二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 【カゲプロ】人間冷凍ショコラ【オリジナル】 ( No.30 )
日時: 2012/10/29 23:10
名前: noeru (ID: 75u.W164)




「ご主人!!連絡は取れませんでしたが、中の様子を見ることは出来ました!!」


いなくなって約10分、戻ってきたエネはイヤホン越しに大声で怒鳴った。


「痛っ!!叫ばなくていいから!!」


「もう、第1声がそれですか?!いいからこれを見てください!!」


エネが画面の隅に移動すると、それはユキの部屋の動画だった。どうやらユキの携帯から見ているらしいが、思わず目を逸らしてしまった。

電気のついていない暗い部屋には子供用の玩具が散乱している。机の上には大学入試レベルの参考書が山積みになって埃を被っていて、もう何年も使われていないのが分かる。ベッドやソファ、クッションはズタズタに引き裂かれていて一部血に染まっている。ドアには太い鎖が巻き付いていて、大きな南京錠が掛かっている。壁中に傷があって血が付いている。その幽霊屋敷の一室のような部屋の隅にユキがいた。

両腕を荒縄で縛られて半分吊るされている。フローリングに直接座っているので、自力で立ち上がるのは無理そうだ。タオルか何かで目隠しされ、能力も使えない。何かぶつぶつ呟きながら泣いていた。体中に生傷や痣がある。


「———……。」


「あの、ご主人…?大丈夫ですか?」


「…あいつ、今までこんな…。」


話したこともなかった。
ユキは絶対に家の話をしなかった。酷いことをされたのは聞いたけど、ここまでだとは何も言ってなかった。ただたまに「あのクソ親共」って愚痴をこぼすくらいで、酷く憎んでいるような様子も見せなかった。でもあいつは死ぬほど過酷な状況で生きていたのを話さなかった。殺されそうになっただけでもヤバいのに、それが日常だと話さなかった。


「エネ、ユキがなんて言ってるか聞こえるか?」


「は、はいっ!!ええっと—————。…ご主人、本当に聴きますか?」


「いいから早く教えろ。」





「ご主人♀—————ずっと『死にたくない』しか言ってませんよ。」





     ・   ・   ・


そういえば昔、孤児院の先生が話してくれたことを今、死にかけてる状態で思い出す。人は死の間際、感傷的になるらしい。

私の母親は私を産んですぐに自殺したそうだ。生まれて3日も経たないうちに。それから後を追うように父が交通事故で死んで、私は孤児院を転々とした。そして最後に、キドやカノ、セトがいるあの孤児院に行った。そこで話してくれた話だ。

もし自分の価値が知りたくなったら、自分の才能じゃなくて自分がどれほど人を愛してるか考えなさい。その人を傷付けてでも傍に居たいと願うなら、それは誰が我侭だと傲慢だと言おうと、ユキの素晴らしい価値になるからね。

誰に愛されてるかじゃなくて、誰を愛してるか。私はシンタローもモモも大好きだし、キドもカノもセトも大好きだ。マリーちゃんだって大好きだし、エネもヒビヤもコノハも大好き。だけど、傷付けようなんて思わない。守るのじゃ駄目なのかな。私の能力は、傷付けるだけで誰も守れないのかな。守りたい、それが私の才能、価値じゃ駄目なんだろうな。


『ずっと傍で、ユキを守るからね。』


懐かしい温かい声が聞こえた。