二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 【カゲプロ】人間冷凍ショコラ【オリジナル】短編オリキャラ募集 ( No.137 )
- 日時: 2012/11/24 21:51
- 名前: noeru (ID: ylMr/vq3)
それは予定調和のように。
あるところに、1人ぼっちの王女様がいました。
王女様は悪い魔女のせいで、大人になったら死んでしまいます。
何度も魔女のせいで殺されそうになりましたが、そのたびにたくさんの人が王女様を助けました。
王女様は可愛く可憐で優しい人でした。
人々は王女様が大好きで、王女様を自分だけのものにしたいと思うようになりました。
そして、いつしか人々は王女様を守るふりをして争うようになりました。
王女様はそれを知りませんでした。
でも本当は知っていて、知らないふりをして笑っていました。
そして、王女様は大人になりました。
王女様は死んでしまいました。
誰も、悲しみませんでした。
ユキが知っている話は、数えきれないほどあった。
病院で基本的に1人ぼっちだったので、ずっと本を読んだりトランプをしたり、それ以外やることがなかったのだと言っていた。確かにトランプでは1人で遊ぶものから何故か数人で遊ぶものまで(本人曰く『1人神経衰弱』や『1人ババ抜き』というゲームとして自ら編み出したらしい)、今まで俺はユキに勝てたことが無い。たとえ運と記憶力のみが重要なものでもコツがあるらしい。もちろん1人で発見したコツだ。
それだけでなく、1人遊び全般においては最強レベルだった。
あの紙飛行機もよくよく考えればものすごいクオリティだった。昨日病室に行ったとき、机の上に立体のティラノサウルスやらトリケラトプスやらが並んでいたのは衝撃的だった。画力も半端なく、人間にとどまらず動物や空想上の生き物、風景までなんでも描いてしまう。しかしそれらも、本人が『特技』と自称するものに比べればなんともない。
———ユキの特技は、『1人じゃんけん』なのだ。
「……今日も『1人じゃんけん』やってんの。」
「あ、シンタロー。」
病室に入ってまず目に飛び込んできたのは、ベッドの上で上半身を起こして、折り紙をするでもなく絵を描くでもなく本を読むでもトランプをするでもなく、1人でじゃんけんをしている重病人だった。
「よく飽きないよな……見てて痛々しいぞ、かなり。」
「だって、今まで一緒にやる人なんてほとんどいなかったし……」
それだけ言うとまた1人でじゃんけんを始める。今日の勝者は左手らしく、絶対に右手が負けている。1人じゃんけんにも必勝法があるらしい。
「それよりさっ!いい話があるんだよっ!!」
1人じゃんけんに飽きたらしい。林檎を剥いていると、急にユキが意気揚々と話し始めた。いつもよりもテンションが高いが、ということはユキの言う通り朗報なのだろう。手を止めてベッドの傍に座る。それを待っていたかのように、関を切って一気に話し始めた。
「あのね、僕の薬って今何粒か憶えてる?!」
「何だよ急に……14粒だろ?」
「うんっ、それが明後日から21粒に増えるんだけど。」
「それ全くもっていい話じゃねえよ!!」
どこが『いい話』なのだろうか。ユキは薬も注射も点滴もあまり苦ではないと言っていたが、内服薬が7粒も増えることがいいこととは思えない。むしろ病状が悪化しているのかもしれない。
「でもね、代わりに———」
呆れる俺を余所に。
嬉しそうに、あの満面の無邪気な笑顔で。
「———明日にも、退院できるんだ!!」
その日、2人で喜んだ。ユキは今にも泣きそうだった。
学校に行けるんだ、ってずっと笑ってた。
もう1人でじゃんけんしなくてもいいんだよね?なんて言うのはやっぱりちょっとズレてんなーとは思ったけど。