二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 【カゲプロ】人間冷凍ショコラ【オリジナル】 ( No.22 )
日時: 2012/10/26 21:33
名前: noeru (ID: ri8PN.9u)



「—————おはよう」


「やっと起きたか」


目が覚めた時にはもうシンタローはせっせと仕事を始めていた。
どうやらもう9時を少し過ぎたらしい。


「キドさん…つぼみ?あれ?夢…」


今日もまたあの夢を見た。変わり映えしない、あの頃の私が歩いていた。凍った心は溶かすことは出来ないって、


「誰が言ったんだっけ———?」


ずきんと頭が痛んだ。


     ・   ・   ・


「あ、あったよ。これこれ。」


「えーっとどれかな…6歳6歳———あった!」


私はモモの部屋の物置から(9割9分がファンからのプレゼントだ)無事脱出し、両腕一杯に古いアルバムを抱えていた。


「こんなのまだあったんだー。」


「大体がシンタローとモモのだから、私のはあんまりないだろうけど。」


「当たり前だろ。うちのアルバムなんだから。」


そう、これは如月兄妹のアルバム。あの家から家出するのはとてつもない重労働だった。こっそり買いだめしたお菓子とネットオークションで同じく極秘で買ったゲーム・漫画、その他必要なものを家から盗み出し、シンタローの部屋へ自分の部屋から渡す。シンタローの部屋の窓を開けて、少し身を乗り出せば手が届く距離に自分の部屋があったからこその技だ。最後に衣類の荷物を運んだところで親に見つかり、そのまま逃げようとして思いっきりシンタローに腕を引っ張られて当然宙吊りになり、なんとかモモも手伝って引っ張り上げた。そんな引っ越しの中で、受け渡しで重たいアルバムをわざわざ持っていくなんて無茶だよ。


「わー、如月兄妹がちっちゃいっすねー!」


「モモちゃん可愛い…!」


色んな意味で大好評です、はい。


「あれ、この女の子誰かな?」


「?おいカノ、俺にも見せろ。」


「はい。」


カノさんがキドさんに渡した写真を見て心臓が止まりかけた。嫌な汗が背中に伝わる。


「うわあ…なんだこの格好。」


「ゴスロリじゃない?それにしてもすごいね、これ。隣のシンタローが普通なのがまた違和感出してるし。」


「これが本当に子供なのか?こんな服着た子供なんて見たこと———ユキ?」


部屋を逃げ去ろうとしたのだが、見つかってしまった。


「あああああああにょ、にゃんでひょうか?!」


痛々しい目線といたたまれない沈黙が支配した。まじダッシュで逃げ去っちゃいたい。こう見えても小学校の時はクラス全員で走ってもダントツに速かった。途中捕まらないようにキラーでも取れるかな。


「———悪い、今とは全然違うから…。」


団長さんは空気が非常に読める人だった。


「違うの、本当に!!あのバカ親が私の設定を勝手に『前世は中世ヨーロッパ製の人形で、悪魔と契約して動けるようになった高級フランス人形』風とかにしたの!!だから常にゴスロリで小学校も行って、性格も作ってただけで!!本音が出せるのがシンタローとモモちゃんとあと…その、親友だけだったってだけで。」


私はその親友を思い出してうなだれた。まさかこんなところであの夢を思い出すなんて、なんて皮肉なんだろ。


「じゃあ、これが6歳の時のユキなの?」


「うん…そう、黒歴史時代の…。」


カノさんは絶対に確信犯だ。


「あー、そっくり…なのかな。服装が違うからわかんない…。似てるけど。」


「…持って来た荷物に偶然混ざってないか見てきます…。」


     ・   ・   ・


シンタローの部屋の電気をつけて、ため息を着いた。それから、ふいに窓の方を見て、目を逸らした。

非常に嫌なものを見た。目に入ったのは自分の部屋の窓、そこに赤いマジックで書かれた文字—————『助けて』。中学の時、部屋に監禁された時のものだ。

あの頃、夜になるとかならず窓を開けた。それからシンタローの部屋の窓を叩く。そうやってアヤノは元気だとか、今度の行事の準備はどうだとか、親が朝来るまで話した。そのお陰で正気でいられた。

だけどある日それがばれて、窓に鍵をかけられた。それから夜中まで防犯カメラで監視されて、勉強しないと親に怒鳴られた。そんなんじゃ園田の姓を名乗る資格はないと———。そんなことどうでも良かったけど、殴られるのは嫌だったから従うしかなかった。でもある日、親に殴られた時に言われた。「お前なんて死ねばよかった。子供が出来ないのを責められて、祖父の遺産が相続できなかったら大変だったから、お前はその道具にしか思ってない。今ここで殺してやる。」

自分の部屋に逃げ込んで、床に落ちてたマジックで窓に書いた。本当は窓を開けてシンタローを直接呼べば良かったけど、窓には鍵がかかっていて開かないから。必死で窓を叩いて、叫んだ。それが届くと、届かなかったら殺されると、それしか考えられなかった。

土曜で家にいたこともあって、シンタローはすぐ気付いてくれた。泣き叫ぶ私と、叩きすぎて殴られすぎてぼろぼろになった手や体、窓に逆向きに書かれた『助けて』。すぐに警察に連絡、うちに乗り込んで来てくれた。

それから私は高校入学まで如月家にお世話になった。つまり今の居候は2回目だ。その時久しぶりに学校に行けて、アヤノにも会えた。


「あの字、消さないんだ…。」


薄気味悪い。まるで帰って来いとでも、殺してやるとでも言うような。なんとなく窓を開けてみる。久しぶりに新鮮な空気を吸った。空気清浄器で清められた空気じゃない、自然の作り出した酸素。ちょっと身を乗り出して、自分の部屋の窓の字をなぞる。これを私はどんな思いで書いたんだろう。怖かっただろうか、悲しかっただろうか、悔しかっただろうか、憎かっただろうか。


その瞬間身体が、浮いた。