二次創作小説(映像)※倉庫ログ

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.1 )
日時: 2012/09/06 22:04
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 真っ暗な闇の中で、聞こえてくるのは二つだけ。
 堅い靴の底がコンクリート製の床を穿つ音と、自分の荒い息遣い。
 どうしてこうなったんだろう。
 言わなくても察して欲しいところだが、やっぱり言わなくちゃ駄目なんだろうな。
 そもそもの事の始まりは、昔の、子供の頃の遊びだった。
 それが、二十代になった今でも続いている。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.2 )
日時: 2012/09/07 22:42
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 自分の所に、送り主の名もなく送られてきた一通の『手紙』。
 それは、自分達が昔考えた、『隠れん坊』と『鬼ごっこ』の開始を告げる、ホイッスルだった。
 『手紙』は誰かが巫山戯て送っているのだろうと皆思っていたから、誰も何も言わなかった。
 そんなことを聞くなんて野暮じゃないか。
 俺の名前は籠宮零。この間大学を卒業し、今はライターをやっている。
 あだ名は『カゴ』。小さい頃からの友達が名付け親だ。
 街中に大きく聳える、無機質で銀色の建物。
 そこの自動ドアをくぐると、俺は至ってシンプルな自分の名刺を受付嬢に差し出した。
 その裏に、ウミへ、と書いて、懐かしの友に渡すように言った。
 これであいつはすぐに俺の前に姿を現すことだろう。
 そいつは、昔から甘い物が好きだった。
 好きすぎて、それが高じて某有名製菓会社の商品開発部に就職した。
 少しすると見慣れた顔がエレベータから降りてきて、俺の顔を認めると嬉しそうに笑った。
「久しぶりだな、カゴ!」
「おう、やっと会えたか、ウミ」
 短く切った髪の間で、子供っぽい光が輝いている。
 四条海里。あだ名はウミ。俺と同い年の、親友の一人だ。
「—おい、ウミ。あの手紙、みたか?」
「ああ。まさかこの歳になってまで送られてくるとはな」
 暫く二人は空を眺めていた。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.3 )
日時: 2012/09/08 21:46
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

「行くか。次はガクだ。キヨはまだ仕事、抜けられないだろうしな。つーか俺が呼び出しといて何だが、お前、もう仕事はいいのか?」
「ああ。丁度新製品の案がまとまったところでね。当分は大丈夫だ」
「じゃあ行くか」
 ピカピカに磨き上げられたガラス製の自動ドアをくぐると、暑い真夏の太陽が照らす街へ出た。
「あちぃー…。」
 真昼のオフィス街を、二人、言葉もなく歩いて行く。
 やがて目的の建物が見えてきた。
 壁にでかでかと「MUSIC STUGIO」と書かれている。
 受付で、相手の居る場所を聞く。
 ただ、受付に座っていた中年の女性は、あまり快くは教えてくれなかった。
 コアなファンと思われただろうか。
 無数に並ぶ扉の隙間から微かにメロディーが流れてくる。
 勝手知ったると言うように無造作に扉を開くと、中では二人の男が大量の機材の前に座り、その視線の先に彼らの目指す相手が居た。
 しかし、そこはガラスの壁で遮られている。
 大人しくその作業が終わるまで待つ。
 音楽が鳴りやむと、ヘッドホンを外して、ガラス張りの部屋から髪の長い男が出てきた。
 二人に気がつくと、この男にしては珍しい作り物ではない笑みを浮かべた。
「やあ、ふたりとも。いつの間にきたんだい?」
 こいつは神代樂師。人気のシンガーソングライターだ。あだ名は『ガク』。
 神代家には代々不思議な能力があって、こいつもその例に漏れない。
 それが関係あるのかどうかは知らないが、長く伸びた髪を高く結い上げ、適当に纏めて簪でそれを留め、言葉遣いも、俺達に対してさえ柔らかい言葉で話す。
 まったく女らしいっちゃ仕方がないが、顔は立派に男なので(しかも女の子に人気のある顔だ。ここが一番酌に障る)、色々と反応に困るところが多い。
「さて、残るはキヨだけだが、あいつは仕事上がるのが遅いからな…」
 苛立たしげに呟くと、ガクは笑って自分の家に来るように言った。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.4 )
日時: 2012/09/09 19:12
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 これで夜までは暇が出来た。
 三人で街を歩いたが、ガクだけは帽子を目深に被った。
 長らく忘れていたが、彼は人気の歌手なのだ。
 マスコミや追っかけなど、色々とかわすのに忙しい。
 しかしながら、久しぶりに友に会うのは楽しい。
 俺達三人は夜になるまで昔の思い出話に耽った。
「そう言えば、この前理奈ちゃんに会ったよ」
 ガクが言った。
 理奈とは、俺の双子の姉だ。
 事務所に所属し、アイドルのようなことをしている。
 似たような職業なのだから会うのは必然だが、俺にとっては苦手な身内でしかないのだ。
「彼女、可愛くなったね」
「そーいうのは俺じゃなくて本人に言ってくれよ…」
 半ば溜め息を吐きながら、吐き捨てるように言った俺だった。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.5 )
日時: 2012/09/10 19:26
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

