わるか分からない。
 誰かが倒れたときに終わったこともある。
 唐突に終わったこともある。
 その終わり方は、実に様々だ。
 終わりが近づくと、不意に身体が硬直する。
 そして、全員が戦意を喪失する。
 これは、何かの力が故意に俺達に働いているとしか思えない。
(誰かが俺達を操っているのか……?)
 とりあえず、今は勝ち残ることだけに専念しよう。
 俺に託された使命は、それだけだ。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.23 )
日時: 2012/09/22 20:49
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

最近、黒うさPの「ACUTE」と「ReAct」が好きなので、いつか書こうと思います。
いつになるか分かんないけど。



 手に小刀を握り直し、背筋を伸ばす。
 眼を閉じ、一点に気を集中させて、ひと思いに小刀を投げる。
「誰だ!」
 叫ぶも、答えは無い。
 からんという乾いた音を立て、小刀がコンクリートの床に落ちた。
 ただしぃんとした静寂だけが場を支配している。
(気のせいか……?)
 確かに殺気と視線を感じた。
 誰かが俺を付け狙っている。
(くそっ)
 心の中でその誰かに悪態を吐くと、再び歩き出した。
 願わくは誰にも出会わないことを信じて。
 しかし、俺のその切実な願いは、一瞬にして打ち砕かれた。
 ガクと遭遇したのだ。
 あいつが手にしていたのは、日本刀だった。
 かなり長い。
 身構え、手を強く握り直す。
 向こうも刀の柄を握り、こちらに隙が出来るのを伺っている。
(どうする!?)
 俺の頬を冷たい汗が伝う。この状態でウミやキヨにまで遭遇したら、俺の勝ち目はまず皆無だ。

Re: 【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.24 )
日時: 2012/09/23 17:07
名前: 月露 (ID: IAQru7qe)

だってレンくんだもの☆w

うわー設定細かい・・・。
俺キヨテル以外が13943号室に押し込められるのかと思ってた←ひどいなおい
そうかそうか、工場の号棟、階の番号、号室ていう解釈(?)もあったんだな。φ(゜Д゜ )フムフム…メモしとこ((φ(-ω-)カキカキ
(・3・)アルェーさっきまでみんな和気藹々してたのにすっごいことになってる。なにあれは嵐の前の静けさとかなの?
毒矢とかナイフギッシリとか日本刀とかでてきてびっくりしたよもう。

がんばー

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.25 )
日時: 2012/09/23 20:39
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

今日は具合が悪いというのに池袋行って遊んできました。
メインはタイバニの映画でした。
やりたいと思っていたVOCALOIDのスタンプラリーは台紙が品切れで出来なかったのですが、ナムコのナンジャタウンでバニーとかおじさんとかイワンとかキースとかホァンちゃんとかイヴとかノボリとかクダリとかミクさんとかレンきゅんとかのコスの人がいっぱい居て、色んな意味で充実した一日でした^p^
↑全部分かったら凄いかもw
あと、アニメイトでひとしずくPの「秘蜜〜黒の誓い〜」を購入して、家帰って速攻で一気読みしましたw
すげー面白かったです^^




