二次創作小説(映像)※倉庫ログ

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.31 )
日時: 2012/09/28 20:06
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

>>はるくさん
嫉妬されるような文才は持ち合わせておりませんがw

>>月露
生きていたら返事をしてくれ。





 キヨが徐に口を開いた。
「……僕の家は、代々神官のような役割をしていてね。そう、君の家と同じような感じだよ、樂師」
 そう言ってガクの方に眼を向けた。
 いつの間にか、二人も眼を覚ましていた。
「キヨさん……あなたは……」
 その言葉の意味が分かっているのか、キヨはその端正な顔で不気味に微笑んだ。
「神官になる前の僕の一族は移民だった。勿論僕が生まれる何百年も前だがね。ヨーロッパの辺りからアジアへやって来たんだ。そして、知っているかい?ヨーロッパには、悪魔を信仰する宗教が在るんだ」
 心臓がドン!という音で高鳴る。
 全身どころか内蔵までもに冷たい汗が伝うような気がした。
「僕は、今そこの教祖なんだ。僕はそんなことしたくなかったのだがね、先代の教祖である父が死に、僕は教祖になった。しかし、それにはひとつ条件が在るんだ。—分かるかい?」
 俺達は、多分全員が薬を飲まされていたのだろう。身体が言うことを全く聞かない。唯一、喋ることだけが出来る。
「……生贄、か」
 そう呟いたのはウミだった。
「学生の頃、海外の文化について調べたことがある。その中に宗教もあった。そしてその宗教の教祖になるには生贄を捧げる。普通は家畜などだが、人間を捧げる宗教もあるとあった。勿論犯罪だ。だが—」
 ウミは一度そこで言葉を切った。
「あなたの信仰する宗教は、それをやっているんですね」
「正解だよ、海里」
 嘲笑うかのように見下してくるキヨの瞳には、既にもう狂気しか宿っていない。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.32 )
日時: 2012/09/29 20:55
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

「13943号室」が終わったら、多分このスレはVanaN'Iceの中編スレになると思います。
その時は見捨てずに読んでやって下さいね。





「僕の一族はね、代々それをやってきたんだ。それに何故、教祖なのか分かるかい?教祖とはその宗教を開いた人のことだ。それなのに何故、僕が教祖と呼ばれるのか?」
 両手を広げ、まるで演説でもするかのように部屋の中を歩き回る。
「それはね、生贄によって、僕が新しい悪魔を呼び出すからだよ」
 全身の毛が、ぞわりと恐怖に逆立つ。
 今まで、この宗教のために何人の人々が犠牲になってきたのだろうか。
 そして、今この瞬間、俺達はその犠牲に加えられようとしているのだ。
「……キヨ、そんなことをして、他の人達が気付かないとでも、思っているのか」
 するとキヨは片眉をちょっと上げて、そんなことも分からないのかとでも言うように再び話し始めた。
「それは、確かに気付く人もいるだろう。警察も動き出して、君達の捜索が為されるだろう。でもね、零。君達が居なくなって、何か世界に大きな損失でも起こるというのかい?樂師がマイケル・ジャクソンのような有名な歌手でダンサーだったら?海里がスティーヴ・ジョブズのような高名な開発者だったら?それならば世界の損失だ。しかし、君達が居なくなって何が起こる?」
 何も起こらない。
 精々周りの人間が大騒ぎするだけだ。
「それならば、何も問題はないと思わないかい?ねえ?」
 そう言って、キヨは部屋から出て行った。
 音も何も聞こえない。
 ここにいる三人の全員が口をつぐんでいる。
 何も言えない。
 昔からの親友が、人殺しの一族だったことに。
 今、自分の置かれている状況に。
 すると、ガァンという音が部屋中に響いた。
 ガクが手をコンクリートの床に打ち付けている。
 忽ち床が赤黒く染まっていく。
「ガク……?」
「何もできない……私は。友人を助けることも出来ずに、家族にも思い人にも何も言わずに死んでいくのか……」
 また、外から足音が近づいてくる。
 そしてノブが回された。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.33 )
日時: 2012/09/30 19:12
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

