二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- *参照400突破祭* ( No.62 )
- 日時: 2012/10/29 19:57
- 名前: はるく ◆2bvow6Zq4g (ID: 2PmCSfE.)
人間が、嫌いだった。
何よりも、この世界の何よりも人間が嫌いだった。自分勝手で自己中で、気まぐれで偽りで……そんな人間が、俺は大嫌いだった。
俺が人間ではない、初めて知ったのはいつだっただろうか。「俺は人間だ」と、マスターに反発していたのを覚えている。それでも現実は変えられない。全てが真実だと告げられる。
「俺は人間ではないのだ」と。
「ただのアンドロイドだ」と。
「自分一人では生きていけないのだ」と。
現実はつきつけられた。
人間によって設定された心。もちろん自分の意思で動かすことなどできない。性格、性別、容姿、年齢、声、意思、口調……おそらく人間に存在するもの全ては俺の中で勝手に設定されたものばかりだ。
時々町につれ出してくれた時、自分と同じ姿の男を見るたびに胸が痛む。
何で俺はこんな体に生まれてきたのか、俺だって人間に生まれたかった。ココロさえもプログラムされたアンドロイドなんていらない、俺は嫌いだ、こんな体。こんなものを生み出した人間が、嫌いだ。
「は、初めまして…私、VY1こと、MIZKIっていいますっ。えと…どうか宜しくお願いします…!」
やってきたのは一人の少女だった。長い黒髪に、着物。マスターが新しく買ってきたアンドロイドらしい。
「勇馬、お前の妹なんだよ。」
マスターは言った。
へぇ…それも設定といったところか。それなら商品名が似てるのは無理もないか。
「おにぃちゃん……え、えっと…勇馬…ですね…! よ、宜しくです…」
緊張しているのだろうか、ミズキは顔を真っ赤にしながら言った。
「これから…宜しくお願いしますねー…」
気だるげな声で俺は言った。
これもプログラムといったところ…嫌いだ。人間は嫌いだ。
「が…私も…歌っ…頑張りますので…!」
ミズキは元気良く言った。知らなかったのだろう、マスターがどんな奴かと言うことを。知らない方がいい、後で泣くはめになる。
「そうか…また一緒に歌えるといいですねー…」
俺の言葉にミズキは嬉しそうに目を輝かせ、「うん!」と明るく返事した。
分かっていた。このココロがプログラムだということは…
でも、これは人間もアンドロイドも同じことだが、「自信の心に嘘はつけない。」
そう、俺はこの時、はじめて愛という感情を知った。例えこのココロがプログラムだとしても、この想いだけはどうか本当であってほしい。
俺は思ったのだ、いや、想ったのだ。
プログラムのココロは、ミズキを好きになったのだとー…
- *参照400突破祭* ( No.63 )
- 日時: 2012/10/29 20:24
- 名前: はるく ◆2bvow6Zq4g (ID: 2PmCSfE.)
あれから何年もの時が経った。更に何ヵ月もの月が流れた。
勿論、この想いが変わることはなかったし、伝えることもなかった。
しかし、伝えておけばよかったかな。この時になってそれは遅いか。
あんなに明るかったミズキ、優しい笑顔で俺を癒した。あのミズキが、今は俺の前で服を真っ赤に染めて泣いている。
『亜種化』
一つの言葉が頭をよぎった。まさかとは思っていたが、ミズキは自分から告げた。「もうミズキには戻れない」と。
『RUI』。それが新しいたミズキだった。
俺は、こんなになるまでどうして何もしてあげられなかったんだと後悔した。もっと早くにあの暗闇から救ってあげられればと思った。
しかし、少しミズキを羨ましく思う一面もあった。
自分の意思で動き、マスターを斬った。それはもう縛られて生きるアンドロイドとは違った。その姿は、比較的人間に近い、いや、もうとっくに人間を越えているのかもしれない。
だからなのだろうか、本当はミズキを止めて、ずっと一緒にいたかった。それでも俺は力ずくにでも止めようとはしなかった。
今まで溜め込んでいた想いを告げ、そのままミズキ……ルイの姿を見つめていた。
一緒に生きたい。
その思いは強かったのだが、アンドロイドというものから解放されたルイを、俺は止めることが出来なかった。
俺と一緒にいれば、ルイは結局同じことのくりかえし。プログラムのココロに愛されることをルイは望んでいないかもしれない。
俺はルイを見送ることしかできなかった。
それから何分かしたころ、救急車がマスターを病院に運んだ。俺の他のボーカロイドは、泣きながらマスターを送っていたが、俺はどうしてもそんな気にはなれなかった。
そんなことを考えているうちに、俺の足は勝手に走り出す。逆方向へ、出来るだけ遠くへと走った。
人通りの少ない道に着いたころだった。
「人間が憎いの…?」
「だ……誰…?」
何処からか声がした。
「お前のココロはプログラムだ。お前はそれをずっと悔やんでいただろう…?」
「な…何でそれを知ってるんですか…?」
それは、誰にも言ったことなどなかった。一つも漏らしたことなどなかったのに、この声の主は全てを知っていた。ミズキのことも、俺のこの想いさえもー…
そして、
「ルイ…あの子さぁ、本当は逃がしたくなかったんだろ…?」
知っていた。
俺が何よりもずっと気にしていたことを、知っていた。
「どうしてそれを…知ってるんですか…」
「俺ァ何でも分かるんだ、お前のことならね。あのルイって子、どうせ逃がすなら殺してしまえばよかったのに。」
「なっ…!?」
「お前は思わなかったのか?誰かに奪われるくらいなら…と。」
ルイを殺せば良かった…?
何を言い出すんだろう。そんなこと出来るわけもない。
「でもさぁ、このまま生きても幸せにはなれないね。」
嗚呼。確かにそうかもしれない。
だったらいっそ…
「「全てを壊してしまえば良かったのに。」」
声の主が最後に少しだけ笑ったのが分かった。その時だった、体に突然感じたことのない痛みが走った。まるで雷にうたれたかのようだ。
このまま俺は死ぬのか、と確信した。
終わりだ。
最後にもう一度……会いたかったかな…
意識が薄れ、俺はその場に倒れ混んだ。