 すると、ガクが刀を降ろした。
「カゴ、どうか武器を降ろしてくれないか。…何か、嫌な予感がするんだ」
「!?」
 ガクがこんな事を言うのは、神代一族が代々受け継ぐ第六感でしか有り得ない。おまけに、これは滅多なことでは外れないときている。
 俺の頬を、再び冷たい汗が伝う。
「……それは、大丈夫なのか……?」
 聞きたくない、でも、聞かなければならない。
 ガクも、とてつもなく苦い顔で返した。イケメンが台無しだと思えるほど、渋い顔だった。
「……かなり、危険だ。私達の、少なくとも一人が居なくなる」
「……!」
 それは本当に、悪夢のようだった。
 悪夢は黒い吐息を周囲に撒き散らしながら、徐々に俺達を蝕んでいった。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.26 )
日時: 2012/09/24 19:11
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 それから冒頭に戻る。
 俺はガクと別れた後、再び視線を感じた。
 小刀を擲ってみるも誰も居ない。
(一体、なんなんだ!?)
 バタバタと足音が大きな音を立てるのも構わず走り出す。
 一刻も早く、ウミとキヨを見つけなければならない。あいつらはまだ、このことを知らない。
 それに、なんだか走り出したい気分だった。
 ああもう、頭ン中、ぐちゃぐちゃだ。
 早く此処から抜け出したい。
 俺は、俺達は、一体何をしているんだ?
「ウミ!」
 八階の廊下に、人影が倒れていた。
「おい、しっかりしろ!」
 口の端から血が滲んでいる。
 よく見てみれば、ウミの身体を揺する俺の手にも、血が付いていた。
「う……」
「ウミ!」
 小さく呻いて、ウミが起き上がった。
「いってぇ……」
 よく見ると、所々衣装が裂けている。
「どうしたんだ?」
「…おい、カゴ。今はゲーム中なんじゃないのか?」
「それどころじゃない。さっき、ガクが異変を感じ取った。誰かが居なくなると言った。なら、もうそれどころじゃないだろう?」
 途端にウミの表情が硬くなる。
「本当か?」
 ウミもガクの事は知っている。
 俺もこいつも、あの能力で何回も助かっている人間だ。
 事の重大さは身に染みている。
 こっちも神妙に頷く。
「キヨにだけ話が行ってないんだ。キヨを見つけたらガクの部屋に行くように言ってくれ」
 ウミが頷くと、俺達は直ぐに離れてキヨを探しに行った。
 ガクは自室で待機している。
 誰が来ても大丈夫なようにだ。
 俺は心の中で音を立てて渦巻く不安に、抗うことが出来なかった。

Re: 【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.27 )
日時: 2012/09/24 23:44
名前: 月露 (ID: IAQru7qe)

おい俺全部わかるぞw
タイバニとIbとサブマスとボカロだろ?
どうしようww

やーほー
そろそろ最低先生でてくるころかい?
期待してるww

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.28 )
日時: 2012/09/25 20:01
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

あんま期待されても困るなぁ……。。。


「キヨ!」
 9階の廊下に、キヨが立っていた。
「大変なんだ!今、ガクが下で待って—」
 何故が分からない。しかし、言葉が途中で凍った。
「そうなんだ?また神代一族の特殊能力か?」
「あ、ああ……」
 キヨは俺の目の前で平然と微笑みながら話している。
 なんでこいつは笑っていられるんだ?
「あそこの一族の勘は滅多に外れることは無いからね。僕もそれで何度命を助けてもらったか分からない。君もそうだろう?カゴ」
 そう言って振り向いたキヨの顔は、今まで見たこともないほど真っ黒に見えた。
「……!?」
 慌てて眼を擦るが、そこにあるのはいつものキヨの顔だ。
「どうしたんだい?」
 優しい笑みを湛えながら、こちらに向かって歩いてくる。
「く……来るな……!」
「なんて事言うんだい?僕が何かしたか?」
 少し哀しげな表情でこちらを見るキヨはいつもと何も変わらない。
「やめろ……!」
 そう言おうとしたが、途端に腹部に痛みを感じ、その場に尻餅を付いてしまった。
(しまった……眼が霞む……)
「君は、……の……に……る……だ。だ……じょ……、み……一緒だか……」
 もう聞こえない。
 耳も機能が低下している。
 キヨの顔が急に近づいてきた。
「う……!」
 口の中に錠剤のような物が入り、一瞬で融けていく。
 俺は、キヨの不気味な笑いを最後に、意識を手放さざるを得なかった。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.29 )
日時: 2012/09/27 19:18
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

(……どこだ……ここは……?)
 重い瞼を上げると、霞んだ目に二人の親友の項垂れた姿が見える。
(俺達は……捕まったのか……?キヨは……?)
 頭が朦朧とする。
 さっきの薬の所為かもしれない。
 縄で縛られてはいない。
 しかし、立ち上がろうにも膝が笑う。
(ちくしょう……!なんなんだ……!?)
 霞んだ眼の向こうに、キヨの姿が見えた。
 小さく笑いを漏らしながら、何かを呟いている。
「くくく……もうすぐ、もうすぐだ……」
(あいつは何を考えている……!?なんで笑っているんだ……!)
 キヨが俺の視線に気付いたようで、こっちに向かって歩いてきた。
「どうだい?今の気分は」
 奴の顔は、闇に染まって真っ黒だった。
 まるで悪魔だ。優しかったあいつの面影は最早どこにも存在しない。
「いいわけ……ねぇだろ……」
「薬が効かなかったかい?いや、そうでも無いようだね。呂律が回っていないよ?」
 楽しそうに俺の顔を覗き込む様は、端から見ればとても楽しそうだ。しかし、その笑みはやっと捕らえることの出来た獲物をどう調理しようか考えている顔だ。