もう少しで「13943号室」は終わるんですが、次に発表予定の「LOVELESS×××」も「眼」も全然書き終わってないので、「からくり卍ばーすと」のように後付の話をしたいと思います。
何かご希望とかございましたらどうぞ。
何もなかったらこっちで適当にやらせていただきます。





 そこから先は、何も覚えていない。
 気が付けば俺は、いつもの格好で自分の狭いアパートの扉の前に立っていた。
 扉を開けると、電気が灯っていた。
(消し忘れたか……?)
 朦朧とした頭でそんなことを考えながら居間のドアを潜ると、中ではテレビを前に双子の姉が座っていた。
「あ、零お帰りー」
 煎餅をくわえながらそんなことを言われても困る。
「何で居るの、姉さん……」
「良いじゃない別に。薄情な弟ねぇ。折角久しぶりに遊びに来てあげたのに」
「だって、ここ俺ん家だし……」
 家族とは別居しているのだ。
 それに、一応姉は名が知れた芸能人だ。迂闊に民家に(しかも姉弟と言えど男の)入っていって良いのだろうか。
 すると理奈は、急に真面目な顔になって話し始めた。
「今日ね、琉美さんに会ったのよ。知ってるでしょ?女優の明野琉美さん。樂師君の恋人。それでね、少しお話ししてたの。そしたら彼女、今日は早く帰った方が良いって言うのよ。弟とは別居だけど?って言ったら、じゃあ直ぐにでも行ってあげなさいって言うの。だから来たの」
「……」
 明野琉美。
 女優にしてガクの彼女。
 そんな彼女も、ガクの影響を受けているのかも知れなかった。
「あの子ももともと第六感とか強いらしくてね、それで、樂師君とも気が合ったみたいよ」
「そう、か……」
 呟くと、俺はその場にへなへなと座り込んでしまった。
 理奈が濡れたタオルを差し出す。
 俺は、それを黙って受け取った。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.34 )
日時: 2012/10/01 19:16
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 後日。
 ウミとガクに連絡を取ってみた。
 二人とも繋がった。
 二人とも、あの時のことは覚えていないと言った。
 気が付けば家の前に立っていたらしい。
 キヨには、怖くて連絡できなかった。
 あいつは今も何処かで悪魔を信仰しているのかも知れないし、もうこの世には居ないかも知れなかった。
 昔から俺達の元に送られてきた『手紙』。
 それは既に俺達の手元には無く、どこかへ消えてしまった。
 『手紙』は、郡山の一族に取り憑いている悪魔が、本当に暇つぶしで送っていたのではないかという結論に至った。
 キヨは本当に何も知らない様子だったからだ。
 俺達がこの二十数年間のうちに死ぬような思いでくぐり抜けてきたGameは、所詮悪魔の暇つぶしでしかなかったのだ。
 そうこうしているうちに、キヨの妻、美雪さんから葉書が届いた。
 そこには、長男が産まれたので、いつか見に来てやって欲しいと書かれていた。
 写真にキヨの姿はなく、お姉ちゃんになった有輝ちゃんと、翔と名付けられたらしい赤ん坊が写っていた。
 それ以来、郡山家とは連絡を取っていない。
 受話器に手を伸ばすと、恐怖で手が震えた。
 ウミもガクも、同様だと言っていた。

【VOCALOID】13943号室【VanaN'Ice】 ( No.35 )
日時: 2012/10/02 20:46
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 俺達は、どうしたらいいのか、まるで分かっていない。
 突然の変貌を遂げた幼なじみ。
 心の底から絶え間なく沸き上がってくるこの不安感に、抗うことが出来ない。
 俺は、俺達は何をしたら良いのか?
 俺は、本当に要らない存在なのか?
 この世に、不必要なものなのか?
 問いは、山積みだ。
 しかし、その問いの全てに、答えは存在しない。
 波に抗い、もがき、苦しむことしか、俺達には出来ないのか?
 答えは、絶対に何処にも存在しない。
 でも、僅かな本心が泣き叫んでいる。
 『答えがない問題など、在るはずがない』と。
 俺だって、そう思ってる。
 そう思いたい。
 しかし、何を持ってしてそれを証明するのか?
 —答えは存在しない。

〈〈 終 〉〉