「っと、もうこんな時間か…。キヨに連絡するか」
 自分のオレンジ色の携帯端末を取り上げると、ウミが言った。
「また美雪ちゃんが来ることないだろうね?」
「あー…。」
 美雪、と言うのは、キヨの妻だ。
 成人したばかりの頃に結婚したのだが、あいつが時々夜に家を出ていくので、不審に思ってガクの家まで付いてきたことがあった。
「ま、今は大丈夫だろ。有輝ちゃんが居るんだから」
 有輝はキヨの一人娘だ。
 キヨの奴は娘にべた惚れで、見ていてこっちがおかしくなるくらい親馬鹿だ。
 電話の着信音が続き、聞き慣れた声が出た。
『はい、郡山です』
「久しぶりだなァ、キヨ。元気だったか?」
 相手はすぐに好色を示した。
『カゴ!久しぶりだね、そっちはどうだい?』
「ああ。俺もウミもガクも元気だ。—で、話なんだが—」
『またあの手紙だね?僕もすぐそっちに行く。今どこだ?』
「ガクの家だ。美雪さんと有輝ちゃんによろしく」
『ははは また遊びに来てくれよ。じゃあ、後で』
 そう言って電話は切れた。
 俺は深い溜め息を吐くと、上を見上げた。
「また、これか……。」
 頭をがしがしと掻き回すと、ガクに向かって言った。
「ガク!お前なんか歌え!」
「えぇ?…じゃあ、サ☆ム☆ラ☆イ!」
「じゃなくてもっと普通の!」
 叫んだら疲れた。
 そこで俺は、ガクの美声をBGMに、暫く会っていないキヨの事を思い出すことにした。
 キヨは、本名郡山清。
 俺とウミより二つ年上だ。
 昔から頭が良くて、今は小学校で教師をしている。
 俺とキヨはまったく別の道を進んでいる。
 なのに、時々感じる、訳の分からない悪寒と、恐ろしく見えるキヨの笑顔—。
 考えるのをやめて、ガクの歌に聴き入ることにした

静かな湖のほとり
幻想的な古い建物
煌びやかな服を纏い
虚ろな瞳で外を見ていた

すべては思うがままに従わせて
毎晩違う娘を抱いては狂わせるだけ

悲しみに満ちた空は
愛する事さえも忘れて欲望のままに
緩やかに流れる時間は
一瞬の快楽も闇に消えて涙を浮かべた

冷たい人形のように
哀しい顔で僕を見ていた
綺麗な仮面を着けて
誰にも心知られぬように

優雅に踊る仕草に目を奪われて
誰にも触れさせないように
さぁ箱庭の中へ

切なさに恋い焦がれて
運命も未来も変えてしまう程の熱情
汚れたこの血が絶えても
真っ赤に染まった
大地の中で眠りたい

聖なる光よ火を灯せ

悲しみに満ちた空は
愛する事さえも忘れて欲望のままに
緩やかに流れる時間に
きつく抱き寄せた
忘れない永遠の約束

 新曲だろうか、聴いたことがなかった。
 でも、不思議と俺は頭の中に幻想を描いていた。
「ガク…それ、新曲だろう?俺達に聴かせちまって良いのか?」
 するとガクは優しく笑って答えた。
「いいんだよ。君たちなら。だって、君たちは私の友達だろう?」
 あんまりガクが真剣に言うから、俺達は顔を見合わせて笑ってしまった。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.6 )
日時: 2012/09/11 19:43
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

前回の歌詞は
Le rouge est amour SCLproject(natsuP) feat Gackpo(神威がくぽ)
です。
PVも滅茶苦茶格好良いので宜しければご視聴下さい。



 その時、唐突にインターホンが鳴った。
 ガクが出るわけにも行かず(なにせ有名人なので)俺が出た。
 そこにいたのは案の定キヨで、いつの間にか降り出した雨の中、丸眼鏡の向こうで優しげな瞳が笑っている。
「やあ」
「キヨ!元気だったか?」
「ああ、元気元気」
「ウミとガクも上で待ってるよ」
 傘を閉じ、靴を脱いで上がる。
 まただ。
 キヨと並んだときに感じる、訳の分からない悪寒。
 扉を開けると、二人がさっきと同じように床に敷かれたカーペットの上に座っていた。
「キヨさん!」
「二人とも、久しぶりだなあ。ガク、お前の活躍はいつも見てるぞ」
 その言葉でガクがくすぐったそうに笑った。
 明日に話は置いておくとして、俺達は思い出話に花を咲かせ(男だけでなんだが)、その日はガクの家に泊まっていくことにした。