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ドラゴンクエストⅧ 光と闇の軌跡 第97話 ( No.272 )
日時: 2013/04/19 19:23
名前: フレア (ID: 7LtFMS9U)

彼は、雨が降り注ぐ曇天の空を見上げていた。
その手には血に濡れた剣を持って。
「…………」
「おい、お前大丈夫か?顔真っ青だぞ」
「……ん、ああ」
「……サフィラのことか?」
「…………」
「やっぱりか。まああいつなら大丈夫だろ。それより……奴は」
「この世界にいないだろうな」
「は?」
「……もう五年も経ってるんだぜ?残る最後の一体をいくら探しても見つからねぇ」
「……協力者がいるってことか?」
「あくまで推測に過ぎないけどな」
「…………」
彼は空を仰いだまま、眼を細めた。
紅の瞳には冷たい光が宿っていたのに傍らの少年は気が付いたが、何も言えなかった。


『五月蠅い……!』
暗闇の中から聞こえてきたその少女の言葉は、憎悪が隠っていた。
やがて霧が晴れるように景色が見え出す。
そこには……果てしなく続く空と、雲海と、切り立った崖のような場所と、老人に囲まれている少女がいた。
『お前達は《異端》。本来ならば生まれてくるはずのない悪魔の子だ』
しわがれた老婆の声に、反発するように子供が睨む。
『ふざけないで……!私にだって……私達にだって幸せに生きる権利がある!なのに……』
『この里が危険に晒されてもいいというのか!!下界には欲望にまみれた人間共がいるのじゃぞ!この里を護るために我らはこの地から出ることを禁じていたのにあのバカ娘が……!そもそもお前らに生きる権利すら無いことを忘れるな!!』
『…………っ!!』
『……時間だ。竜神王様の元へ連れて行け。あのガキも』
『…………!!!やめろっ!!』
『なっ!?』
少女の左の手首が輝きだした。
見ようによってはブレスレットにも見える、黒き紋章。
『くっ……!?まさかこんな子供が……?』
七人いる内の老人の一人が呻く。
その右腕は黒く焼き焦げていて、もう回復は不可能だろう。
『大丈夫か!?』
『あ!おい待て!!』
少女は老人の叫びには構わず全力で疾走する。
彼女の、たった一人の家族の為に。
『うん……?エミリアー?どうしたの?』
『いいから早く!』
『へ!?』
エミリアと呼ばれた少女は、少年の腕を掴んで唯一の出入り口である洞窟へと走る。
『メラゾーマ!!』
『なっ!きゃあ!!』『うわっ!!』
突如降り注いだ炎の雨に、彼らは苦しみ、倒れる。
『はあっ……追いつめたぞ』
『…………』
少年はエミリアがぐったりした様子で起きあがらないのを横目で見、迫ってきた老人を睨み付けた。
後ろは断崖絶壁。逃げ場は無い。
『……エミリアだけは逃がして』
『何を言う。この里を知った者を下界に連れゆくことは断じて禁じられておる。お前らに残された道は《死》しかない』
『エミリアだけは逃がして』
少年は、同じ言葉を繰り返す。
その声音は低く、重く、強い意志が隠り、老人達を怯ませる。
『……駄目だ』
『……なら』
少年は力一杯少女の身体を押した。
少女が、悲鳴も上げずに雲海を貫いて落ちてゆく。
石が、ぱらぱらと後を追う。
『……エミリア……無事でいて……』
少年は祈るように先程まで少女がいた場所を見た。
『糞ガキがっ!!貴様!』
『僕はどうなってもいい。それを覚悟でこんなことやったんだから。殺すんなら殺せばいい』
その言葉は八歳の子供が言っているのではなく、まるで獣が咆えているかのようだった。


「…………!!!」
エイトは飛び起きた。
まだ日は昇っておらず、部屋は暗い。
だがそれよりも思考は先程の《夢》の方にいっていた。
「…………何なんだ……?」
頭を押さえて一人呟く。
彼にはなぜ自分が泣いているのかが分からなかった。