二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 【カゲプロ】人間冷凍ショコラ【オリジナル】 ( No.16 )
- 日時: 2012/10/23 20:31
- 名前: noeru (ID: mqlDl9Nn)
「あっ!キドさん!!ユキ、意識が戻りましたっ!」
ぼやけていた視界がだんだんはっきりしてきて、目の前にモモがいるのが確認できた。いつの間にか仕事から帰って来たらしい。時計を見ると午後9時半。まだマリーちゃんやカノさんは居る…のかな?どうやらリビングのソファの一角で座ったまま眠っていたようだ。
「あれ?私…。」
「あれ?もう起きちゃったの?」
隣から声がして、横を見るとカノさんがいた。
「みにゃあああああっ!!!」
「あはははっ!変な声!!」
笑われた。ちょっとムッとして顔を逸らす。しょうがない、最近コミュ障を治し始めたばっかりなんだもん。それでもカノさんはへらへら笑ってる。それを見ていたら、自分が怒ってるのが可笑しくなってきた。思わず笑いかけた。
「ていうかさ、ユキちゃんって孤児院にいたよね?」
———ごめん、訂正させて。
「…えっ?!なんで…?」
「あ?やっぱり?キドーっ、あたりだよ!本物!!本物のユキだよーっ!!」
キドさんを呼ぶカノさんの横で、回路が破裂した。なんで知ってるの?本物って何?なんで大声で言うの?どれだけデリカシーが無い人なの?こっちが—————どんな思いか分からないの?
「ば、馬鹿!!カノ、お前———」
「へ?———あーあー…。やっちゃったー…。」
「—————ぅうっっうぅぁああ———っ!」
大泣きしてしまった。嗚咽を混ぜて、子供のように泣いてしまった。もう最悪だ。人間の大量発生に怯えて、しかも能力持ってて、あの夢見て、泣いて、暴走して、挙句の果てに掌をざっくり。それだけじゃ足りないみたいで、ちょっとした回想休憩の後はいきなり目の前に人間がいて、孤児院にいたとか暴露されて(大声)、再び大泣き…。ついてないなぁ。
「あれ?ユキ?!泣いてんの?!」
「モモぉ…カノさんがぁっ…。」
カノさんはさっきからキドさんにすごい勢いで蹴られている。たまに「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!キド痛いよ!!」とか聞こえてくる。モモは一瞬で事態を理解したようで、すぐに「お兄ちゃーん!!ユキがーっ!!」って叫びながら奥に消えていくのがかすんだ目で見えた。良くできた妹だなぁ。実の妹でも義理の妹でもないけど。
「あれ、目…。鏡、鏡、眼鏡、鏡、眼鏡…。」
強力な呪文でも唱えるように『鏡』と『眼鏡』を連呼する。こんなにも順番がばらばらな呪文があったら誰か教えて。
「誰かを虫に変える系の呪詛だったりして。あはははは…」
笑えない。全く笑えない。もう散々だ。人間なんて関係を持てば必ず傷付くんだって、あの日に痛いほど知ったのに。涙が止まらないよ。モモはアイドルとしてこの何万倍の人間を一気に相手にしてるんだよね、すごいよ。本当にすごい。私は何もできない分、モモが輝いて見える。ここにいる人間にとって、何億の人間の中に1分居たら100万貰える企画があるとしたらきっと楽勝だろう。私はそれがたとえ欲しくてたまらないゲームでも、食べたくてたまらないお菓子でも、会いたくて死にそうな人でも———私じゃ出来ない。
「なにまた泣いてんだよ。」
「っ!…シンタロー。」
首筋に突如触れた冷たいペットボトル。犯人はシンタローだった。キンキンに冷えた炭酸飲料を、小学生のタチの悪い悪戯のようにうなじにくっ付けてきやがった。くそっ。
「今ので落ち着いたか。」
「寿命は縮まったよ。誰かさんのせいで。」
「あっ、そう。」
軽く流された。いい気はしないが、確かに泣きやんだ。長い間一緒に居ると、相手の制御方法まで無意識に身につくものなのか。ただシンタローが暴走することも大泣きすることも在り得ないので、こちらばっかりうまいように遊ばれてる気もしない。まあ、あのクソ親共に理解されるよりは全然マシだ。むしろいい。不便ではないからね。
「ユキ、すまなかった。カノならもう…俺が謝る。」
「あ、キドさんは悪くないです!!私が泣いちゃっただけですから!!」
カノさんはどうやら遠い場所へ消えたらしい。
「ところでユキ、お前のその体質———『目を潰す』を治そうと思ってるんだが…ユキ?」
言ってる意味が解らなかった。私の数少ないボブギャラリーをふんだんに使う時間さえないほど、雷が落ちたか豪雨に見舞われたかあられに降られた。私の、『目を潰す』体質が、治ル?
「………ふぇ?」
「え?あ、ユキ?」
「にゃ、にゃおるんでしゅか?め、『目を潰す』、本当に?」
最初の方が完全にコミュ障が出てしまい、言い終わって赤面する。シンタローに至ってはため息さえつかれた。人のこといえないでしょって言いたい。すごく言いたい。でも今いったらまたコミュ障。切ない。
「あ、ああ治るぞ。キサラギもそうだったし…。お前の場合はマリーと同じだ。感情さえコントロールできればなんとかなる。それに、『目を潰す』を、本当に潰すのではなく別のことにするんだ。」
「べ、別のことですか…?」
「ああ、いろいろ試してみよう。」
「わ、私…」
—————人間も案外悪いもんじゃない。
「よろしくお願いします!!」
団員№10 ユキ
私に与えられた、勲章のように感じた。