Re: 【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.30 )
日時: 2012/09/27 21:03
名前: はるく ◆2bvow6Zq4g (ID: i5NaGCNU)

解釈すげぇ.....((
その文才に嫉妬してもいいですk((殴

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.31 )
日時: 2012/09/28 20:06
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

>>はるくさん
嫉妬されるような文才は持ち合わせておりませんがw

>>月露
生きていたら返事をしてくれ。





 キヨが徐に口を開いた。
「……僕の家は、代々神官のような役割をしていてね。そう、君の家と同じような感じだよ、樂師」
 そう言ってガクの方に眼を向けた。
 いつの間にか、二人も眼を覚ましていた。
「キヨさん……あなたは……」
 その言葉の意味が分かっているのか、キヨはその端正な顔で不気味に微笑んだ。
「神官になる前の僕の一族は移民だった。勿論僕が生まれる何百年も前だがね。ヨーロッパの辺りからアジアへやって来たんだ。そして、知っているかい?ヨーロッパには、悪魔を信仰する宗教が在るんだ」
 心臓がドン!という音で高鳴る。
 全身どころか内蔵までもに冷たい汗が伝うような気がした。
「僕は、今そこの教祖なんだ。僕はそんなことしたくなかったのだがね、先代の教祖である父が死に、僕は教祖になった。しかし、それにはひとつ条件が在るんだ。—分かるかい?」
 俺達は、多分全員が薬を飲まされていたのだろう。身体が言うことを全く聞かない。唯一、喋ることだけが出来る。
「……生贄、か」
 そう呟いたのはウミだった。
「学生の頃、海外の文化について調べたことがある。その中に宗教もあった。そしてその宗教の教祖になるには生贄を捧げる。普通は家畜などだが、人間を捧げる宗教もあるとあった。勿論犯罪だ。だが—」
 ウミは一度そこで言葉を切った。
「あなたの信仰する宗教は、それをやっているんですね」
「正解だよ、海里」
 嘲笑うかのように見下してくるキヨの瞳には、既にもう狂気しか宿っていない。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.32 )
日時: 2012/09/29 20:55
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

「13943号室」が終わったら、多分このスレはVanaN'Iceの中編スレになると思います。
その時は見捨てずに読んでやって下さいね。





「僕の一族はね、代々それをやってきたんだ。それに何故、教祖なのか分かるかい?教祖とはその宗教を開いた人のことだ。それなのに何故、僕が教祖と呼ばれるのか?」
 両手を広げ、まるで演説でもするかのように部屋の中を歩き回る。
「それはね、生贄によって、僕が新しい悪魔を呼び出すからだよ」
 全身の毛が、ぞわりと恐怖に逆立つ。
 今まで、この宗教のために何人の人々が犠牲になってきたのだろうか。
 そして、今この瞬間、俺達はその犠牲に加えられようとしているのだ。
「……キヨ、そんなことをして、他の人達が気付かないとでも、思っているのか」
 するとキヨは片眉をちょっと上げて、そんなことも分からないのかとでも言うように再び話し始めた。
「それは、確かに気付く人もいるだろう。警察も動き出して、君達の捜索が為されるだろう。でもね、零。君達が居なくなって、何か世界に大きな損失でも起こるというのかい?樂師がマイケル・ジャクソンのような有名な歌手でダンサーだったら?海里がスティーヴ・ジョブズのような高名な開発者だったら?それならば世界の損失だ。しかし、君達が居なくなって何が起こる?」
 何も起こらない。
 精々周りの人間が大騒ぎするだけだ。
「それならば、何も問題はないと思わないかい?ねえ?」
 そう言って、キヨは部屋から出て行った。
 音も何も聞こえない。
 ここにいる三人の全員が口をつぐんでいる。
 何も言えない。
 昔からの親友が、人殺しの一族だったことに。
 今、自分の置かれている状況に。
 すると、ガァンという音が部屋中に響いた。
 ガクが手をコンクリートの床に打ち付けている。
 忽ち床が赤黒く染まっていく。
「ガク……?」
「何もできない……私は。友人を助けることも出来ずに、家族にも思い人にも何も言わずに死んでいくのか……」
 また、外から足音が近づいてくる。
 そしてノブが回された。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.33 )
日時: 2012/09/30 19:12
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

