二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 【カゲプロ】人間冷凍ショコラ【オリジナル】オリキャラ募集終了 ( No.329 )
日時: 2013/02/10 19:23
名前: noeru (ID: xfX6sCRo)
参照: 君の犯した過ちに 刺し殺されてしまっても 泣いた、実話?


ここは白い。いつも真っ白で疲れてしまう。
そういえば僕たちは何かと『白』に縁があった。
あの時死んだのは真っ白な雪原。
また、あの時は死に際に白い修道服で。その後は白い集団墓地に埋葬された。
それから、あの時の彼女の剣。真っ白だったがあれは例外だ。すぐに真っ赤に染まったから。
彼女の存在自体は、対照的な『黒』だったけれど。

———これも全部、彼女の話だ。
僕であって僕じゃない。
僕は彼女の親友で、兄で、弟で、双子で、恋人で、召使で、ペットで、奴隷で、家族で、彼女だった。
それ以下でもそれ以上でもないんだ。

真っ白な病室で静かに眠っている。大丈夫、もうすぐ終わらせるからね。あの場所で待っていて。
彼女を騙すのは気が進まないが、これも彼女の為なんだ。
額に触れて{記憶}の教えた通りにする。精神に入り込んで働きかける。
忘れろ、頼む。全部忘れてくれ。
苦悶に満ちた表情から目を逸らさず尚続ける。書き換え、なんて都合のいい能力を持っていたものだ。
やがて表情はおだやかになり、再び寝息を立て始めた。


姿が変わっても、
君を愛してる。




「はーいはーいっ!皆様お待ちかね!!GAMEの中間発表のお時間です!!」

果てなく続く傍観席で蠢く無数の傍観者たち。
黒だけど真っ黒じゃない、セピア色の深海のような世界。
ぎりぎりまで膨張して弾ける寸前の興奮した空気。
その中心にそびえ立つ廃墟のようなレンガ造りの巨大な時計塔。
この限られた空間では小さく感じてしまうが、ここから見える風景は驚くほど広かった。もう見飽きてしまったけど。
その時計塔の内部、小さな牢獄。足枷と手錠、首輪などその他無数の鎖で拘束されている彼。僕とそっくり、というかそれが僕自身だ。
薄らと顔に笑顔を浮かべて、こっちをじっと見つめている。心底嬉しそうなカオ。見ていて胸がイタイ。
僕には彼を救う力が無い。だって彼も僕も大きな罪を犯したその償いの為にここにいるから。罪を犯した、のは少し間違いかもしれない。僕たちは罪そのものだった。僕らがまとめて『罪』と呼ばれるのはそのためか。
彼から目を逸らす。大きく息を吸う。


「それではその無機質な耳を精一杯傾けて録音してくださいねーっ!まずは皆様ご注目!!{意識}の現在の様子です!はいっ、発見致しました!!こちらをご覧ください!!」


ガらガらぐラぐラと傍観者たちが騒ぐ。ぐちゃっという心地よい音がして、セピアの深海はコマ割りされたアナログテレビのような状態になる。一枚一枚ゆっくりと剥がれると、傍観者たちが見やすい位置へ。決められた1㎜ともズレは許されない定位置へ移動。数秒でまたセピアの深海に沈んだような暗い世界に戻った。
でも一番気がかりなのはさっきの音。きっとスクリーンを映す時に誰か押し潰されたんですね。あれほど重石には気を付けてと言ったのに、また僕の家族が1人減ってしまった。これは、とっても悲しいことなのです。
でも今は、{意識}についての情報を傍観者たちに提供しなくては。それが僕の義務だから。


「{意識}のplayerだった少女は調査の結果、やはり『イブの魂』、または『歌姫』だと分かりました!彼女の死亡後、{意識}は音無雪芽の姿に変わっています。彼女は精神的にかなり弱っていたものの『イブの魂』の力はやはり存在しており、それを一部受け継いだようで、現在playerを選択はせずに、独自にこちらの秘密を探っているようです。」


ガチャガチャと金属が触れ合う甲高い音が闇空に響く。いや、ここは海底だから水面と呼ぶべきかな?どちらにしろ、ここには上も下も何もないから関係ないのかもしれない。矛盾を材料に虚構で組み立てた悠久の元に続く完璧な国。とても脆いから、いつか崩れて消えるだろう。それでもpartsの回収の為と考えれば、かなり贅沢している。『蛇』には感謝しなければ。この国、国民。『蛇』の作る終わらないセカイの試験台とはいえ、ほぼ完成品に近いと言えるのではないか。


「それから、{肉体}が所持している例のものについてですが……未だplayerたちは発見していないようです。すでに如月伸太郎はその場所を知っていますが、発見には至っていないようです!本日の報告はここまでになります!!あ、それから最後に……」


スクリーンに映し出されたのは猫耳に真っ赤なフリルドレス、リボンの付いたパンプスにヘッドドレスの少女。眩いばかりの笑顔を浮かべ、たくさんの群衆を前に歌っている。とてもとても楽しそうだ。今の僕と違って、なんて皮肉なんだろうか。ここよりもずっと狭いコンサート会場だけど、せいぜい見積もって30万人。
歌姫は泣いていた、とても静かに。


時計塔の鐘が空間を歪ませるように、鳴いた。