二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 【カゲプロ】人間冷凍ショコラ【オリジナル】オリキャラ募集終了 ( No.281 )
- 日時: 2013/01/22 22:48
- 名前: noeru (ID: GZNpcKWX)
遠くから誰かの呼ぶ声が聞こえる。
シンタローでもアヤノでも……誰でもない、声。でも聴き慣れた懐かしい、とてもとても優しい声。
テレビかラジオか何かを突然切った時の不快な音がして、その後意識が飛んだ。そして気が付けば今。真っ暗闇に1人ぼっち。
そよ風が、頬を撫でた。
暗い、暗い。指を目の前で振ってみても何も見えない。広いのか、狭いのか。ここに色はなく、白も黒もないんじゃないか。
だとすればここは、世界で1番曖昧な場所だ。と思ったが、暗いという絶対条件の元では意味がないことに気付いた。
「やあ。気が付いた?僕。」
腕を空虚でもがくように振り回して、やっと振り返る。存在そのものが発光しているかのように、少女が独り。私をじっと観察するように眺めていた。
「僕はね、君たちが俗にいう『表』だよ。」
「『表』?」
「君は僕の一部、だね。partsだけ移動させてもらったよ。あの子ごとは、流石に無理だったなあ。」
彼女は自分を『表』といった。私は彼女、この『表』の少女の{肉体}のpartsなのだろうか?はっきり言うとすれば、少女と私は似ても似つかない容姿で、身長は同じくらいだけど私の方が若干年上なようだ。
「無理って、私はここにいるよ?」
「だから……君たちは園田、じゃなかった音無雪芽の中に存在してるの。本来は姿なんて持ってない。必要ないから、僕は造らなかった。本来partsは全部、みんなに護られてるはずだったからね。」
「———みんな?」
暗い中でもはっきりと見える。艶やかな黒髪、白い雪肌。春の陽だまりのような黄色い目、深海のような不透明の蒼い目。声は不自然。それなのに、何故か生気のない虚ろな、中身がないような不気味さを漂わせていた。
「うん、大事な大事な家族。でもほんのちょっとの手違いで、partsの数を間違えちゃった。結果『歯車』もどっか行っちゃったし、partsは彼のもとにしか届かなかった。」
「彼……って、シンタロー?」
私が届いたpartsならば、考えられるのはシンタローくらいしかいなかった。
「違うよ。届いたのは1つだけ。君は他のpartsと一緒だろ?その上彼まで姿が変わってるもんだから、僕のpartsの存在に気付かないんだよ……はぁああ……」
『表』は大きなため息を吐いた。適当に苦笑いして相槌を打っておくが、私は周りの異変が気になって仕方なかった。
暗い壁がパラパラと剥がれ落ちていく。そこから眩い光が入ってきて、一瞬にして暗くなる。最初は何か分からなかったが、よくよく見ると風景が広がっているようだ。
「ねえ、あれって何?」
震える声を絞り出す。『表』はそれを見ることなく、楽観的な調子で笑っていた。風景は広がっていき、やがて大きな形を生み出していった。
「うーんとね、これから一部だけ、僕と彼の世界を見てもらうんだ。かなり昔の話だから、ちょっとややこしいけど。時空と空間を弄って遊んでたら出来るようになった。まあ干渉は出来ないけどさ。」
風景は完全にその姿を現した。夜の森だ。天気がよく、満月が美しいが星が一切見えない、不思議な夜だ。向こうから女性が走ってくる。よく見ると、3人の子供を抱きかかえていた。しかもまだ幼い乳幼児を、こんな冷えた夜の森に連れてくる親がいるだろうか。何より不思議なのが、3人の赤子のうち1人だけが髪色が全く違っていることだった。
「あの黒い髪の子供が、僕だよ。」
何処からか『表』の声が聞こえてくる。だんだん近づいてくる女性は茶髪のショートカットで、私や『表』よりも年上だった。せいぜい22から24歳くらいか。でもその年で3児の母というのは考えづらかった。
「それから次は———おっと、もう時間切れみたいだね。じゃあ、また今度。」
その途端、本当に急だ。景色はめちゃめちゃに掻き混ぜられたように歪んで、あっという間に原形を失った。『表』の声が聞こえたあたりから、暗く重たい声が大音量で響いた。
《つまらない。私なんて、死んでしまえばいい》
《愛されたい、愛してる》
《私なんかが触れちゃいけない相手なんだ》
《じゃあ相応しい、触れても許される私を創ろう》
《いつもと同じ。彼に相応しい私を……》
《これで、ずーっと一緒に居られるからね》
《無意味じゃない。いつか消えてしまっても、残る》
《止めて!離して、会いたいの!会わせてよ!》
《可笑しくなんてない、返して、返して……》
《これ以上私の居場所を奪わないで》
《いたいいたいいいいたあああいたいいたああ》
《大好き》
《もうすぐ会える……私も、あの子に……》
《今度こそこの口で愛してるって伝えたい》
《私が『表』になる》
《もう苦しまなくっていいんだ、会える、会える》
悔しそうな声だった、苦しい声だった、憎しみの篭った声だった。でもとても幸せそうで、悲しくて、嬉しそうで、とてもとても———
《愛してる、ありがとう。おやすみ》
寂しそうな声だった。
声が泣いて、泣いて、泣いて、
目を覚ました時は、いつものようにベッドの中だった。