もう少しで「13943号室」は終わるんですが、次に発表予定の「LOVELESS×××」も「眼」も全然書き終わってないので、「からくり卍ばーすと」のように後付の話をしたいと思います。
何かご希望とかございましたらどうぞ。
何もなかったらこっちで適当にやらせていただきます。





 そこから先は、何も覚えていない。
 気が付けば俺は、いつもの格好で自分の狭いアパートの扉の前に立っていた。
 扉を開けると、電気が灯っていた。
(消し忘れたか……?)
 朦朧とした頭でそんなことを考えながら居間のドアを潜ると、中ではテレビを前に双子の姉が座っていた。
「あ、零お帰りー」
 煎餅をくわえながらそんなことを言われても困る。
「何で居るの、姉さん……」
「良いじゃない別に。薄情な弟ねぇ。折角久しぶりに遊びに来てあげたのに」
「だって、ここ俺ん家だし……」
 家族とは別居しているのだ。
 それに、一応姉は名が知れた芸能人だ。迂闊に民家に(しかも姉弟と言えど男の)入っていって良いのだろうか。
 すると理奈は、急に真面目な顔になって話し始めた。
「今日ね、琉美さんに会ったのよ。知ってるでしょ?女優の明野琉美さん。樂師君の恋人。それでね、少しお話ししてたの。そしたら彼女、今日は早く帰った方が良いって言うのよ。弟とは別居だけど?って言ったら、じゃあ直ぐにでも行ってあげなさいって言うの。だから来たの」
「……」
 明野琉美。
 女優にしてガクの彼女。
 そんな彼女も、ガクの影響を受けているのかも知れなかった。
「あの子ももともと第六感とか強いらしくてね、それで、樂師君とも気が合ったみたいよ」
「そう、か……」
 呟くと、俺はその場にへなへなと座り込んでしまった。
 理奈が濡れたタオルを差し出す。
 俺は、それを黙って受け取った。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.34 )
日時: 2012/10/01 19:16
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 後日。
 ウミとガクに連絡を取ってみた。
 二人とも繋がった。
 二人とも、あの時のことは覚えていないと言った。
 気が付けば家の前に立っていたらしい。
 キヨには、怖くて連絡できなかった。
 あいつは今も何処かで悪魔を信仰しているのかも知れないし、もうこの世には居ないかも知れなかった。
 昔から俺達の元に送られてきた『手紙』。
 それは既に俺達の手元には無く、どこかへ消えてしまった。
 『手紙』は、郡山の一族に取り憑いている悪魔が、本当に暇つぶしで送っていたのではないかという結論に至った。
 キヨは本当に何も知らない様子だったからだ。
 俺達がこの二十数年間のうちに死ぬような思いでくぐり抜けてきたGameは、所詮悪魔の暇つぶしでしかなかったのだ。
 そうこうしているうちに、キヨの妻、美雪さんから葉書が届いた。
 そこには、長男が産まれたので、いつか見に来てやって欲しいと書かれていた。
 写真にキヨの姿はなく、お姉ちゃんになった有輝ちゃんと、翔と名付けられたらしい赤ん坊が写っていた。
 それ以来、郡山家とは連絡を取っていない。
 受話器に手を伸ばすと、恐怖で手が震えた。
 ウミもガクも、同様だと言っていた。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.35 )
日時: 2012/10/02 20:46
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 俺達は、どうしたらいいのか、まるで分かっていない。
 突然の変貌を遂げた幼なじみ。
 心の底から絶え間なく沸き上がってくるこの不安感に、抗うことが出来ない。
 俺は、俺達は何をしたら良いのか?
 俺は、本当に要らない存在なのか?
 この世に、不必要なものなのか?
 問いは、山積みだ。
 しかし、その問いの全てに、答えは存在しない。
 波に抗い、もがき、苦しむことしか、俺達には出来ないのか?
 答えは、絶対に何処にも存在しない。
 でも、僅かな本心が泣き叫んでいる。
 『答えがない問題など、在るはずがない』と。
 俺だって、そう思ってる。
 そう思いたい。
 しかし、何を持ってしてそれを証明するのか?
 —答えは存在しない。

〈〈 終 〉〉