二次創作小説(映像)※倉庫ログ

ドラゴンクエストⅧ 二人の出会い ( No.173 )
日時: 2013/01/19 14:21
名前: フレア (ID: S34N07sC)

「もう……。勉強は沢山だわ」
ミーティアが、ドルマゲスを追う旅に出る十年前。
八歳のミーティアはトロデーン城から抜け出して適当に外でぶらついていた。
「私は勉強なんかより武術を習いたいのにお父様ったら……」
今頃城ではミーティアが居ないと大騒ぎになっているだろう。
しかし、彼女はそんな事は気にも留めず、てくてくと小さな足で歩いていく。
彼女がよく、ざわめく心を落ち着かせるために行く、森へと。
この日は、桜の花が満開に咲いていた。
「……私だって、政治の道具に過ぎない。だから、この時を目一杯楽しんで生きたいのに……」
ミーティアはふと足を止め、空を見上げる。
舞い散る桜の花びらの間から、澄み渡った空が見える。
「……せめて……、せめて私はみんなを守れるぐらい強く……!」
「……誰かいるの………?」
不意に、声を掛けられてミーティアは振り向く。
彼女の手にはいつの間にか身の丈以上にある鎌が握られていた。
「……あ、ごめん。驚かせるつもりはなかったんだけど……」
声の主は、ミーティアと同じくらいの歳の、少年だった。
茶髪茶眼で、腕にはネズミを抱きかかえてあった。
「……私に何か用ですか?」
ミーティアは少年の姿を確かめて、尚も鎌を仕舞わない。
「……」
少年はふるふると首を横に振った。
「何だか君、寂しそうに見えたから……」
「……!」
心の中を見透かされたようで、思わずミーティアはたじろぐ。
しかし、すぐに元の表情に戻り
「残念ながら、私はそのような感情は持ち合わせておりません」
「……何で?君は人間だろう?」
少年は小首を傾げる。
若干ミーティアは苛つきながらも言った。
「人間ではありません。私は政治の道具です。王家に生まれたのが運の尽き、私に自由は何一つ無いのです」
「へぇ、君、お姫様だったんだぁ。道理で可愛いわけだよ」
屈託のない笑顔で少年はミーティアを見る。
どうやら少年自身は冗談を言っているわけでなく、ありのまま、思ったことを言ったらしい。
「なっ……!何を言います!?殴られたいんですか!?」
ミーティアは顔を真っ赤にする。
「照れた表情も素敵だよ」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!もうっ!貴方天然っていうか……凄く女ったらしですね!将来女性がらみで問題起こしそうです!」
「……?難しくて分からないや」
「もうっ!私、城に帰りますっ!!」
「あっ!ちょっと!」
ミーティアは少年の制止を無視し、城へと早足で帰って行った。
「……また、会えるかな………」
少年は、城へ帰るミーティアの背中を、見えなくなるまでずっと見ていた。

もちろん、ミーティアは城に帰ると、怒られた。
しかし、怒られたからと言って、ミーティアは懲りるわけがない。
好奇心旺盛な子供を止められる人は、あまり居ないだろう。
次の日も、ミーティアは森へと向かう。
昨日の少年に、出会えると思って。
「……あっ!君は昨日の……!」
少年はにっこりと笑う。
相変わらず、ネズミが腕に抱きかかえられている。
「ここって良いよね。心が安らぐっていうか……」
「…………」
無言でミーティアは少年の隣に立つ。
小鳥のさえずりや、木々の触れ合う音が、心に染みこむ。
「ねぇ、僕達友達にならない?」
突然、そんな事を言われてミーティアは耳を疑った。
「……え?」
「友達にならない?僕達、気が合いそうだしね」
「……友達、か……」
自然と、ミーティアの翡翠の目から涙が溢れる。
「えっ……あ、あの………?何か気に障ることを言っちゃったんだったらごめん!謝るからさ、泣き止んでよ」
少年は慌てて謝った。
「ううん……。私を……そうやって……普通の友達みたいに……接してくれる人いなくて……。姫だって分かると……みんな……急に離れていちゃって……」
「……そっか……」
「……あの………」
「うん?」
「………もし良かったら、トロデーンに……来ませんか?無理にとは言いませんが……」
ミーティアの申し出に、少年は微笑んだ。
「僕、記憶無くしちゃってさ……。行くあてが無いから、君がいいのなら……」
「記憶……?」
「うん。どこで生まれたのか、両親は誰なのかとか……全く覚えてないんだ」
「……名前は?もしかして名前も覚えてないのですか?」
大丈夫、覚えてるよ、と言って少年は名乗った。
「僕はエイトっていうんだ」
「エイト……エイトですか……」
「君は?」
「私はミーティア・トロデーンと申します。以後、お見知りおきを」
「ははっ……堅いなぁ。じゃあミーティア、よろしく」
エイトは右手を差し出した。
「エイト、よろしくお願いします」
ミーティアはその右手を、握った。
じんわりと心に暖かいものが広がっていくのを感じる。
「……友達、ですか………」
手を放し、ミーティアは空を仰ぐ。
エイトも同じように空を見上げる。
相変わらず、青く澄んだ空は、桜の花びらが舞っていて、それは二人の出会いを祝福しているようだった。